Snort における snort-common の役割と活用法

Snort環境の効率化と一貫性を保つ鍵

ネットワーク侵入検知・防止システム (NIDS/NIPS) として広く利用されているオープンソースソフトウェア Snort は、その柔軟性と強力な検知能力で知られています。Snort を効果的に運用するためには、設定ファイルやルールセットの管理が重要になります。特に、複数の Snort インスタンスを運用する場合や、設定の一貫性を保ちたい場合に、共通の設定要素をどのように管理するかが課題となります。

ここで登場するのが snort-common という概念です。これは、Snort の様々なパッケージやコンポーネント間で共有される設定ファイル、スクリプト、ドキュメントなどを格納するためのパッケージやディレクトリを指すことが一般的です。本記事では、この snort-common の役割、含まれる可能性のあるファイル、そしてその活用方法について詳しく解説していきます。

なお、ユーザーが指定したパス /tools/snort/#snort-common は、特定のツールセットや環境(例えば Kali Linux のようなセキュリティ用途のディストリビューションや、独自に構築された研究環境など)に固有のパスである可能性があります。しかし、snort-common が示す「共通ファイルを管理する」という概念自体は、多くの Snort 環境で応用できる普遍的なものです。

Snort とは?

snort-common の話に入る前に、Snort について簡単におさらいしましょう。Snort は、1998年に Martin Roesch によって開発されたオープンソースの NIDS/NIPS です。ネットワーク上を流れるパケットをリアルタイムで監視し、事前に定義されたルールセットに基づいて、不正アクセス、マルウェアの通信、ポリシー違反などの脅威を検知・通知、あるいはブロックします。

Snort は主に以下の3つのモードで動作します。

  • スニファーモード (Sniffer Mode): ネットワーク上のパケットをキャプチャし、コンソールに表示します。tcpdump のような使い方です。
  • パケットロガーモード (Packet Logger Mode): キャプチャしたパケットを指定したディレクトリにログファイルとして保存します。ネットワークトラフィックのデバッグなどに利用されます。
  • NIDS/NIPS モード (Network Intrusion Detection/Prevention System Mode): 最も一般的なモードです。設定ファイルとルールに基づいてトラフィックを分析し、脅威を検知した際にアラートを生成したり、通信をブロックしたりします。

Snort の強力な点は、柔軟なルール言語にあります。シグネチャベース(既知の攻撃パターン)、プロトコルベース(プロトコルの異常)、アノマリベース(通常とは異なる振る舞い)の検知を組み合わせることで、多様な脅威に対応できます。

snort-common パッケージ/ディレクトリの目的

snort-common という名前のパッケージは、特に Debian や Ubuntu などの Linux ディストリビューションで、Snort 本体や関連パッケージ(異なる機能を持つ Snort バイナリパッケージなど)が共通して利用するファイル群を提供する目的で用意されています。Kali Linux のツール情報によると、snort-common パッケージには、cron ジョブ、ツール、設定ファイルなどが含まれるとされています。

このような共通パッケージやディレクトリが存在する主なメリットは以下の通りです。

  • 一貫性の維持: 複数の Snort インスタンスや関連ツールで同じ設定ファイルやスクリプトを共有することで、設定のばらつきを防ぎ、一貫した動作を保証します。
  • 管理の効率化: 共通ファイルを一箇所で管理できるため、更新や修正が必要な場合に、個々のインスタンスの設定を変更する手間が省けます。
  • 冗長性の排除: 同じ設定ファイルやルールスニペットを複数の場所にコピーする必要がなくなり、ディスクスペースの節約と管理ミスのリスク低減につながります。
  • 依存関係の整理: Snort 本体とは別に共通コンポーネントをパッケージ化することで、依存関係を明確にし、インストールやアップグレードの管理を容易にします。

例えば、Debian/Ubuntu 系では、snort パッケージは snort-commonsnort-common-libraries (共通ライブラリを提供) に依存しています。これにより、Snort をインストールする際に、必要な共通ファイルが自動的に導入される仕組みになっています。

インストールと配置場所

snort-common パッケージは、通常、Linux ディストリビューションのパッケージマネージャ(aptyum など)を通じてインストールされます。snort パッケージをインストールする際に、依存関係として自動的にインストールされることが多いです。

