Grafanaの進化は止まらない!最新機能、注目トレンド、LGTMスタックのアップデートを徹底解説
はじめに: Grafana とは?
Grafanaは、メトリクス、ログ、トレースなど、様々なソースからのデータを集約し、視覚化、分析、アラート設定ができるオープンソースのプラットフォームです。システムやアプリケーションの健全性を監視し、問題発生時の迅速な原因特定を可能にする「オブザーバビリティ(可観測性)」を実現するための中心的なツールとして、世界中の多くの開発者や運用チームに利用されています。
Grafana Labsは、Grafana本体だけでなく、ログ集約のためのGrafana Loki、メトリクスのためのGrafana Mimir、トレースのためのGrafana Tempo、そして継続的プロファイリングのためのGrafana Pyroscopeといったコンポーネントからなる「LGTMスタック」を提供し、包括的なオブザーバビリティソリューションを推進しています。Grafana Cloudというマネージドサービスも提供されており、インフラ管理の手間なく最新の機能を利用できます。
近年、Grafanaは急速な進化を遂げており、特にAI/MLを活用した機能強化や、eBPFによる自動計装、Kubernetes環境への対応強化などが注目されています。本記事では、Grafanaとそのエコシステムの最新動向を詳しく解説していきます。
Grafana 11 の登場とその主要機能
2024年5月にリリースされたGrafana 11は、ユーザーエクスペリエンスと機能性を大幅に向上させるメジャーアップデートです。特に注目すべき新機能や改善点を見ていきましょう。
Explore Metrics & Explore Logs: クエリ不要のデータ探索
Grafana 11の目玉機能の一つが、PromQLやLogQLといったクエリ言語を記述することなく、PrometheusメトリクスやLokiログを探索できる「Explore Metrics」と「Explore Logs」です。これらは、Grafana 11.0で導入され、Grafana 11.3ではExplore Logsがデフォルトでインストールされるようになりました。
- 直感的なUI: データソースを選択し、メトリクス名やラベルをクリックしていくだけで、目的のデータを絞り込めます。
- クエリ自動生成: 探索結果からPromQLやLogQLのクエリが自動生成されるため、クエリ言語の学習コストを削減できます。
- ダッシュボード連携: 生成されたクエリは、簡単にダッシュボードのパネルに追加できます。
2025年2月20日付けで、これらの機能は「Drilldown」アプリ(Metrics Drilldown, Logs Drilldownなど)へと名称変更されましたが、その機能性は引き継がれています。
Scenesによるダッシュボード体験の向上
Grafana 11では、ダッシュボードのアーキテクチャが「Scenes」ライブラリに移行されました。これにより、より安定し、動的で、柔軟なダッシュボード体験が実現されています。Grafana 11.3で一般提供が開始されました。
- 表示モードと編集モード: ダッシュボードの閲覧時と編集時でUIが最適化され、よりクリーンで効率的な操作が可能になりました。
- テンプレート変数と時間範囲ピッカーの追従: スクロールしても、変数や時間ピッカーが画面上部に固定表示されるようになり、操作性が向上しました。
- タイムゾーンパラメータ: URLに `tz` パラメータを追加することで、特定のタイムゾーンでダッシュボードを共有できるようになりました。
Canvasパネルの進化
自由なレイアウトでデータを可視化できるCanvasパネルも強化されました。
- APIコールアクション (Grafana 11.3): Canvas上の任意の要素からAPIコールをトリガーできるようになり、インタラクティブ性が向上しました。
- ビジュアライゼーション改善: より多くのカスタマイズオプションが追加されました。
その他の注目機能
- サブフォルダ (GA): ダッシュボードを整理するためのサブフォルダ機能が一般利用可能になりました。
- テーブル行のフルカラーリング: テーブルパネルで、セルの背景色を特定の条件に基づいて行全体に適用できるようになりました。
- アラート機能の改善: アラートルール設定ページのUIが刷新され、より直感的になりました。データ欠損時やエラー時の処理オプションとして「最後の状態を維持する」が追加され、問題発生時の状況把握が容易になりました。
- LLMによるタイトル・説明生成 (OSSにも搭載): Grafana LLMプラグインを有効にすることで、OpenAIなどの大規模言語モデルを利用して、パネルのタイトルや説明を自動生成できるようになりました。
LGTMスタックと関連コンポーネントの進化
