Step 3: ポインタの理解 – 二重ポインタの使い方
ポインタのポインタ? 二重ポインタをマスターして、C言語の表現力をさらに広げよう!
このステップの目標:
- 二重ポインタの概念を理解する。
- 二重ポインタの宣言方法と使い方を習得する。
- 二重ポインタがどのような場面で役立つかを知る。
これまでの学習で、ポインタの基本的な使い方(アドレス演算子 &
、間接参照演算子 *
、配列との関係、関数での利用)を学びましたね。今回は、その応用編とも言える「二重ポインタ」について掘り下げていきましょう!
1. 二重ポインタとは?
「二重ポインタ」と聞くと、少し難しそうに感じるかもしれません。でも、基本的な考え方はシンプルです。
通常のポインタは、「変数のアドレス」を格納するための変数でした。例えば、int
型の変数 num
のアドレスを格納するポインタ ptr
は次のように宣言しましたね。
ここで、ポインタ変数 ptr
自体もメモリ上のどこかに存在しています。つまり、ポインタ変数 ptr
にもアドレスがあるということです。
二重ポインタは、この「ポインタ変数のアドレス」を格納するための変数なのです。言い換えると、「ポインタを指すポインタ」ということになります。図でイメージできないのが残念ですが、段階的に考えてみましょう。
- 普通の変数(例:
int num
)があり、値とアドレスを持っています。 - その変数のアドレスを指すポインタ(例:
int *ptr
)があります。このポインタも変数なので、値(指しているアドレス)と自身のアドレスを持っています。 - そのポインタ変数のアドレスを指すのが二重ポインタ(例:
int **ptr_ptr
)です。
ポイント: 通常のポインタが「住所録」だとすると、二重ポインタは「住所録の保管場所を示したメモ」のようなイメージです。住所録(ポインタ)そのものがどこにあるかを指し示します。
2. 二重ポインタの宣言と初期化
二重ポインタを宣言するには、アスタリスク *
を2つ付けます。
例えば、int
型のポインタ変数を指す二重ポインタ ptr_ptr
は次のように宣言します。
初期化は、ポインタ変数のアドレスを代入することで行います。
この例では、ptr_ptr
はポインタ変数 ptr
のアドレスを格納しています。ptr_ptr
の値は ptr
のアドレスであり、ptr_ptr
が指す先は ptr
というポインタ変数そのものです。
3. 二重ポインタを使った値へのアクセス
二重ポインタを使って、最終的に指し示されている変数の値にアクセスするには、間接参照演算子 *
を2回使います。
*ptr_ptr
: これは、ptr_ptr
が指しているポインタ変数そのもの(上記の例ではptr
)にアクセスします。つまり、*ptr_ptr
の値は、ptr
が格納しているアドレス(num
のアドレス)になります。**ptr_ptr
: これは、*ptr_ptr
(つまりptr
) が指している最終的な変数の値(上記の例ではnum
の値)にアクセスします。
このように、*
を一つ付けるごとに、ポインタの階層を一つ深くたどっていくイメージです。
4. 二重ポインタの主な使い道
二重ポインタは少し複雑に見えますが、特定の状況で非常に役立ちます。主な使い道を2つ紹介します。
4.1. 動的に確保されたポインタの配列 (文字列の配列など)
プログラム実行時にサイズが決まるような「ポインタの配列」を扱いたい場合、二重ポインタがよく使われます。特に、複数の文字列(文字列は char *
型のポインタで扱われることが多い)をまとめて管理する際に便利です。
例えば、複数のユーザー名を格納する配列を考えてみましょう。各ユーザー名は文字列なので char *
型です。そして、それらの char *
型ポインタを格納するための配列が必要になります。この「char *
型ポインタの配列」の先頭アドレスを指すのが、char **
型の二重ポインタになります。
この例では、まず malloc
を使って「char *
型のポインタを格納するための領域」を確保しています。malloc
は確保したメモリの先頭アドレス(void *
型)を返すので、それを char **
型にキャストして usernames
に代入します。
usernames[i]
は i
番目の char *
ポインタにアクセスし、printf
の %s
はそのポインタが指す文字列を表示します。
注意: この例では文字列リテラル("Alice"
