Metasploit Frameworkの`msf-hmac_sha1_crack`徹底解説 🔑

セキュリティツール

HMAC-SHA1ハッシュの解析とキー特定への挑戦

はじめに:HMAC-SHA1とは?なぜクラックが必要なのか?

現代のデジタル社会では、情報の完全性と認証が極めて重要です。HMAC(Hash-based Message Authentication Code)は、メッセージが改ざんされていないこと、そして送信者が本物であることを保証するための仕組みの一つです。特にHMAC-SHA1は、ハッシュ関数としてSHA-1を利用したHMACアルゴリズムを指します。

HMACは、共有された秘密鍵とメッセージデータを組み合わせてハッシュ値を計算します。受信側は同じ秘密鍵と受信したメッセージデータを使ってハッシュ値を計算し、送信されてきたハッシュ値と比較することで、データの完全性と送信者の認証を行います。この仕組みの安全性は、主に秘密鍵の機密性に依存しています。🔑

では、なぜHMAC-SHA1の「クラック」が必要になるのでしょうか? セキュリティの文脈、特にペネトレーションテストや脆弱性診断においては、システムの堅牢性を評価するために、意図的に弱点を探し出す作業が行われます。もしHMAC-SHA1の秘密鍵が弱い(例えば、単純な単語や推測可能な文字列)場合、攻撃者は辞書攻撃などを用いて秘密鍵を特定しようと試みる可能性があります。

ここで登場するのが、Metasploit Frameworkに含まれるツール、msf-hmac_sha1_crackです。このツールは、既知のデータとHMAC-SHA1ハッシュ値、そして辞書ファイル(パスワード候補リスト)を用いて、元の秘密鍵を特定することを試みるものです。⚠️ これは、弱い鍵が使用されていないか、あるいは鍵管理に不備がないかを検証する上で役立ちます。

注意: このツールの使用は、必ず許可されたシステムに対して、正当な目的(セキュリティ評価など)のためにのみ行ってください。不正な目的での使用は法律で禁止されています。

Metasploit Frameworkと`msf-hmac_sha1_crack`の位置づけ

Metasploit Frameworkは、Rapid7社が開発・提供する、世界で最も広く利用されているペネトレーションテストツールの一つです。脆弱性の発見、エクスプロイトコードの開発・実行、ペイロードの生成、情報収集など、セキュリティ評価に必要な多くの機能を提供します。Metasploitはモジュール構造になっており、様々な機能が独立したモジュールとして提供されています。

msf-hmac_sha1_crackは、Metasploit FrameworkのAuxiliary (補助) モジュールの一つとして位置づけられています。Auxiliaryモジュールは、直接的なシステム侵入(Exploit)を目的とせず、情報収集、スキャン、サービス拒否(DoS)、そして今回のようなハッシュ解析など、様々な補助的なタスクを実行するために使用されます。

具体的には、msf-hmac_sha1_crackauxiliary/analyze/hmac_sha1_crack というパスで識別されます。Metasploitの強力なエコシステムの一部として、他のモジュール(例えば、ネットワークサービスからHMACハッシュを収集するスキャナモジュールなど)と連携して使用されることもあります。

例として、2013年に公開されたIPMI 2.0のRAKP認証に関する脆弱性(CVE-2013-4786)では、特定の条件下でHMAC-SHA1ハッシュを取得できる可能性がありました。Metasploitにはこの脆弱性を利用してハッシュを取得するモジュール (auxiliary/scanner/ipmi/ipmi_dumphashes) があり、取得したハッシュをmsf-hmac_sha1_crackで解析するという連携が考えられます。

Metasploitのモジュールタイプ

Metasploit Frameworkには、主に以下のタイプのモジュールがあります。
  • Exploits: 脆弱性を利用してターゲットシステム上でコードを実行するモジュール。
  • Payloads: Exploit成功後にターゲットシステム上で実行されるコード(シェル、メータープリターなど)。
  • Auxiliary: スキャン、ファジング、DoS、情報収集、ハッシュ解析など、Exploit以外の補助的な機能を提供するモジュール。
  • Post: Exploit成功後にターゲットシステム上で実行し、さらなる情報収集や権限昇格などを行うモジュール。
  • Encoders: ペイロードを難読化し、検出を回避するためのモジュール。
  • Nops: ペイロードのサイズ調整や実行安定化のために使われるNo-Operationコードを生成するモジュール。