Grafanaエコシステムの中核をなすLGTMスタック(Loki, Grafana, Tempo, Mimir)とその関連コンポーネントも進化を続けています。
Grafana Loki (ログ)
Lokiは、ラベルベースのインデックスにより効率的なログ集約を実現します。近年では、クエリパフォーマンスの向上や、ログパイプライン処理の強化が進んでいます。AI/MLを活用したログパターンの自動検出や異常検知機能(Grafana CloudのAdaptive Logsなど)も登場し、ノイズの多いログから重要な情報を見つけ出しやすくなっています。
Grafana Tempo (トレース)
Tempoは、大量のトレースデータを低コストで保存・検索できる分散トレーシングバックエンドです。TraceQLという専用クエリ言語による柔軟な検索や、Grafanaとのシームレスな連携が特徴です。近年では、他のシグナル(メトリクス、ログ、プロファイル)との連携が強化されています。
Grafana Mimir (メトリクス)
Mimirは、Prometheus互換のスケーラブルな時系列データベースです。高い可用性と水平スケーラビリティを実現し、大規模環境でのメトリクス管理を可能にします。クエリパフォーマンスの最適化や、より効率的なストレージ利用のための改善が継続的に行われています。
Grafana Pyroscope (継続的プロファイリング)
2024年2月頃から本格的に情報が出始めたGrafana Pyroscopeは、アプリケーションのパフォーマンスボトルネックを特定するための継続的プロファイリングツールです。コードレベルでのリソース使用状況(CPU、メモリ)を時系列で把握できます。
- Grafanaとの統合: Mimir, Loki, Tempoと同様のアーキテクチャを採用し、Grafana上でメトリクス、ログ、トレースとプロファイルデータを相関させて分析できます。
- 多様な言語サポート: Go, Java, .NET, Python, Ruby, Rust, Node.jsなど、主要な言語に対応したSDKや、Grafana Agent (Alloy) を介したeBPFによる自動計装を提供します。
- 可視化: フレームグラフやテーブル形式での表示に加え、AIによるフレームグラフ分析(ボトルネックの説明、原因特定、修正提案)も可能です。
- トレース連携: Tempoと連携し、特定のトレーススパンに関連するプロファイルデータを表示することで、リクエスト単位での詳細なパフォーマンス分析が可能になります(Traces to profiles)。
Pyroscopeの登場により、オブザーバビリティの「4つの柱」(メトリクス、ログ、トレース、プロファイル)がGrafanaスタック内で完結し、より深い洞察が得られるようになりました。
Grafana Beyla (eBPF 自動計装)
2023年9月に発表され、2024年11月頃に一般提供開始1周年を迎えたGrafana Beylaは、eBPF (extended Berkeley Packet Filter) 技術を活用したアプリケーション自動計装ツールです。
- コード変更不要: アプリケーションコードに手を加えることなく、HTTP/S, gRPC, SQL, Redis, Kafkaなどの通信からREDメトリクス(Rate, Errors, Duration)やトレーススパンを自動で収集します。
- 言語非依存: Go, NodeJS, Python, Rust, Ruby, .NET, Java (HTTPのみ) など、多くの言語で書かれたアプリケーションに対応します。
- OpenTelemetry互換: 収集したデータはOpenTelemetry形式で出力され、Tempoや他の互換バックエンドに送信できます。Prometheus形式のメトリクス出力も可能です。
- ネットワークメトリクス: サービスグラフ構築に役立つネットワークレベルのメトリクスも収集します。
- Grafana Alloyとの統合: Grafana Alloyのコンポーネントとしても利用可能になり、設定やデプロイが容易になりました (2024年5月頃)。
- Beyla 2.0 (2025年2月頃): 分散トレーシング機能の強化、スケーラブルなKubernetesデプロイメント対応などが追加されました。
Beylaは、特にマイクロサービス環境など、計装が煩雑になりがちなシステムにおいて、オブザーバビリティ導入のハードルを大幅に下げるツールとして注目されています。
Grafana Alloy (データコレクター)
Grafana Agentの後継として登場したGrafana Alloyは、OpenTelemetry Collectorのディストリビューションです。メトリクス、ログ、トレース、プロファイルといったテレメトリデータを収集し、様々なバックエンドに送信するためのエージェントです。
