AIによる画像認識技術は日々進化しており、私たちの生活の様々な場面で活用されています。その中でも特に高度な技術として注目されているのが「インスタンスセグメンテーション」です。
この記事では、「インスタンスセグメンテーションとは何か?」という基本的なところから、他の技術との違い、具体的な仕組みや活用事例まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
インスタンスセグメンテーションとは?
インスタンスセグメンテーション(Instance Segmentation)とは、画像に写っている物体を1つ1つの個体(インスタンス)として識別し、さらにその物体の領域をピクセル単位で正確に特定する画像認識技術です。
簡単に言えば、「画像の中に何が写っているか」を当てるだけでなく、「それが画像のどこにあって、どんな形をしているか」を、個々の物体を区別しながら教えてくれる技術、とイメージすると分かりやすいでしょう。 例えば、写真に猫が3匹写っていた場合、インスタンスセグメンテーションは「1匹目の猫」「2匹目の猫」「3匹目の猫」とそれぞれを別の個体として認識し、それぞれの輪郭を正確に示します。
他の画像認識技術との違い
画像認識にはインスタンスセグメンテーション以外にもいくつかの手法があります。特に混同されやすい「物体検出」と「セマンティックセグメンテーション」との違いを理解することで、インスタンスセグメンテーションの特徴がより明確になります。
技術 | 何ができるか | 出力の例え |
---|---|---|
物体検出 (Object Detection) | 画像内の物体の位置と種類を四角い枠(バウンディングボックス)で囲む。個々の物体の正確な形状は分からない。 | 「この辺に猫がいる」 |
セマンティックセグメンテーション (Semantic Segmentation) | 画像をピクセル単位で領域分割し、各ピクセルがどのカテゴリ(例:人、車、空)に属するかを分類する。同じカテゴリの個体は区別しない。 | 「この領域は猫、あの領域は犬」 |
インスタンスセグメンテーション (Instance Segmentation) | セマンティックセグメンテーションの能力に加え、同じカテゴリの物体も個別に識別する。 物体ごとの正確な形状と位置が分かる。 | 「1匹目の猫はここ」「2匹目の猫はここ」 |
このように、インスタンスセグメンテーションは、物体検出の「個体識別能力」とセマンティックセグメンテーションの「ピクセル単位の領域特定能力」を併せ持った、より高度な技術と言えます。
インスタンスセグメンテーションの仕組みと代表的な手法
インスタンスセグメンテーションは、一般的に2段階のアプローチで実現されます。
- 物体検出: まず、画像の中から物体の候補となる領域を大まかに特定します(バウンディングボックスで囲む)。
- マスク生成: 次に、検出された各領域内で、物体の正確な輪郭(マスク)をピクセル単位で生成します。
この分野で最も有名で代表的なモデルが「Mask R-CNN」です。 Mask R-CNNは、物体検出手法である「Faster R-CNN」を拡張したもので、物体のクラス分類とバウンディングボックスの予測に加えて、マスク予測のための分岐を追加することで、高精度なインスタンスセグメンテーションを実現しています。
以下は、Detectron2などのライブラリを使ってMask R-CNNによる推論を行う際の、非常に簡略化されたPythonコードのイメージです。
# ライブラリのインポート
from detectron2.engine import DefaultPredictor
from detectron2.config import get_cfg
from detectron2.data import MetadataCatalog
import cv2
# 設定の読み込みとモデルの準備
cfg = get_cfg()
cfg.merge_from_file("path/to/your/config.yaml") # モデル設定ファイル
cfg.MODEL.ROI_HEADS.SCORE_THRESH_TEST = 0.5 # 信頼度のしきい値
cfg.MODEL.WEIGHTS = "path/to/your/model_weights.pth" # 学習済みモデルの重み
predictor = DefaultPredictor(cfg)
# 画像を読み込んで推論を実行
im = cv2.imread("./input_image.jpg")
outputs = predictor(im)
# 結果の取得
instances = outputs["instances"].to("cpu")
pred_classes = instances.pred_classes # 予測されたクラス
pred_masks = instances.pred_masks # 予測されたマスク(領域)
# ここで結果を可視化する処理などを行う
# (例:マスクを元の画像に重ねて表示する)
近年では、Mask R-CNN以外にも、YOLOシリーズ(YOLOv8など)のように、より高速なワンステージで検出とセグメンテーションを行うモデルも登場しています。
主な活用事例
インスタンスセグメンテーションの「個々の物体を正確に捉える」能力は、様々な分野で応用されています。
- 自動運転
車、歩行者、自転車、信号機などを個別に正確に認識することで、安全な経路計画や衝突回避に不可欠な技術となっています。 2020年には福岡県の自動車学校で、セグメンテーション技術を活用したAI教習システムの試乗会が実施された例もあります。 - 医療画像解析
CTやMRI画像から、がん細胞や特定の臓器、病変領域などをピクセルレベルで正確に抽出し、医師の診断を支援します。 これにより、診断の精度向上や治療計画の質の向上が期待されています。 - 産業用ロボット・外観検査
工場の生産ラインで流れる部品をロボットアームが正確に掴んだり、製品の傷や汚れなどの欠陥を精密に検出したりするのに利用されます。 - 衛星画像解析
衛星写真から建物、道路、農地などを個別に識別し、都市計画の策定、災害状況の把握、農作物の生育管理などに活用されます。
まとめ
インスタンスセグメンテーションは、単に物体を検出するだけでなく、個々の物体の正確な形までを理解する、非常に強力な画像認識技術です。
自動運転や医療など、私たちの生活をより安全で豊かにする様々な分野での活躍が期待されており、今後もその技術の進化から目が離せません。この記事を通して、インスタンスセグメンテーションの基本について理解を深める一助となれば幸いです。