Java Swing完全ガイド：GUIアプリケーション開発の基礎から実践まで

Java Swing（スウィング）は、JavaでGUI（グラフィカル・ユーザー・インターフェース）を持つデスクトップアプリケーションを開発するための標準ライブラリ（API群）です。 Sun Microsystems（現在のOracle）によって開発され、Java 2（JDK 1.2）からJavaの標準機能として提供されるようになりました。

Swingは、それ以前に存在したGUIライブラリであるAWT (Abstract Window Toolkit)を拡張する形で登場しました。 AWTがOSのネイティブなGUI部品を利用していたのに対し、Swingはコンポーネントの大部分をJava自身で描画する「軽量コンポーネント」というアーキテクチャを採用しています。 これにより、OS（プラットフォーム）による見た目や挙動の差異が少なく、「Write Once, Run Anywhere (一度書けば、どこでも動く)」というJavaの理念をGUIの世界で高いレベルで実現しました。

現在のSwingの立ち位置

2025年現在、Swingは公式に廃止されたわけではなく、依然としてJDKに含まれています。 しかし、Java 8から標準GUIとして推奨されるようになったJavaFXや、Webアプリケーション、モバイルアプリケーション開発が主流となったことで、新規開発の第一選択肢となることは少なくなりました。

それでも、既存の膨大な数のエンタープライズシステムの保守・運用においては、Swingの知識は依然として非常に重要です。 また、複雑な設定を必要としないため、小規模な社内ツールや学習目的のアプリケーションを手早く作成する際には、今でも有効な選択肢と言えるでしょう。

Swingアプリケーションの構築は、いくつかの基本的な「土台」となるコンポーネントを組み合わせることから始まります。まずは、すべてのGUI部品の親となるウィンドウの作成方法を学びましょう。

JFrame: すべての基本となるウィンドウ

javax.swing.JFrameは、デスクトップ上に表示されるウィンドウそのものを表すクラスです。 タイトルバー、閉じる・最小化・最大化ボタンなどが含まれており、すべてのSwingコンポーネントはこのJFrame（または他のトップレベルコンテナ）の中に配置されます。

JPanel: コンポーネントをまとめるパネル

javax.swing.JPanelは、他のコンポーネント（ボタンやラベルなど）をグループ化するための汎用的なコンテナです。 JPanel自体は目に見える境界線などはありませんが、コンポーネントを特定のレイアウトで配置したり、関連するUI要素をまとめたりする際に不可欠な存在です。

最初のウィンドウを表示するコード

それでは、実際に簡単なウィンドウを表示するコードを見てみましょう。このコードは、Swingアプリケーションの最も基本的なテンプレートとなります。

import javax.swing.JFrame;
import javax.swing.SwingUtilities;

public class FirstSwingApp {

    public static void main(String[] args) {
        // イベントディスパッチスレッド(EDT)でGUIを作成・更新する
        SwingUtilities.invokeLater(() -> {
            // ウィンドウ（フレーム）を生成する
            JFrame frame = new JFrame("はじめてのSwingアプリケーション");

            // ウィンドウの閉じるボタンをクリックしたときの動作を設定する
            // EXIT_ON_CLOSE を設定すると、ウィンドウを閉じるとプログラムが終了する
            frame.setDefaultCloseOperation(JFrame.EXIT_ON_CLOSE);

            // ウィンドウのサイズを設定する
            frame.setSize(600, 400);

            // ウィンドウを表示する
            frame.setVisible(true);
        });
    }
}
      

アプリケーションの「顔」となるUIは、様々なコンポーネントを組み合わせて作られます。ここでは、Swingで頻繁に使用される基本的なコンポーネントを紹介します。

以下のサンプルコードは、JFrameの中にJPanelを配置し、その上に各コンポーネントを追加していく形式で記述します。

コンポーネント使用のサンプルコード

これらの主要なコンポーネントを一つのウィンドウに配置するサンプルコードを示します。各コンポーネントがどのように作成され、ウィンドウに追加されるかを確認してください。

import javax.swing.*;
import java.awt.*;

public class AllComponentsExample {

    public static void main(String[] args) {
        SwingUtilities.invokeLater(() -> {
            JFrame frame = new JFrame("主要コンポーネント一覧");
            frame.setDefaultCloseOperation(JFrame.EXIT_ON_CLOSE);
            frame.setSize(800, 600);

            // 全体をまとめるメインパネル
            JPanel mainPanel = new JPanel();
            // 垂直方向にコンポーネントを並べるBoxLayoutを使用
            mainPanel.setLayout(new BoxLayout(mainPanel, BoxLayout.Y_AXIS));
            // スクロール可能にする
            JScrollPane scrollPane = new JScrollPane(mainPanel);