- OTLP互換: OpenTelemetryネイティブであり、Prometheus形式もサポートします。
- パイプラインベースの設定: 柔軟なデータ処理パイプラインを構成できます。
- Beyla統合: eBPFによる自動計装機能を内包できます。
- 移行推奨: Grafana Labsは、Grafana Agentユーザーに対してAlloyへの移行を推奨しています。Agentへの新機能追加は行われません。
Grafana k6 (パフォーマンス/負荷テスト)
Grafana k6は、開発者中心の負荷テストツールです。Grafana Cloud Synthetic Monitoringの基盤としても利用されています。
- 新チェックタイプ (2024年): multiHTTPやk6スクリプトチェックが追加され、より複雑なテストシナリオに対応しました。
- ブラウザチェック (Public Preview, 2024年): フロントエンドのWeb Vitals指標の収集や、ボタンクリック、フォーム入力といったユーザー操作のシミュレーションが可能になりました。
- k6 Studio (Experimental, 2024年9月頃発表): より簡単にテストスクリプトを作成するためのGUIベースのツールが登場予定です。
Grafana Cloud の進化と AI/ML の活用
フルマネージドのオブザーバビリティプラットフォームであるGrafana Cloudも、継続的に機能が強化されています。
Kubernetes Monitoring の強化
Kubernetes環境の監視機能が大幅にアップデートされています (2024年〜2025年初頭)。
- コスト監視: コンピュートコストの概要(過去90日間の総コスト、Podあたり平均コストなど)を可視化するタブが追加されました (2024年)。
- トラブルシューティング支援: 削除されたオブジェクト(クラスター、ノード、Podなど)の検索や、グラフの特定領域へのズーム機能が追加されました (2024年)。
- ストレージ監視 (2025年4月頃): 永続ボリュームの容量推移、ストレージクラス、PVCステータス、Podレベルでのストレージ消費量などを追跡する機能が追加されました。
- 検索機能強化 (2025年4月頃): Kubernetesの各種リソース(クラスター、ノード、名前空間、Podなど)の詳細情報を即座に検索できるようになりました。
- Fleet Management for Kubernetes (2025年4月頃): Grafana Alloyなどを用いたテレメトリデータ収集設定を一元管理できるFleet ManagementがKubernetesに対応しました。
AI/ML 機能の拡充
Grafana Cloudでは、オブザーバビリティにおける課題解決や効率化のために、AI/ML機能の導入が進んでいます (2024年9月頃に多くの発表あり)。
- Adaptive Telemetry (Adaptive Metrics / Adaptive Logs):
- 収集されるメトリクスやログのパターン、クエリ頻度などを分析し、価値の高いデータのみを選択的に保持・集約することで、ストレージコストとノイズを削減します。
- Adaptive Logsは2024年9月にGAとなりました。
- Explore Apps Suite (Drilldown Apps) でのAI活用:
- Logs Drilldown (旧Explore Logs): ログパターンを自動検出し、ノイズを除去して重要なログを発見しやすくします。
- Dynamic Alerting (予測 & 外れ値検知): 時系列データの将来値を予測したり、グループ内で異常な振る舞いをしている要素を検出したりすることで、より高度なアラート設定を可能にします。
- Sift (トレース分析): 大量のトレースデータから、エラーやレイテンシ異常などのパターンを持つトレースを効率的に見つけ出します。
- Flamegraph AI (Pyroscope): プロファイルデータのフレームグラフをAIが分析し、ボトルネックとなっている箇所、根本原因、推奨される修正方法などを提示します。
- LLM Observability: 大規模言語モデル(LLM)を利用したアプリケーション自体の監視機能。プロンプト、応答、トークン使用量、コスト、レイテンシなどを追跡し、パフォーマンスやコストを最適化します。OpenLIT SDKなどを活用した実装が進められています。
- その他: インシデント要約、ダッシュボードアシスタント、SLO(サービスレベル目標)達成確率の評価など、様々な場面でAI/MLが活用されています。
これらのAI/ML機能は、Grafana Cloud Free Tierから利用可能なものもあり、オブザーバビリティの効率化とコスト削減に貢献します。
