DevSecOps入門:開発とセキュリティを融合させる新しい考え方

はじめに:DevSecOpsって何だろう?

こんにちは! 最近、ITの世界で「DevSecOps(デブセックオプス)」という言葉をよく耳にするようになりましたね。でも、「DevOpsは聞いたことあるけど、Secって何?」とか「具体的に何をするの?」と思っている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、そんなDevSecOpsについて、初心者の方にも分かりやすく、基礎から解説していきます。開発スピードとセキュリティを両立させるための重要な考え方なので、ぜひ一緒に学んでいきましょう!

DevSecOpsの基本的な意味

DevSecOpsは、「Development(開発)」「Security(セキュリティ)」「Operations(運用)」の3つの言葉を組み合わせた造語です。

すごく簡単に言うと、ソフトウェア開発のライフサイクル全体(企画、設計、開発、テスト、デプロイ、運用)に、最初からセキュリティ対策を組み込んでいこう!という考え方や文化、そしてそのための実践方法のことです。

従来の開発プロセスでは、セキュリティ対策は開発の最後の方や、リリース後に行われることが一般的でした。しかし、それでは問題が見つかった時に手戻りが大きくなったり、脆弱性が見逃されたりするリスクがありました。

DevSecOpsでは、開発チーム、セキュリティチーム、運用チームが密に連携し、開発の初期段階からセキュリティを考慮することで、より安全で高品質なソフトウェアを、より迅速にリリースすることを目指します。これをセキュリティ対策を開発プロセスの早い段階(左側)に移行させることから「シフトレフト」と呼んだりもします。

DevSecOpsの「2つの側面」

DevSecOpsは、単一のツールや技術を指すのではなく、もう少し広い意味合いを持っています。大きく分けて、以下の2つの側面から理解すると分かりやすいでしょう。

  1. 文化・考え方としてのDevSecOps :
    • 開発者、セキュリティ担当者、運用担当者が、それぞれの役割の壁を越えて協力し合う文化を醸成すること。
    • 「セキュリティは全員の責任」という意識を共有し、開発の初期段階からセキュリティを当たり前のこととして組み込むマインドセットを持つこと。
    • 継続的な学習と改善を通じて、セキュリティプラクティスを進化させていくこと。
  2. 具体的な実践・ツールとしてのDevSecOps :
    • セキュリティ要件を開発プロセスに統合すること。
    • セキュリティテスト(脆弱性スキャンなど)を自動化し、CI/CDパイプライン(※)に組み込むこと。
    • Infrastructure as Code (IaC) を活用して、インフラのセキュリティ設定をコードで管理し、自動化すること。
    • 脅威モデリングやセキュリティレビューを開発の早い段階で実施すること。
    • セキュリティ監視やインシデント対応のプロセスを確立し、自動化を取り入れること。

※ CI/CDパイプライン: Continuous Integration(継続的インテグレーション)/ Continuous Delivery(継続的デリバリー)の略。ソフトウェアのビルド、テスト、デプロイを自動化する仕組みのこと。

このように、DevSecOpsは文化的な変革と、それを支える具体的な技術やツールの導入の両輪で進められます。

なぜ今、DevSecOpsが必要なのか?

DevSecOpsが注目される背景には、いくつかの理由があります。

  • 開発スピードの高速化(アジャイル開発、DevOpsの普及): ソフトウェア開発のサイクルが短くなり、従来の「後付け」のセキュリティ対策では追いつかなくなってきた。
  • サイバー攻撃の高度化・増加: 企業のシステムを狙った巧妙なサイバー攻撃が増え、セキュリティ対策の重要性が増している。
  • クラウドネイティブ技術の普及: コンテナやマイクロサービスなどの新しい技術が登場し、これらに対応したセキュリティ対策が必要になった。
  • コンプライアンス要件の厳格化: GDPRや個人情報保護法など、データ保護に関する規制が強化され、セキュリティ遵守が不可欠になった。

これらの変化に対応し、速い開発スピードを維持しつつ、セキュリティもしっかり確保するために、DevSecOpsのアプローチが不可欠になってきているのです。

DevSecOpsのメリット

DevSecOpsを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。

  • セキュリティリスクの低減: 開発初期からセキュリティを組み込むことで、脆弱性の発見と修正が早期に行われ、リリース後の重大なセキュリティインシデントを防ぎやすくなります。
  • 開発スピードの向上: セキュリティテストの自動化などにより、手動でのチェック工程が削減され、開発プロセス全体のスピードアップにつながります。セキュリティ起因の手戻りも減らせます。
  • コスト削減: 開発の後工程で脆弱性が発見されると、修正コストは非常に高くなります。早期発見・早期修正により、トータルコストを削減できます。
  • チーム間の連携強化: 開発・セキュリティ・運用の各チームが協力することで、コミュニケーションが円滑になり、組織全体の生産性が向上します。
  • コンプライアンス遵守の強化: セキュリティ対策がプロセスに組み込まれることで、各種規制や基準への対応が容易になります。
  • 信頼性の向上: 安全な製品・サービスを提供することで、顧客からの信頼を得やすくなります。