# Ubuntu/Debian 系の場合
sudo apt update
sudo apt install snort

上記コマンドを実行すると、依存関係にある snort-common も一緒にインストールされます(もし未導入の場合)。

snort-common によってインストールされるファイルや、手動で Snort をソースからビルドした場合の共通ファイルが配置される可能性のある一般的なディレクトリは以下の通りです。

  • /etc/snort/: Snort の主要な設定ファイル (snort.conf など) が置かれるディレクトリ。共通設定ファイルの一部がここに配置されることもあります。
  • /usr/share/snort/: ディストリビューションが提供する Snort 関連のドキュメント、サンプル設定、共通スクリプトなどが配置されることがあります。
  • /usr/share/doc/snort-common/: snort-common パッケージ固有のドキュメントや ChangeLog などが格納されるディレクトリ (Debian/Ubuntu 系)。
  • /usr/local/snort/etc//usr/local/share/snort/: ソースから手動でインストールした場合のデフォルトの共通設定や共有ファイルのパス。
  • /tools/snort/ (指定されたパス): 特定のカスタム環境下での共通ファイル置き場。

重要なのは、実際のファイルパスは Snort のインストール方法(パッケージかソースか)、OS、Snort のバージョン(特に Snort 2.x と Snort 3.x では設定方法が大きく異なる)、そして個々の環境設定によって異なるという点です。Snort 3 では設定が Lua スクリプトベースになり、設定ファイルの構造や場所も変わっています (例: lua/ ディレクトリ内の snort.lua, snort_defaults.lua)。

注意: 実際の環境で共通ファイルがどこにあるかを確認するには、dpkg -L snort-common (Debian系) や rpm -ql snort-common (RedHat系) のようなコマンドでパッケージに含まれるファイルリストを確認するか、snort.conf (Snort 2.x) や snort.lua (Snort 3.x) 内のパス設定を確認するのが確実です。

snort-common に含まれる可能性のある主要ファイル/ディレクトリ

snort-common パッケージや、一般的に Snort の共通ファイルが格納されるディレクトリには、以下のような種類のファイルが含まれる可能性があります。これらは Snort の設定や運用を補助する重要な要素です。

ファイル/ディレクトリ 説明 役割の例
rules/ ディレクトリ内のファイル群 共通で利用されるルールファイルや、ルール定義の基盤となるファイル。classification.configreference.config などが含まれることが多い。
  • classification.config: アラートの分類定義 (例: トロイの木馬、Web アプリケーション攻撃など)。
  • reference.config: ルール内の `reference` キーワードで使用される外部参照情報 (CVE 番号や Bugtraq ID など) の定義元。
  • *.rules: 基本的なルールセットやカスタムルールのテンプレートなど。 (ただし、主要なルールセットは snort-rules-default などの別パッケージや、Snort.org からダウンロードするのが一般的)
  • threshold.conf: 特定のルールに対するアラート発生頻度を制御する設定。
preproc_rules/ ディレクトリ プリプロセッサ(パケットの正規化や特定プロトコルの解析を行うモジュール)に関連するルールや設定ファイル。
  • HTTP Inspect プリプロセッサの設定。
  • Stream5 (Snort 2.x) や Stream (Snort 3.x) の設定。
  • ポートスキャン検知 (sfPortscan) の設定。
so_rules/ ディレクトリ 共有オブジェクトルール (Shared Object Rules) のスタブファイルや関連ファイル。SOルールは C 言語で記述され、複雑な検知ロジックを実装するために使用されます。 SO ルールの有効化・無効化を管理するためのファイル。実際の SO ライブラリ (.so ファイル) は別の場所に配置されることが多い。
etc/ ディレクトリ内の設定スニペット snort.conf (Snort 2.x) や snort.lua (Snort 3.x) からインクルードされる可能性のある、共通の設定断片。
  • IP アドレス変数 (ipvar や Lua テーブル) の定義。
  • ポート変数 (portvar や Lua テーブル) の定義。
  • 出力プラグインの共通設定。
スクリプトやツール Snort の運用を補助するスクリプト (Perl, Python, Shell など)。
  • ルール更新スクリプト (例: PulledPork のようなツールが利用する設定やラッパー)。
  • ログローテーション設定 (logrotate 用の設定ファイル)。
  • 設定ファイルの検証や変換ツール (例: Snort 3 に付属する snort2lua は Snort 2 の設定を Lua 形式に変換)。
ドキュメント README ファイル、ライセンス情報、基本的な設定ガイドなど。 パッケージの基本的な情報提供。
unicode.map Unicode 文字のマッピング情報。HTTP URI の正規化などで使用される。 多言語環境での正確なコンテンツマッチング。

