Vue.js 入門ガイド:モダンなフロントエンド開発への第一歩

Vue.js(ヴュー・ジェイエス、発音は /vjuː/ で “view” と同じ)は、ユーザーインターフェース(UI)を構築するためのプログレッシブなJavaScriptフレームワークです。GoogleでAngularJSの開発に携わっていたEvan You(エヴァン・ヨー)氏によって個人的なプロジェクトとして開発が開始され、2014年2月に最初のバージョンがリリースされました。

Vue.jsは、WebサイトやWebアプリケーションの見た目部分(フロントエンド)を効率的に開発するために設計されています。特に、シングルページアプリケーション(SPA)の構築に適しており、そのシンプルさ、柔軟性、パフォーマンスの高さから、世界中の開発者コミュニティで急速に人気を集めています。

Vue.js の歴史

Vue.jsの主なバージョンの歴史は以下の通りです。

  • 2014年2月: Vue.js 初版 (v0.8) リリース
  • 2015年10月: v1.0 “Evangelion” リリース
  • 2016年10月: v2.0 “Ghost in the Shell” リリース (仮想DOMを採用)
  • 2020年9月: v3.0 “One Piece” リリース (Composition APIなどを導入)
  • 2022年2月: Vue 3 がデフォルトバージョンに
  • 2023年12月31日: Vue 2 のサポート終了 (EOL – End Of Life)
  • 2024年9月: v3.5 “Tengen Toppa Gurren Lagann” リリース (パフォーマンス向上など)

作者のエヴァン・ヨー氏がマンガ好きであることから、メジャーバージョンには日本のマンガやアニメにちなんだコードネームが付けられています。

Vue.js の主な特徴

  • プログレッシブフレームワーク (Approachable & Versatile): Vueは、段階的に導入できるように設計されています。既存のプロジェクトに少しずつ適用することも、完全にVueだけで大規模なSPAを構築することも可能です。コアライブラリはView層に焦点を当てており、必要に応じてルーティング(Vue Router)や状態管理(Pinia)などの公式ライブラリを追加できます。
  • 学習コストの低さ (Approachable): 基本的なHTML、CSS、JavaScriptの知識があれば、比較的容易に学習を始めることができます。公式ドキュメントが非常に充実しており、日本語の情報も豊富です。構文もシンプルで直感的です。
  • 高いパフォーマンス (Performant): 仮想DOM(Virtual DOM)を採用しており、DOM操作を最適化することで高速なレンダリングを実現します。また、コンパイル時の最適化により、ランタイムのオーバーヘッドも削減されています。Vue 3ではさらにパフォーマンスが向上しました。
  • リアクティブシステム (Reactivity): Vueの核となる機能の一つです。JavaScriptのデータ(状態)が変更されると、それに応じて関連するDOMが自動的に更新されます。これにより、開発者はDOMを直接操作する手間から解放され、データ管理に集中できます。
  • コンポーネントベースアーキテクチャ (Component-Based): アプリケーションを再利用可能な独立したコンポーネント(部品)に分割して構築します。これにより、コードの見通しが良くなり、保守性や再利用性が向上します。
  • 豊富なツールとエコシステム: 開発を効率化するための公式CLI(create-vue / Vue CLI)、ブラウザ拡張機能(Vue DevTools)、ルーティングライブラリ(Vue Router)、状態管理ライブラリ(Pinia)などが提供されています。

Vue.jsをプロジェクトに導入するには、いくつかの方法があります。

CDN を使う方法

最も手軽な方法は、CDN(Content Delivery Network)を利用することです。HTMLファイルに<script>タグを追加するだけで、すぐにVue.jsを使い始めることができます。既存のHTMLページにVueの機能を少しだけ追加したい場合や、プロトタイピングに便利です。

