αβ(アルファベータ)法とは?
αβ(アルファベータ)法は、主にチェスや将棋、囲碁といった二人零和有限確定完全情報ゲーム(お互いの持つ情報が全て公開されており、運の要素がなく、勝敗が必ず決まるゲーム)のAI(人工知能)で使われる探索アルゴリズムの一種です。
目的は、膨大な数の選択肢(次の手)の中から、最も有利になるであろう「最善手」を効率的に見つけ出すことです。 αβ法は、AIの意思決定プロセスを高速化するための重要な技術とされています。
基本となる考え方「ミニマックス法」
αβ法を理解するためには、その基礎となっている「ミニマックス法」を知る必要があります。
ミニマックス法は、以下の2つの仮定に基づいています。
- 自分 (AI) は、常に自分の利益が最大 (Max) になる手を選ぶ。
- 相手は、常に自分の利益が最大になる(=こちらの利益が最小 (Mini) になる)手を選ぶ。
この考え方に基づき、ゲームの局面を「ゲーム木」というツリー構造で表現し、数手先のすべてのパターンを読み、最終的に自分にとって最も有利な結果につながる手を選びます。
しかし、ミニマックス法は考えられるすべての手を評価するため、ゲームが複雑になると計算量が爆発的に増えてしまい、現実的な時間内に答えを出せなくなるという大きな課題がありました。
αβ法の仕組み「枝刈り」
αβ法は、ミニマックス法の課題を解決するために考案されました。ミニマックス法の探索において、「明らかに無駄な探索」を省略する「枝刈り」という仕組みを取り入れることで、計算量を大幅に削減します。
この枝刈りの判断に使われるのが、「α値」と「β値」です。
値 | 説明 |
---|---|
α値 (alpha) | 探索の過程で見つかった、現時点での「自分にとって最も良い選択肢(最大評価値)」。これより悪い手を選ぶ必要はないため、評価値の下限を示します。 |
β値 (beta) | 探索の過程で見つかった、現時点での「相手にとって最も良い選択肢(最小評価値)」。相手はこの手を選んでくる可能性があるため、評価値の上限を示します。 |
探索中に、ある選択肢が「相手がその手を選ばせてくれるはずがない(β値を超える)」あるいは「もっと良い手を既に見つけている(α値を下回る)」と判断された場合、その先の探索を打ち切ります。これが枝刈りです。
- αカット: 相手の番(評価値を最小化したい)で、ある手がα値(自分の保証された最低スコア)より悪いとわかった時点で、それ以上その枝の探索を打ち切ること。
- βカット: 自分の番(評価値を最大化したい)で、ある手がβ値(相手の保証された最低スコア)より良いとわかった時点で、それ以上その枝の探索を打ち切ること。
この枝刈りによって、αβ法はミニマックス法と同じ結果を保ちながら、探索する局面の数を劇的に減らすことができるのです。
αβ法が使われている事例
αβ法は、コンピュータチェスの発展に大きく貢献しました。特に有名な事例として、1997年にIBMが開発したチェス専用コンピュータ「ディープ・ブルー」が、当時のチェス世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフに勝利したことが挙げられます。ディープ・ブルーは、αβ法をベースにした強力な探索アルゴリズムを搭載していました。
また、将棋や囲碁などの思考ゲームのAIにおいても、初期から中期の開発において中心的な技術として利用されてきました。現在では、ディープラーニングなどの新しい技術と組み合わせて利用されることもありますが、αβ法は今でも探索アルゴリズムの重要な基礎となっています。
ゲームAIだけでなく、リスクを最小化し利益を最大化するという考え方から、ビジネスにおける意思決定支援システムに応用されることもあります。
αβ法の利点と限界
まとめ
αβ法は、ゲームAIなどの分野で最適な手を見つけるための探索アルゴリズムです。基礎となるミニマックス法の「無駄な探索」を「枝刈り」によって省略することで、計算効率を劇的に高めます。
近年はディープラーニングなどの技術がAIの進化を牽引していますが、αβ法で培われた「効率的な探索」の考え方は、今なお多くのアルゴリズムの根底に流れる重要な概念と言えるでしょう。