はじめに:セグメンテーションタスクとは?
セグメンテーションタスクとは、AIによる画像認識技術の一つで、画像をピクセル(画素)単位で分割し、それぞれのピクセルが何に属するのかを識別するタスクです。 単に画像に「何が写っているか」を分類するだけでなく、画像内の「どの領域が、何であるか」を詳細に理解することができます。 この技術は、私たちの生活を支える様々な最先端分野で活用されています。
セグメンテーションの主な3つの種類
セグメンテーションタスクは、その目的によって大きく3つの種類に分けられます。 それぞれに得意なこと、苦手なことがあります。
1. セマンティックセグメンテーション (Semantic Segmentation)
画像内の各ピクセルを、それが属するクラス(カテゴリ)に分類する手法です。 例えば、「このピクセルは人」「このピクセルは道路」「このピクセルは空」といったように、領域ごとに意味を割り当てます。 ただし、同じクラスの個体を区別することはしません。 例えば、画像に3人の「人」がいても、すべてを一つの「人」という領域として認識します。
2. インスタンスセグメンテーション (Instance Segmentation)
画像内の物体を個体(インスタンス)ごとに識別し、それぞれの領域を分割する手法です。 セマンティックセグメンテーションが苦手とする、同じ種類の物体が隣接している場合でも、それぞれを別の個体として区別することができます。 例えば、「これは1人目の人」「これは2人目の人」「これは赤い車」といったように、物体を一つ一つ個別に認識します。
3. パノプティックセグメンテーション (Panoptic Segmentation)
パノプティックセグメンテーションは、セマンティックセグメンテーションとインスタンスセグメンテーションを組み合わせた、より包括的な手法です。 画像内のすべてのピクセルに対して、「これは空(背景)」「これは1人目の人(物体)」「これは2人目の人(物体)」というように、背景領域の分類と物体の個体識別を同時に行います。 まさに「すべてを見渡す」分割技術と言えます。
種類の違いまとめ
3つの手法の違いをまとめると以下のようになります。
種類 | 目的 | 個体の区別 | 背景の扱い |
---|---|---|---|
セマンティックセグメンテーション | 各ピクセルをクラス(人、車、道路など)に分類する | しない | 他のクラスと同様に領域を分類する |
インスタンスセグメンテーション | 各「物体」を個別に識別し、領域を分割する | する | 分類の対象外 |
パノプティックセグメンテーション | 全てのピクセルを分類し、かつ物体は個別に識別する | する | クラスとして領域を分類する |
セグメンテーションタスクの活用事例
セグメンテーションタスクは、その高い精度から様々な分野で応用されています。
- 自動運転
自動車の周囲にある他の車両、歩行者、信号機、車線などをピクセル単位で正確に認識し、安全な走行をサポートします。 特にパノプティックセグメンテーションは、周囲環境の総合的な理解に不可欠です。 - 医療画像解析
CTやMRI画像から、特定の臓器や病変部(腫瘍など)の領域を正確に自動抽出するために利用されます。 これにより、医師の診断を支援し、より迅速で正確な治療計画の立案に貢献しています。 - インフラ点検
ドローンで撮影した鉄塔や橋などの画像から、サビやひび割れの領域を自動で検出し、劣化状況を評価します。 - 衛星画像解析
衛星から撮影された広範囲の画像データを解析し、森林、農地、都市部といった土地の利用状況を把握したり、災害状況の確認に役立てられたりします。 - Web会議の背景加工
Web会議システムで人物の領域を正確に識別し、背景だけをぼかしたり、バーチャル背景に置き換えたりする技術にもセグメンテーションが使われています。
Pythonでの簡単なコード例
実際のセグメンテーションは、ディープラーニングモデルを用いて行われます。ここでは、画像処理ライブラリ `torchvision` を使って、学習済みモデル(DeepLabV3)でセマンティックセグメンテーションを行う簡単な雰囲気を示すPythonコードを紹介します。
※このコードを実行するには、PyTorchやtorchvisionなどのライブラリのインストールが必要です。
import torch
import torchvision.transforms as T
from torchvision.models.segmentation import deeplabv3_resnet101
from PIL import Image
import requests
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 1. 学習済みモデルのロード
model = deeplabv3_resnet101(weights='DeepLabV3_ResNet101_Weights.DEFAULT')
model.eval()
# 2. 画像の準備 (例としてURLから画像を読み込む)
url = 'https://user-images.githubusercontent.com/1166653/35969564-92753232-0d32-11e8-9ef4-2a356b738193.jpg'
try: input_image = Image.open(requests.get(url, stream=True).raw)
except Exception as e: print(f"画像を取得できませんでした: {e}") exit()
# 3. 画像の前処理
preprocess = T.Compose([ T.ToTensor(), T.Normalize(mean=[0.485, 0.456, 0.406], std=[0.229, 0.224, 0.225]),
])
input_tensor = preprocess(input_image)
input_batch = input_tensor.unsqueeze(0) # バッチ次元の追加
# 4. セグメンテーションの実行
with torch.no_grad(): output = model(input_batch)['out']
output_predictions = output.argmax(0)
# 5. 結果の可視化 (簡易版)
# COCOデータセットのカラーパレットを簡易的に作成
palette = torch.tensor([2 ** 25 - 1, 2 ** 15 - 1, 2 ** 21 - 1])
colors = torch.as_tensor([i for i in range(21)])[:, None] * palette
colors = (colors % 255).numpy().astype("uint8")
r = Image.fromarray(output_predictions.byte().cpu().numpy()).resize(input_image.size)
r.putpalette(colors)
# 元画像とセグメンテーション結果を重ねて表示
plt.figure(figsize=(10, 5))
plt.subplot(1, 2, 1)
plt.imshow(input_image)
plt.title("Original Image")
plt.axis('off')
plt.subplot(1, 2, 2)
plt.imshow(r)
plt.title("Segmentation Result")
plt.axis('off')
# このコードはJupyter Notebookなどの環境で実行すると画像が表示されます。
# plt.show()
print("セグメンテーション処理が完了しました。")
まとめ
セグメンテーションタスクは、画像をピクセル単位で理解するための強力な画像認識技術です。 セマンティック、インスタンス、パノプティックといった種類があり、それぞれが異なる特性を持っています。 自動運転や医療など、私たちの社会の様々な場面で活用されており、今後もその重要性は増していくことでしょう。