<!DOCTYPE html>
<html>
<head>
  <title>My Vue App</title>
  <!-- Vue.js 本体を読み込む -->
  <script src="https://unpkg.com/vue@3"></script>
</head>
<body>
  <div id="app">
    {{ message }}
    <button @click="changeMessage">Change Message</button>
  </div>

  <script>
    const { createApp, ref } = Vue;

    createApp({
      setup() {
        const message = ref('Hello Vue from CDN!');

        function changeMessage() {
          message.value = 'Message Changed!';
        }

        return {
          message,
          changeMessage
        };
      }
    }).mount('#app');
  </script>
</body>
</html>

Node.js とビルドツール (Vite) を使う方法

より本格的な開発、特に単一ファイルコンポーネント(SFC: Single File Components)を利用するSPA開発では、Node.jsベースのビルドツールを使うのが一般的です。Vue 3からは、高速な開発サーバーとビルドツールである Vite (ヴィート) が推奨されています。

まず、Node.js (バージョン 18.3 以上推奨) がインストールされていることを確認してください。次に、ターミナルで以下のコマンドを実行します。

# npm を使う場合
npm create vue@latest

# yarn を使う場合
yarn create vue

# pnpm を使う場合
pnpm create vue@latest

# bun を使う場合
bun create vue@latest

このコマンドを実行すると、create-vue という公式ツールが起動し、プロジェクト名やTypeScriptの利用、Vue RouterやPiniaの導入などを対話形式で設定できます。設定が完了すると、プロジェクトディレクトリが作成されます。

# プロジェクトディレクトリに移動
cd <your-project-name>

# 依存関係をインストール
npm install # または yarn install や pnpm install, bun install

# 開発サーバーを起動
npm run dev # または yarn dev, pnpm dev, bun dev

開発サーバーが起動したら、表示されたURL(通常は http://localhost:5173 など)にブラウザでアクセスすると、作成されたVueアプリケーションが表示されます。

Vue.jsを理解する上で重要な、いくつかの基本的な概念を見ていきましょう。

Vue アプリケーションインスタンス

すべてのVueアプリケーションは、createApp関数で新しいアプリケーションインスタンスを作成することから始まります。

import { createApp } from 'vue';

// ルートコンポーネントをインポート (通常 App.vue)
import App from './App.vue';

// アプリケーションインスタンスを作成
const app = createApp(App);

// HTML要素にマウントする
app.mount('#app');

mount()メソッドは、アプリケーションインスタンスを特定のDOM要素(この例ではid="app"を持つ要素)に関連付け、その要素内でVueアプリケーションをレンダリングします。

テンプレート構文

Vueは、HTMLベースのテンプレート構文を使用し、レンダリングされたDOMを基盤となるJavaScriptの状態(データ)に宣言的にバインドします。

  • テキスト展開 (Text Interpolation): 二重中括弧 {{ }} (マスタッシュ構文) を使って、データプロパティの値をテキストとして表示します。
    <span>メッセージ: {{ msg }}</span>
  • 属性バインディング (Attribute Bindings): v-bindディレクティブ(省略形は:)を使って、HTML要素の属性に動的な値をバインドします。
    <!-- 完全な構文 -->
    <div v-bind:id="dynamicId"></div>
    <!-- 省略形 -->
    <div :id="dynamicId"></div>
    
    <!-- ブール値属性のバインディング -->
    <button :disabled="isButtonDisabled">ボタン</button>
  • JavaScript 式の使用: {{ }}v-bind の中では、単一のJavaScript式を使用できます。
    {{ number + 1 }}
    {{ ok ? 'YES' : 'NO' }}
    {{ message.split('').reverse().join('') }}
    <div :id="`list-${id}`"></div>
  • ディレクティブ (Directives): v- 接頭辞を持つ特別な属性で、DOMに特別なリアクティブな振る舞いを適用します。
    • v-if / v-else / v-else-if: 条件に基づいて要素をレンダリングします。
    • v-for: 配列やオブジェクトに基づいて要素のリストをレンダリングします。
    • v-on (省略形 @): DOMイベントを購読し、イベント発生時にJavaScriptコードを実行します。
    • v-model: フォームの<input><textarea><select>要素に双方向バインディングを作成します。
    • v-show: 条件に基づいて要素のCSS display プロパティを切り替えます。
    • v-bind (省略形 :): HTML属性をリアクティブに更新します。

