この記事から得られる知識
- インフラエンジニアとしてのキャリア形成に役立つ具体的な資格がわかります。
- 初心者から上級者まで、レベルごとにおすすめの資格とその難易度を把握できます。
- オンプレミスからクラウドまで、目指す分野に応じた最適な資格選択の指針を得られます。
- 資格取得を通じたスキルアップと、市場価値向上のための学習ロードマップを描けるようになります。
なぜインフラエンジニアに資格が重要なのか?
インフラエンジニアの業務は、企業のIT基盤を支える非常に専門性の高い仕事です。サーバー、ネットワーク、クラウドといった領域の知識は目に見えにくいため、自身のスキルレベルを客観的に証明する手段が求められます。ここで大きな力を発揮するのが「資格」です。
資格取得には、主に3つの大きなメリットがあります。
1. スキルの客観的証明
資格は、特定の技術分野における知識とスキルを保有していることを客観的に証明する最も有効な手段です。転職活動や社内でのキャリアアップにおいて、具体的なスキルレベルを採用担当者や上司にアピールできます。
2. 体系的な知識の習得
日々の業務で得られる知識は断片的になりがちですが、資格取得を目指す過程で、対象分野の知識を基礎から応用まで体系的に学ぶことができます。これにより、知識の穴を埋め、より強固な技術的土台を築くことが可能です。
3. キャリアパスの指針
次にどの技術を学ぶべきか、どのようなキャリアを歩むべきか迷った際、資格は明確な目標となります。特にクラウドやセキュリティといった成長分野の資格は、将来性の高いキャリアを築くための道しるべとなるでしょう。
もちろん資格が全てではありませんが、自身の市場価値を高め、キャリアの可能性を広げるための強力な武器となることは間違いありません。
まずはここから!インフラエンジニアの登竜門となる基礎資格
未経験からインフラエンジニアを目指す方や、キャリアをスタートしたばかりの方が最初に目指すべき、ITインフラの基礎を固めるための定番資格を紹介します。
1. 基本情報技術者試験 (FE)
ITエンジニアの登竜門とも言われる国家資格です。インフラに限らず、ITに関する幅広い基礎知識を体系的に学ぶことができます。 ネットワーク、データベース、セキュリティといったインフラ領域の基礎から、プログラミングやプロジェクトマネジメントまで、IT業界で働く上で土台となる知識が網羅されています。
| 難易度 | 易しい~普通 (ITSSレベル2相当) |
|---|---|
| 対象者 | IT業界未経験者、ITエンジニアとしてのキャリアを始めたばかりの方 |
| ポイント | IT業界全体を俯瞰する知識が身につき、その後の専門資格へのステップアップがスムーズになります。国家資格であるため、国内企業での評価が高い傾向にあります。 |
| 合格率 | 近年は40%~50%前後で推移しています。 |
2. LinuC / LPIC (Linux技術者認定)
現代のサーバーOSの主流であるLinuxの技術力を証明する資格です。 LinuCは日本市場向けに最適化された認定で、LPICは国際的な認定です。 どちらもレベル1から3まであり、インフラエンジニア、特にサーバーエンジニアを目指すならレベル1の取得は必須と言えるでしょう。 レベル1ではLinuxの基本操作、コマンド、システム管理の基礎が問われます。
| レベル | 難易度 (ITSS) | 主な内容と対象者 |
|---|---|---|
| レベル1 | 易しい (レベル1) | Linuxの基本操作とシステム管理の基礎。未経験者や新人が最初に目指すレベルです。 |
| レベル2 | 普通 (レベル2) | Linux環境のサーバー構築やネットワーク設定など、より実践的な内容。実務経験を1〜2年積んだエンジニア向けです。 |
| レベル3 | 難しい (レベル3) | 「混在環境」「セキュリティ」「仮想化/高可用性」の3つの専門分野に分かれます。各分野のスペシャリストを目指す上級者向けです。 |
どちらもLinuxスキルの証明として有効ですが、LinuCは日本のIT環境やニーズをより反映した内容とされています。一方でLPICは国際的な知名度が高いです。 自身のキャリアプランや職場の環境に合わせて選択すると良いでしょう。
3. CCNA (Cisco Certified Network Associate)
ネットワーク機器の最大手であるシスコシステムズ社が認定する、ネットワークエンジニアの世界標準資格です。 ネットワークの基礎理論から、ルーティング、スイッチング、セキュリティ、自動化まで、ネットワークエンジニアに必要な知識が幅広く問われます。 未経験からネットワークエンジニアを目指す場合、この資格の取得は非常に強力なアピールポイントとなります。
| 難易度 | 易しい~普通 (ITSSレベル2相当) |
|---|---|
| 対象者 | ネットワークエンジニアを目指す未経験者、若手ネットワークエンジニア |
| ポイント | シスコ製品は多くの企業で導入されており、実践的な知識が身につきます。資格取得者はネットワークの基礎を体系的に理解していると見なされ、転職市場での評価が非常に高いです。 |
現代の必須スキル!主要クラウドベンダー資格
