【初心者向け】NIST CSFって何?サイバーセキュリティ対策の羅針盤

サイバー攻撃から組織を守るためのフレームワークをやさしく解説!

はじめに:NIST CSFとは?

NIST CSF(ニスト シーエスエフ)は、National Institute of Standards and Technology(米国国立標準技術研究所)が作成した「Cybersecurity Framework(サイバーセキュリティフレームワーク)」の略称です。

もともとは、電力、水道、金融などの重要インフラを守るために2014年に作られましたが、その内容が非常に優れており使いやすいため、今では業種や規模を問わず、世界中の様々な組織でサイバーセキュリティ対策の指針として活用されています。日本でも多くの企業や組織が参考にしています。

NIST CSFは、特定の製品や技術に依存せず、組織がサイバーセキュリティのリスクをどのように管理し、対策を進めていくべきかの「考え方」や「ベストプラクティス(成功事例)」を示しています。いわば、サイバーセキュリティ対策を進める上での羅針盤のようなものです。

2024年2月には、約10年ぶりに大幅な改訂が行われ、「NIST CSF 2.0」が公開されました。これにより、さらに多くの組織が利用しやすくなっています。

NIST CSFの主な構成要素

NIST CSFは、主に以下の3つの要素で構成されています。

  1. フレームワーク・コア (Framework Core): サイバーセキュリティ対策で実施すべき活動(機能)とその目標(カテゴリ、サブカテゴリ)をまとめたもの。
  2. フレームワーク・プロファイル (Framework Profile): 組織の現状(As-Is)の対策状況と、目指すべき目標(To-Be)の対策状況を示すもの。
  3. 実装ティア (Implementation Tiers): 組織のサイバーセキュリティリスク管理の成熟度(どれくらいしっかりできているか)を4段階で評価する基準。

これらを組み合わせることで、組織は自社のセキュリティ対策の現状を把握し、目標とのギャップを明らかにし、優先順位をつけて対策を進めることができます。

フレームワーク・コア:6つの機能

NIST CSF 2.0の「コア」は、サイバーセキュリティ対策のライフサイクル全体をカバーする以下の6つの機能で構成されています。これはCSF 1.1の5つの機能に「統治」が追加されたものです。

機能 (Function) 英語表記 (略称) 目的 主な活動例
統治 Govern (GV) 組織のサイバーセキュリティリスク管理戦略、期待事項、方針を確立し、伝達し、監視する。 リスク管理戦略策定、役割と責任の明確化、ポリシー策定、サプライチェーンリスク管理など
特定 Identify (ID) サイバーセキュリティリスク管理に関連する、組織の現在のリスクを理解する。 資産管理、リスクアセスメント、脅威情報の収集・分析など
防御 Protect (PR) サイバーセキュリティインシデントの発生可能性を封じ込め、あるいは抑止するための対策手段を使用する。 アクセス制御、データ保護、セキュリティ意識向上トレーニング、技術的な防御策の実装など
検知 Detect (DE) サイバーセキュリティインシデントの存在を発見し、識別する。 異常やイベントの監視、セキュリティ情報の分析、継続的な監視体制の構築など
対応 Respond (RS) 検知されたサイバーセキュリティインシデントの影響を封じ込めるための対策手段を使用する。 インシデント対応計画の策定と実行、情報共有、被害の分析と軽減など
復旧 Recover (RC) サイバーセキュリティインシデントによって侵害された能力やサービスを回復し、元に戻すための対策手段を使用する。 復旧計画の策定と実行、システムの復元、インシデント後の改善活動など

これらの機能は、それぞれ独立しているわけではなく、相互に関連し合いながら、継続的に実施されることが重要です。特に新しい「統治」機能は、他の5つの機能全体を支え、組織全体の戦略と連携させる役割を担います。