            // 1. JLabel
            mainPanel.add(new JLabel("これはJLabelです。テキストを表示します。"));

            // 2. JButton
            mainPanel.add(new JButton("これはJButtonです。"));

            // 3. JTextField
            mainPanel.add(new JLabel("JTextField:"));
            mainPanel.add(new JTextField("1行テキスト", 20));

            // 4. JTextArea
            mainPanel.add(new JLabel("JTextArea:"));
            JTextArea textArea = new JTextArea("複数行のテキストエリアです。\n改行もできます。", 5, 20);
            mainPanel.add(new JScrollPane(textArea)); // JTextAreaはJScrollPaneに入れるのが一般的

            // 5. JCheckBox
            mainPanel.add(new JLabel("JCheckBox:"));
            mainPanel.add(new JCheckBox("選択肢A"));
            mainPanel.add(new JCheckBox("選択肢B", true)); // 最初から選択状態

            // 6. JRadioButton
            mainPanel.add(new JLabel("JRadioButton:"));
            JRadioButton rb1 = new JRadioButton("ラジオ1");
            JRadioButton rb2 = new JRadioButton("ラジオ2");
            ButtonGroup bg = new ButtonGroup(); // ButtonGroupでグループ化し、1つしか選択できないようにする
            bg.add(rb1);
            bg.add(rb2);
            mainPanel.add(rb1);
            mainPanel.add(rb2);
            rb1.setSelected(true);

            // 7. JComboBox
            mainPanel.add(new JLabel("JComboBox:"));
            String[] comboItems = {"選択肢1", "選択肢2", "選択肢3"};
            mainPanel.add(new JComboBox<>(comboItems));

            // 8. JList
            mainPanel.add(new JLabel("JList:"));
            String[] listItems = {"リスト項目A", "リスト項目B", "リスト項目C", "リスト項目D"};
            JList<string> list = new JList<>(listItems);
            mainPanel.add(new JScrollPane(list)); // JListもJScrollPaneに入れる

            // 9. JTable
            mainPanel.add(new JLabel("JTable:"));
            String[][] tableData = {{"1-1", "1-2"}, {"2-1", "2-2"}};
            String[] columnNames = {"列1", "列2"};
            JTable table = new JTable(tableData, columnNames);
            mainPanel.add(new JScrollPane(table)); // JTableもJScrollPaneに入れる

            frame.add(scrollPane);
            frame.setVisible(true);
        });
    }
}
      </string>

コンポーネントをウィンドウ内に自由に配置するためには、レイアウトマネージャーの理解が不可欠です。 レイアウトマネージャーは、コンテナ（JFrameやJPanelなど）に追加されたコンポーネントのサイズや位置を、特定のルールに従って自動的に管理してくれるオブジェクトです。

これを使わずに座標を直接指定（setLayout(null)）することも可能ですが、ウィンドウサイズが変更されたときにレイアウトが崩れてしまうため、通常はレイアウトマネージャーの使用が強く推奨されます。

代表的なレイアウトマネージャー

Swingにはいくつかのレイアウトマネージャーが用意されていますが、ここでは特に重要な5つを紹介します。

レイアウトマネージャーの使用例

BorderLayoutとGridLayoutを組み合わせた簡単なサンプルコードを見てみましょう。

import javax.swing.*;
import java.awt.*;

public class LayoutManagerExample {
    public static void main(String[] args) {
        SwingUtilities.invokeLater(() -> {
            JFrame frame = new JFrame("レイアウトマネージャーの例");
            frame.setDefaultCloseOperation(JFrame.EXIT_ON_CLOSE);
            frame.setSize(400, 300);

            // フレームのレイアウトマネージャーをBorderLayoutに設定 (デフォルト)
            frame.setLayout(new BorderLayout(5, 5)); // (水平ギャップ, 垂直ギャップ)

            // NORTH: 上部にラベルを配置
            frame.add(new JLabel("上部(NORTH)のコンポーネント"), BorderLayout.NORTH);

            // SOUTH: 下部にボタンを配置
            frame.add(new JButton("下部(SOUTH)のボタン"), BorderLayout.SOUTH);

            // WEST: 左側にボタンを配置
            frame.add(new JButton("左(WEST)"), BorderLayout.WEST);
            
            // EAST: 右側にボタンを配置
            frame.add(new JButton("右(EAST)"), BorderLayout.EAST);