`msf-hmac_sha1_crack`の基本的な使い方 ⚙️

msf-hmac_sha1_crackモジュールを使用するには、まずMetasploit Frameworkのコンソール (msfconsole) を起動します。


$ msfconsole
      

コンソールが起動したら、以下の手順でモジュールを選択し、設定、実行します。

  1. モジュールの選択: use コマンドでauxiliary/analyze/hmac_sha1_crackを選択します。
    
    msf6 > use auxiliary/analyze/hmac_sha1_crack
              
  2. オプションの確認: show options コマンドで、設定が必要なオプションとその説明を確認します。
    
    msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > show options
    
    Module options (auxiliary/analyze/hmac_sha1_crack):
    
       Name      Current Setting  Required  Description
       ----      ---------------  --------  -----------
       DATA                       yes       Known data used in the HMAC calculation
       HASH                       yes       The known HMAC-SHA1 hash
       KEY                        no        Known key to test (optional, overrides WORDLIST)
       THREADS   1                yes       Number of threads to use
       WORDLIST                   no        Path to a wordlist file containing keys to test
    
    View the full module info with the info command.
              
    必須 (Required: yes) のオプションはDATAHASHです。これらは必ず設定する必要があります。 KEYまたはWORDLISTのいずれかを設定する必要があります。KEYを設定すると、特定のキーが正しいか検証します。WORDLISTを設定すると、ファイル内の各単語をキーとして試行する辞書攻撃を行います。
  3. オプションの設定: set コマンドで各オプションに値を設定します。
    • DATA: HMAC計算に使用された元のデータ(文字列)。
    • HASH: 解析対象のHMAC-SHA1ハッシュ値(16進数文字列)。
    • WORDLIST: 試行するキー候補が記述されたファイルへのパス。Metasploitにはデフォルトでいくつかの辞書ファイルが含まれています(例: /usr/share/metasploit-framework/data/wordlists/password.lst など、環境によってパスは異なります)。
    • THREADS: 解析に使用するスレッド数(並列処理数)。デフォルトは1です。

    設定例:

    
    msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > set DATA "This is the data to hash"
    DATA => This is the data to hash
    msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > set HASH 9e47e0e4fe94c0a8b35a6f426c4a591f6d190a55
    HASH => 9e47e0e4fe94c0a8b35a6f426c4a591f6d190a55
    msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > set WORDLIST /usr/share/metasploit-framework/data/wordlists/password.lst
    WORDLIST => /usr/share/metasploit-framework/data/wordlists/password.lst
    msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > set THREADS 4
    THREADS => 4
              
    ヒント💡: DATA に特殊文字(スペース、記号など)が含まれる場合は、ダブルクォーテーション(")で囲むと確実です。HASHは通常40文字の16進数文字列になります。
  4. 実行: run または exploit コマンドで解析を開始します。
    
    msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > run
              
  5. 結果の確認: 解析が実行され、WORDLIST内に正しいキーが見つかれば、以下のように表示されます。
    
    [*] Starting worker threads...
    [+] SUCCESS! Key found: 'secretkey' for hash 9e47e0e4fe94c0a8b35a6f426c4a591f6d190a55
    [*] Auxiliary module execution completed
              
    もしWORDLIST内にキーが見つからなかった場合は、その旨のメッセージが表示されて終了します。

オプション詳細解説 📊

msf-hmac_sha1_crackモジュールで利用可能なオプションについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

オプション名 必須 説明 設定例 備考
DATA Yes HMAC計算に使用された元のデータ(メッセージ)。文字列として指定します。 set DATA "message body" バイナリデータや特殊文字を含む場合は、適切なエスケープが必要になることがあります。Metasploitコンソールでの入力方法に注意してください。
HASH Yes 解析対象のHMAC-SHA1ハッシュ値。40文字の16進数文字列として指定します。 set HASH 9e47e0e4fe94c0a8b35a6f426c4a591f6d190a55 “0x”プレフィックスは不要です。
KEY No 既知のキーをテストする場合に指定します。このオプションを指定すると、WORDLISTは無視されます。 set KEY secretkey 特定のキーが正しいかどうかの検証に利用できます。
WORDLIST No (ただしKEY未指定時は実質必須) キー候補が1行に1つずつ記述された辞書ファイルへのパスを指定します。 set WORDLIST /path/to/your/wordlist.txt 大規模な辞書ファイルを使用すると、解析に時間がかかります。効率的な辞書の選択が重要です。
THREADS Yes (デフォルト値あり) 解析に使用する並列処理のスレッド数を指定します。 set THREADS 8 CPUコア数に合わせて調整すると効率が向上しますが、増やしすぎるとシステムに負荷がかかります。デフォルトは1です。
VERBOSE No 詳細なデバッグ情報を表示するかどうか。通常はfalseで問題ありません。 set VERBOSE true 問題が発生した場合のトラブルシューティングに役立つことがあります。

