はじめに:u2spewfooとは?
Snortは非常に強力なオープンソースの侵入検知・防御システム(IDS/IPS)ですが、そのログ出力形式の一つである「Unified2」はバイナリ形式であり、そのままでは人間が読むことができません。そこで登場するのが u2spewfoo
です。
u2spewfoo
は、Snortに付属している軽量なコマンドラインツールで、Unified2形式のログファイルを読み込み、人間が判読可能なテキスト形式で標準出力(通常はターミナル画面)に表示する機能を持っています。特別な設定やデータベースを必要とせず、手軽にSnortの検知イベントや関連パケットの内容を確認できるため、以下のような場面で役立ちます。
- ログの簡単な内容確認やデバッグ
- 特定のイベント発生時の迅速な状況把握
- 本格的なログ分析基盤(Barnyard2 + データベースなど)を構築する前の簡易的な確認
- 教育・学習目的でのログ形式理解
💡 Unified2形式とは?
Snortは検知イベントやパケット情報を効率的に記録するために、Unified2というバイナリ形式を採用しています。これは、Snort本体がログ書き込み処理で待たされる時間を最小限にし、パケット解析に集中できるようにするための工夫です。テキスト形式での出力(例:alert_fast
, alert_full
)も可能ですが、高負荷環境ではUnified2形式が推奨されます。
前提条件:SnortのインストールとUnified2出力設定
u2spewfoo
を使用するには、当然ながらSnortがシステムにインストールされている必要があります。また、SnortがUnified2形式でログを出力するように設定されている必要があります。
Snortの設定ファイル(通常 /etc/snort/snort.conf
や /usr/local/etc/snort/snort.conf
など)で、output
ディレクティブを使用してUnified2出力を有効にします。
設定例:
イベント情報のみをUnified2形式で出力する場合:
output alert_unified2: filename snort.alert, limit 128, nostamp
イベント情報と関連パケット情報をUnified2形式で出力する場合:
output unified2: filename snort.log, limit 128, nostamp
上記の例では、filename
でベースとなるファイル名を指定し、limit
でログファイルの最大サイズ(MB単位)を指定しています。nostamp
オプションは、ファイル名にタイムスタンプを付与しない場合に指定します(通常はタイムスタンプが付与されます)。
設定を変更した後は、Snortを再起動して設定を反映させる必要があります。
Snortが正常に動作し、指定したファイル名(例:snort.log.1716688977
のようにタイムスタンプが付与されたファイル)がログディレクトリに生成されていれば、u2spewfoo
を使用する準備は完了です。
基本的な使い方
u2spewfoo
の使い方は非常にシンプルです。コマンドラインで u2spewfoo
の後に、読み込みたいUnified2ログファイル名を指定するだけです。
u2spewfoo /path/to/snort/log/snort.log.xxxxxxxxxx
例えば、/var/log/snort
ディレクトリにある snort.log.1716688977
というファイルを読み込む場合は、以下のようになります。
u2spewfoo /var/log/snort/snort.log.1716688977
これにより、ファイルに含まれるイベント、パケット、追加データなどが人間が読める形式で標準出力に表示されます。
出力例:
以下は u2spewfoo
の典型的な出力例です。
(Event) sensor id: 0 event id: 4 event second: 1299698138 event microsecond: 146591
sig id: 1 gen id: 1 revision: 0 classification: 0 priority: 0
ip source: 10.1.2.3 ip destination: 10.9.8.7
src port: 60710 dest port: 80 protocol: 6 impact_flag: 0 blocked: 0
Packet sensor id: 0 event id: 4 event second: 1299698138
packet second: 1299698138 packet microsecond: 146591 linktype: 1 packet_length: 54
[ 0] 02 09 08 07 06 05 02 01 02 03 04 05 08 00 45 00 ..............E.
[ 16] 00 28 00 06 00 00 40 06 5C B7 0A 01 02 03 0A 09 .(....@.\.......
[ 32] 08 07 ED 26 00 50 00 00 00 62 00 00 00 2D 50 10 ...&.P...b...-P.
[ 48] 01 00 A2 BB 00 00 ......