など)のアドレスを直接代入しています。文字列リテラルは通常、読み取り専用のメモリ領域に配置されるため、free
する必要はありません。もし malloc
などで動的に各文字列のメモリを確保した場合は、それらのメモリも個別に free
する必要があります。メモリ管理については後のステップで詳しく学びます。
コマンドライン引数 argv
も、実は char **
型(またはそれに類する型)として扱われています。argv
は文字列 (char *
) の配列の先頭を指すポインタです。
4.2. 関数でポインタ変数の値(アドレス)を変更する
通常の関数呼び出しでは、引数に渡された変数のコピーが関数内で使われます(値渡し)。ポインタを引数に渡した場合(参照渡し)、関数内でそのポインタが指す先の値を変更することはできます。
しかし、関数内でポインタ変数自体が指すアドレスを変更したい場合はどうでしょうか? 例えば、関数内で新しくメモリを確保し、そのアドレスを呼び出し元のポインタ変数に設定したい場合などです。
値渡しでは、関数に渡されるのはポインタ変数のコピーなので、関数内でそのコピー(仮引数)が指すアドレスを変更しても、呼び出し元のポインタ変数(実引数)には影響しません。
このような場合に、二重ポインタを使います。関数にポインタ変数のアドレス(つまり、ポインタへのポインタ)を渡すことで、関数内で呼び出し元のポインタ変数が指すアドレスを変更できるようになります。
この正しい例では、allocate_memory_correct
関数は int **pp
型の引数を取ります。main
関数から呼び出す際には、ポインタ変数 ptr
のアドレス &ptr
を渡します。
関数内では、*pp
が main
関数の ptr
変数そのものを指すことになります。そのため、*pp = ...
という代入は、main
関数の ptr
変数の値を直接変更することになり、malloc
で確保した新しいメモリのアドレスが ptr
に設定されます。
5. 注意点
- NULLポインタチェック: 二重ポインタを使う際は、
ptr_ptr
自体がNULL
でないか、そして*ptr_ptr
(それが指すポインタ)がNULL
でないか、状況に応じて両方のチェックが必要になることがあります。 - メモリ解放: 動的にメモリを確保した場合(特にポインタの配列など)、確保した順番と逆の順番で解放するのが基本です。例えば、文字列の配列を動的に確保した場合、まず各文字列のメモリを解放し、次にポインタ配列自体のメモリを解放します。メモリ管理は慎重に行いましょう。
- 複雑さ: ポインタの階層が増えると、コードが複雑になり、バグを生みやすくなります。本当に二重ポインタが必要な場面かよく考え、使う場合は分かりやすい変数名をつけたり、コメントを適切に残したりするなどの工夫が大切です。
6. まとめ
今回は、ポインタの応用である「二重ポインタ」について学びました。
- 二重ポインタは「ポインタ変数のアドレス」を格納する変数(ポインタへのポインタ)。
データ型 **変数名;
のように宣言し、ポインタ変数のアドレス&ポインタ変数
で初期化する。- 間接参照演算子
*
を2回使う(**ptr_ptr
)ことで、最終的に指されている値にアクセスできる。 - 主な使い道は、動的に確保されたポインタの配列(文字列配列など)の管理や、関数内でポインタ変数が指すアドレス自体を変更したい場合。
- NULLチェックやメモリ管理には十分注意が必要。
二重ポインタは、C言語のメモリ操作の柔軟性を高める強力なツールですが、同時に複雑さも増します。今回の内容をしっかり理解し、サンプルコードを実際に動かしてみることで、より深く理解できるはずです。焦らず、一歩ずつ進んでいきましょう!
これで Step 3「ポインタの理解」は完了です! ポインタはC言語の肝とも言える部分なので、しっかり復習しておきましょう。次は Step 4「構造体・共用体・列挙体」に進み、より複雑なデータ構造を扱えるようになりましょう!
次のステップに進む前に:
- これまでのポインタに関する内容(アドレス演算子、間接参照、配列とポインタ、関数とポインタ、文字列とポインタ)をもう一度見直してみましょう。
- サンプルコードを自分で打ち込み、動作を確認してみましょう。値を変えたり、表示する内容を追加したりして実験するのも良い練習になります。
- もし理解が曖昧な部分があれば、前の記事に戻って復習しましょう。