はじめに
現代社会において、IT(情報技術)はビジネスや日常生活のあらゆる場面に浸透しています。それに伴い、様々なIT用語を耳にする機会が増えました。しかし、「クラウドって結局何?」「APIってどういう意味?」「DXってよく聞くけど、具体的に何を指すの?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ビジネスシーンや開発現場で頻繁に使われる基本的なIT用語をピックアップし、できるだけ分かりやすく解説します。ITに詳しくない方でも理解できるよう、専門用語を避け、具体例を交えながら説明を進めていきます。
用語を正しく理解することは、同僚や取引先とのコミュニケーションを円滑にし、新しい技術トレンドを把握する上で非常に重要です。この記事が、皆さんのIT知識の向上の一助となれば幸いです。
第1章:インフラ関連の基本用語
まずは、インターネットサービスや社内システムを支える基盤となる「インフラ」に関連する基本的な用語を見ていきましょう。
クラウドコンピューティング (Cloud Computing)
インターネットを経由して、サーバー、ストレージ、データベース、ソフトウェアといったコンピューターリソースを利用する形態のことです。「クラウド」とは、この場合のインターネット(雲のように実体が見えないネットワーク)を比喩的に表しています。
従来は、企業や個人が自前で物理的なサーバーやソフトウェアを用意・管理する必要がありましたが、クラウドコンピューティングを利用すれば、必要な時に必要な分だけリソースを借りて使うことができます。これにより、初期投資の削減、運用管理の負担軽減、柔軟な拡張性といったメリットが得られます。
代表的なクラウドサービス提供事業者には、Amazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP) などがあります。
SaaS (Software as a Service)
読み方は「サース」。クラウド上で提供されるソフトウェアのことです。利用者はソフトウェアを自分のコンピューターにインストールする必要がなく、インターネットブラウザなどを通じて利用できます。
例:GmailやOutlookといったWebメールサービス、Salesforceのような顧客管理システム、Microsoft 365やGoogle Workspaceなどのオフィススイート。
利用者はソフトウェアの購入や管理、アップデート作業から解放され、月額料金などで利用できることが多いです。
クラウドPaaS (Platform as a Service)
読み方は「パース」。アプリケーションを開発・実行するための基盤(プラットフォーム)をクラウド上で提供するサービスです。OS、プログラミング言語の実行環境、データベースなどが含まれます。
開発者は、サーバーやOSの管理を気にすることなく、アプリケーションの開発に集中できます。
例:Heroku, Google App Engine, AWS Elastic Beanstalk。
クラウド開発IaaS (Infrastructure as a Service)
読み方は「イアース」または「アイアース」。サーバー、ストレージ、ネットワークといったITインフラそのものをクラウド上で提供するサービスです。
利用者は、OSの選択からミドルウェアの導入、ネットワーク構成まで、自由度の高いインフラ構築が可能です。ただし、OSやミドルウェアの管理責任は利用者が負います。
例:Amazon EC2 (AWS), Azure Virtual Machines, Google Compute Engine (GCP)。
SaaS、PaaS、IaaS は、提供されるサービスの範囲が異なります。一般的に、SaaS < PaaS < IaaS の順に利用者の管理範囲が広がり、自由度が高くなります。
クラウドインフラサーバー (Server)
ネットワークを通じて、他のコンピューター(クライアント)からの要求に応え、データや機能を提供するコンピューターのことです。「サービスを提供する側」という意味合いがあります。
用途に応じて様々な種類のサーバーがあります。
- Webサーバー: Webサイトのファイル(HTML、画像など)を保管し、ブラウザからの要求に応じて送信する。
- メールサーバー: 電子メールの送受信を管理する。
- データベースサーバー: データベースを管理し、データの検索や更新要求に応える。
- ファイルサーバー: 複数のユーザーがファイルを共有・管理するためのサーバー。
物理的な機械を指すこともあれば、ソフトウェアとしての役割を指すこともあります。クラウドコンピューティングでは、物理的なサーバーの実体を意識せずに利用できる場合が多いです。
IPアドレス (Internet Protocol Address)
インターネットやLANなどのネットワークに接続された機器(コンピューター、スマートフォン、サーバーなど)に割り当てられる識別番号です。インターネット上の住所のようなもので、通信相手を特定するために使われます。
