ITの世界で「SASS」という言葉を聞いたとき、文脈によって全く異なる2つの技術を指すことがあります。一つはウェブサイトのデザインを効率化する「Sass (Syntactically Awesome Style Sheets)」で、もう一つはソフトウェアの利用形態である「SaaS (Software as a Service)」です。
この記事では、特に初心者の方に向けて、これら二つの「SASS」について、それぞれの意味と特徴を分かりやすく解説します。
1. CSSを効率化する「Sass」
まず、Web制作の分野で使われる「Sass」についてです。これは「Syntactically Awesome Style Sheets」の略で、直訳すると「構文的に素晴らしいスタイルシート」となります。 Sassは、Webページの見た目を作るための言語であるCSS(Cascading Style Sheets)を、より効率的に、そして管理しやすく書くために開発された拡張言語(メタ言語)です。
Sass自体はブラウザで直接読み込むことができず、「コンパイル」という変換作業を経て、最終的に通常のCSSファイルとして出力されます。
Sassの主な機能とメリット
Sassを使うと、通常のCSSにはない便利な機能が使えるようになり、開発効率が大幅に向上します。
変数 (Variables)
色やフォントサイズ、余白の大きさなど、繰り返し使う値を「変数」として保存できます。 例えば、サイトのテーマカラーを変更したい場合、変数の値を一箇所変更するだけで、サイト全体の関連する色が一括で変更され、修正の手間が省けます。
// 変数を定義
$primary-color: #007bff;
$font-size-base: 16px;
// 変数を使用
body { color: $primary-color; font-size: $font-size-base;
}ネスト (Nesting)
HTMLの階層構造のように、CSSのセレクタを入れ子にして記述できます。 これにより、親子関係が明確になり、コードが読みやすく、スッキリします。
// SCSS (ネストあり)
nav { ul { margin: 0; padding: 0; list-style: none; li { display: inline-block; a { text-decoration: none; } } }
}ミックスイン (Mixin)
よく使うスタイルのかたまりを「ミックスイン」として定義し、好きな場所で何度も再利用できます。 引数を渡して、適用するスタイルを動的に変えることも可能です。
// ミックスインを定義
@mixin border-radius($radius) { -webkit-border-radius: $radius; -moz-border-radius: $radius; border-radius: $radius;
}
// ミックスインを使用
.box { @include border-radius(10px);
}継承 (Extend)
あるセレクタのスタイルを、別のセレクタに引き継がせることができます。 これにより、共通のスタイルをまとめ、コードの重複を減らせます。
// 基本のボタンスタイル
.btn { padding: 10px 15px; border: 1px solid #ccc;
}
// 基本スタイルを継承して、新しいスタイルを追加
.btn-primary { @extend .btn; background-color: #007bff; color: white;
}Sassの2つの記法:「SASS」と「SCSS」
Sassには「SASS」と「SCSS」という2種類の書き方(構文)があります。
| 記法 | 特徴 | ファイル拡張子 |
|---|---|---|
| SASS記法 | 初期からある記法。波括弧 `{}` やセミコロン `;` を使わず、インデント(字下げ)で階層を表現します。 コードが非常にシンプルになりますが、CSSの書き方とは大きく異なります。 | .sass |
| SCSS記法 | 後から登場した記法で、現在はこちらが主流です。 波括弧やセミコロンを使い、見た目が通常のCSSと非常によく似ているため、CSSの知識があればすぐに学習を始められます。 | .scss |
Sassの歴史
Sassは2006年にHampton Catlin氏によって設計され、Natalie Weizenbaum氏によって開発されました。 当初はSASS記法のみでしたが、後にCSSとの互換性が高いSCSS記法が登場し、広く普及しました。
2. クラウドで提供される「SaaS」
もう一つの「SaaS」は、「Software as a Service」の略で、「サース」と読みます。 これは、従来パッケージ製品として購入・インストールして利用していたソフトウェアを、インターネット経由でサービスとして提供・利用する形態のことです。
SaaSの主な特徴とメリット
- インストール不要: インターネットとブラウザがあれば、場所やデバイスを問わずにサービスを利用できます。
- 導入コストが低い: サーバーなどを自前で用意する必要がなく、多くは月額制などのサブスクリプションモデルで提供されるため、初期費用を抑えられます。
- メンテナンス不要: ソフトウェアのアップデートやセキュリティ対策はサービス提供者が行うため、ユーザーは常に最新の状態でサービスを利用でき、保守管理の手間がかかりません。
- データ共有が容易: データはクラウド上に保存されるため、複数のユーザー間で簡単にファイルを共有したり、共同で編集したりできます。
SaaSの具体的なサービス例
私たちの身の回りには、すでに多くのSaaSがあふれています。
- グループウェア: Google Workspace, Microsoft 365
- ビジネスチャット: Slack, Microsoft Teams
- 顧客管理 (CRM): Salesforce
- Web会議システム: Zoom, Google Meet
「Sass」と「SaaS」の比較まとめ
ここまで解説してきた2つの「SASS」の違いを、以下の表にまとめました。
| 項目 | Sass (Syntactically Awesome Style Sheets) | SaaS (Software as a Service) |
|---|---|---|
| 読み方 | サス | サース |
| 分野 | Web制作、フロントエンド開発 | クラウドコンピューティング、ソフトウェア提供モデル |
| 目的 | CSSの記述を効率化し、保守性を高めること | インターネット経由でソフトウェアの機能を提供すること |
| 概要 | CSSの拡張言語(CSSプリプロセッサ) | ソフトウェアのサービスとしての提供形態 |
まとめ
「SASS」という言葉には、CSSを効率的に書くための「Sass」と、クラウドサービスの一形態である「SaaS」という、全く異なる2つの意味があります。
Webデザインやコーディングの文脈で出てきた場合は「Sass」、ビジネスやソフトウェア利用の文脈で出てきた場合は「SaaS」を指している可能性が高いです。どちらも現代のITには欠かせない重要な技術ですので、この機会に違いをしっかり理解しておきましょう。