NIST CSF 2.0での主な変更点

2024年2月に公開されたNIST CSF 2.0では、いくつかの重要な変更点があります。

  • 対象範囲の拡大: これまでの重要インフラだけでなく、あらゆる規模、業種の組織(中小企業やスタートアップ含む)が利用しやすいように改訂されました。
  • 「統治 (Govern)」機能の追加: 上記の表で示した通り、新たに「統治」機能が追加され、経営層の関与や組織全体でのリスク管理の重要性が強調されました。
  • 実装例とガイダンスの強化: 各対策項目について、具体的な実装例(どうやればいいか)やテンプレートが提供され、より実践的に活用しやすくなりました。
  • サプライチェーンリスク管理の重視: 取引先などを含むサプライチェーン全体でのセキュリティリスク管理の重要性が、より明確に示されました。
  • 継続的な改善の強調: 一度対策したら終わりではなく、継続的に見直し、改善していくことの重要性が改めて強調されています。

NIST CSFを活用するメリット

NIST CSFを活用することには、多くのメリットがあります。

  • 体系的なリスク管理: 自社のセキュリティ対策状況を客観的に把握し、弱点を特定して、優先順位をつけて対策を進めることができます。
  • コミュニケーションの促進: 経営層、現場担当者、取引先など、関係者間でセキュリティに関する共通言語を持つことができ、円滑なコミュニケーションが可能になります。
  • 説明責任の向上: 顧客や株主などのステークホルダーに対して、自社のセキュリティ対策状況を客観的な指標で説明しやすくなります。
  • 法規制・標準への対応: GDPR(EU一般データ保護規則)や日本のサイバーセキュリティ経営ガイドラインなど、他の規制や標準とも整合性が高く、コンプライアンス対応にも役立ちます。
  • 投資対効果の明確化: どこに投資すべきかが明確になり、セキュリティ投資の効果を測りやすくなります。
  • 国際的な信頼性: 世界中で広く使われているフレームワークであるため、準拠することで国際的な取引における信頼性が向上します。

NIST CSFの活用事例

NIST CSFは、特定の業界や大企業だけでなく、中小企業を含む様々な組織で活用されています。

  • 金融サービス業界: 米国の金融機関では、業界固有のリスクに対応するためのプロファイルを作成し、CSFを活用しています。
  • 医療業界: 患者情報の保護や医療機器のセキュリティ確保のために、HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)などの規制要件と合わせてCSFを活用しています。
  • 製造業: 工場の制御システム(OT: Operational Technology)のセキュリティ対策を強化するためにCSFを参照するケースが増えています。
  • 日本国内企業: 経済産業省が策定した「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」もNIST CSFを参考にしています。多くの日本企業が、自社のセキュリティ対策基準の策定や評価にNIST CSFを活用しています。特に海外拠点を持つ企業や、グローバルなサプライチェーンに関わる企業での採用が進んでいます。
  • 中小企業: CSF 2.0では中小企業向けのガイダンスも強化されており、リソースが限られる中でも効果的なセキュリティ対策を計画・実行するための指針として活用できます。

具体的な企業名は公表されていないことが多いですが、業種を問わず、セキュリティ対策の「共通言語」として、また、自社の対策レベルを評価・向上させるためのツールとして広く受け入れられています。

まとめ:NIST CSFでセキュリティ対策の一歩を踏み出そう!

NIST CSFは、サイバー攻撃の脅威が高まる現代において、組織がセキュリティ対策を進める上で非常に役立つフレームワークです。

特にCSF 2.0では、あらゆる組織が利用しやすくなり、経営層の関与や実践的なガイダンスが強化されました。

「どこから手をつければ良いかわからない」「自社の対策が十分か不安」と感じている方は、まずNIST CSFを参照し、自社の現状把握から始めてみてはいかがでしょうか。

NISTの公式サイトでは、CSF 2.0本体や関連資料(一部日本語訳あり)が公開されています。ぜひチェックしてみてくださいね!

NIST Cybersecurity Framework 公式サイト (英語) NIST CSF 2.0 日本語リソース

※ 日本語リソースのリンク先は変更される可能性があります。

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