通常、「192.168.1.1」のような形式(IPv4)や、「2001:db8::1」のような形式(IPv6)で表されます。IPv4アドレスの枯渇問題に対応するため、より多くのアドレスを割り当て可能なIPv6への移行が進んでいます。
ドメイン (Domain) / ドメイン名 (Domain Name)
IPアドレスは数字の羅列で覚えにくいため、人間が覚えやすいように付けられたインターネット上の住所表記です。例えば、「google.com」や「example.co.jp」などがドメイン名です。
WebサイトのURLやメールアドレスの一部として使われます。
DNS (Domain Name System)
ドメイン名とIPアドレスを相互に変換する(名前解決する)仕組みです。インターネット上の電話帳のような役割を果たします。
私たちがブラウザに「google.com」と入力すると、DNSサーバーが「google.com」に対応するIPアドレスを調べ、そのIPアドレスを持つサーバーに接続しにいきます。この仕組みのおかげで、私たちは覚えにくいIPアドレスを意識することなくWebサイトにアクセスできます。
VPN (Virtual Private Network)
インターネットのような公衆回線網の中に、仮想的な専用線(プライベートなネットワーク)を構築する技術です。通信データを暗号化することで、安全な通信経路を確保します。
主に以下のような目的で利用されます。
- リモートアクセス: 社外から社内ネットワークへ安全に接続する。テレワークでよく利用されます。
- 拠点間接続: 離れた場所にあるオフィス間を安全なネットワークで結ぶ。
- セキュリティ向上: 公衆Wi-Fiなど、セキュリティに不安があるネットワークを利用する際に通信を保護する。
ファイアウォール (Firewall)
ネットワークセキュリティ対策の一つで、内部ネットワーク(社内LANなど)と外部ネットワーク(インターネットなど)の間で、不正なアクセスや攻撃を防ぐための「防火壁」の役割を果たします。
あらかじめ設定されたルールに基づいて、通過させる通信と遮断する通信を判断します。これにより、外部からの不正侵入や、内部から外部への意図しない情報流出を防ぎます。
第2章:ソフトウェア開発関連の用語
次に、アプリケーションやシステムを開発する際によく使われる用語を見ていきましょう。
API (Application Programming Interface)
ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間で機能を共有するための「接続口」や「呼び出し規約」のことです。異なるソフトウェア同士が連携し、互いの機能を利用できるようにします。
例えば、あるWebサイトがGoogle Mapsの地図表示機能を使っている場合、そのWebサイトはGoogle Mapsが提供するAPIを利用して地図データを取得し、表示しています。
APIを利用することで、開発者は複雑な機能を自分で一から作る必要がなくなり、開発効率を高めることができます。また、異なるサービスを組み合わせて新しい価値を生み出すことも可能になります。
SDK (Software Development Kit)
読み方は「エスディーケー」。特定のソフトウェアやプラットフォーム向けのアプリケーションを開発するために必要なツール一式のことです。「開発キット」とも呼ばれます。
通常、API、サンプルコード、ライブラリ、ドキュメント、デバッグツールなどが含まれます。開発者はSDKを利用することで、効率的に開発を進めることができます。
例えば、Androidアプリを開発するための「Android SDK」や、iOSアプリを開発するための「iOS SDK」があります。
フレームワーク (Framework)
アプリケーション開発において、土台となる骨組みや枠組みのことです。開発に必要な基本的な機能や構造があらかじめ用意されており、開発者はその枠組みに従って必要な部分を追加・変更していくことで、効率的にアプリケーションを構築できます。
家を建てる際の「骨組み」に例えられます。骨組みがあることで、一から設計するよりも早く、一定の品質で家を建てることができます。
Webアプリケーション開発でよく使われるフレームワークには、Ruby on Rails (Ruby)、Django (Python)、Laravel (PHP)、React / Angular / Vue.js (JavaScript) などがあります。
ライブラリ (Library)
特定の機能を持つプログラム部品(コードの集まり)のことです。開発者はライブラリを自分のプログラムに組み込むことで、その機能を手軽に利用できます。
フレームワークがアプリケーション全体の「骨組み」を提供するのに対し、ライブラリは特定の処理を行うための「便利な道具」のようなものです。開発者は必要なライブラリを自由に選択して利用できます。
例:数値計算を行うNumPy (Python)、Webページのデザインを整えるBootstrap (CSS/JavaScript)。