Snort 3 では設定が Lua ベースになったため、上記の一部は .lua ファイルとして提供されたり、snort_defaults.lua のようなデフォルト設定ファイル内で定義されたりします。

snort-common の活用例と Snort との連携

snort-common に含まれるファイル群は、Snort のメイン設定ファイル (snort.conf または snort.lua) から参照・インクルードされることで活用されます。

Snort 2.x (snort.conf) での連携例

Snort 2.x の設定ファイル snort.conf では、主に以下のディレクティブを使って共通ファイルを読み込みます。

  • 変数定義: 共通ファイルが置かれているディレクトリパスを変数として定義します。これにより、パスが変更された場合でも、変数の定義箇所を修正するだけで済みます。
  • # Step 1: Set the network variables.
    ipvar HOME_NET 192.168.1.0/24
    ipvar EXTERNAL_NET any
    
    # Path to your rules files (this is based on default install)
    var RULE_PATH /etc/snort/rules
    var SO_RULE_PATH /etc/snort/so_rules
    var PREPROC_RULE_PATH /etc/snort/preproc_rules
    var WHITE_LIST_PATH /etc/snort/rules
    var BLACK_LIST_PATH /etc/snort/rules
    
    # If you are using reputation preprocessor, set path for blacklist files
    # var BLACK_LIST_PATH /etc/snort/rules/iplists
  • include ディレクティブ: 他の設定ファイルやルールファイルを読み込みます。これにより、設定をモジュール化し、共通部分を別ファイルに切り出すことができます。
  • # Step 6: Configure output plugins.
    # unified2 is recommended
    # output unified2: filename snort.u2, limit 128
    
    # Step 7: Customize your ruleset.
    # Include the rule files you want to use.
    # Start with the community rules.
    include $RULE_PATH/local.rules
    # Example: include specific rule categories
    # include $RULE_PATH/web-client.rules
    # include $RULE_PATH/malware-cnc.rules
    
    # Include classification and reference configurations
    include $RULE_PATH/classification.config
    include $RULE_PATH/reference.config
    
    # Include threshold configuration
    # include $RULE_PATH/threshold.conf

上記の例では、$RULE_PATH などの変数で定義されたパスにある local.rulesclassification.config などを読み込んでいます。これらのファイルが snort-common によって提供される共通ファイルである場合があります。

Snort 3.x (snort.lua) での連携例

Snort 3.x では設定が Lua スクリプト言語で行われます。共通設定は Lua のテーブルや変数として定義されたり、include 文(Lua の機能)や Snort 独自の方法で読み込まれたりします。

デフォルトの設定ファイル snort.lua は、多くの場合 snort_defaults.lua という共通のデフォルト設定ファイルを読み込みます。

-- Snort 3 configuration is in Lua.
-- You can configure Snort here or use the command line.

-- Point to the default configuration values.
snort_defaults = require('snort_defaults')

-- Setup the network addresses you are protecting.
-- These might be defined in snort_defaults.lua or overridden here.
HOME_NET = [[ 192.168.1.0/24 ]]
EXTERNAL_NET = '!$HOME_NET'

-- Configure paths (potentially defined in snort_defaults or here)
RULE_PATH = '/etc/snort/rules'
BUILTIN_RULE_PATH = '/etc/snort/builtin_rules'
PLUGIN_RULE_PATH = '/etc/snort/so_rules'

-- Include rule files
ips =
{
    -- enable enables the IPS engine
    enable = true,

    -- Add rules files here
    rules = [[
        include $RULE_PATH/local.lua
        # include $RULE_PATH/community.lua
    ]],

    -- Other IPS settings...
}

-- Other module configurations...
-- Example: http_inspect configuration might reference common settings
-- http_inspect = { ... }

-- Load specific configurations if needed
-- include('my_custom_common_settings.lua')