            // CENTER: 中央にGridLayoutを持つパネルを配置
            JPanel centerPanel = new JPanel();
            // 2行2列のGridLayoutを設定
            centerPanel.setLayout(new GridLayout(2, 2, 5, 5));
            
            centerPanel.add(new JButton("C1"));
            centerPanel.add(new JButton("C2"));
            centerPanel.add(new JButton("C3"));
            centerPanel.add(new JButton("C4"));

            frame.add(centerPanel, BorderLayout.CENTER);

            frame.setVisible(true);
        });
    }
}
      

これまでの内容で静的なGUIを作成できるようになりましたが、アプリケーションが真に役立つためには、ユーザーの操作に反応する必要があります。この仕組みがイベント処理です。

Swingでは委譲型イベントモデル (Delegation Event Model) を採用しています。 これは、以下の3つの要素から構成されます。

• イベントソース (Event Source): イベントを発生させるコンポーネント（例: JButton）。
• イベントオブジェクト (Event Object): 発生したイベントに関する情報を持つオブジェクト（例: ActionEvent）。
• イベントリスナー (Event Listener): イベントの発生を待ち受け、イベント発生時に特定の処理を実行するオブジェクト（例: ActionListener）。

プログラミングの流れは、「イベントソースに、特定のイベントを監視するイベントリスナーを登録する」という形になります。

ActionListenerの実装

最もよく使われるイベントは、ボタンのクリックです。これはActionEventとして処理され、ActionListenerインターフェースを実装することで対応できます。

ActionListenerはactionPerformedという単一のメソッドを持ちます。ボタンがクリックされると、このメソッドが自動的に呼び出されます。

import javax.swing.*;
import java.awt.event.ActionEvent;
import java.awt.event.ActionListener;

public class EventHandlingExample {
    public static void main(String[] args) {
        SwingUtilities.invokeLater(() -> {
            JFrame frame = new JFrame("イベント処理の例");
            frame.setDefaultCloseOperation(JFrame.EXIT_ON_CLOSE);
            frame.setSize(300, 200);
            frame.setLayout(new FlowLayout());

            JButton button = new JButton("クリックしてください");
            JLabel label = new JLabel("ここに結果が表示されます");

            // イベントリスナーの実装 (匿名内部クラスを使用)
            ActionListener listener = new ActionListener() {
                private int clickCount = 0;

                @Override
                public void actionPerformed(ActionEvent e) {
                    // ボタンがクリックされたときの処理
                    clickCount++;
                    label.setText("ボタンが " + clickCount + " 回クリックされました！");
                }
            };

            // ボタン（イベントソース）にリスナーを登録
            button.addActionListener(listener);

            frame.add(button);
            frame.add(label);
            frame.setVisible(true);
        });
    }
}
      

// ラムダ式を使ったイベントリスナーの登録
button.addActionListener(e -> {
    clickCount++;
    label.setText("ボタンが " + clickCount + " 回クリックされました！");
});
        

その他の代表的なイベントリスナー

ActionListener以外にも、様々なユーザー操作に対応するためのリスナーが用意されています。

• MouseListener / MouseMotionListener: マウスのクリック、プレス、リリース、カーソルの移動などを検知します。
• KeyListener: キーボードのキーが押された、離された、タイプされたことを検知します。
• WindowListener: ウィンドウが開かれた、閉じられた、アクティブになったなどの状態変化を検知します。
• ChangeListener: スライダーやスピナーの値が変更されたことなどを検知します。

これまでに学んだ知識を総動員して、簡単な電卓アプリケーションを作成してみましょう。このアプリケーションは以下の機能を持ちます。

• 数字ボタン（0-9）と演算子ボタン（+, -, *, /）
• 計算結果を表示するディスプレイ（JTextField）
• クリア（C）ボタンとイコール（=）ボタン

ここではBorderLayoutで全体を構成し、中央にGridLayoutでボタンを配置する、典型的なレイアウトパターンを使用します。

import javax.swing.*;
import java.awt.*;
import java.awt.event.ActionEvent;
import java.awt.event.ActionListener;

public class SimpleCalculator extends JFrame implements ActionListener {

    private JTextField display;
    private JPanel panel;
    private String operator = "";
    private double firstOperand = 0;
    private boolean isOperatorClicked = false;

    public SimpleCalculator() {
        setTitle("簡易電卓");
        setDefaultCloseOperation(JFrame.EXIT_ON_CLOSE);
        setSize(400, 500);
        setLocationRelativeTo(null); // 画面中央に表示

        // ディスプレイ部分 (上部)
        display = new JTextField("0");
        display.setEditable(false);
        display.setHorizontalAlignment(JTextField.RIGHT);
        display.setFont(new Font("Arial", Font.BOLD, 40));
        add(display, BorderLayout.NORTH);

