【ディープラーニング】グループ正規化(Group Normalization)とは?バッチ正規化との違いも解説

ディープラーニングの学習を安定させ、性能を向上させるために「正規化」という手法が非常に重要です。その中でも今回は、2018年に提案された比較的新しい手法であるグループ正規化(Group Normalization)について、初心者の方にも分かりやすく解説します。

そもそも正規化とは?なぜ必要なのか?

ディープラーニングでは、多くの層を積み重ねて複雑な処理を行いますが、学習を進める中で層を通過するデータの分布が偏ってしまうことがあります。この現象は「内部共変量シフト」と呼ばれ、学習が不安定になったり、収束が遅くなったりする原因となります。

「正規化」は、このデータの分布の偏りを各層で補正し、平均が0、分散が1になるように調整する処理です。これにより、勾配の流れがスムーズになり、学習の安定化と高速化が期待できます。

ディープラーニングの世界には、いくつかの異なる正規化手法が存在します。実は「正規化」という言葉は、データベース設計で使われる、データの冗長性をなくし一貫性を保つための「データベース正規化」とは意味が異なるため注意が必要です。

グループ正規化(Group Normalization)の登場

これまで最も広く使われてきた正規化手法にバッチ正規化(Batch Normalization)があります。しかし、バッチ正規化には「バッチサイズが小さいと性能が著しく低下する」という大きな課題がありました。

高解像度の画像を扱う物体検出やセグメンテーションなどのタスクでは、GPUメモリの制約からバッチサイズを大きくすることが困難です。このような状況でバッチ正規化を用いると、学習が不安定になってしまいます。

この問題を解決するために、Yuxin WuとKaiming Heによって2018年に提案されたのがグループ正規化(Group Normalization, GN)です。グループ正規化は、バッチサイズに依存せずに安定した性能を発揮することを特徴としています。

グループ正規化の仕組み

グループ正規化の核心的なアイデアは、チャネルをいくつかのグループに分割し、そのグループ内で正規化を行うという点にあります。 具体的には、1つのデータ(例えば1枚の画像)に対して、チャネルの次元をG個のグループに分け、各グループ内で平均と分散を計算して正規化処理を行います。

このアプローチにより、他のデータ(バッチ)の情報を必要としないため、バッチサイズが1のような極端に小さい場合でも安定して動作します。

他の正規化手法との比較

正規化にはグループ正規化以外にもいくつか種類があり、それぞれ正規化を行うデータの範囲が異なります。ここでは代表的な4つの手法を比較してみましょう。

正規化手法正規化の範囲 (平均・分散を計算する範囲)バッチサイズ依存主な用途・特徴
バッチ正規化 (BN)同じチャネルに属する、バッチ内の全データあり画像認識など広い分野で使われるが、バッチサイズが小さいと不安定になる。
レイヤー正規化 (LN)1つのデータ内の全チャネルなしRNNやTransformerなど、主に時系列データで利用される。
インスタンス正規化 (IN)1つのデータ内のチャネルごとなし画像のスタイル変換など、個々の画像のスタイルを保ちたい場合に有効。
グループ正規化 (GN)1つのデータ内のチャネルグループごとなしバッチサイズに依存せず、画像認識や物体検出など幅広いタスクで安定した性能を発揮する。

興味深いことに、グループ正規化はグループ数(G)の設定によって、レイヤー正規化やインスタンス正規化と等価になります。

  • G = 1 のとき:全チャネルが1つのグループになり、レイヤー正規化と同じになります。
  • G = C(チャネル数)のとき:各チャネルが1つのグループとなり、インスタンス正規化と同じになります。

このことから、グループ正規化はレイヤー正規化とインスタンス正規化の中間的な手法と捉えることもできます。

グループ正規化のメリットとデメリット

メリット

  • バッチサイズに依存しない: 最大のメリットです。GPUメモリの都合でバッチサイズを大きくできない場合でも、学習が安定します。
  • 幅広いタスクへの適用: 物体検出、セグメンテーション、ビデオ解析など、バッチサイズが小さくなりがちなコンピュータビジョンタスクで高い性能を発揮します。
  • 実装が容易: 現代的なディープラーニングのライブラリでは、数行のコードで簡単に実装できます。

デメリット

  • 性能が常に最高とは限らない: 十分に大きなバッチサイズを確保できる場合、バッチ正規化の方が高い性能を示すことがあります。 バッチ正規化が持つ正則化効果(モデルの過学習を抑える効果)が、グループ正規化では少し弱い場合があるためです。

PyTorchでの実装例

PyTorchでは、torch.nn.GroupNorm を使うことで簡単にグループ正規化をモデルに組み込むことができます。

import torch
import torch.nn as nn
# --- パラメータ設定 ---
# グループ数 (チャネルを何グループに分けるか)
num_groups = 4
# 入力チャネル数 (num_groupsで割り切れる数である必要がある)
num_channels = 16
# 入力テンソルのダミーデータを作成
# (バッチサイズ, チャネル数, 高さ, 幅)
input_tensor = torch.randn(8, num_channels, 24, 24)
# --- グループ正規化レイヤーの定義 ---
# 第1引数: グループ数
# 第2引数: チャネル数
group_norm_layer = nn.GroupNorm(num_groups, num_channels)
# --- レイヤーを適用 ---
output_tensor = group_norm_layer(input_tensor)
# --- 結果の確認 ---
print("入力テンソルの形状:", input_tensor.shape)
print("出力テンソルの形状:", output_tensor.shape)
print("出力テンソルの平均値 (近似的に0):", output_tensor.mean().item())
print("出力テンソルの分散 (近似的に1):", output_tensor.var().item()) 

まとめ

グループ正規化は、バッチ正規化が苦手としていた小さいバッチサイズでの学習という課題を克服した、非常に強力で柔軟な正規化手法です。その仕組みはチャネルをグループに分けて正規化するというシンプルなものですが、これにより学習の安定性が大きく向上しました。

特に、メモリ消費の激しい大規模なモデルや高解像度画像を扱う分野では、グループ正規化が第一の選択肢となることも少なくありません。ディープラーニングのモデルを構築・改善する際には、ぜひこのグループ正規化の導入を検討してみてください。

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