Cloudflare 大規模障害発生:R2と関連サービスへの影響 🚨
クラウドサービスは現代のITインフラに不可欠な存在ですが、時に予期せぬ障害が発生し、広範囲に影響を及ぼすことがあります。2023年11月初旬、大手CDNおよびセキュリティサービスプロバイダーであるCloudflareで、認証情報の設定ミスに起因する大規模な障害が発生しました。この障害は、オブジェクトストレージサービスであるCloudflare R2を含む、多くのコアサービスに影響を与え、世界中のユーザーに混乱をもたらしました。
本記事では、このCloudflareの大規模障害に焦点を当て、その原因、影響範囲、Cloudflareの対応、そして私たちがこのインシデントから何を学び、将来の同様の障害にどう備えるべきかについて、2025年3月29日時点での情報をもとに詳しく掘り下げていきます。
📝 注記: 本記事で主に解説するのは、2023年11月2日から4日にかけて発生したCloudflare Control PlaneおよびAnalyticsの障害です。この障害は、内部で使用される認証情報のローテーションプロセスにおける設定ミスが原因でした。
障害のタイムラインと影響 ⏳
障害は、協定世界時 (UTC) の2023年11月2日未明に始まり、段階的に影響が拡大しました。具体的には以下のようなタイムラインで事象が進行しました [1][2]。
- 11月2日 00:00 UTC頃: 障害の兆候が現れ始める。一部の内部サービスで問題が発生。
- 11月2日 06:55 UTC: データセンター間のトラフィック管理を担当するサービス「Crossbow」で問題が顕在化。内部資格情報の有効期限切れが原因 [1]。
- 11月2日 07:00 UTC以降: 影響が拡大し、Cloudflare Dashboard (管理画面) へのログイン不可、API (Application Programming Interface) のエラー、各種設定変更の失敗などが発生。
- 影響を受けた主なサービス:
- Cloudflare R2: オブジェクトストレージへのアクセスや管理操作に影響。
- Cloudflare Workers: サーバーレスコンピューティング環境。KV (Key-Valueストア) など関連機能にも影響。
- Cloudflare Pages: 静的サイトホスティング。ビルドやデプロイに失敗。
- Cloudflare Stream: 動画配信サービス。
- API Gateway: API管理機能。
- Zero Trust サービス: 一部のセキュリティ機能。
- Logpush, Logpull: ログ転送機能。
- Analytics: トラフィック分析データの表示遅延・欠損。
- その他、管理画面やAPIに依存する多数の機能。
- 11月2日 深夜~11月4日: Cloudflareによる懸命な復旧作業が続けられる。段階的にサービスが回復に向かうが、完全復旧には時間を要した。
- 11月4日 09:00 UTC頃: 主要なサービスがおおむね復旧。ただし、Analyticsデータなど一部機能の回復にはさらに時間を要した [1]。
この障害の特徴は、Cloudflareのデータ配信ネットワーク (CDN) 自体のコア機能は概ね正常に稼働していたものの、Control Plane (管理プレーン) と呼ばれる設定管理やAPI、分析機能が広範囲にわたって利用できなくなった点です。これにより、多くのユーザーがサービスの設定変更や新規デプロイ、状況確認を行えなくなり、ビジネスオペレーションに支障をきたしました。
障害の原因:内部認証情報のローテーションミス 🔑
Cloudflareが公開したインシデントレポート (Post Mortem) [1][2] によると、障害の根本原因は、内部システムで使用されるサービス間認証に使われる資格情報(クレデンシャル)の管理プロセスにおける設定ミスでした。
具体的には、以下の点が指摘されています。
- 認証基盤の移行と自動化の遅れ: Cloudflareは、より堅牢な認証基盤 (PKIベース) への移行を進めていましたが、一部の重要な内部サービス (特にCrossbow) が古い資格情報管理システムに依存したままでした。
- 手動での資格情報ローテーション: 古いシステムでは、資格情報のローテーション (定期的な更新) が手動プロセスに依存しており、ヒューマンエラーが発生しやすい状況でした。
- 重要な資格情報の失効: 障害の直接的な引き金となったのは、データセンター間トラフィックを管理する「Crossbow」サービスが使用していた内部資格情報が、ローテーションプロセス中のミスにより失効してしまったことです。Crossbowは他の多くのコアサービスから利用されていたため、このサービスの停止が連鎖的に広範囲な影響を引き起こしました。
- バックアップキー管理の問題: さらに問題を複雑にしたのは、バックアップ用の秘密鍵を管理していたVaultクラスター自体にもアクセスできなくなる問題が発生したことです。これは、Vaultクラスターのアンシール (起動時に秘密鍵を復号して利用可能にするプロセス) に必要なキーの一部が、障害の影響を受けた他のシステムに依存していたためです。これにより、復旧作業が大幅に遅延しました [1]。
Cloudflareの対応とコミュニケーション 📢
障害発生後、Cloudflareは以下の対応を行いました。
- 迅速なインシデント対応チームの招集: 障害検知後、直ちに専門チームが対応を開始しました。
- 原因調査と特定: 影響範囲が広いため原因特定は難航しましたが、ログ分析などを通じてCrossbowサービスと認証情報の問題にたどり着きました。
