もう怖くない! ゼロトラストネットワーク入門

「何も信頼しない」新しいセキュリティの考え方

ゼロトラストネットワークって何?

ゼロトラストネットワーク(Zero Trust Network)とは、文字通り「何も信頼しない (Zero Trust)」という考え方に基づいた、新しいネットワークセキュリティのモデルです。

これまでのセキュリティは、「社内ネットワークは安全」「社外ネットワークは危険」という前提で、社内と社外の境界線(境界)を守る「境界型防御」が主流でした。「お城の周りにお堀を掘って守る」イメージですね。

しかし、クラウドサービス(SaaSなど)の普及や、テレワークの増加によって、社内と社外の境界が曖昧になってきました。自宅やカフェから会社のデータにアクセスしたり、会社のデータをクラウド上に保存したりするのが当たり前になったのです。

このような状況では、境界だけを守っていても、内部に侵入されたり、許可されたユーザーが悪意を持ったりした場合(内部不正)に対応できません。

そこで登場したのがゼロトラストです。ゼロトラストは、アクセスする場所(社内か社外か)に関わらず、「すべてのアクセスを信頼せず、常に検証する」ことを基本原則とします。アクセスするたびに「あなた本当に大丈夫? 」と確認するイメージです。

この考え方は、2010年頃に米国の調査会社 Forrester Research社のアナリストによって提唱されました。近年、働き方の変化やサイバー攻撃の巧妙化を受けて、ますます重要性が高まっています。

なぜゼロトラストが必要なの?

従来の境界型防御モデルには、現代の働き方やIT環境においていくつかの問題点が出てきました。

  • クラウドサービスの普及: 会社の重要なデータが社外のクラウド上に置かれることが増え、境界線の意味が薄れた。
  • 働き方の多様化 (テレワークなど): 社外から社内システムへのアクセスが増加。自宅のWi-Fiなど、セキュリティ強度が低い可能性のあるネットワークからの接続も増えた。
  • デバイスの多様化 (BYODなど): 個人のスマートフォンやPCから業務システムにアクセスする機会が増え、管理されていない端末からのアクセスリスクが高まった。
  • サイバー攻撃の巧妙化: 標的型攻撃や内部不正など、境界線の内側を狙った攻撃や、内部からの情報漏洩リスクに対応する必要が出てきた。
  • VPNの限界: テレワークの急増でVPN(Virtual Private Network)の負荷が増大し、通信が遅くなったり、VPN自体の脆弱性が狙われたりするケースも出てきた。

これらの課題に対応するために、「すべてを疑う」ゼロトラストの考え方が必要とされているのです。

境界型防御 vs ゼロトラスト

観点 境界型防御モデル ゼロトラストモデル
基本的な考え方 社内は信頼、社外は疑う (Trust, but verify) すべて信頼せず、常に検証する (Never Trust, Always Verify)
守る対象 ネットワークの境界線 (お堀) データ、ID、デバイス、アプリケーションなど個々のリソース
アクセスの検証 主に境界通過時に検証 すべてのアクセス要求ごとに毎回検証
ネットワーク 社内ネットワークを信頼 すべてのネットワークを潜在的に危険とみなす
主な対策 ファイアウォール、VPN、プロキシなど 多要素認証(MFA)、ID管理、デバイス管理、マイクロセグメンテーション、アクセス制御、ログ監視など

ゼロトラストのコア原則

ゼロトラストを実現するためには、いくつかの重要な原則があります。

  1. 常に検証する (Verify Explicitly): ユーザーIDやパスワードだけでなく、使用しているデバイスの状態、場所、アクセス先の情報など、利用可能なあらゆる情報に基づいて、アクセス要求ごとに認証と認可を行う。
  2. 最小権限の原則 (Use Least Privilege Access): ユーザーやデバイスには、業務に必要な最小限のアクセス権限のみを与える。必要以上の権限を与えないことで、万が一侵害された場合の被害を最小限に抑える。
  3. 侵害を前提とする (Assume Breach): 攻撃者はすでにネットワーク内にいる、またはいつ侵入してきてもおかしくない、という前提で対策を講じる。ネットワークを細かく分割(マイクロセグメンテーション)し、仮に一部が侵害されても被害が広がらないようにする。

これらの原則に基づき、ID管理、デバイス管理、ネットワーク制御、アプリケーション保護、データ保護、そしてそれらを継続的に監視・分析する仕組みを組み合わせて、ゼロトラスト環境を構築します。

ゼロトラストのメリット

ゼロトラストを導入することには、多くのメリットがあります。

  • セキュリティレベルの向上: 社内外問わずすべてのアクセスを検証するため、不正アクセスやマルウェア感染、内部不正のリスクを大幅に低減できる。
  • 安全なリモートワーク/ハイブリッドワークの実現: 場所やデバイスに依存せず、安全に社内リソースやクラウドサービスへアクセスできるようになり、多様な働き方を支援する。
  • クラウドサービス利用の促進: クラウド環境を含めた統一的なセキュリティポリシーを適用でき、安心してクラウドサービスを活用できる。
  • IT運用管理の効率化: 複数のセキュリティ対策を統合的に管理できる場合があり、運用負荷を軽減できる可能性がある。
  • コンプライアンス対応の強化: アクセスログの取得や厳格なアクセス制御により、各種規制やガイドラインへの準拠を支援する。

ゼロトラスト導入の注意点・課題

多くのメリットがある一方で、ゼロトラスト導入にはいくつかの注意点や課題も存在します。

  • 導入・運用コスト: 新しいツールの導入や既存システムの改修、運用体制の構築にコストや工数がかかる場合がある。
  • 複雑さ: 複数のセキュリティ技術を連携させる必要があり、設計や実装が複雑になることがある。
  • 利便性への影響: 認証の頻度が増えるなど、適切な設計や設定を行わないと、ユーザーの利便性が低下する可能性がある。(例:アクセスするたびに何度も認証を求められるなど)
  • 段階的な導入が必要: 一気にすべてのシステムをゼロトラスト化するのは難しいため、多くの場合、優先順位をつけて段階的に導入を進める必要がある。

導入を検討する際は、自社の現状の課題や目指す姿を明確にし、中長期的な視点で計画を立てることが重要です。

まとめ

ゼロトラストは、「何も信頼しない、常に検証する」という考え方に基づく、現代のIT環境に適したセキュリティモデルです。 クラウドやテレワークが普及し、サイバー攻撃が巧妙化する中で、従来の境界型防御の限界を補い、より強固なセキュリティを実現します。

導入にはコストや複雑さといった課題もありますが、セキュリティ強化、多様な働き方の実現といった大きなメリットがあります。 自社の状況に合わせて、段階的にでもゼロトラストの考え方を取り入れていくことが、これからのビジネスを守る上で重要になっていくでしょう。

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