リアクティビティーの基礎 (Reactivity Fundamentals)

Vue 3では、Composition APIという新しいAPIスタイルが導入され、リアクティブな状態を作成するための関数が提供されています。

  • ref(): プリミティブ値(文字列、数値、真偽値など)やオブジェクトをリアクティブにするために使います。ref.valueプロパティを持つオブジェクトを返します。スクリプト内では.valueでアクセスし、テンプレート内では自動的にアンラップされて直接アクセスできます。
    import { ref } from 'vue';
    
    const count = ref(0); // リアクティブな参照を作成
    
    console.log(count.value); // 0
    
    count.value++; // 値を変更
    console.log(count.value); // 1
    <template>
      <div>{{ count }}</div> <!-- テンプレート内では .value は不要 -->
    </template>
  • reactive(): 主にオブジェクト(プレーンなJavaScriptオブジェクトや配列)をリアクティブにするために使います。これはオブジェクト自身をリアクティブなプロキシに変換します。refとは異なり、.valueは不要で、通常のオブジェクトのようにプロパティにアクセスします。
    import { reactive } from 'vue';
    
    const state = reactive({
      count: 0,
      user: { name: 'Alice' }
    });
    
    console.log(state.count); // 0
    state.count++;
    console.log(state.user.name); // Alice
    state.user.name = 'Bob';

    注意: reactive()で作成したリアクティブオブジェクトを分割代入すると、リアクティビティが失われる可能性があります。分割代入する場合はtoRefs()toRef()を使用します。

算出プロパティ (Computed Properties)

テンプレート内で複雑なロジックを使う代わりに、算出プロパティを利用できます。算出プロパティは、依存するリアクティブな値に基づいてキャッシュされ、依存関係が変更された場合にのみ再評価されます。パフォーマンスの最適化に役立ちます。

import { ref, computed } from 'vue';

const firstName = ref('John');
const lastName = ref('Doe');

// 算出プロパティを定義
const fullName = computed(() => {
  console.log('Calculating full name...'); // 依存関係が変わらない限り実行されない
  return firstName.value + ' ' + lastName.value;
});

// fullName.value にアクセスすると計算結果が得られる
console.log(fullName.value); // "John Doe"

lastName.value = 'Smith'; // 依存関係を変更
console.log(fullName.value); // "John Smith" (再計算される)
<template>
  <p>Full Name: {{ fullName }}</p>
</template>

ウォッチャー (Watchers)

特定のリアクティブなデータソースが変更されたときに、副作用(非同期操作やDOM操作など)を実行したい場合があります。そのような場合にウォッチャーを使用します。

import { ref, watch } from 'vue';

const question = ref('');
const answer = ref('質問には通常 ? が含まれます。');

// question の変更を監視
watch(question, async (newQuestion, oldQuestion) => {
  if (newQuestion.includes('?')) {
    answer.value = '考え中...';
    try {
      const res = await fetch('https://yesno.wtf/api'); // 例: 外部API呼び出し
      answer.value = (await res.json()).answer;
    } catch (error) {
      answer.value = 'エラー!APIに到達できませんでした。 ' + error;
    }
  }
});
<template>
  <p>
    はい/いいえ で答える質問をしてください:
    <input v-model="question" />
  </p>
  <p>{{ answer }}</p>
</template>

クラスとスタイルのバインディング

v-bind:class(省略形 :class)と v-bind:style(省略形 :style)を使って、要素のクラスリストやインラインスタイルを動的に操作できます。オブジェクト構文や配列構文をサポートしています。

