はじめに
無線LANのセキュリティ評価や分析を行う際、Aircrack-ng
スイートは非常に強力なツール群を提供します。その中でもairodump-ng
は、無線LANのトラフィックをキャプチャし、アクセスポイント(AP)や接続されているクライアント(Station)の情報を収集するために広く使われています。
長時間のモニタリングや、異なるチャネルでのスキャン、複数の場所からのデータ収集などを行うと、airodump-ng
は複数のキャプチャファイル(通常は.cap
や.csv
形式)を生成することがあります。これらの断片化されたデータをまとめて分析したい場合に役立つのが、今回紹介するairodump-join
ツールです。🎉
airodump-join
は、airodump-ng
が出力した複数のCSV形式のファイルを一つに結合するためのシンプルなサポートツールです。これにより、分散した情報を一元管理し、後続の分析ツール(例えばairgraph-ng
での可視化や、aircrack-ng
でのパスワードクラック試行など)で扱いやすくなります。
airodump-joinとは? 🤔
airodump-join
は、Aircrack-ng
スイートに含まれる比較的小さなユーティリティツールの一つです。その主な目的は、airodump-ng
が生成した複数のCSV形式(.csv
)の出力ファイルを、内容を維持したまま一つの大きなCSVファイルに結合(マージ)することです。
airodump-ng
は、-w
または--write
オプションで指定されたプレフィックスに基づき、以下のようなファイルを生成します(例: プレフィックスが “capture” の場合)。
capture-XX.cap
: キャプチャされた生の802.11フレームを含むpcapファイル(XXは連番)。WEP IVやWPAハンドシェイクが含まれます。capture-XX.csv
: 検出されたAPとクライアントの詳細情報を含むCSVファイル。capture-XX.kismet.csv
: Kismetツールと互換性のあるCSVファイル。capture-XX.kismet.netxml
: Kismet Newcore形式のXMLファイル。capture-XX.log.csv
: ログ形式のCSVファイル(--output-format logcsv
指定時)。capture-XX.gps
: GPS座標ログファイル(GPSd連携時)。capture-XX.ivs
: WEP IVのみを含むファイル(--ivs
または--output-format ivs
指定時)。
この中で、airodump-join
が主に対象とするのは、capture-XX.csv
のような標準的なCSVファイルです。これらのファイルには、検出されたAPのBSSID、ESSID、チャンネル、暗号化方式、検出されたクライアントのMACアドレスなどの重要な情報がテキスト形式で記録されています。
複数のスキャンセッションで得られたCSVファイルを結合することで、以下のようなメリットがあります。
- データの一元化: 複数のファイルに散らばったAPやクライアントの情報を一つのファイルにまとめることで、全体像を把握しやすくなります。
- 分析の効率化: 結合されたCSVファイルを
airgraph-ng
などのツールで読み込ませることで、より包括的なネットワークマップの生成や関係性の可視化が可能になります。 - 履歴管理: 長期間にわたるモニタリング結果を結合することで、APやクライアントの出現・消滅履歴を追いやすくなります。
airodump-join
は主にCSVファイルを対象としています。.cap
ファイル(pcap形式)を結合したい場合は、mergecap
(Wiresharkスイートの一部)などの別のツールを使用する必要があります。.ivs
ファイルを結合する場合は、ivstools
(これもAircrack-ngスイートの一部)を使用できます。
airodump-joinの基本的な使い方 🛠️
airodump-join
の使い方は非常にシンプルです。基本的なコマンド構文は以下のようになります。
airodump-join -o <output_file.csv> -i <input_file1.csv> [<input_file2.csv> ...]
各部分の説明です。
airodump-join
: ツール本体のコマンド名(一部の環境ではairodump-join.py
の場合もあります)。-o <output_file.csv>
: 結合結果を出力するCSVファイル名を指定します。このオプションは必須です。-i <input_file1.csv> [<input_file2.csv> ...]