アジャイル開発 (Agile Development)
ソフトウェア開発手法の一つで、「計画→設計→実装→テスト」といった短い開発サイクルを繰り返しながら、柔軟かつ迅速に開発を進める考え方や手法の総称です。「アジャイル(Agile)」は「素早い」「機敏な」という意味を持ちます。
従来のウォーターフォール開発(後述)とは対照的に、仕様変更や顧客の要望に柔軟に対応しやすいのが特徴です。変化の激しい現代のビジネス環境に適した開発手法として注目されています。
代表的なアジャイル開発の手法には、「スクラム」や「エクストリーム・プログラミング(XP)」などがあります。
ウォーターフォール開発 (Waterfall Development)
ソフトウェア開発手法の一つで、「要件定義→設計→実装→テスト→運用」といった工程を順番に進めていく開発スタイルです。水が滝(Waterfall)の上から下へ流れるように、原則として前の工程には戻らないことからこの名前が付きました。
開発の初期段階で全体の計画や仕様を詳細に決定するため、大規模で仕様変更が少ないプロジェクトや、品質管理を厳格に行いたい場合に適しています。一方で、途中で仕様変更が発生すると手戻りが大きくなるというデメリットもあります。
バージョン管理システム (Version Control System)
ファイル(特にプログラムのソースコード)の変更履歴を記録・管理するためのシステムです。誰が、いつ、どのファイルをどのように変更したかを追跡できます。
主なメリットは以下の通りです。
- 変更履歴の追跡: 過去の特定の状態に戻したり、変更内容を確認したりできる。
- 複数人での共同作業: 複数人が同時に同じファイルを編集しても、変更内容を統合(マージ)できる。
- バックアップ: ファイルの変更履歴が保存されるため、誤ってファイルを削除したり、変更したりした場合でも復元できる。
代表的なバージョン管理システムとして Git (ギット) が広く使われており、GitHub や GitLab といったGitをホスティングするサービスも普及しています。
プログラミング言語 (Programming Language)
コンピューターに実行させたい処理や命令を記述するための言語です。人間が理解しやすい形式で書かれたソースコードを、コンピューターが理解できる機械語に変換(コンパイルまたはインタプリタ実行)することで、プログラムが動作します。
様々な種類のプログラミング言語があり、それぞれ特徴や得意な分野が異なります。
言語名 | 主な用途・特徴 |
---|---|
Python (パイソン) | 文法が比較的シンプルで読み書きしやすい。AI・機械学習、データ分析、Web開発、自動化処理など幅広い分野で使われる。豊富なライブラリが特徴。 |
JavaScript (ジャバスクリプト) | 主にWebブラウザ上で動作し、Webページに動きをつけたり、サーバーと通信したりするために使われる。Node.jsを使えばサーバーサイド開発も可能。Web開発には必須の言語。 |
Java (ジャバ) | 大規模な業務システム、Androidアプリ開発などで広く使われている。プラットフォームに依存しない(Write Once, Run Anywhere)が特徴。 |
Ruby (ルビー) | 日本人まつもとゆきひろ氏によって開発された言語。Web開発フレームワーク Ruby on Rails で有名。楽しくプログラミングできることを重視。 |
PHP (ピーエイチピー) | Web開発に特化した言語。WordPressなど多くのCMS(コンテンツ管理システム)で使われている。比較的学習しやすいとされる。 |
C言語 / C++ (シープラスプラス) | 処理速度が速く、OSや組み込みシステム、ゲーム開発など、性能が要求される分野で使われる。ハードウェアに近い制御が可能。 |
Swift (スウィフト) / Kotlin (コトリン) | それぞれAppleのiOS/macOSアプリ開発、GoogleのAndroidアプリ開発の公式言語として推奨されている比較的新しい言語。 |
HTML (HyperText Markup Language)
Webページの構造(見出し、段落、リスト、リンク、画像など)を定義するためのマークアップ言語です。「プログラミング言語」とは異なり、計算処理などを行うことはできません。
<h1>
(見出し)、<p>
(段落)、<a href="...">
(リンク)のような「タグ」を使って、テキストや要素の意味付けを行います。
CSS (Cascading Style Sheets)
HTMLで定義されたWebページの見た目(レイアウト、色、フォント、サイズなど)を指定するための言語です。HTMLが文書の構造を担当するのに対し、CSSは装飾を担当します。
HTMLとCSSを分離することで、Webサイトのデザイン変更や管理が容易になります。
/* 例: h1要素の文字色を青にする */
h1 { color: blue;