<!-- オブジェクト構文 (クラス) -->
<div :class="{ 'active': isActive, 'text-danger': hasError }"></div>

<!-- 配列構文 (クラス) -->
<div :class="[activeClass, errorClass]"></div>

<!-- オブジェクト構文 (スタイル) -->
<div :style="{ color: activeColor, fontSize: fontSize + 'px' }"></div>

<!-- 配列構文 (スタイル、複数のスタイルオブジェクトを結合) -->
<div :style="[baseStyles, overridingStyles]"></div>
// script setup 内の例
import { ref, reactive } from 'vue';

const isActive = ref(true);
const hasError = ref(false);

const activeClass = ref('active');
const errorClass = ref('text-danger');

const activeColor = ref('red');
const fontSize = ref(16);

const baseStyles = reactive({ color: 'blue', fontSize: '14px' });
const overridingStyles = reactive({ fontWeight: 'bold' });

条件付きレンダリング (Conditional Rendering)

  • v-if, v-else-if, v-else: 条件が真の場合にのみ要素またはコンポーネントをレンダリング(または破棄)します。切り替えコストが高いです。
    <div v-if="type === 'A'">A</div>
    <div v-else-if="type === 'B'">B</div>
    <div v-else-if="type === 'C'">C</div>
    <div v-else>Not A/B/C</div>
  • v-show: 条件に関わらず常にレンダリングされ、CSSのdisplayプロパティを切り替えることで表示/非表示を制御します。初期レンダリングコストは高いですが、切り替えコストは低いです。頻繁に切り替える要素に適しています。
    <h1 v-show="ok">Hello!</h1>

リストレンダリング (List Rendering)

v-forディレクティブを使用して、配列やオブジェクトのデータをリストとしてレンダリングします。

<!-- 配列の場合 -->
<ul>
  <li v-for="(item, index) in items" :key="item.id">
    {{ index }} - {{ item.message }}
  </li>
</ul>

<!-- オブジェクトの場合 -->
<ul>
  <li v-for="(value, key, index) in myObject" :key="key">
    {{ index }}. {{ key }}: {{ value }}
  </li>
</ul>

:key属性は、Vueが各ノードの同一性を追跡し、既存の要素を再利用および並べ替えるために必須です。通常、一意なIDをキーとして使用します。

イベントハンドリング (Event Handling)

v-onディレクティブ(省略形 @)を使用して、DOMイベントを購読し、イベント発生時にメソッドやインライン式を実行します。

<!-- メソッドハンドラー -->
<button @click="greet">Greet</button>

<!-- インラインハンドラー -->
<button @click="count++">Add 1</button>

<!-- イベント修飾子 (.prevent, .stop など) -->
<form @submit.prevent="onSubmit">...</form>

<!-- キー修飾子 (.enter, .tab など) -->
<input @keyup.enter="submit" />
// script setup 内の例
import { ref } from 'vue';

const count = ref(0);

function greet(event) {
  alert('Hello!');
  if (event) {
    console.log(event.target.tagName); // イベントオブジェクトにアクセス可能
  }
}

function onSubmit() {
  console.log('Form submitted');
}

function submit() {
  console.log('Submitted on Enter');
}

フォーム入力バインディング (Form Input Bindings)

v-modelディレクティブを使用すると、フォームの入力要素(<input>, <textarea>, <select>)とアプリケーションの状態との間に双方向データバインディングを簡単に作成できます。ユーザーの入力が自動的にデータに反映され、データの変更もフォーム要素に反映されます。

<!-- テキスト入力 -->
<input v-model="message" placeholder="edit me" />
<p>Message is: {{ message }}</p>

<!-- チェックボックス (単一) -->
<input type="checkbox" id="checkbox" v-model="checked" />
<label for="checkbox">{{ checked }}</label>