もはやインフラエンジニアにとってクラウドの知識は避けて通れません。ここでは、主要な3大クラウドサービス(AWS, Azure, Google Cloud)の認定資格を紹介します。クラウドエンジニアを目指すなら、いずれかのベンダー資格取得は必須です。
1. AWS (Amazon Web Services) 認定資格
クラウド市場で圧倒的なシェアを誇るAWSのスキルを証明する資格です。 非常に人気が高く、インフラエンジニアのキャリアアップに直結しやすいと言えます。 資格は難易度に応じて4つのレベル(ファンダメンタル、アソシエイト、プロフェッショナル、専門知識)に分かれています。
| レベル | 主要な資格名 | 概要と対象者 |
|---|---|---|
| ファンダメンタル | AWS Certified Cloud Practitioner | AWSクラウドの基本的な概念やサービスに関する知識を証明します。エンジニアだけでなく、営業やマネジメント職の方にもおすすめです。 |
| アソシエイト | AWS Certified Solutions Architect – Associate (SAA) | AWS上でのシステム設計、構築に関する幅広い知識が問われます。インフラエンジニアが最初に目指すべき最も人気の資格です。 |
| AWS Certified SysOps Administrator – Associate | AWS環境の運用、管理、モニタリングに特化した内容です。運用・保守業務に携わるエンジニアにおすすめです。 | |
| プロフェッショナル | AWS Certified Solutions Architect – Professional | 複雑な要件に対応するための高度な設計スキルを証明します。アソシエイトレベルの上位資格で、難易度は非常に高いです。 |
| 専門知識 | Advanced Networking, Securityなど | ネットワークやセキュリティなど、特定の技術分野に関する深い専門知識を証明します。 |
2. Microsoft Azure 認定資格
AWSに次ぐシェアを持つMicrosoft Azureのスキルを証明する資格です。 特にWindows Serverとの親和性が高く、多くのエンタープライズ企業で利用されています。 資格体系は「Fundamentals」「Role-based (Associate, Expert)」「Specialty」に分かれています。
| レベル | 主要な資格名 | 概要と対象者 |
|---|---|---|
| Fundamentals (初級) | AZ-900: Microsoft Azure Fundamentals | Azureの基本的な概念、主要サービスに関する知識を問います。クラウド初学者向けの入門資格です。 |
| Associate (中級) | AZ-104: Microsoft Azure Administrator Associate | Azure環境の実装、管理、監視といった管理者向けのスキルを証明します。 Azureを扱うインフラエンジニアにとって中心的な資格です。 |
| AZ-700: Designing and Implementing Microsoft Azure Networking Solutions | Azureのネットワークソリューションの設計、実装、管理に関する専門知識を問います。ネットワークエンジニア向けです。 | |
| Expert (上級) | AZ-305: Designing Microsoft Azure Infrastructure Solutions | 高度なインフラソリューションの設計スキルを証明する、アーキテクト向けの上級資格です。 |
3. Google Cloud 認定資格
データ分析や機械学習分野に強みを持つGoogle Cloudのスキルを証明する資格です。資格は「Foundational」「Associate」「Professional」の3つのレベルに分かれています。
| レベル | 主要な資格名 | 概要と対象者 |
|---|---|---|
| Foundational | Cloud Digital Leader | Google Cloudの基本的な価値やユースケースを理解していることを証明します。非技術者も対象とした入門資格です。 |
| Associate | Associate Cloud Engineer | Google Cloud環境のデプロイ、監視、保守など、クラウドエンジニアとしての基本的なスキルを証明します。 Google Cloudを扱うエンジニアの出発点となる資格です。 |
| Professional | Professional Cloud Architect | 堅牢でスケーラブルなソリューションを設計、計画、管理する能力を証明する、アーキテクト向けの上級資格です。 |
| Professional Cloud Network Engineer | Google Cloud上のVPCネットワークやハイブリッド接続の設計・実装に関する高度なスキルを証明します。 |
キャリアアップを目指す!中級・上級者向け専門資格
基礎を固め、実務経験を積んだエンジニアが、さらなる専門性を高め、キャリアアップを実現するために目指すべきハイレベルな資格を紹介します。
1. 応用情報技術者試験 (AP)