}
第3章:データ関連の用語
現代のビジネスにおいてデータ活用は不可欠です。ここでは、データに関連する重要な用語を解説します。
データベース (Database / DB)
整理されたデータの集まりであり、効率的にデータを検索、追加、更新、削除できるように管理するシステムのことです。
様々な種類のデータベースがありますが、代表的なものにリレーショナルデータベース(RDB)とNoSQLデータベースがあります。
- リレーショナルデータベース (RDB): 行と列からなる表形式でデータを管理するデータベース。Excelの表のようなイメージです。複数の表を関連付けて(リレーション)、複雑なデータを扱うことができます。データの整合性を保ちやすいのが特徴です。代表例:MySQL, PostgreSQL, Oracle Database, SQL Server。
- NoSQLデータベース: RDB以外のデータベースの総称。「Not Only SQL」とも言われます。キー・バリュー型、ドキュメント型、カラム指向型、グラフ型など、様々なデータモデルがあります。大量のデータを高速に処理したり、柔軟なデータ構造を扱ったりするのに適しています。代表例:MongoDB, Cassandra, Redis。
SQL (Structured Query Language)
読み方は「エスキューエル」または「シークェル」。主にリレーショナルデータベース(RDB)を操作するための言語です。
SQLを使うことで、データベースに対して以下のような操作ができます。
- データの検索 (SELECT): 条件を指定してデータを抽出する。
- データの追加 (INSERT): 新しいデータを挿入する。
- データの更新 (UPDATE): 既存のデータを変更する。
- データの削除 (DELETE): データを削除する。
- テーブルの定義 (CREATE TABLE): 新しい表を作成する。
データベースエンジニアやデータアナリストにとって必須のスキルです。
-- 例: usersテーブルからageが30以上のユーザーの名前(name)を取得する
SELECT name
FROM users
WHERE age >= 30;
ビッグデータ (Big Data)
従来のデータベース管理システムなどでは記録・保管・解析が難しいほど巨大なデータ群のことです。一般的に、量(Volume)、種類(Variety)、速度(Velocity)の3つのV(場合によってはこれにVeracity(正確性)やValue(価値)を加えて4Vや5V)で特徴づけられます。
- 量 (Volume): データ量がテラバイト、ペタバイト級と非常に大きい。
- 種類 (Variety): テキスト、画像、動画、センサーデータ、ログデータなど、構造化データだけでなく非構造化データも含む多様な形式。
- 速度 (Velocity): データの生成・更新頻度が高い(リアルタイム性が求められる)。
ビッグデータを分析することで、ビジネスの意思決定、新しいサービスの創出、社会課題の解決などに役立つ知見を得ることが期待されています。
データマイニング (Data Mining)
大量のデータ(ビッグデータを含む)の中から、統計学的な分析やAI技術などを用いて、これまで知られていなかった有用なパターン、相関関係、傾向などを発見する技術やプロセスのことです。「マイニング(Mining)」は「採掘」を意味します。
顧客の購買パターン分析によるマーケティング施策の立案、不正検知、医療分野での診断支援などに活用されています。
データウェアハウス (Data Warehouse / DWH)
企業内の様々なシステム(販売管理、顧客管理、会計など)からデータを集約し、分析しやすいように整理・保管しておくためのデータベースのことです。「データの倉庫」という意味合いです。
主に意思決定支援(BI: Business Intelligence)のために利用されます。過去からのデータを時系列で蓄積し、集計や分析に適した形でデータを保持します。
データレイク (Data Lake)
構造化データ、半構造化データ、非構造化データなど、あらゆる形式の生データをそのままの形で大量に蓄積しておくためのリポジトリ(貯蔵庫)です。「データの湖」に例えられます。
データウェアハウスが特定の目的のために整理されたデータを格納するのに対し、データレイクはまずデータをそのまま溜めておき、後から必要に応じて加工・分析するというアプローチを取ります。ビッグデータ分析や機械学習のデータソースとして活用されます。
第4章:セキュリティ関連の用語
インターネットを利用する上で、セキュリティ対策は非常に重要です。ここでは、基本的なセキュリティ用語を解説します。
サイバーセキュリティ (Cybersecurity)
コンピューターシステム、ネットワーク、データなどを、不正アクセス、攻撃、破壊、改ざん、情報漏洩などの脅威から保護するための取り組み全般を指します。