<!-- チェックボックス (複数、配列にバインド) -->
<input type="checkbox" id="jack" value="Jack" v-model="checkedNames">
<label for="jack">Jack</label>
<input type="checkbox" id="john" value="John" v-model="checkedNames">
<label for="john">John</label>
<p>Checked names: {{ checkedNames }}</p>

<!-- ラジオボタン -->
<input type="radio" id="one" value="One" v-model="picked">
<label for="one">One</label>
<input type="radio" id="two" value="Two" v-model="picked">
<label for="two">Two</label>
<p>Picked: {{ picked }}</p>

<!-- セレクトボックス -->
<select v-model="selected">
  <option disabled value="">Please select one</option>
  <option>A</option>
  <option>B</option>
</select>
<p>Selected: {{ selected }}</p>
// script setup 内の例
import { ref } from 'vue';

const message = ref('');
const checked = ref(false);
const checkedNames = ref([]); // 複数のチェックボックス用
const picked = ref('');      // ラジオボタン用
const selected = ref('');    // セレクトボックス用

v-modelには、.lazy, .number, .trimといった修飾子があり、入力の挙動を調整できます。

コンポーネントの基礎 (Component Basics)

コンポーネントはVueの最も強力な機能の一つです。UIを独立した再利用可能な部品に分割することができます。単一ファイルコンポーネント(SFC)では、通常.vueという拡張子のファイルにコンポーネントのテンプレート(HTML)、スクリプト(JavaScript)、スタイル(CSS)をまとめて記述します。

プロパティ (Props): 親コンポーネントから子コンポーネントへデータを渡すためのカスタム属性です。子はdefinePropsを使って受け取るプロパティを宣言します。

イベント (Events): 子コンポーネントから親コンポーネントへ通信(通知)するための仕組みです。子はdefineEmitsを使って発行するイベントを宣言し、emit関数でイベントを発行します。親はv-on(または@)を使って子のイベントを購読します。

以下は簡単な例です。

ChildComponent.vue (子コンポーネント):

<script setup>
import { defineProps, defineEmits } from 'vue';

// 親から受け取るプロパティを宣言
const props = defineProps({
  message: String,
  count: Number
});

// 親に発行するイベントを宣言
const emit = defineEmits(['increment-count']);

function handleClick() {
  // 'increment-count' イベントを発行し、新しいカウント値を渡す
  emit('increment-count', props.count + 1);
}
</script>

<template>
  <div class="box">
    <h4>Child Component</h4>
    <p>Message from parent: {{ message }}</p>
    <p>Current count: {{ count }}</p>
    <button class="button is-primary" @click="handleClick">
      Increment Count (from child)
    </button>
  </div>
</template>

<style scoped>
.box {
  border: 1px solid #ccc;
  padding: 1rem;
  margin-top: 1rem;
}
</style>

ParentComponent.vue (親コンポーネント):

<script setup>
import { ref } from 'vue';
import ChildComponent from './ChildComponent.vue';

const parentMessage = ref('Hello from Parent!');
const parentCount = ref(0);

// 子コンポーネントが発行した 'increment-count' イベントをハンドルするメソッド
function handleIncrement(newCount) {
  parentCount.value = newCount;
}
</script>

<template>
  <div>
    <h3 class="title is-3">Parent Component</h3>
    <p>Parent count: {{ parentCount }}</p>

    <!-- 子コンポーネントを使用 -->
    <ChildComponent
      :message="parentMessage"   <!-- プロパティ(message)を子に渡す -->
      :count="parentCount"       <!-- プロパティ(count)を子に渡す -->
      @increment-count="handleIncrement" <!-- 子のイベント(increment-count)を購読 -->
    />
  </div>
</template>

このようにコンポーネントを組み合わせることで、複雑なUIも管理しやすく構築できます。

Vue 3で最も注目すべき新機能の一つがComposition APIです。これは、従来のOptions API(data, methods, computedなどのオプションでコンポーネントを構成するスタイル)に代わる、新しいコンポーネントのロジック構成方法を提供します。