応用的な使い方とシナリオ 🤔

msf-hmac_sha1_crackは、基本的な辞書攻撃以外にも、いくつかのシナリオで活用できます。

開発やデバッグの過程で、特定のキーとデータから生成されるHMAC-SHA1ハッシュが期待通りかを確認したい場合があります。この場合、WORDLISTの代わりにKEYオプションを使用します。


msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > set DATA "sample data"
DATA => sample data
msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > set KEY "mysecret"
KEY => mysecret
msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > set HASH known_hash_value # 事前に計算したハッシュ値を設定
HASH => known_hash_value
msf6 auxiliary(analyze/hmac_sha1_crack) > run
      

実行結果として “SUCCESS!” と表示されれば、指定したキー、データ、ハッシュ値の組み合わせが正しいことを確認できます。✅

一部のWebアプリケーションやAPIでは、セッション管理やリクエスト認証のためにHMAC-SHA1が使用されることがあります。例えば、Cookieに含まれるセッショントークンの一部が、ユーザーデータとサーバー側の秘密鍵から生成されたHMAC-SHA1である場合などです。

もし、HMAC計算に使用されるデータ(例えばユーザーIDやタイムスタンプなど)の形式が判明しており、かつサーバー側の秘密鍵が弱いものであった場合、漏洩したセッショントークン(HMACハッシュ値)と推測されるデータ形式から、msf-hmac_sha1_crackを用いて秘密鍵の特定を試みることができます。🔓

同様に、APIリクエストの署名にHMAC-SHA1が使われている場合、リクエストパラメータ(DATA)と署名(HASH)から、APIシークレットキー(KEY)の強度をテストする目的で使用される可能性があります。

重要な視点: このようなシナリオは、あくまでシステムのセキュリティ評価の一環として、許可された範囲で行われるべきです。実際の攻撃に利用することは厳禁です。

前述の通り、IPMI 2.0のRAKPプロトコルには、HMAC-SHA1でハッシュ化されたパスワード情報を取得できる脆弱性(CVE-2013-4786)が存在しました。Metasploitのauxiliary/scanner/ipmi/ipmi_dumphashesモジュールなどでこれらのハッシュを取得した場合、msf-hmac_sha1_crack(または、より高速な専用クラッキングツールであるHashcatやJohn the Ripper)を使用してオフラインでのパスワードクラッキングを試みることができます。この文脈では、HMACの「キー」がユーザーのパスワードに相当します。

ipmi_dumphashesモジュールは、取得したハッシュを指定したファイル形式(OUTPUT_FILEオプション)で保存する機能があり、その出力をmsf-hmac_sha1_crackや他のツールで利用することが想定されています。

HMAC-SHA1の安全性と注意点 ⚠️

msf-hmac_sha1_crackについて理解する上で、HMAC-SHA1自体の安全性と、ツール利用上の注意点を把握しておくことが重要です。

ハッシュ関数としてのSHA-1は、2017年にGoogleによって実用的な衝突攻撃(Collision Attack)が可能であることが示されました(SHAttered攻撃)。衝突攻撃とは、異なる入力データから同じハッシュ値を生成する攻撃です。これにより、デジタル署名の偽造などに悪用されるリスクが高まりました。そのため、現在ではSHA-1単体をセキュリティ目的(特にデジタル署名)で使用することは推奨されていません。多くのシステムやブラウザはSHA-1証明書の受け入れを停止しています。

しかし、HMAC-SHA1の安全性は、SHA-1単体の衝突耐性の脆弱性とは異なります。HMACの構成(秘密鍵を組み込む方法)により、単純な衝突攻撃はHMACのセキュリティを直接脅かすものではありません。2023年時点でも、HMAC-SHA1は、秘密鍵が十分に強力で、かつ秘密に保たれている限り、メッセージ認証コードとしては依然として安全であると考えられています。

