TOGAFって何? 企業の設計図を作るための世界標準フレームワーク入門

初心者向けにエンタープライズアーキテクチャの世界を覗いてみよう!

はじめに:TOGAFは企業の「街づくり計画」

「TOGAF」(トーガフと読みます)という言葉を聞いたことがありますか? ITの世界、特に大企業のシステム開発や改善に関わっていると耳にするかもしれません。 でも、「なんだか難しそう…」と感じる方も多いでしょう。

簡単に言うと、TOGAFは企業全体のシステムや業務を、将来を見据えて最適に設計(デザイン)するための「やり方」や「考え方」をまとめたものです。 まるで、都市計画家が街全体の道路、建物、水道、電気などを効率よく配置・連携させる計画を立てるように、企業全体のITシステムや業務プロセスを整理し、将来の目標達成に向けて最適な形にしていくためのガイドラインなのです。

なぜTOGAFが必要なの?

企業が成長していく中で、様々なシステムが部署ごとに追加されたり、古いシステムが残ったままになったりすることがよくあります。その結果…

  • システム同士がうまく連携できない
  • 似たような機能を持つシステムが乱立して、無駄なコストがかかる
  • 新しいビジネスの変化に素早く対応できない
  • 全体像が把握できず、どこに問題があるのか分かりにくい

こんな「スパゲッティ状態」 や「サイロ化(部署ごとの孤立)」を防ぎ、企業全体として効率よく、柔軟に動けるようにするために、しっかりとした設計図(エンタープライズアーキテクチャ)と、それを作るための共通言語・手法が必要になります。TOGAFは、そのための強力なツールキットなのです。

TOGAFの主な構成要素

TOGAFはいくつかの主要な要素から成り立っています。ここでは代表的なものを紹介します。

構成要素簡単な説明イメージ
ADM (Architecture Development Method)TOGAFの中核となる、アーキテクチャを開発するためのステップ・バイ・ステップのプロセス。繰り返し実行可能なサイクルになっています。これが「設計の進め方」。 設計プロセス
エンタープライズコンティニュアム & ツール再利用可能なアーキテクチャ資産(過去の設計図やテンプレート、業界標準モデルなど)を分類・整理し、活用するための考え方やツール群。 参考資料・部品箱
TOGAF参照モデル (TRM / III-RM)具体的なアーキテクチャを考える際の土台となる、汎用的なモデル。TRMは技術的な基盤、III-RMは情報システムの境界を定義します。 標準的な設計図テンプレート
アーキテクチャケイパビリティフレームワーク企業内でアーキテクチャ設計・管理を行うための組織、プロセス、スキル、役割などを定義・整備するための考え方。 設計チームの体制づくり

特に重要なのが ADM (Architecture Development Method) です。これは、実際にアーキテクチャをどのように作っていくかの具体的な手順を示しています。

ADM:アーキテクチャ開発の流れ

ADMは、企業のアーキテクチャを計画、設計、実装、管理するための一連のフェーズ(段階)から構成される、繰り返しのサイクルです。家を建てるプロセスに例えてみましょう。

  1. 準備フェーズ (Preliminary Phase): 家づくりの準備。どんな家を建てたいか、予算はいくらか、どんな体制で進めるかを決めます。(アーキテクチャ活動の準備、原則決定)
  2. フェーズA: アーキテクチャビジョン: どんな家(システム・業務)を目指すのか、完成予想図を描き、関係者と合意します。(目標設定、スコープ定義)
  3. フェーズB: ビジネスアーキテクチャ: 家の「間取り」や「使い方」を考えます。(業務プロセス、組織構造の設計)
  4. フェーズC: 情報システムアーキテクチャ: 家の「設備」(電気、水道、ガスなど)を考えます。(データ構造、アプリケーション構成の設計)
  5. フェーズD: テクノロジーアーキテクチャ: 家の「建材」や「基礎」を選びます。(ITインフラ、ネットワーク、ハードウェア/ソフトウェアの選定・設計)
  6. フェーズE: 機会とソリューション: 具体的な「工事計画」を立て、必要な部品や業者を選びます。(実現可能な解決策の特定、移行計画の概要作成)
  7. フェーズF: 移行計画: 詳細な「引っ越し・工事スケジュール」を作成します。(具体的なプロジェクト計画、コスト見積もり)
  8. フェーズG: 実装ガバナンス: 工事が計画通りに進んでいるか「現場監督」がチェックします。(プロジェクトの監視、品質管理)
  9. フェーズH: アーキテクチャ変更管理: 家が完成した後も、必要に応じて「リフォーム」や「メンテナンス」を行います。(アーキテクチャの維持管理、変更要求への対応)
  10. 要求管理 (Requirements Management): 全てのフェーズを通じて、施主(関係者)からの「要望」を常に管理します。(要求事項の収集、分析、優先順位付け)

このように、ADMは段階的に、しかし繰り返し改善しながらアーキテクチャを作り上げていくための、体系的なプロセスを提供します。

最新のバージョンは「TOGAF Standard, Version 10」(2022年リリース)で、よりモジュール化され、アジャイル開発など現代的なアプローチとの連携も考慮されています。

TOGAFを使うメリット

企業がTOGAFを導入・活用することには、多くのメリットがあります。

  • 標準化と共通言語: 関係者間で共通の言葉やプロセスで話せるようになり、認識のズレを防ぎます。
  • 効率化とコスト削減: システムの重複をなくしたり、再利用可能な部品を活用したりすることで、開発・運用コストを削減できます。
  • リスク低減: 全体像を把握しやすくなり、変更による影響範囲を特定しやすくなるため、システム導入・変更のリスクを減らせます。
  • ビジネス変化への対応力向上: 柔軟で変更しやすいアーキテクチャを構築することで、市場の変化や新しいビジネス要求に迅速に対応できるようになります(俊敏性・アジリティの向上)。
  • 意思決定の質向上: ビジネス目標とIT戦略が整合しているかを確認しやすくなり、より良い投資判断が可能になります。

どんな人が使うの?

TOGAFは主に以下のような人々や組織で利用されています。

  • エンタープライズアーキテクト: 企業全体のITや業務の設計図を描く専門家。まさにTOGAFの知識が活かせる職種です。
  • ITコンサルタント: 企業のIT戦略立案やシステム導入を支援する際に、TOGAFをフレームワークとして活用します。
  • 大企業のIT部門・企画部門: 自社のITシステム全体を管理・最適化するために導入・活用しています。
  • 政府機関: 公共サービスを提供するシステムの標準化や効率化のために利用されることもあります。

The Open Groupが提供するTOGAF認定資格もあり、エンタープライズアーキテクチャ分野での専門性を示す指標として広く認知されています。

まとめ

TOGAFは、複雑化する企業のITシステムや業務を整理し、将来の目標達成に向けて最適化するための強力なフレームワークです。都市計画のように、全体を見渡した設計図を描くための考え方や手法を提供してくれます。

すぐに全てを理解する必要はありませんが、「企業全体の設計図を作るための世界標準のやり方なんだな」というイメージを持っていただけたら嬉しいです。

もし、さらに詳しく知りたい場合は、TOGAFを管理している「The Open Group」の公式ウェブサイトなどを参照してみてくださいね。

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