Composition APIの主な利点:

  • より良いロジックの再利用: 関連するロジック(状態、メソッド、ウォッチャーなど)を「コンポーザブル関数」として抽出し、複数のコンポーネント間で簡単に再利用できます。これは、従来のミックスインが抱えていた問題を解決します。 (VueUseのようなライブラリは、この力を示しています。)
  • より柔軟なコード構成: Options APIでは、関連するロジックが複数のオプションに分散しがちでしたが、Composition APIでは関心事(機能)ごとにコードをまとめることができます。これにより、特に大規模で複雑なコンポーネントの可読性と保守性が向上します。
  • より良い型推論: Composition APIは主にプレーンな変数と関数で構成されるため、TypeScriptとの相性が非常に良いです。型推論が自然に機能し、型安全なコードを書きやすくなります。Vue 3自体もTypeScriptで書かれています。
  • より小さい本番バンドルと少ないオーバーヘッド: Composition APIのコードは、Options APIに比べて、より効率的にミニファイ(圧縮)できます。また、<script setup>構文を使用すると、コンパイル時により最適化され、ランタイムのパフォーマンスも向上します。

Composition API は、setup()オプション内、またはより簡潔な<script setup>構文内で使用されます。前述のリアクティビティの基礎(ref, reactive)、算出プロパティ(computed)、ウォッチャー(watch)などはすべてComposition APIの一部です。

<script setup>
// リアクティビティ関数やライフサイクルフックなどをインポート
import { ref, onMounted } from 'vue';

// リアクティブな状態
const count = ref(0);

// 状態を変更する関数
function increment() {
  count.value++;
}

// ライフサイクルフック
onMounted(() => {
  console.log(`The initial count is ${count.value}.`);
});
// setup スコープ内で宣言された変数や関数は、テンプレートで直接利用可能
</script>

<template>
  <button @click="increment">Count is: {{ count }}</button>
</template>

Vue 3ではComposition APIが推奨されていますが、従来のOptions APIも引き続き完全にサポートされており、両方を混在させることも可能です。プロジェクトの規模やチームの好みに応じて選択できます。

Vue.jsのコアライブラリはUIレンダリングに焦点を当てていますが、完全なアプリケーションを構築するには、多くの場合、追加のツールが必要です。Vueには、公式にサポートされている強力なライブラリやツール群(エコシステム)があります。

Vue Router

Vue Router は、Vue.jsの公式ルーティングライブラリです。シングルページアプリケーション(SPA)において、URLとコンポーネントのマッピングを管理し、ページ遷移を実現します。

  • URLに応じたコンポーネントの表示切り替え
  • ネストされたルート/ビュー
  • 動的なルートマッチング(例: /users/:id
  • ルートパラメータ、クエリ、ハッシュの処理
  • コンポーネント内ナビゲーションガード(遷移前後の処理)
  • トランジションエフェクト
  • 遅延読み込み(Lazy Loading)によるパフォーマンス最適化

Vue Routerを使うことで、ユーザー体験を損なうことなく、複数の「ページ」を持つ複雑なアプリケーションを構築できます。

Pinia (状態管理)

Pinia (ピニア) は、Vue.jsの公式な状態管理ライブラリです(Vue 3以降、従来のVuexに代わる推奨ライブラリとなりました)。アプリケーション全体で共有される状態(データ)を一元管理するための仕組みを提供します。

コンポーネントの階層が深くなると、プロパティ(Props)やイベント(Events)だけでの状態の受け渡し(バケツリレー)は複雑になりがちです。Piniaは「ストア」というグローバルな状態コンテナを提供し、どのコンポーネントからでも状態にアクセスしたり、状態を変更(ミューテーション)したりできるようにします。

