Cisco Torch は、主にCiscoデバイスを対象としたネットワークスキャン、フィンガープリンティング(デバイスやOSの特定)、そして限定的な脆弱性診断機能を持つツールです。特に、Telnet, SSH, HTTP/HTTPS (Web), NTP, SNMP, TFTP といったサービスが動作しているCiscoホストを効率的に発見し、それらのサービスに対して辞書攻撃(パスワードクラック)を試みることができます。
このツールの最大の特徴は、複数のスキャンプロセスをバックグラウンドで並行して実行する点にあります(主にPerlのfork機能を利用)。これにより、特に大規模なネットワークに対して高速なスキャンを実現しようとしています。また、必要に応じて複数のアプリケーション層フィンガープリンティング手法を同時に使用することも可能です。
Cisco Torch の主な機能 ⚙️
Cisco Torchが提供する主な機能は以下の通りです。
- 大規模スキャン: IPアドレス範囲やホストリストを指定して、多数のデバイスを効率的にスキャンします。
- サービス検出: Ciscoデバイスで一般的に利用される以下のサービスが動作しているか検出します。
- Telnet
- SSH (Secure Shell)
- Web (HTTP/HTTPS)
- NTP (Network Time Protocol)
- SNMP (Simple Network Management Protocol)
- TFTP (Trivial File Transfer Protocol)
- フィンガープリンティング: 検出したサービスの情報(バナー情報、応答内容など)から、デバイスの種類やOSバージョン(特にCisco IOS)を特定しようと試みます。
- 脆弱性スキャン(限定的): 特定の既知の脆弱性(例: Cisco IOS HTTP Authorization Vulnerabilityなど)が存在するかチェックします。ただし、網羅的な脆弱性スキャンツールではありません。
- 辞書攻撃(パスワードクラック): Telnet, SSH, SNMPコミュニティ名、TFTP設定ファイル名などに対して、事前に用意した単語リスト(辞書ファイル)を用いたパスワード推測攻撃を実行できます。
Nmapのような汎用的なポートスキャナと比較すると、Cisco TorchはCiscoデバイスの特定と、そこに含まれる可能性のある特定サービスへの攻撃に特化している点が異なります。また、複数のスキャンプロセスを同時に起動することで、速度面でのアドバンテージを追求しています。
インストール方法 💻
Cisco TorchはPerlスクリプトとして実装されており、実行にはPerlインタープリタが必要です。また、いくつかのPerlモジュールに依存しています。
Kali Linuxなどのペネトレーションテスト用ディストリビューションには、標準で含まれている場合があります。もし含まれていない場合や、他のLinuxディストリビューションで使用する場合は、以下の手順でインストールを試みることができます。
- Perlのインストール: ほとんどのLinuxディストリビューションにはデフォルトでPerlがインストールされていますが、なければパッケージマネージャでインストールします。(例: `sudo apt-get install perl` や `sudo yum install perl`)
-
依存モジュールのインストール: Cisco Torchは以下のPerlモジュールなどを必要とします。CPAN (Comprehensive Perl Archive Network) を利用してインストールするのが一般的です。
- Net::SSH or Net::SSH2::Perl (SSH接続用)
- Net::Telnet (Telnet接続用)
- Net::SNMP (SNMP通信用)
- その他、スクリプト内で `use` されているモジュール
ディストリビューションによっては、パッケージマネージャ経由で `libnet-ssh2-perl`, `libnet-telnet-perl`, `libnet-snmp-perl` のような名前のパッケージとして提供されていることもあります。(例: `sudo apt-get install libnet-ssh2-perl libnet-telnet-perl libnet-snmp-perl`)sudo cpan cpan> install Net::SSH2::Perl cpan> install Net::Telnet cpan> install Net::SNMP cpan> exit
- Cisco Torchスクリプトの入手: 公式サイトやGitHubリポジトリなどから `cisco-torch.pl` スクリプトをダウンロードします。Kali Linuxに含まれる場合は `/usr/bin/cisco-torch` や `/usr/share/cisco-torch/` ディレクトリなどに配置されていることがあります。
-
実行権限の付与: ダウンロードしたスクリプトに実行権限を与えます。
chmod +x cisco-torch.pl
古いツールであるため、最新のOS環境では依存関係の解決や実行に問題が生じる可能性もあります。
基本的な使い方とオプション 🚀