技術的な対策(ファイアウォール、侵入検知システム、暗号化など)だけでなく、組織的な対策(セキュリティポリシー策定、従業員教育など)や物理的な対策(サーバー室への入退室管理など)も含まれます。
マルウェア (Malware)
コンピューターやネットワークに害を与える悪意のあるソフトウェアの総称です。「Malicious Software(悪意のあるソフトウェア)」の略です。
様々な種類があります。
- ウイルス: 他のプログラムファイルに寄生して自己増殖し、悪さをする。
- ワーム: ネットワークを通じて自己複製し、感染を広げる。
- トロイの木馬: 無害なプログラムを装ってシステムに侵入し、後から悪意のある活動を行う。
- ランサムウェア: コンピューター内のファイルを暗号化し、元に戻すことと引き換えに身代金(Ransom)を要求する。
- スパイウェア: ユーザーの情報を密かに収集し、外部に送信する。
OSやソフトウェアを最新の状態に保つ、不審なメールや添付ファイルを開かない、信頼できないWebサイトを訪問しない、セキュリティソフトを導入するなどの対策が重要です。
ランサムウェア (Ransomware)
マルウェアの一種で、感染したコンピューターのファイルを勝手に暗号化し、ユーザーがファイルにアクセスできない状態にした上で、復号(元に戻すこと)と引き換えに金銭(身代金)を要求するものです。近年、企業や組織を狙った攻撃が増加し、深刻な被害をもたらしています。例えば、2017年に世界的に流行した「WannaCry」などが有名です。
対策としては、OSやソフトウェアの脆弱性を修正すること、不審なメールや添付ファイルを開かないこと、そして重要なデータのバックアップを定期的に取得し、すぐに復旧できる体制を整えておくことが極めて重要です。
フィッシング詐欺 (Phishing)
実在する企業(銀行、クレジットカード会社、オンラインサービスなど)を装った偽の電子メールやSMS、Webサイトを用いて、受信者を騙し、個人情報(ID、パスワード、クレジットカード番号、口座情報など)を不正に詐取しようとする詐欺行為です。「Fishing(釣り)」と「Sophisticated(洗練された)」を組み合わせた造語と言われています。
メールやSMS内のリンクを安易にクリックしない、個人情報を入力する際はURLが正規のものであるか(HTTPSで暗号化されているかなど)を確認する、二要素認証を設定するなどの対策が有効です。
二要素認証 / 多要素認証 (Two-Factor Authentication / Multi-Factor Authentication)
オンラインサービスなどにログインする際に、パスワードだけでなく、複数の異なる要素(認証要素)を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。セキュリティを強化するために用いられます。
認証要素は、一般的に以下の3種類に分類されます。
- 知識情報 (Something you know): パスワード、PINコード、秘密の質問など、本人のみが知っている情報。
- 所持情報 (Something you have): スマートフォン(SMS認証、認証アプリ)、ハードウェアトークン、ICカードなど、本人のみが持っている物。
- 生体情報 (Something you are): 指紋認証、顔認証、虹彩認証など、本人の身体的特徴。
これらの要素のうち、2つを組み合わせるのが二要素認証 (2FA)、3つ以上または異なる種類の要素を複数組み合わせるのが多要素認証 (MFA) です。パスワードが漏洩した場合でも、他の要素がなければ不正ログインを防ぐことができるため、セキュリティレベルが大幅に向上します。
暗号化 (Encryption)
データを特定のルール(アルゴリズム)に基づいて、第三者には読み取れない形式に変換することです。通信内容の盗聴や、保存されているデータの不正な閲覧を防ぐために用いられます。
暗号化されたデータを元の形式に戻すことを復号 (Decryption) といいます。復号するには通常、「鍵」と呼ばれる情報が必要です。
SSL / TLS (Secure Sockets Layer / Transport Layer Security)
インターネット上でデータを暗号化して送受信するためのプロトコル(通信規約)です。主にWebブラウザとWebサーバー間の通信を保護するために使われます。
SSL/TLSによって通信が暗号化されているWebサイトは、URLが「https://」で始まり、ブラウザのアドレスバーに鍵マークが表示されます。これにより、個人情報やクレジットカード情報などを入力する際に、通信内容が盗聴されたり改ざんされたりするリスクを低減できます。
現在では、より安全なTLSが主流となっていますが、一般的にはまとめて「SSL」と呼ばれることも多いです。
第5章:近年のトレンド・ビジネス関連用語
最後に、近年の技術トレンドやビジネスシーンでよく話題になる用語を見ていきましょう。
AI (Artificial Intelligence / 人工知能)