DevSecOpsのデメリット・課題

多くのメリットがある一方で、DevSecOpsの導入にはいくつかの課題も存在します。

  • 文化変革の難しさ: 従来の縦割り組織の意識を変え、「セキュリティは全員の責任」という文化を根付かせるには時間と労力がかかります。
  • ツール導入のコストと学習: セキュリティテストツールや自動化ツールなどの導入にはコストがかかり、ツールの使い方を習得する必要もあります。
  • スキルセットの必要性: 開発者にも基本的なセキュリティ知識が求められたり、セキュリティ担当者にも開発プロセスへの理解が必要になったりします。
  • 初期段階での負荷増: 導入初期には、プロセスの見直しやツールの設定などで一時的に負荷が増加する可能性があります。
  • 適切なツールの選定: 市場には多くのDevSecOps関連ツールがあり、自社の環境や開発プロセスに合った適切なツールを選定することが重要です。

DevSecOpsの具体的なプラクティス例

DevSecOpsを実現するためには、様々な技術やツール、手法が用いられます。ここでは代表的なものをいくつか紹介します。

プラクティス名 概要 主な目的・効果
SAST (Static Application Security Testing)
静的アプリケーションセキュリティテスト
ソースコードを直接解析し、コーディング上の脆弱性やセキュリティ上の問題点を見つけ出すテスト手法。ビルド時やコミット時に自動実行されることが多い。 コーディング段階での早期の脆弱性発見、セキュアコーディングの促進。
DAST (Dynamic Application Security Testing)
動的アプリケーションセキュリティテスト
実際にアプリケーションを動作させ、外部から疑似的な攻撃リクエストを送ることで、実行時に現れる脆弱性を検出するテスト手法。テスト環境やステージング環境で実行される。 実行環境での脆弱性(設定ミス、認証不備など)の発見。
SCA (Software Composition Analysis)
ソフトウェア構成分析
利用しているオープンソースソフトウェア(OSS)やライブラリに含まれる既知の脆弱性やライセンス違反を検出する。 サプライチェーンリスクの管理、ライセンスコンプライアンスの確保。
IaC (Infrastructure as Code) セキュリティ TerraformやCloudFormationなどのコードで定義されたインフラ構成ファイルをスキャンし、セキュリティ設定の不備や脆弱性を検出する。 インフラ構築段階でのセキュリティリスク低減、設定ミス防止。
コンテナセキュリティスキャン Dockerイメージなどのコンテナイメージに含まれるOSパッケージやライブラリの脆弱性をスキャンする。 コンテナ環境のセキュリティ確保。
脅威モデリング 開発の初期段階(設計段階など)で、システムに対する潜在的な脅威を洗い出し、対策を検討するプロセス。 設計レベルでのセキュリティリスクの特定と対策。
セキュリティガードレール CI/CDパイプラインなどにセキュリティチェックを組み込み、一定の基準を満たさない場合はデプロイを自動的に停止するなどの仕組み。 安全でないコードや設定の本番環境へのデプロイ防止。
継続的な監視とログ分析 本番環境でのセキュリティイベントをリアルタイムで監視し、ログを分析して異常や攻撃の兆候を検知する。 インシデントの早期発見と対応。

これらのプラクティスを、開発ライフサイクルの適切な段階で自動化して組み込むことが、DevSecOpsの鍵となります。

DevSecOpsの導入事例

DevSecOpsは、特定の業界に限らず、多くの企業で導入が進んでいます。

  • 金融機関: 顧客情報や取引データを扱う金融機関では、セキュリティは最重要課題です。大手銀行や証券会社では、アジャイル開発と並行してDevSecOpsを導入し、安全な金融サービスを迅速に提供する取り組みが進んでいます。例えば、2010年代後半から、多くの金融機関がCI/CDパイプラインへのセキュリティテスト自動化(SAST/DAST)の組み込みを開始しました。
  • Eコマース企業: 大量のアクセスと決済処理を扱うEコマースサイトでは、システムの安定性とセキュリティが不可欠です。頻繁な機能リリースとセキュリティ確保を両立させるため、自動化されたセキュリティテストやインフラのコード化(IaC)によるセキュリティ強化が進められています。
  • テクノロジー企業: GoogleやNetflix、Amazonなどの大手テクノロジー企業は、DevOpsやDevSecOpsの先進的な事例として知られています。彼らは独自のツールやプラットフォームを開発し、開発プロセス全体にセキュリティを深く統合しています。(これらの企業の取り組みは2010年代初頭から見られます)
  • 政府機関: 米国防総省など、一部の政府機関でも、ソフトウェア開発の近代化とセキュリティ強化のためにDevSecOpsの導入が進められています。Platform Oneのような取り組みが知られています。

これらの事例に共通するのは、単にツールを導入するだけでなく、組織文化の変革にも力を入れている点です。経営層のコミットメントのもと、部門間の連携を促進し、継続的な改善を行っています。

まとめ

DevSecOpsは、「開発スピード」と「セキュリティ」をトレードオフの関係ではなく、両立させるための重要なアプローチです。

それは、単なるツールの導入だけでなく、開発・セキュリティ・運用チームが一体となって協力し、「セキュリティは全員の責任」という文化を育むことが核心にあります。

DevSecOpsを導入することで、より安全なソフトウェアを、より迅速にユーザーへ届けられるようになります。導入には課題もありますが、そのメリットは非常に大きいと言えるでしょう。

この記事が、DevSecOpsを理解する第一歩となれば幸いです!

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