Cisco Torchはコマンドラインから実行します。基本的な構文は以下の通りです。
./cisco-torch.pl [オプション] <ターゲットIP or ホスト名 or ネットワークアドレス/CIDR>
または、ホストリストファイルを指定する場合:
./cisco-torch.pl [オプション] -F <ホストリストファイル>
主なオプション
以下によく使われるオプションを示します。
オプション | 説明 |
---|---|
-A |
利用可能なすべてのスキャンタイプを実行します。 |
-t |
Telnetフィンガープリントスキャンを実行します。 |
-s |
SSHフィンガープリントスキャンを実行します。 |
-c |
Cisco Webサーバー(HTTP/HTTPS)フィンガープリントスキャンを実行します。 |
-u |
SNMPフィンガープリントスキャンを実行します。(コミュニティ名が必要な場合が多い) |
-n |
NTPフィンガープリントスキャンを実行します。 |
-j |
Cisco IOS HTTP Authorization脆弱性スキャンを実行します。 |
-z |
Cisco SSL Webサーバーフィンガープリントスキャンを実行します。 |
-F <ファイル名> |
指定したファイルからターゲットホストのリストを読み込みます。 |
-l <ファイル名> |
スキャン結果を指定したファイルにログとして出力します。(デフォルトは `scan.log`) |
-b |
検出されたサービスに対して辞書攻撃(ブルートフォース)を実行します。(-w オプションで辞書ファイルを指定) |
-w <辞書ファイル> |
辞書攻撃に使用する単語リストファイルを指定します。 |
-V |
詳細な情報を表示します(Verboseモード)。 |
-O <設定ファイル> |
デフォルト(`torch.conf`)以外の設定ファイルを指定します。 |
-p <ポート番号> |
スキャン対象のポートを指定します。(通常は各スキャンタイプに応じたデフォルトポートが使用されます) |
実行例
いくつかの具体的な実行例を示します。
例1: 単一IPアドレスに対して全てのタイプのスキャンを実行
sudo ./cisco-torch.pl -A 192.168.1.1
(特権ポートを使用する可能性があるため `sudo` が必要になることがあります)
例2: ネットワーク範囲 (CIDR表記) に対してTelnetとSSHのスキャンを実行
sudo ./cisco-torch.pl -t -s 192.168.1.0/24
例3: ホストリストファイル `targets.txt` を読み込み、WebサーバーとSNMPのスキャンを実行し、結果を `scan_results.log` に保存
sudo ./cisco-torch.pl -c -u -F targets.txt -l scan_results.log
例4: 単一IPアドレスに対してTelnetの辞書攻撃を実行(辞書ファイル `passwords.txt` を使用)
sudo ./cisco-torch.pl -t -b -w passwords.txt 192.168.1.1
(`-b` オプションを使用すると、`-t` `-s` `-u` などで指定されたサービスに対して辞書攻撃を試みます)
例5: SNMPスキャンで特定のコミュニティ名 (`public`) を試す
Cisco Torch自体に直接コミュニティ名を指定するオプションが見当たらない場合が多いですが、設定ファイル (`torch.conf`) や、辞書ファイルに `public` を含めて `-b -u` オプションで試行するなどの方法が考えられます。デフォルトの辞書ファイル (`community.txt` など) に一般的なコミュニティ名が含まれていることがあります。
# passwords.txt に "public" を記載しておく
sudo ./cisco-torch.pl -u -b -w passwords.txt 192.168.1.1
出力結果の解釈 📊
Cisco Torchの出力は、実行したオプションによって異なりますが、一般的には以下のような情報が含まれます。
- ターゲットホストごとにスキャンが開始されたことの通知。
- 検出されたサービス: Telnet、SSH、HTTP、SNMPなどのサービスが見つかると、その旨が表示されます。
- フィンガープリント情報:
- Telnet/SSH: バナー情報(OSバージョンやデバイスモデルが含まれることがある)。
- HTTP: サーバーヘッダー情報(例: `Server: cisco-IOS`)、認証要求(`WWW-Authenticate` ヘッダー)など。
- SNMP: システム記述 (System Description) など、取得できたMIB情報。OSバージョンやホスト名が含まれることが多い。
- 脆弱性スキャン結果: 特定の脆弱性(例: HTTP認証脆弱性)が検出された場合のメッセージ。
- 辞書攻撃結果: パスワードクラックに成功した場合、成功したユーザー名/パスワードやコミュニティ名が表示されることがあります。
- エラーメッセージ: データベースファイルが見つからない (`HUH db not found, it should be in fingerprint.db`)、接続タイムアウトなどのエラー。
出力例の一部:
[...]