- 復旧作業の実施: 失効した認証情報の再発行・再配布、Vaultクラスターの復旧など、困難な状況下で復旧作業が進められました。依存関係の問題から、段階的な復旧となりました。
- ステータスページでの情報公開: Cloudflare Status (https://www.cloudflarestatus.com/) を通じて、障害の状況と復旧見込みについて継続的に情報発信を行いました。
- 詳細なインシデントレポートの公開: 障害収束後、原因、タイムライン、影響、そして具体的な再発防止策をまとめた詳細なPost Mortemレポートをブログで公開しました [1]。この透明性の高い情報公開は、多くのユーザーや業界関係者から評価されています。
インシデントから学ぶ教訓と再発防止策 ✅
この大規模障害は、Cloudflare自身にとっても、クラウドサービスを利用する私たちユーザーにとっても、多くの重要な教訓を与えてくれました。Cloudflareは、インシデントレポートの中で具体的な再発防止策を複数挙げています [1][2]。
Cloudflareが講じる再発防止策
- 認証情報管理の完全自動化: 手動プロセスが残っていた古い認証システムの廃止を加速し、PKIベースの自動化された認証基盤への完全移行を目指します。これにより、ヒューマンエラーのリスクを排除します。
- 依存関係の排除と回復力の強化: 重要な基盤サービス (Vaultなど) が、他のサービス障害の影響を受けないように、依存関係を見直し、自己完結性を高めます。特に、起動や回復に必要な情報やプロセスが外部に依存しないように設計を変更します。
- テストと検証プロセスの強化: 認証情報のローテーションや、障害発生時のフェイルオーバーシナリオを含む、より網羅的なテストを自動化し、定期的に実施します。カオスエンジニアリングのような手法も活用し、予期せぬ障害への耐性を高めます。
- 監視とアラート体制の強化: 認証情報の有効期限や、重要な内部サービスの健全性をより厳密に監視し、問題発生を早期に検知できるアラートシステムを強化します。
- インシデント対応プロセスの改善: 今回の経験を踏まえ、インシデント発生時のコミュニケーション、原因特定、復旧作業のプロセスをさらに洗練させます。
ユーザー側で考慮すべき対策と備え 🤔
単一のクラウドプロバイダーに完全に依存することのリスクが改めて浮き彫りになりました。ユーザー側としても、以下のような対策を検討することが重要です。
- マルチクラウド/ハイブリッドクラウド戦略: 可能であれば、重要なシステムやデータを複数のクラウドプロバイダーやオンプレミス環境に分散させることで、単一障害点のリスクを低減します。例えば、R2の代替としてAWS S3やGoogle Cloud Storageを併用するなど。
- バックアップとリカバリー計画: クラウドストレージに保存している重要なデータは、定期的に別の場所(他のクラウド、オンプレミス、物理メディアなど)にバックアップを取る習慣をつけましょう。障害発生時にデータを復旧できる計画を立てておくことが重要です。
- サービスレベルアグリーメント (SLA) の確認: 利用しているクラウドサービスのSLAを確認し、保証される可用性レベルと、障害発生時の補償内容を理解しておきましょう。ただし、SLAは金銭的な補償が主であり、ビジネスの継続性を保証するものではありません。
- 依存関係の把握とリスク評価: 自社システムが利用している外部サービス (Cloudflareを含む) をリストアップし、それぞれのサービスが停止した場合の影響範囲とビジネスリスクを評価しておきましょう。
- 障害情報の迅速な収集体制: 利用しているサービスのステータスページや公式ブログ、SNSアカウントなどを把握し、障害発生時に迅速に情報を収集できる体制を整えておくことが望ましいです。
まとめ:クラウド時代の信頼性と回復力 ☁️
2023年11月に発生したCloudflareの大規模障害は、内部の認証情報管理という、一見地味ながらも極めて重要なプロセスにおける小さなミスが、いかに広範囲で深刻な影響を及ぼしうるかを明確に示しました。Cloudflareは透明性の高い情報公開と具体的な再発防止策を示しましたが、この教訓はクラウドサービス事業者だけでなく、私たちユーザーにとっても重要です。
クラウドサービスは非常に便利で強力なツールですが、100%の安定稼働が保証されているわけではありません。サービス提供者側の継続的な改善努力に期待するとともに、ユーザー側もリスクを理解し、適切な備え(マルチクラウド、バックアップ、障害対応計画など)を行うことで、システムの回復力 (Resilience) を高めていく必要があります。
今後もクラウド技術は進化し続けますが、その基盤となる信頼性と安定性の確保は永遠の課題です。今回のインシデントを他山の石とし、より堅牢で信頼性の高いシステム構築を目指していきましょう。💪
参考情報
- [1] Post Mortem on Cloudflare Control Plane and Analytics Outage – The Cloudflare Blog (Cloudflare公式ブログ)
- [2] [速報]Cloudflareで大規模障害発生、原因はデータセンターの電源喪失。復旧済み。CDN機能は影響なし - Publickey (Publickey記事 – 当初の情報と、後の訂正情報を含む)
- [3] Cloudflare Status (Cloudflare サービス稼働状況)
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