その他の Grafana Cloud アップデート
- Cloud Provider Observability (GA, 2024年9月): AWS, Google Cloud, Azureとの連携が強化され、単なるダッシュボードセットを超えた統合的な監視アプリケーションとして提供されます。エージェントレスでテレメトリデータを収集できます。
- Grafana Cloud Asserts (GA, 2024年10月): システムの期待される状態を定義し、継続的に検証することで、よりプロアクティブな問題検知を可能にする機能です (Advancedプラン向け)。
コミュニティとエコシステム
Grafanaの強みの一つは、活発なオープンソースコミュニティとそのエコシステムです。
イベント: ObservabilityCON & GrafanaCON
- ObservabilityCON: Grafana Labs主催のフラッグシップカンファレンスで、オブザーバビリティに特化した最新技術や事例が共有されます。2024年は9月24-25日にニューヨークで開催されました。また、「ObservabilityCON on the Road」として、世界各都市(東京: 2025年2月25日, シドニー: 2025年3月25日など)でも開催されています。
- GrafanaCON: コミュニティ中心のイベントで、Grafanaの幅広いユースケースやオープンソースプロジェクトに焦点が当てられます。Grafana 12の発表などが期待されるGrafanaCON 2025は、5月6-8日にシアトルで開催予定です。
オープンソースの動向
Grafana Labsの調査によると、オブザーバビリティ分野では依然としてオープンソースが主流であり、回答者の75%がオープンソースライセンスを利用し、70%がPrometheusとOpenTelemetryを併用していると報告されています (2025年3月発表)。Grafana自身もApache 2.0ライセンスのもとで開発されており、LGTMスタックの各コンポーネント(Loki, Mimir, Tempo, Pyroscope, Beyla, Alloyなど)もオープンソースとして提供されています。
Grafana Beylaのように、外部コントリビューターの貢献によって機能が大幅に拡張される事例も多く、コミュニティ主導の開発が活発に行われています。
プラグインエコシステム
Grafanaのもう一つの強みは、豊富なプラグインエコシステムです。データソースプラグインにより、100種類以上のデータベース、クラウドサービス、監視ツールなどと連携できます。また、パネルプラグインによって多様な可視化表現が可能になります。LLMプラグインのように、外部のAIサービスと連携するプラグインも登場しています。
まとめ: Grafana の未来展望
Grafanaは、単なるダッシュボードツールから、包括的なオブザーバビリティプラットフォームへと進化を続けています。Grafana 11で実現されたユーザーエクスペリエンスの向上、LGTMスタック(特にPyroscopeとBeyla)の拡充、そしてGrafana CloudにおけるAI/ML機能の積極的な導入は、その進化を象徴するものです。
今後の注目点としては、以下のようなものが挙げられます。
- AI/MLの更なる活用: 問題の予兆検知、根本原因の自動特定、自動修復提案など、オブザーバビリティ運用をさらに効率化・自動化する機能の発展が期待されます。LLMオブザーバビリティの領域も拡大していくでしょう。
- eBPFの活用深化: Beylaによる自動計装の対象プロトコルや言語の拡大、より詳細な情報の取得など、eBPF技術を応用した機能強化が進むと考えられます。
- OpenTelemetryとの連携強化: Grafana Alloyを中心に、OpenTelemetryエコシステムとの親和性を高め、標準化されたテレメトリデータの収集・活用を推進していくでしょう。
- 開発者体験の向上: k6 Studioのようなツールや、Pyroscopeによるコードレベルの洞察提供など、開発者がオブザーバビリティをより活用しやすくなる機能が増えていくと予想されます。
- Grafana 12への期待: GrafanaCON 2025での発表が予告されており、「Dashboards as Code」、Gitによる設定管理、動的ダッシュボード、アラート機能のアップデートなどが含まれる可能性があります。
Grafanaとそのエコシステムは、オブザーバビリティのデファクトスタンダードとしての地位を固めつつ、今後も技術トレンドを取り込みながら進化していくことでしょう。開発者やインフラエンジニアにとって、Grafanaの最新動向を追い続けることは、システムの安定運用とパフォーマンス向上に不可欠と言えます。📈