8853: Checking 192.168.99.202 ...
HUH db not found, it should be in fingerprint.db Skipping Telnet fingerprint
* Cisco by SNMP found ***
*System Description: Cisco Internetwork Operating System Software IOS (tm) 3600 Software (C3640-IK9O3S-M), Version 12.3(22), RELEASE SOFTWARE (fc2) Technical Support: http://www.cisco.com/techsupport Copyright (c) 1986-2007 by cisco Systems, Inc. Compiled Wed 24-Jan-07 1
* Cisco-IOS Webserver found HTTP/1.1 401 Unauthorized Server: cisco-IOS Accept-Ranges: none WWW-Authenticate: Basic realm="level_15_access"
* 401 Unauthorized Cisco WWW-Authenticate webserver found HTTP/1.1 401 Unauthorized Server: cisco-IOS Accept-Ranges: none WWW-Authenticate: Basic realm="level_15_access"
[...]
---> - All scans done. Cisco Torch Mass Scanner -
---> Exiting.
上記の例では、SNMP経由でCiscoデバイスであることとOSバージョン、Webサーバーが動作していること(ただし認証が必要な状態)がわかります。Telnetのフィンガープリントはデータベースファイルが見つからないためスキップされています。
結果は通常、標準出力と、`-l` オプションで指定したログファイル(デフォルト `scan.log`)の両方に出力されます。
倫理的な考慮事項と法的側面 ⚖️
Cisco Torchのようなツールは、ペネトレーションテストやセキュリティ監査など、正当な目的と明確な許可がある場合にのみ使用してください。
- 目的の正当性: 自己所有のネットワーク、または書面による明確な許可を得たネットワークのセキュリティ評価のためにのみ使用すること。
- 影響の考慮: スキャン行為、特に辞書攻撃は、ターゲットデバイスやネットワークに負荷をかける可能性があります。また、アカウントロックアウトを引き起こしたり、セキュリティシステム(IDS/IPS)のアラートを大量に発生させたりする可能性があります。事前に影響を評価し、関係者と調整することが重要です。
- 悪用のリスク: このツールは攻撃者によって不正アクセスや情報収集のために悪用される可能性もあります。ツールの存在と機能を理解することは、防御策を講じる上でも役立ちます。
Cisco Torchは、ネットワーク管理者が自身の管理下にあるCiscoデバイスの設定(不要なサービスの無効化、強固なパスワードの使用、SNMPコミュニティ名の変更など)を確認し、セキュリティを強化するために利用されることを想定して開発された側面もありますが、その能力から悪用されるリスクも伴います。責任ある使用を心がけてください。
Cisco Torch の限界と代替ツール 🤔
前述の通り、Cisco Torchは有用なツールですが、いくつかの限界があります。
- 古さ: 開発が停滞している可能性があり、最新のCisco OSやプロトコル、脆弱性に対応していない場合があります。
- 限定的な脆弱性チェック: 網羅的な脆弱性スキャナではなく、チェックできる脆弱性の種類は限られています。
- 検出回避: 最新のIDS/IPSやファイアウォールは、Cisco Torchのようなツールのスキャン活動を検出し、ブロックする可能性があります。