Snort 3 では、設定のモジュール化と再利用性が Lua によってさらに向上しています。snort_defaults.lua や、その他の共通設定を記述した .lua ファイルが snort-common の役割を担う部分となります。

snort-common の管理とベストプラクティス

snort-common やそれに類する共通ファイルを効果的に管理するためのヒントをいくつか紹介します。

  • バージョン管理: /etc/snort ディレクトリ全体や、共通ファイルを置いているディレクトリを Git などのバージョン管理システムで管理することを強く推奨します。これにより、変更履歴の追跡、問題発生時のロールバック、複数人での共同管理が容易になります。
  • 明確な命名規則: 共通設定ファイルやカスタムルールファイルには、その目的がわかるような明確な名前をつけましょう。
  • ドキュメント化: 独自に作成した共通設定ファイルやスクリプトについては、その目的や使い方をコメントや別ドキュメントで記録しておきましょう。
  • 定期的な更新とレビュー: snort-common パッケージが提供されている場合は、OS のアップデートとともに更新されることが多いですが、手動で管理している共通ファイル(特にルール設定に関わるもの)は、定期的に内容を見直し、最新の脅威動向や Snort のベストプラクティスに合わせて更新する必要があります。
  • 設定のテスト: 共通設定ファイルを変更した後は、必ず Snort の設定テストコマンドを実行して、構文エラーなどがないかを確認しましょう。
# Snort 2.x の設定テスト
sudo snort -T -c /etc/snort/snort.conf

# Snort 3.x の設定テスト
sudo snort -c /etc/snort/snort.lua --warn-all

これらのプラクティスを実践することで、Snort 環境の安定性と信頼性を高めることができます。

トラブルシューティング

snort-common や共通ファイルに関連する一般的な問題と、その対処法をいくつか挙げます。

  • ファイルが見つからない (File not found / No such file or directory):
    • 原因: 設定ファイル内で指定された共通ファイルのパスが間違っている、またはファイルが存在しない。snort-common パッケージが正しくインストールされていない。
    • 対処法: snort.conf / snort.lua 内のパス設定(var RULE_PATH など)を確認し、実際のファイルパスと一致しているか調べます。ls コマンドなどでファイルが存在するか確認します。必要であれば snort-common パッケージを再インストールします。
  • パーミッションエラー (Permission denied):
    • 原因: Snort プロセスを実行するユーザーに、共通ファイルへの読み取り権限がない。
    • 対処法: 共通ファイルや、それらが格納されているディレクトリのパーミッションを確認し、Snort 実行ユーザー (通常は `snort` ユーザー) が読み取れるように修正します (例: `sudo chmod o+r /etc/snort/rules/common_settings.conf`)。
  • 設定ファイルの構文エラー (Syntax error):
    • 原因: 共通設定ファイル (.config, .conf, .rules, .lua など) の記述に誤りがある。
    • 対処法: Snort の設定テストコマンド (snort -Tsnort --warn-all) を実行し、エラーメッセージを確認します。エラー箇所を特定し、Snort のドキュメントを参照しながら修正します。
  • 依存関係の問題:
    • 原因: snort-common が依存する別のライブラリやパッケージが不足している、またはバージョンが古い/新しい。
    • 対処法: パッケージマネージャ (apt, yum) を使って、依存関係の問題を解決します (例: `sudo apt –fix-broken install`)。Snort や関連パッケージを再インストールする必要がある場合もあります。
トラブルシューティングの際は、Snort のログファイル (通常 /var/log/snort/ やシステムログ /var/log/syslog など) を確認すると、問題解決の手がかりが見つかることが多いです。

まとめ

snort-common は、Snort の運用において、設定ファイル、ルール、スクリプトなどの共通コンポーネントを一元管理し、環境全体の一貫性と効率性を高めるための重要な概念です。パッケージとして提供される場合もあれば、ユーザーが独自に共通ファイル用のディレクトリ構造を構築する場合もあります。

この仕組みを理解し、適切に活用することで、Snort の設定管理が容易になり、更新やトラブルシューティングも効率的に行えるようになります。特に複数の Snort インスタンスを運用する環境や、チームで Snort を管理する場合には、共通ファイルの適切な管理が不可欠です。

Snort 2.x から Snort 3.x への移行に伴い、設定の記述方法 (.conf から .lua へ) は変化しましたが、「共通の設定やリソースを効率的に管理する」という基本的な考え方は変わりません。ぜひ、ご自身の Snort 環境に合わせて、共通ファイルの管理方法を見直してみてください。

参考情報

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