  • 中央集権的な状態管理
  • 状態(State)、ゲッター(Getters、算出プロパティのようなもの)、アクション(Actions、状態を変更するメソッド)で構成されるストア
  • TypeScriptの完全サポートと優れた型推論
  • モジュール性が高く、ストアを分割して管理しやすい
  • Vue DevToolsとの連携によるデバッグの容易さ
  • サーバーサイドレンダリング(SSR)のサポート

Piniaは非常に軽量で、Composition APIとも自然に連携し、直感的で使いやすいAPIを提供します。

// ストアの定義例 (stores/counter.js)
import { defineStore } from 'pinia';
import { ref, computed } from 'vue';

export const useCounterStore = defineStore('counter', () => {
  // State
  const count = ref(0);

  // Getters
  const doubleCount = computed(() => count.value * 2);

  // Actions
  function increment() {
    count.value++;
  }
  function decrement() {
    count.value--;
  }

  return { count, doubleCount, increment, decrement };
});
<!-- コンポーネントでの使用例 -->
<script setup>
import { useCounterStore } from '@/stores/counter';

const counter = useCounterStore();
</script>

<template>
  <div>
    <p>Count: {{ counter.count }}</p>
    <p>Double Count: {{ counter.doubleCount }}</p>
    <button @click="counter.increment">Increment</button>
    <button @click="counter.decrement">Decrement</button>
  </div>
</template>

Vue DevTools

Vue DevTools は、Vueアプリケーションをデバッグおよび検査するためのブラウザ拡張機能(Chrome, Firefox, Edgeで利用可能)です。開発時には必須とも言えるツールです。

  • コンポーネント階層の検査
  • コンポーネントの状態(データ、プロパティ、算出プロパティ)の確認と編集
  • Vue Routerのルート情報の確認
  • Piniaストアの状態の確認とタイムトラベルデバッグ(状態変更履歴の追跡)
  • カスタムイベントの追跡
  • パフォーマンスのプロファイリング

Vue DevToolsを使うことで、アプリケーション内部で何が起こっているかを視覚的に理解し、問題の特定と解決を迅速に行うことができます。

その他のツールとライブラリ

  • Vite: 高速なフロントエンドビルドツールであり、開発サーバー。Vue 3プロジェクトの標準的なビルドセットアップ。
  • Nuxt: Vue.jsをベースとした高レベルフレームワーク。サーバーサイドレンダリング(SSR)、静的サイト生成(SSG)、ファイルベースルーティングなど、より多くの機能を提供。
  • VueUse: Composition APIを活用した便利なコンポーザブル関数(再利用可能なロジック)のコレクション。
  • UI フレームワーク: Vuetify, Quasar Framework, Element Plus, Naive UI など、Vueと組み合わせて使える豊富なUIコンポーネントライブラリが存在します。

Vue.jsは、モダンなWebフロントエンド開発において非常に魅力的な選択肢です。

  • 学習しやすさ: シンプルなAPIと優れたドキュメントにより、初心者でも比較的短期間で習得できます。
  • 柔軟性と拡張性: コアは軽量でありながら、必要に応じて公式ライブラリやサードパーティ製ツールを組み合わせて機能を拡張できます。小規模から大規模なアプリケーションまで対応可能です。
  • 高いパフォーマンス: 仮想DOMとコンパイル時の最適化により、高速なアプリケーションを実現します。
  • 開発体験の良さ: Composition API、単一ファイルコンポーネント、高速なビルドツール(Vite)、便利な開発ツール(Vue DevTools)などが、快適な開発体験を提供します。
  • 活発なコミュニティ: 世界中に多くの開発者がおり、情報交換やサポートが活発に行われています。

もちろん、ReactやAngularといった他のフレームワークにもそれぞれ優れた点がありますが、Vue.jsは特に学習の容易さ、柔軟性、開発体験のバランスに優れていると言えるでしょう。

この入門ガイドが、あなたのVue.js学習の第一歩となれば幸いです。ぜひ公式ドキュメントを読み進め、実際にコードを書いて、Vue.jsの世界を探求してみてください!

Vue.js 公式サイトへ