強化学習の基礎:REINFORCEアルゴリズムを初心者にも分かりやすく解説

ITやAIの世界では、日々新しい技術や専門用語が生まれています。その中でも、AIが自ら学習していく「強化学習」という分野は特に注目を集めています。今回は、その強化学習の基本的なアルゴリズムの一つである「REINFORCE(レインフォース)」について、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。

REINFORCEとは?
主に強化学習の分野で使われるアルゴリズムの名前です。1992年にRonald J. Williams氏によって提案された、歴史ある基本的な手法です。 英語の”reinforce”(強化する、補強する)という単語が元になっており、その名の通り「良い行動を強化する」ことで学習を進めます。

理解の前に:強化学習のキホン

REINFORCEを理解するために、まずは強化学習の基本的な考え方を知っておきましょう。強化学習は、人間が動物を訓練するプロセスに似ています。

エージェント(学習する主体)が、ある「環境」の中で「行動」を選択します。その行動の結果、環境から「報酬」(ご褒美や罰)が与えられ、エージェントはより多くの報酬を得られるように、試行錯誤しながら行動の仕方を学んでいきます。 この一連の流れを繰り返すことで、最適な行動パターン(これを「方策」と呼びます)を見つけ出すのが目標です。

例えば、犬の「お手」の訓練を考えてみましょう。

  • エージェント:犬
  • 環境:飼い主がいる部屋
  • 行動:手を出す、吠える、座る など
  • 報酬:手を正しく出せたらおやつがもらえる(正の報酬)、それ以外の行動では何ももらえない(報酬なし)

犬は「手を出す」という行動とおやつ(報酬)を結びつけ、次から「お手」と言われたら手を出す確率が高まります。これが強化学習の基本的なイメージです。

REINFORCEアルゴリズムの仕組み

では、REINFORCEは具体的にどのように学習するのでしょうか。REINFORCEは「方策勾配法(Policy Gradient Method)」というカテゴリに分類されるアルゴリズムです。

一般的な強化学習手法の中には、各行動の「価値」を計算して、最も価値の高い行動を選ぶ「価値ベースの手法」があります。 一方、方策勾配法は、行動の価値を直接計算するのではなく、ある状況でどの行動をどれくらいの確率で取るかという「方策」そのものを直接学習します。 REINFORCEは、この方策勾配法の中で最も基本的なアルゴリズムです。

学習のプロセスは非常にシンプルです。

  1. まず、一連の行動(これを「エピソード」と呼びます)を最後まで行います。
  2. エピソードが終わったら、全体でどれくらいの報酬が得られたかを計算します。
  3. もし最終的な報酬が大きければ(つまり、良い結果につながったら)、そのエピソード内で行った一連の行動すべての選択確率を少し上げます。
  4. 逆に、最終的な報酬が小さければ(悪い結果に終わったら)、そのエピソード内で行った一連の行動すべての選択確率を少し下げます。

この「とりあえず最後までやってみて、結果が良ければその時の行動を全体的に褒め、悪ければ全体的に反省する」という考え方は、モンテカルロ法と呼ばれています。 REINFORCEはこの考え方を使って、良い結果につながる行動パターンを徐々に強化していくのです。

REINFORCEの長所と短所

REINFORCEは基本的で理解しやすい一方で、いくつかの長所と短所があります。

項目内容
長所
  • 実装がシンプル:アルゴリズムが単純で、初心者でも比較的容易に実装できます。
  • 連続的な行動にも対応可能:行動を確率で選ぶため、ハンドルの角度のような連続的な値を持つ行動空間にも適用できます。
  • 確率的な方策を学習できる:常に同じ行動を選ぶのではなく、状況に応じて確率的に行動を選ぶ戦略を学習できるため、局所的な最適解に陥りにくいとされています。
短所
  • 学習が不安定(分散が大きい):エピソード全体の報酬で評価するため、偶然うまくいっただけの行動も強化されてしまうなど、評価のばらつきが大きくなりがちです。これが学習を不安定にする原因となります。
  • 学習効率が低い(サンプル効率が悪い):エピソードが終わるまで学習(更新)ができないため、多くの試行錯誤が必要となり、学習に時間がかかることがあります。
  • 局所最適解に収束しやすい:基本的な勾配法であるため、必ずしも全体で最適な解(大域的最適解)にたどり着けるとは限りません。

これらの短所を克服するために、REINFORCEをベースとした様々な改良アルゴリズム(Actor-Critic法など)が開発されています。

Pythonによる簡単な実装例

ここでは、Pythonと機械学習ライブラリのPyTorchを使い、古典的な制御問題である「CartPole(倒立振子)」をREINFORCEで解くコードの簡単な例を示します。CartPoleは、カートの上に乗ったポールが倒れないように、カートを左右に動かすシンプルなゲームです。

import torch
import torch.nn as nn
import torch.optim as optim
import gym
from torch.distributions import Categorical
# 方策を表現するニューラルネットワーク
class Policy(nn.Module): def __init__(self): super(Policy, self).__init__() self.layers = nn.Sequential( nn.Linear(4, 128), # 入力は状態(4次元) nn.ReLU(), nn.Linear(128, 2), # 出力は行動の選択確率(左 or 右) nn.Softmax(dim=-1) ) self.saved_log_probs = [] self.rewards = [] def forward(self, x): return self.layers(x)
# 環境とモデルの初期化
env = gym.make('CartPole-v1')
policy = Policy()
optimizer = optim.Adam(policy.parameters(), lr=1e-2)
def select_action(state): state = torch.from_numpy(state).float() probs = policy(state) m = Categorical(probs) # カテゴリカル分布を作成 action = m.sample() # アクションをサンプリング policy.saved_log_probs.append(m.log_prob(action)) # ログ確率を保存 return action.item()
def finish_episode(): R = 0 policy_loss = [] returns = [] # 割引報酬を逆順に計算 for r in policy.rewards[::-1]: R = r + 0.99 * R # 割引率γ=0.99 returns.insert(0, R) returns = torch.tensor(returns) # 報酬の標準化(学習を安定させるテクニック) returns = (returns - returns.mean()) / (returns.std() + 1e-6) # 損失の計算 for log_prob, R in zip(policy.saved_log_probs, returns): policy_loss.append(-log_prob * R) optimizer.zero_grad() policy_loss = torch.cat(policy_loss).sum() policy_loss.backward() # 勾配計算 optimizer.step() # パラメータ更新 # 保存したデータをリセット del policy.rewards[:] del policy.saved_log_probs[:]
# メインの学習ループ
for i_episode in range(1000): state, _ = env.reset() for t in range(10000): action = select_action(state) state, reward, terminated, truncated, _ = env.step(action) policy.rewards.append(reward) if terminated or truncated: break finish_episode() # エピソード終了時に学習 # ... ログ出力などの処理 ... 

まとめ:REINFORCEは基礎であり、発展の第一歩

REINFORCEは、そのシンプルさ故に学習の不安定さなどの課題も抱えていますが、「良い結果につながった行動の確率を上げる」という方策勾配法の基本的な考え方を理解するための最適なアルゴリズムです。

現代のより高度な強化学習アルゴリズム(PPOやA3Cなど)の多くは、REINFORCEが抱える課題を解決する形で発展してきました。 そのため、REINFORCEを理解することは、強化学習という奥深い世界を探求するための、重要で確かな第一歩と言えるでしょう。

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