はじめに
近年、「AIが文章を作成する」という技術が大きな注目を集めています。その発展の歴史の中で、特に重要な役割を果たしたのが「GPT-2」というAIモデルです。GPT-2は、今日のChatGPTのような高度な文章生成AIの礎を築いた存在と言えます。
この記事では、自然言語処理の分野で画期的な成果を上げたGPT-2について、初心者の方にも分かりやすく、その仕組みや特徴、そして社会に与えたインパクトを解説します。
GPT-2の基本情報
GPT-2(Generative Pre-trained Transformer 2)は、ChatGPTを開発した米国のAI研究企業OpenAIによって開発され、2019年2月に発表された言語モデルです。
その名前の通り、Transformer(トランスフォーマー)という、今日の多くのAIの基礎となっている画期的なアーキテクチャをベースに作られています。 GPT-2の最も基本的な機能は、与えられた文章の「次に来る単語」を予測することです。 これを何度も繰り返すことで、人間が書いたような自然な長文を生成することができます。
GPT-2は、特定のタスク(翻訳、要約など)に特化した学習(ファインチューニング)を行わなくても、そのままで多様なタスクをこなせる「汎用性の高さ」を示した点で、非常に画期的でした。
「危険すぎる」と言われた衝撃のデビュー
GPT-2は、その発表当初、非常に大きな話題を呼びました。しかし、それは性能の高さだけでなく、そのあまりの高性能さゆえの「リスク」が懸念されたからです。
2019年2月、OpenAIはGPT-2を発表した際、生成される文章の質が非常に高いため、フェイクニュースの作成、なりすまし、スパムなどへの悪用を懸念しました。 このため、最も性能の高い最大モデル(15億パラメータ)の一般公開を見送り、機能が制限された小規模なモデルのみを公開するという異例の対応を取りました。
この出来事は「危険すぎるAI」として広く報道され、AIが社会に与える影響について大きな議論を巻き起こしました。
その後、OpenAIは悪用のリスクを慎重に調査しながら、段階的に大きなモデルを公開していくアプローチを取りました。 そして、広範な悪用は確認されなかったことなどから、2019年11月にすべてのサイズのモデルが公開されることになりました。
- 2019年2月: GPT-2発表。小規模モデル(1.24億パラメータ)のみ公開。
- 2019年5月: 中規模モデル(3.55億パラメータ)を公開。
- 2019年8月: 大規模モデル(7.74億パラメータ)を公開。
- 2019年11月: 最大モデル(15億パラメータ)を含む全モデルを公開。
GPT-2の特徴と後継モデルとの比較
GPT-2の性能を支えているのは、その「規模」です。AIの性能を左右する要素の一つに「パラメータ数」があります。これは、モデルが学習できる情報の量の尺度のようなもので、一般的にこの数が多いほど、より複雑で精緻なパターンを学習できます。
GPT-2の最大モデルは15億(1.5B)個のパラメータを持ち、これは前身であるGPT-1の約10倍以上です。 また、学習に使われたデータも、Web上の良質なテキストを約40GB集めた巨大なデータセット「WebText」が使われました。
GPT-2の登場後も、OpenAIはさらに大規模で高性能なモデルを発表し続けています。GPT-2がその後の生成AIの進化のどの位置にあるのか、表で比較してみましょう。
モデル | 発表年 | パラメータ数(推定含む) | 主な特徴 |
---|---|---|---|
GPT-2 | 2019年 | 最大15億 | 高い汎用性を示し、「危険すぎる」と話題に。生成AIの可能性を広く知らしめた。 |
GPT-3 | 2020年 | 1750億 | パラメータ数が飛躍的に増大し、性能が大幅に向上。APIを通じて提供され、多くのサービスで利用される。 |
GPT-3.5 | 2022年 | 非公開(推定3550億) | ChatGPT(初期版)のベースとなったモデルで、対話能力が大きく向上。 |
GPT-4 | 2023年 | 非公開 | テキストに加え画像も理解できるマルチモーダルに対応。司法試験で上位10%に入るなど、専門分野でも高い性能を発揮。 |
このように見ると、AI技術がいかに急速に進歩しているかが分かります。GPT-2は、この爆発的な進化の重要な一歩となりました。
GPT-2の現在の使われ方
GPT-4のようなさらに高性能なモデルが登場した現在、GPT-2が最先端で使われることは少なくなりました。しかし、その価値が完全になくなったわけではありません。
- 教育・研究用途: GPT-2はモデルの構造が比較的シンプルで、後継モデルに比べて軽量なため、自然言語処理を学ぶ学生や研究者にとって、大規模言語モデルの基礎を理解するための良い教材となっています。
- 特定のタスクへの応用: 小規模なアプリケーションや、特定の文章スタイルを生成する目的であれば、GPT-2でも十分な性能を発揮することがあります。日本語に特化して学習させたモデルなども開発されています。
- 個人での利用: モデルサイズが比較的小さいため、高性能なサーバーを必要とせず、個人のコンピュータでもある程度動作させることが可能です。
PythonとHugging FaceのTransformersライブラリを使えば、比較的簡単にGPT-2を動かすことができます。以下は、文章を生成する簡単なコード例です。
from transformers import GPT2LMHeadModel, GPT2Tokenizer
# トークナイザとモデルを読み込む
tokenizer = GPT2Tokenizer.from_pretrained('gpt2')
model = GPT2LMHeadModel.from_pretrained('gpt2')
# 生成したい文章の冒頭(プロンプト)
prompt_text = "In a distant galaxy, there was a planet inhabited by"
# テキストをIDにエンコード
inputs = tokenizer.encode(prompt_text, return_tensors='pt')
# 文章を生成
outputs = model.generate( inputs, max_length=50, # 生成する文章の最大長 num_return_sequences=1, # 生成する文章の数 no_repeat_ngram_size=2, # 同じ2単語の繰り返しを防ぐ temperature=0.7, # 生成される単語の多様性(低いと予測通りの単語が出やすい) top_k=50, # 確率の高い上位50単語から選択 top_p=0.95 # 確率の合計が95%になるまでの単語群から選択
)
# IDをテキストにデコードして表示
generated_text = tokenizer.decode(outputs, skip_special_tokens=True)
print(generated_text)
まとめ
GPT-2は、2019年にOpenAIによって発表された画期的な自然言語処理モデルです。 その人間らしい文章生成能力は、「危険すぎる」とまで言われ、AIの可能性とリスクを社会に広く問いかけました。
現在ではGPT-3やGPT-4といった後継モデルが登場していますが、GPT-2が成し遂げた技術的ブレークスルーと、それがもたらした社会的な議論は、今日の生成AIブームの紛れもない原点となっています。GPT-2を理解することは、現代AIの進化の系譜をたどる上で非常に重要だと言えるでしょう。