基本情報技術者試験の上位に位置する国家資格です。 技術的な知識に加え、管理や経営に関する知識も問われ、より応用的で実践的なスキルを証明できます。 取得すれば、技術力とマネジメント能力を兼ね備えたIT人材として高く評価されます。
| 難易度 | 普通~難しい (ITSSレベル3相当) |
|---|---|
| 対象者 | 数年の実務経験を持つ中堅エンジニア、プロジェクトリーダーを目指す方 |
| ポイント | 記述式の問題が出題され、論理的思考力や問題解決能力が問われます。 合格率は例年20%前後と、難易度は高めです。 |
2. ネットワークスペシャリスト試験 (NW)
情報処理技術者試験の中でも最高難易度の「高度区分(レベル4)」に位置する、ネットワーク分野の国家資格です。 ネットワークの設計、構築、運用・保守に関する高度な専門知識と実践能力が問われます。ネットワークエンジニアとしての市場価値を飛躍的に高めることができる資格です。
| 難易度 | 非常に難しい (ITSSレベル4) |
|---|---|
| 対象者 | 豊富な実務経験を持つネットワークエンジニア、インフラスペシャリスト |
| ポイント | 合格率は平均14%程度と非常に低く、取得は困難ですが、その分、高度な専門性を証明できます。 大規模ネットワークの企画・設計といった上流工程へのキャリアパスを開きます。 |
3. 情報処理安全確保支援士 (RISS)
情報セキュリティ分野における国内唯一の「士業」となる国家資格です。サイバーセキュリティに関する専門的な知識・技能を証明します。 インフラの設計・構築においてセキュリティを担保する能力は不可欠であり、この資格を持つエンジニアの需要は年々高まっています。
| 難易度 | 非常に難しい (ITSSレベル4) |
|---|---|
| 対象者 | セキュリティエンジニア、インフラ全般のセキュリティ設計・監査に携わる上級エンジニア |
| ポイント | 合格率は20%前後で推移しており、高度な知識が要求されます。 資格を維持するためには、定期的な講習の受講が必要です。 |
自分に合った資格の選び方と学習ロードマップ
数多くの資格の中から、自分にとって最適なものを選び、効率的に学習を進めるためのロードマップを提案します。
重要なのは「どの資格を、どのタイミングで取るか」を戦略的に考えることです。 自身の現在地と目指すゴールを明確にすることが、成功への第一歩となります。
Step 1: 未経験・初心者からのスタート
まずはITインフラの土台を固めることが最優先です。以下の順番で学習を進めるのが王道のロードマップです。
- ITパスポート or 基本情報技術者試験 (FE): IT全般の基礎知識を網羅的に学習します。
- LinuC/LPIC レベル1 or CCNA: サーバーかネットワーク、どちらかに軸足を置いて専門性の基礎を築きます。
- サーバーサイドに興味があれば LinuC/LPIC
- ネットワークに興味があれば CCNA
- AWS Certified Cloud Practitioner: クラウドの基本的な考え方を学び、次のステップに備えます。
この段階の資格を1〜2つ取得すれば、未経験からでもインフラエンジニアとしてのキャリアをスタートさせることが十分に可能です。
Step 2: 若手・中堅エンジニアのステップアップ
1〜3年程度の実務経験を積んだら、より実践的なスキルを証明し、市場価値を高めるフェーズです。
- AWS Certified Solutions Architect – Associate (SAA): クラウド案件に携わる上で、事実上の標準資格となっています。 これを取得することで、活躍の場が大きく広がります。
- LinuC/LPIC レベル2: Linuxサーバーの構築・管理能力を高め、より高度な業務に対応できるようになります。
- 応用情報技術者試験 (AP): 技術力とマネジメントの素養をアピールし、リーダー候補としてのポジションを確立します。
この段階では、「オンプレミスの専門性 × クラウドのスキル」の掛け合わせを意識することが重要です。
Step 3: スペシャリスト・上級エンジニアへの道
特定の分野を極め、チームや組織を技術でリードする存在を目指します。
- ネットワークスペシャリスト / 情報処理安全確保支援士: 国家資格の最高峰に挑戦し、専門家としての不動の地位を築きます。
- AWS/Azure/Google CloudのProfessional/Expert認定: クラウドアーキテクトとして、大規模で複雑なシステムの設計・構築を担う能力を証明します。
- CCNP (Cisco Certified Network Professional): CCNAの上位資格で、より高度なネットワーク技術を証明します。
このレベルになると、資格取得そのものよりも、資格で問われるレベルの知識と経験をいかに実務で発揮できるかが問われます。
まとめ
インフラエンジニアにとって、資格は自身のスキルを可視化し、キャリアを切り拓くための羅針盤です。技術の進化が速いこの分野では、継続的な学習とスキルアップが不可欠です。
今回紹介した資格は、あくまで一つの指標です。最も大切なのは、自分がどのようなエンジニアになりたいかという目標を持ち、それに向かって戦略的に学習を進めることです。この記事を参考に、ぜひあなた自身のキャリアロードマップを描き、市場価値の高いインフラエンジニアを目指してください。