人間の知的な能力(学習、推論、判断、認識など)をコンピューターによって模倣・実現する技術や、その研究分野のことです。
AIには様々なレベルや種類がありますが、近年注目されているのは、大量のデータからパターンやルールを自律的に学習する「機械学習」や、その一手法である「ディープラーニング」です。
画像認識、音声認識、自然言語処理、異常検知、予測、自動運転など、幅広い分野で応用が進んでいます。2022年後半から急速に普及したChatGPTのような生成AIも、AI技術の一つです。
機械学習 (Machine Learning / ML)
AIを実現するための主要な技術の一つで、コンピューターが大量のデータからパターンやルールを自動的に学習し、それに基づいて予測や判断を行う仕組みです。人間が明示的にルールをプログラムするのではなく、データに基づいて学習する点が特徴です。
例:スパムメールのフィルタリング、ECサイトの商品レコメンデーション、株価予測など。
AIデータ分析ディープラーニング (Deep Learning / 深層学習)
機械学習の一手法で、人間の脳の神経回路網(ニューラルネットワーク)を模した多層構造のモデルを用いて、より複雑なパターンを学習する技術です。「深層」とは、このニューラルネットワークの層が深い(多い)ことを意味します。
特に画像認識や音声認識、自然言語処理の分野で高い性能を発揮し、近年のAI技術のブレークスルーを牽引しています。自動運転技術や、高度な翻訳システム、ChatGPTなどの基盤技術としても使われています。
AI機械学習IoT (Internet of Things / モノのインターネット)
従来インターネットに接続されていなかった様々な「モノ」(家電、自動車、工場設備、センサーなど)が、インターネットに接続され、相互に情報をやり取りする仕組みのことです。
モノから収集したデータを分析することで、遠隔監視・操作、自動制御、状態の可視化、新たなサービスの創出などが可能になります。
例:外出先から操作できるスマート家電、走行データを収集するコネクテッドカー、工場の稼働状況を監視するセンサーシステム、ウェアラブルデバイスによる健康管理など。
DX (Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)
企業がデータとデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデル、さらには業務プロセス、組織、企業文化などを変革し、競争上の優位性を確立することです。単なるIT化(既存業務のデジタル化)にとどまらず、ビジネスそのものを変革することを目指します。
経済産業省が「DX推進ガイドライン」(2018年)を策定するなど、国としても推進しており、多くの企業にとって重要な経営課題となっています。AI、IoT、クラウド、ビッグデータといった技術がDXを支える要素となります。
ブロックチェーン (Blockchain)
取引履歴などのデータを「ブロック」と呼ばれる単位で記録し、それらを鎖(チェーン)のようにつなげて管理する分散型台帳技術です。ネットワーク上の参加者同士がデータを共有・検証し合うことで、改ざんが極めて困難で透明性の高いデータ管理を実現します。
最初に注目されたのは、ビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)の基盤技術としてですが、その信頼性や透明性の高さから、金融、不動産、サプライチェーン管理、契約認証など、様々な分野への応用が期待されています。
5G (5th Generation Mobile Communication System / 第5世代移動通信システム)
4G (LTE) に続く次世代のモバイル通信規格です。主な特徴として以下の3点が挙げられます。
- 超高速・大容量: 4Gの数十倍の通信速度。高画質な動画ストリーミングや大容量データのダウンロードが快適になる。
- 超低遅延: 通信のタイムラグが大幅に短縮される。自動運転、遠隔医療、リアルタイムなVR/AR体験など、遅延が許されない用途への活用が期待される。
- 多数同時接続: 多くのデバイスが同時にネットワークに接続できるようになる。IoTの普及を支える基盤となる。
日本では2020年春から商用サービスが開始され、エリアの拡大が進んでいます。5Gの普及により、様々な産業や社会生活に大きな変化がもたらされると期待されています。
まとめ
この記事では、ITインフラ、ソフトウェア開発、データ、セキュリティ、そして近年のトレンドに関連する基本的なIT用語を解説しました。数多くの用語がありますが、それぞれの意味や関連性を理解することで、ITに関するニュースや会話の内容がより深く理解できるようになるはずです。
ITの世界は日々進化しており、新しい技術や用語が次々と登場します。ここで紹介した用語は、その変化を理解するための基礎となります。ぜひ、これを機にITへの関心を深め、継続的に知識をアップデートしていくことをお勧めします。
この記事が、皆さんのITリテラシー向上のお役に立てれば幸いです。