- 依存関係: 特定のPerlモジュールに依存しており、環境によってはインストールが煩雑になることがあります。
- 誤検知/未検知: デバイスの設定やネットワーク環境によっては、フィンガープリントや脆弱性スキャンで誤った結果(False Positive / False Negative)を出す可能性があります。
代替となる最新のツール
現在では、より高機能で活発にメンテナンスされているネットワークスキャン・脆弱性評価ツールが多数存在します。特定のニーズに応じて、以下のツールの利用を検討する方が効果的な場合が多いでしょう。
- Nmap (Network Mapper): ポートスキャン、サービス検出、OSフィンガープリントのデファクトスタンダード。NSE (Nmap Scripting Engine) を用いることで、脆弱性スキャンや高度な情報収集も可能です。オープンソースで非常に柔軟性が高いです。
- OpenVAS (Greenbone Community Edition): 包括的なオープンソースの脆弱性スキャナ。広範な脆弱性データベース(NVTs)を持ち、定期的なスキャンとレポート生成に適しています。
- Nessus (Tenable): 商用の脆弱性スキャナとして非常に有名で、高い評価を受けています。広範なチェック項目と詳細なレポート機能を提供します。(個人利用や小規模利用向けの無料版もあります)
- Qualys VMDR: クラウドベースの脆弱性管理プラットフォーム。スキャン、検出、優先順位付け、対応(VMDR – Vulnerability Management, Detection, and Response)を統合的に提供します。
- Rapid7 InsightVM: NessusやQualysと同様の包括的な脆弱性管理ソリューション。リスクベースのアプローチと自動化機能が特徴です。
- Metasploit Framework: ペネトレーションテストツールとして有名ですが、多くの補助モジュール(auxiliary modules)にはスキャンや情報収集機能が含まれています。
- Cisco Vulnerability Management (旧 Kenna Security): Ciscoが提供する脆弱性管理ソリューション。特にCisco環境との連携に強みがあります。
これらのツールは、Cisco Torchよりも広範なデバイスや脆弱性に対応し、より詳細な分析と管理機能を提供します。特定の古いCiscoデバイスやサービスに焦点を当てたい場合を除き、多くの場合、これらの現代的なツールの方が推奨されます。
まとめ ✨
Cisco Torchは、かつてCiscoデバイスのネットワークスキャン、フィンガープリント、および特定のサービスに対する辞書攻撃を効率的に行うために開発されたPerlスクリプトツールです。複数のプロセスを並行して実行することで高速なスキャンを目指していました。
しかし、開発が活発でなく古いツールであるため、現代のネットワーク環境やセキュリティ対策に対しては限界があります。最新のOSや脆弱性に対応していない可能性、IDS/IPSによる検出、依存関係の問題などが考えられます。
利用する際は、必ず適切な許可を得た上で、倫理的な範囲内で使用する必要があります。無許可のスキャンは違法行為です。
現在では、Nmap, OpenVAS, Nessus, Qualys VMDR, Rapid7 InsightVMといった、より高機能でメンテナンスされている代替ツールが多く存在し、ほとんどのケースでこれらの利用が推奨されます。Cisco Torchの知識は、古いツールや特定の攻撃手法を理解する上で役立つかもしれませんが、実用的なネットワーク評価やペネトレーションテストにおいては、最新のツールを活用することが重要です。
セキュリティ対策は常に進化しています。ツールを使うだけでなく、その背景にある技術や脅威の動向を理解し続けることが、安全なネットワークを維持する鍵となります 🔑。
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