: 結合したいairodump-ng
が出力したCSVファイルを指定します。最低2つの入力ファイルが必要です。スペース区切りで複数のファイルを指定できます。ワイルドカード(*
)も利用可能です。このオプションも必須です。
実行例
例えば、カレントディレクトリにscan1-01.csv
とscan2-01.csv
という2つのファイルがあり、これらをmerged_scan.csv
というファイルに結合したい場合は、以下のように実行します。
airodump-join -o merged_scan.csv -i scan1-01.csv scan2-01.csv
もし、sessionA-XX.csv
, sessionB-XX.csv
のように複数のファイルがあり、特定のプレフィックスを持つCSVファイルをすべて結合したい場合は、ワイルドカードが便利です。
# "session"で始まるすべてのCSVファイルを結合して all_sessions.csv に出力
airodump-join -o all_sessions.csv -i session*.csv
ただし、ワイルドカードを使用する場合、意図しないファイルが含まれないように注意が必要です。また、結合するCSVファイルの数が非常に多い場合、コマンドラインの引数制限に達する可能性も考えられますが、通常の使用範囲では問題になることは少ないでしょう。
オプションについて
airodump-join
は非常にシンプルなツールであり、基本的には入力ファイル(-i
)と出力ファイル(-o
)を指定するオプションしかありません。Arch Linuxのmanページやツールのソースコード(GitHub上のairodump-join
スクリプト)によると、これら以外の特別な機能オプション(例えば、特定のフィールドを除外する、ソート順を変更するなど)は提供されていないようです。
オプション | 説明 | 必須/任意 |
---|---|---|
-o, --output <ファイル名> |
結合結果を書き込む出力ファイル名を指定します。 | 必須 |
-i, --file <ファイル名1> [<ファイル名2> ...] |
結合する入力CSVファイルを指定します。最低2つのファイルが必要です。 | 必須 |
-h, --help (通常) |
(標準的なヘルプ表示オプションですが、明示的な記載は見当たりませんでした。存在する場合、簡単な使用法が表示されます。) | 任意 |
実行すると、airodump-join
は指定された入力CSVファイルを読み込み、ヘッダー行(BSSID, First time seen, … など)を維持しつつ、各ファイルに含まれるAP情報とクライアント情報を一つのファイルにまとめます。重複するエントリ(同じBSSIDのAPや同じMACアドレスのクライアント)がどのように扱われるか(単純に追記されるのか、何らかのマージロジックがあるのか)については、ソースコードレベルでの確認が必要ですが、基本的には各ファイルのデータを連結する動作が主となります。タイムスタンプ(First time seen, Last time seen)は元のファイルの値が保持されます。
airodump-joinの活用シナリオ ✨
airodump-join
は地味ながらも、特定の状況下で非常に役立ちます。以下にいくつかの活用シナリオを挙げます。
1. 長時間モニタリングのデータ統合
特定のエリアの無線LAN環境を数時間、あるいは数日間にわたって継続的に監視したい場合があります。しかし、airodump-ng
を長時間実行し続けると、メモリ使用量の増加や予期せぬ中断のリスクがあります。また、airodump-ng
の--write-interval
オプションを使って定期的にファイルを分割保存することも可能です。
このような場合、airodump-ng
を一定時間ごとに再起動したり、--write-interval
で分割生成されたりした複数のCSVファイルを、後からairodump-join
で一つに結合することで、監視期間全体のデータをまとめて分析できます。これにより、特定の時間帯だけに出現するAPやクライアント、あるいは長期間アクティブなデバイスなどを特定しやすくなります。📈
# 例: 1時間ごとに capture_HHMMSS.csv として保存されたファイルを結合
airodump-join -o full_monitoring.csv -i capture_*.csv
2. マルチチャネルスキャンの結果統合
特定のAPやクライアントをターゲットにせず、広範囲の無線LAN環境を調査する場合、airodump-ng
はデフォルトで複数のチャネルをホッピングしながらスキャンします。しかし、特定のチャネルに絞って詳細な情報を収集したい場合もあります。例えば、チャネル1、6、11をそれぞれ個別にスキャンしてCSVファイル(channel1.csv
, channel6.csv
, channel11.csv
)を得たとします。
これらのファイルをairodump-join
で結合すれば、異なるチャネルで検出されたAPやクライアントの情報を一つのリストで見ることができ、全体像の把握に役立ちます。📡
# 各チャネルでスキャンした結果を結合
airodump-join -o combined_channels.csv -i channel1.csv channel6.csv channel11.csv
3. 複数拠点での調査結果の統合
広い敷地や建物内で無線LAN調査を行う際、一箇所からのスキャンではすべてのAPやクライアントを捉えきれないことがあります。このような場合、複数の調査ポイントでairodump-ng