(ExtraDataHdr) event type: 4 event length: 33
(ExtraData) sensor id: 0 event id: 2 event second: 1299698138
type: 9 datatype: 1 bloblength: 9 HTTP URI: /
(ExtraDataHdr) event type: 4 event length: 78
(ExtraData) sensor id: 0 event id: 2 event second: 1299698138
type: 10 datatype: 1 bloblength: 12 HTTP Hostname: example.com
この出力から、イベント情報((Event))、関連するパケットのダンプ(Packet)、そして追加情報((ExtraData))が記録されていることがわかります。
出力内容の詳細解説 🧐
u2spewfoo
の出力は、いくつかのレコードタイプに分かれています。Unified2ファイルには複数のレコードタイプが含まれる可能性があり、それぞれが特定の情報を持っています。
Event レコード
イベントレコードは、Snortが検知したアラートに関する主要な情報を含みます。
フィールド名 | 説明 | 例 |
---|---|---|
sensor id | センサーID(通常は0、複数のSnortインスタンスを管理する場合に利用) | 0 |
event id | イベントの一意なID | 4 |
event second | イベント発生時刻(Unixエポック秒) | 1299698138 |
event microsecond | イベント発生時刻(マイクロ秒部分) | 146591 |
sig id (sid) | トリガーとなったルールのシグネチャID | 1 |
gen id (gid) | トリガーとなったルールのジェネレータID | 1 |
revision | トリガーとなったルールのリビジョン番号 | 0 |
classification | イベントの分類ID (classification.config で定義) |
0 |
priority | イベントの優先度 (classification.config で定義) |
0 |
ip source | 送信元IPアドレス | 10.1.2.3 |
ip destination | 宛先IPアドレス | 10.9.8.7 |
src port / ICMP Type | 送信元ポート番号(TCP/UDPの場合)またはICMPタイプ | 60710 |
dest port / ICMP Code | 宛先ポート番号(TCP/UDPの場合)またはICMPコード | 80 |
protocol | プロトコル番号 (例: 6=TCP, 17=UDP, 1=ICMP) | 6 |
impact_flag | (非推奨) インパクトフラグ | 0 |
blocked | パケットがドロップされたか (0: ドロップされなかった, 1: ドロップされた, 2: ドロップされたはず (インラインテストモード時)) | 0 |
mpls_label | (オプション) MPLSラベル | – |
vlan_id | (オプション) VLAN ID | – |
Packet レコード
パケットレコードは、イベントをトリガーしたパケットの実際のデータを含みます。Snortの設定でパケットロギングが有効になっている場合(例:output unified2: ...
)に出力されます。
フィールド名 | 説明 | 例 |
---|---|---|
sensor id, event id, event second | 関連するイベントレコードの情報と同じ | – |
packet second | パケット受信時刻(Unixエポック秒) | 1299698138 |
packet microsecond | パケット受信時刻(マイクロ秒部分) | 146591 |
linktype | データリンク層のタイプ (例: 1=Ethernet (EN10MB))。libpcapのpcap_datalink() が返す値に対応します。 |
1 |
packet_length | パケットデータの長さ(バイト単位) | 54 |
Packet Data | 実際のパケットデータ。16進数ダンプとASCII表示で出力されます。 | [ 0] 02 09 … |
ExtraData レコード
ExtraDataレコードは、イベントやパケットに関する追加情報を含みます。これは、Snortの特定のプリプロセッサや設定(例:HTTP URIロギング、X-Forwarded-Forロギングなど)によって生成されます。
フィールド名 | 説明 | 例 |
---|---|---|
ExtraDataHdr | ExtraDataレコードのヘッダー情報 (タイプ、長さ) | (ExtraDataHdr) event type: 4 event length: 33 |
sensor id, event id, event second | 関連するイベントレコードの情報と同じ | – |
type | ExtraDataの種類を示すID | 9 (HTTP URI), 10 (HTTP Hostname) |
datatype | データのタイプ(通常は1=テキスト) | 1 |
bloblength | データの長さ(バイト単位) | 9, 12 |
Data | 実際の追加データ(例:HTTP URIやホスト名など) | HTTP URI: /, HTTP Hostname: example.com |
ExtraDataのタイプには、他にもIPv6アドレス、X-Forwarded-ForヘッダーのIPアドレス、SMTP関連情報など、様々な種類があります。これらの情報は、Snortの設定ファイル (snort.conf
) 内の config log_...
やプリプロセッサの設定によって有効化されます。
コマンドラインオプション
u2spewfoo
は非常にシンプルなツールであり、多くのコマンドラインオプションは持っていません。基本的に、引数としてUnified2ファイル名を指定するだけです。
ヘルプ情報を表示する標準的なオプション(-h
や --help
など)も、多くのバージョンでは実装されていません。主な機能はファイル内容の標準出力へのダンプに特化しています。
💡 複数のファイルを一度に処理するには?