        // ボタン部分 (中央)
        panel = new JPanel();
        panel.setLayout(new GridLayout(4, 4, 10, 10));

        String[] buttons = {
            "7", "8", "9", "/",
            "4", "5", "6", "*",
            "1", "2", "3", "-",
            "C", "0", "=", "+"
        };

        for (String text : buttons) {
            JButton button = new JButton(text);
            button.setFont(new Font("Arial", Font.BOLD, 20));
            button.addActionListener(this);
            panel.add(button);
        }
        add(panel, BorderLayout.CENTER);
    }

    @Override
    public void actionPerformed(ActionEvent e) {
        String command = e.getActionCommand();
        char firstChar = command.charAt(0);

        if (Character.isDigit(firstChar)) {
            if (isOperatorClicked) {
                display.setText(command);
                isOperatorClicked = false;
            } else {
                if (display.getText().equals("0")) {
                    display.setText(command);
                } else {
                    display.setText(display.getText() + command);
                }
            }
        } else { // 演算子または特殊キー
            switch (command) {
                case "C":
                    display.setText("0");
                    firstOperand = 0;
                    operator = "";
                    break;
                case "=":
                    double secondOperand = Double.parseDouble(display.getText());
                    switch (operator) {
                        case "+": display.setText(String.valueOf(firstOperand + secondOperand)); break;
                        case "-": display.setText(String.valueOf(firstOperand - secondOperand)); break;
                        case "*": display.setText(String.valueOf(firstOperand * secondOperand)); break;
                        case "/":
                            if (secondOperand != 0) {
                                display.setText(String.valueOf(firstOperand / secondOperand));
                            } else {
                                display.setText("Error");
                            }
                            break;
                    }
                    operator = "";
                    isOperatorClicked = true;
                    break;
                default: // 演算子 (+, -, *, /)
                    firstOperand = Double.parseDouble(display.getText());
                    operator = command;
                    isOperatorClicked = true;
                    break;
            }
        }
    }

    public static void main(String[] args) {
        SwingUtilities.invokeLater(() -> {
            new SimpleCalculator().setVisible(true);
        });
    }
}
      

このコードでは、JFrameクラスを継承し、ActionListenerを実装することで、クラス自身がイベント処理を行っています。ボタンがクリックされるとactionPerformedメソッドが呼ばれ、getActionCommand()で押されたボタンのテキストを取得し、それに応じて計算ロジックを実行しています。

Swingは成熟した安定した技術ですが、JavaのGUI開発の世界も進化を続けています。最後に、Swingの将来性と、他の選択肢について触れておきましょう。

後継技術: JavaFX

JavaFXは、Swingの後継と位置づけられることが多いGUIツールキットです。 Swingと比較して、以下のような特徴があります。

• モダンな設計: CSSによる柔軟なスタイリング、FXMLというXMLベースの言語によるUI構造の定義、3Dグラフィックスやアニメーションのサポートなど、現代的なアプリケーション開発に適した機能が豊富です。
• プロパティバインディング: UIコンポーネントのプロパティとデータモデルを直接結びつける機能があり、データの変更が自動的にUIに反映されるため、コードの記述量を減らすことができます。
• 分離された開発: Java 11以降、JavaFXはJDKから分離され、独立したライブラリとして提供されています。これにより、JavaFX自体の開発サイクルが早まっています。

新規にリッチなUIを持つデスクトップアプリケーションを開発する場合、JavaFXはSwingよりも有力な選択肢となるでしょう。

Webアプリケーションという選択肢

現代では、多くのアプリケーションがデスクトップではなくWebブラウザ上で動作するWebアプリケーションとして開発されています。Spring Boot (Java), Django (Python), Ruby on Rails (Ruby) といったサーバーサイドフレームワークと、React, Vue.js, Angular といったフロントエンドフレームワークを組み合わせることで、プラットフォームに依存しない高機能なアプリケーションを構築できます。

クロスプラットフォーム性を求めるのであれば、Webアプリケーションへの移行は常に検討すべき選択肢です。

それでもSwingが輝く場面

では、Swingを学ぶ価値はもうないのでしょうか？答えは「いいえ」です。前述の通り、無数の既存システムがSwingで構築されており、その保守には専門知識が不可欠です。また、

• OSのネイティブ機能と連携する必要がない、自己完結したツール
• Webサーバーや複雑な環境構築を必要としない、手軽なユーティリティ
• プログラミング初学者がGUIの基本概念を学ぶための教材

といった用途では、Swingのシンプルさと手軽さが依然として大きなメリットとなります。