ただし、以下の点には注意が必要です:

  • 鍵の強度: HMACの安全性は秘密鍵の強度に大きく依存します。msf-hmac_sha1_crackが対象とするのは、まさにこの「弱い鍵」が使われているケースです。鍵は十分に長く(推奨はハッシュ出力長以上、SHA-1なら20バイト=160ビット以上)、ランダムで予測困難であるべきです。
  • 鍵管理: 鍵が漏洩してしまえば、HMAC-SHA1であっても意味がありません。安全な鍵の生成、配布、保管、更新、廃棄といった鍵管理プロセスが不可欠です。
  • 将来的なリスク: SHA-1に対する攻撃手法は進化し続ける可能性があります。可能であれば、より新しいハッシュ関数(SHA-256など)に基づいたHMAC(HMAC-SHA256など)への移行を検討することが推奨されます。
  • 長さ伸長攻撃 (Length Extension Attack): HMAC構造は、MD5やSHA-1などのMerkle–Damgård構造に基づくハッシュ関数に見られる長さ伸長攻撃に対して耐性があります。これはHMACの利点の一つです。

msf-hmac_sha1_crackが行うのは基本的に辞書攻撃です。これは、事前に用意された単語リスト(辞書)に含まれる候補を一つずつ試す方法です。そのため、以下の限界があります。

  • キー空間の広さ: 秘密鍵が十分に長く、ランダムな文字列(例えば、大文字小文字数字記号を含む16文字以上など)であれば、辞書攻撃で発見することは現実的に不可能です。キー空間が広大すぎるため、総当たり攻撃に近い試行が必要となり、膨大な時間がかかります。
  • 辞書の質: 攻撃の成否は、使用する辞書の質に大きく依存します。ターゲットに関連する情報(組織名、ユーザー名、サービス名など)を含んだり、よく使われるパスワードパターンを網羅した、質の高い辞書が必要です。Metasploitに含まれるデフォルトの辞書は基本的なものなので、より効果的な解析のためには、目的に応じたカスタム辞書を用意することが一般的です。

繰り返しになりますが、msf-hmac_sha1_crackのようなパスワードクラッキングツールは、強力な機能を持つ一方で、悪用される危険性も伴います。

  • 許可なき使用の禁止: 自分自身が管理するシステム、または明確な許可を得たシステム以外に対して、このツールを使用してはいけません。
  • 法的規制の遵守: 多くの国や地域では、不正アクセスやコンピュータシステムへの侵入は法律で厳しく罰せられます。ツールの使用にあたっては、関連する法律や規制を必ず確認し、遵守してください。
  • 倫理的な責任: セキュリティ専門家として、技術的な知識やツールを倫理的に、社会に貢献する形で利用する責任があります。

まとめ 📝

msf-hmac_sha1_crackは、Metasploit Frameworkに含まれるAuxiliaryモジュールであり、HMAC-SHA1ハッシュ値と既知のデータ、そして辞書ファイルを用いて、元の秘密鍵を特定(クラック)することを試みるツールです。

主な特徴と用途は以下の通りです。

  • HMAC-SHA1で保護された情報において、弱い秘密鍵が使用されていないかを検証する。
  • 既知のキー、データ、ハッシュ値の組が正しいか検証する。
  • ペネトレーションテストや脆弱性診断の過程で、取得したHMAC-SHA1ハッシュ(例: IPMIのパスワードハッシュなど)を解析する。
  • 辞書攻撃によってキーを探索するため、キーが十分に強力であれば解析は困難。
  • 利用には、DATA, HASH, WORDLIST (または KEY) オプションの設定が必要。

HMAC-SHA1自体は、鍵が強力であれば依然として安全なメッセージ認証方式と考えられていますが、SHA-1の根本的な脆弱性への懸念から、可能であればHMAC-SHA256などへの移行が推奨されます。

このツールはセキュリティ評価において有用ですが、その使用は必ず倫理的かつ合法的な範囲に留めなければなりません。技術を正しく理解し、責任ある利用を心がけましょう。🛡️

参考情報 📚

より深く学ぶために、以下のリソースを参照することをお勧めします。

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