を実行し、それぞれの場所でCSVファイル(point_A.csv
, point_B.csv
, point_C.csv
など)を生成します。
調査終了後、これらのファイルをairodump-join
で結合することで、調査エリア全体で検出されたデバイスの包括的なリストを作成できます。これは、不正APの検出やネットワークカバレッジの評価などに有用です。🗺️
# 複数地点での調査結果を結合
airodump-join -o total_area_scan.csv -i point_A.csv point_B.csv point_C.csv
4. airgraph-ngでの可視化準備
airgraph-ng
は、airodump-ng
が出力したCSVファイルを読み込み、APとクライアントの関係性をグラフとして可視化するツールです。複数のCSVファイルに分散したデータをairodump-join
で結合し、その結合後のCSVファイルをairgraph-ng
に与えることで、より広範なネットワークの相関図を一度に生成できます。📊
# まずCSVファイルを結合
airodump-join -o combined_for_graph.csv -i scan_part1.csv scan_part2.csv
# 結合したCSVファイルを使ってグラフを生成 (例)
airgraph-ng -i combined_for_graph.csv -o network_graph.png -g CAPR
# (-g CAPR はクライアントとAPの関係性を表示するグラフタイプの一例)
注意点と補足事項 ⚠️
-
ファイル形式:
airodump-join
はCSVファイル専用です。.cap
ファイルや.ivs
ファイルには使用できません。それぞれの結合にはmergecap
やivstools
を使用してください。 -
入力ファイルの互換性: 基本的に、同じバージョンの
airodump-ng
で生成されたCSVファイルであれば問題なく結合できるはずです。異なるバージョンで生成されたファイルや、手動で編集されたCSVファイルを結合する場合、予期せぬ結果になる可能性があります。 - データ重複の扱い: 複数の入力ファイルに同じAPやクライアントの情報が含まれている場合、結合後のファイルにはそれらが複数行にわたって(異なるタイムスタンプで)記録される可能性があります。ツールは単純な結合を主目的としており、高度な重複排除やデータ統合機能は持っていません。
-
ファイルの場所:
airodump-join
コマンドを実行する際、入力ファイルが存在するディレクトリで実行するか、ファイルへのフルパスを指定する必要があります。出力ファイルも、特にパスを指定しなければカレントディレクトリに作成されます。 -
Aircrack-ngスイートの一部:
airodump-join
は単体で配布されているわけではなく、Aircrack-ng
スイートの一部として提供されています。Kali Linuxなどのペネトレーションテスト用ディストリビューションには通常、プリインストールされています。
Aircrack-ng
スイートに含まれるツール(airodump-ng
, airodump-join
を含む)は、ネットワークセキュリティの評価や学習目的で使用されるべきです。許可なく他人の無線ネットワークをスキャン、キャプチャ、分析、または攻撃する行為は、多くの国や地域で違法であり、重大な法的結果を招く可能性があります。必ず自身が管理するネットワーク、または明確な許可を得たネットワークに対してのみ使用してください。🚫⚖️
まとめ
airodump-join
は、Aircrack-ng
スイートの中でも目立たない存在かもしれませんが、airodump-ng
で収集した複数のCSV形式のデータを効率的に統合するための便利なユーティリティです。
長時間のモニタリング、複数チャネルや複数拠点でのスキャンによって断片化した情報を一つにまとめることで、データ分析やairgraph-ng
による可視化をより容易かつ包括的に行うことができます。使い方は非常にシンプルで、入力ファイルと出力ファイルを指定するだけです。
無線LANの調査や分析を行う際に、複数のairodump-ng
出力ファイルを扱う必要がある場面で、airodump-join
の存在を思い出してみてください。きっと作業の効率化に貢献してくれるはずです。👍
参考情報
より詳細な情報やAircrack-ng
スイートの他のツールについては、以下の公式リソースを参照してください。
- Aircrack-ng 公式サイト: https://www.aircrack-ng.org/
- Aircrack-ng ドキュメント (Wiki): https://www.aircrack-ng.org/doku.php (airodump-ng や airgraph-ng の詳細な使い方も含まれます)
- airodump-join (Arch Linux Man Page): https://man.archlinux.org/man/community/aircrack-ng/airodump-join.1.en (ツールの基本的な説明とオプション)
- airodump-join ソースコード (GitHub): https://github.com/aircrack-ng/aircrack-ng/blob/master/scripts/airodump-join (実際のスクリプト内容)
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