複数のUnified2ファイルをまとめて表示したい場合は、シェルの機能を利用できます。例えば、特定のパターンに一致する全てのログファイルを表示するには、次のようにします。
u2spewfoo /var/log/snort/snort.log.*
あるいは、cat
コマンドとパイプを組み合わせることも可能です(ただし、ファイル間に区切りがないため読みにくくなる可能性があります)。
cat /var/log/snort/snort.log.* | u2spewfoo
(注: 上記の cat
を使う方法は、u2spewfoo
が標準入力からの読み込みをサポートしている場合に限ります。多くの実装ではファイル名を引数として取るため、最初の例のようにワイルドカードを使うのが一般的です。)
ユースケースと活用例
1. 特定イベントの迅速な確認
Snortがアラートを生成した際に、その詳細をすぐに確認したい場合に u2spewfoo
は便利です。SIEMや専用のログ分析ツールを立ち上げるまでもなく、コマンドラインから直接、関連パケットや追加情報を確認できます。
# 最新のログファイルを確認
ls -t /var/log/snort/snort.log.* | head -n 1
# 最新のログファイルの内容を表示
u2spewfoo $(ls -t /var/log/snort/snort.log.* | head -n 1)
2. ルールチューニング時のデバッグ
新しいSnortルールを作成・編集した際、そのルールが意図通りに動作しているか、誤検知(False Positive)や検知漏れ(False Negative)がないかを確認するために、u2spewfoo
でログを確認するのは有効な手段です。どのパケットがトリガーとなったのか、どのようなコンテキストで検知されたのかを把握するのに役立ちます。
3. スクリプトでの簡易的なログ処理
u2spewfoo
の出力をパイプで grep
や awk
などの他のコマンドと組み合わせることで、特定の情報(特定のIPアドレス、特定のシグネチャIDなど)を含むイベントを抽出する簡単なスクリプトを作成できます。
# 特定の送信元IPアドレスからのイベントを抽出
u2spewfoo /var/log/snort/snort.log.xxxxxxxxxx | grep "ip source: 192.168.1.100" -B 5 -A 10
# 特定のSIDを持つイベントを抽出
u2spewfoo /var/log/snort/snort.log.xxxxxxxxxx | grep "sig id: 1000002" -B 5 -A 10
(grep
の -B
オプションは前N行、-A
オプションは後N行を表示します。これにより、該当行の前後関係も確認しやすくなります。)
4. 教育・学習目的
SnortやUnified2フォーマットの仕組みを学ぶ上で、u2spewfoo
を使って実際のログデータを見てみることは非常に有効です。バイナリデータがどのように人間可読な情報に変換されるのかを理解する助けになります。
他のツールとの連携・比較
Unified2ファイルを扱うツールは u2spewfoo
以外にも存在します。
-
Barnyard2: Unified2ファイルを読み込み、データベース(MySQL, PostgreSQL, MSSQLなど)、syslog、CSVファイルなど、様々な形式に出力するための専用スプーラプログラムです。リアルタイム処理や永続的なログ保存、高度なフィルタリングが必要な場合に適しています。設定は
u2spewfoo
より複雑ですが、本格的なログ管理基盤の中核となります。 -
u2boat: 同じくSnortに付属するツールで、Unified2ファイルをpcap形式に変換します。変換後のpcapファイルは、Wiresharkやtcpdumpなどの標準的なパケット解析ツールで開くことができます。イベント情報よりもパケットそのものを詳細に解析したい場合に便利です。
u2boat -t pcap /path/to/snort.log.xxxxxxxxxx output.pcap
-
idstools (Pythonライブラリ): PythonでUnified2ファイルを扱いたい場合に使用できるライブラリです。このライブラリには
u2spewfoo
と同様の機能を持つサンプルスクリプト (u2spewfoo.py
) や、JSON形式に変換するu2json
などが含まれており、より柔軟なログ処理プログラムを自作する際に役立ちます。 - PulledPork: 直接Unified2を読むツールではありませんが、Snortのルールを管理・更新するツールです。最新のルールを適用することで、Snortの検知精度を高め、結果としてUnified2ログの内容も変化します。
u2spewfoo
は、そのシンプルさと手軽さから、Unified2ログの「最初の確認」や「ちょっとしたデバッグ」に最適なツールと言えるでしょう。より高度な分析や継続的な監視には、Barnyard2やSIEMなどの専用ツールとの連携が必要になります。
まとめ ✨
u2spewfoo
は、SnortのUnified2形式のログファイルを手軽に人間が読める形式で表示するための便利なコマンドラインツールです。特別な設定やデータベースを必要とせず、Snortの検知イベントや関連パケットの情報を素早く確認できます。
ログのデバッグ、ルールチューニング時の確認、簡単な情報抽出、そして学習目的など、様々な場面で役立ちます。一方で、高度な分析やリアルタイム処理には限界があるため、Barnyard2や u2boat
、SIEMなどの他のツールと目的に応じて使い分けることが重要です。
Snortを利用している、あるいはこれから学ぼうとしている方にとって、u2spewfoo
はUnified2ログと最初に触れ合うための良き入口となるでしょう。ぜひ一度、お手元の環境で試してみてください!🚀
参考情報
-
Snort Users Manual (Output Modules section): Snortの公式マニュアルには、Unified2出力の設定方法や、
u2spewfoo
、u2boat
についての記述があります。(バージョンによってURLが異なります。お使いのバージョンのマニュアルをご参照ください。)- 例: Snort 2.9 Manual: https://www.snort.org/documents/snort-users-manual-2-9
- 例: Snort 3 Manual: https://docs.snort.org/snort3_manual/node13.html (Snort 3ではログ形式やツール体系が変更されている点に注意)
- Ubuntu Manpage for u2spewfoo: UbuntuなどのDebian系ディストリビューションでは、manページが提供されている場合があります。
- idstools Documentation: PythonでUnified2を扱いたい場合のライブラリです。
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