はじめに
AI(人工知能)の技術が急速に発展する中で、「画像認識」は私たちの生活に身近な技術の一つとなっています。スマートフォンの顔認証や、自動運転システムでの物体検出など、その応用例は多岐にわたります。
今回解説するR-CNNは、そんな画像認識技術、特に「物体検出」の分野で大きな進歩をもたらしたディープラーニングモデルです。この記事では、R-CNNの基本的な仕組みから、その進化の歴史まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
R-CNNとは?
R-CNNは、”Regions with Convolutional Neural Networks”の略で、日本語では「畳み込みニューラルネットワークを用いた領域ベースの手法」といった意味になります。2014年に発表され、当時の物体検出の精度を劇的に向上させたことで注目を集めました。
それまでの技術と一線を画したのは、画像の中から「物体がありそうな領域」をまず見つけ出し、その領域に対してディープラーニングの一種であるCNN (畳み込みニューラルネットワーク) を適用する点です。 これにより、画像内の「どこに」「何があるか」を高い精度で特定することが可能になりました。
R-CNNの仕組み
R-CNNの物体検出は、大きく分けて以下のステップで実行されます。
-
ステップ1: 領域候補の抽出 (Region Proposal)
まず、入力された画像の中から「ここに物体が写っていそうだ」という候補領域を約2000個ほど見つけ出します。 この処理にはSelective Searchというアルゴリズムが使われます。 この段階では、まだそれが何の物体かは気にせず、とにかく可能性のある場所をリストアップします。
-
ステップ2: CNNによる特徴抽出
次に、ステップ1で抽出した全ての候補領域を、CNNが処理できる同じサイズに強制的に変形します。 そして、それぞれの領域をCNNに入力し、その領域が何であるかを識別するための「特徴量」と呼ばれるデータを取り出します。
-
ステップ3: クラス分類
抽出した特徴量をもとに、SVM (サポートベクターマシン) という機械学習の手法を用いて、各領域が「犬」「猫」「車」といった具体的なクラス(種類)に分類されるか、あるいは「背景」なのかを判断します。
-
ステップ4: バウンディングボックス回帰 (Bounding Box Regression)
最後に、物体の位置を示す矩形(バウンディングボックス)の座標を微調整し、より正確に物体を囲むように修正します。 これにより、検出の精度を高めます。
R-CNNの進化系モデル
R-CNNの処理速度や精度の課題を解決するため、様々な改良版モデルが発表されました。 ここでは、その代表的な進化の系譜を紹介します。
モデル名 (発表年) | 特徴 | 改善点・できるようになったこと |
---|---|---|
Fast R-CNN (2015年) | 画像全体に一度だけCNNをかけ、その特徴マップを使い回すことで高速化を実現。 |
|
Faster R-CNN (2015年) | 処理のボトルネックだった領域候補の抽出もRPN (Region Proposal Network)というニューラルネットワークで行う。 |
|
Mask R-CNN (2017年頃) | Faster R-CNNを拡張し、物体の領域をピクセル単位で特定するインスタンスセグメンテーションも同時に行う。 |
|
まとめ
R-CNNは、ディープラーニングを物体検出に応用する道を切り拓いた、非常に重要な技術です。 その登場は、画像認識技術の精度を飛躍的に向上させました。
その後、Fast R-CNN、Faster R-CNN、そしてMask R-CNNへと進化を遂げることで、処理速度と精度の両面で大きな改善がなされ、今日の自動運転や医療画像解析など、様々な分野での応用を可能にしています。 R-CNNとその進化の歴史を理解することは、現代のAI技術を知る上で非常に良い第一歩となるでしょう。