Sherlock: ユーザー名を横断検索!使い方と注意点を徹底解説

インターネット上に散らばる自分のアカウント、あるいは調査対象の人物がどのSNSやWebサイトに登録しているか、気になったことはありませんか? そんな時に役立つのが、オープンソースの強力なツール「Sherlock」です。

Sherlockは、指定したユーザー名が多数のソーシャルネットワークやウェブサイトで使用されているかを一括で検索してくれるコマンドラインツールです。OSINT(Open Source Intelligence)と呼ばれる、公開情報を活用した調査活動において非常に有用であり、サイバーセキュリティの専門家や調査員、あるいは単に自分のデジタルフットプリントを確認したい個人にとっても便利なツールと言えるでしょう。

この記事では、Sherlockの基本的な使い方から、少し応用的な活用方法、そして利用する上での重要な注意点まで、網羅的に解説していきます。Sherlockを正しく理解し、責任ある使い方を学びましょう!

Sherlockを利用するには、まずお使いの環境にインストールする必要があります。いくつかの方法がありますが、ここでは代表的なものを紹介します。

前提条件

SherlockはPythonで書かれているため、Python 3.6以上がインストールされている必要があります。多くの場合、最新のLinuxディストリビューションやmacOSにはデフォルトでPython 3がインストールされています。

Kali Linuxでの利用

ペネトレーションテストやデジタルフォレンジックに特化したLinuxディストリビューションであるKali Linuxでは、Sherlockが公式リポジトリに含まれている場合があります(バージョンによって異なります)。ターミナルを開き、以下のコマンドでインストールできます。

sudo apt update
sudo apt install sherlock

もし公式リポジトリに含まれていない場合や、より最新版を使いたい場合は、後述するpipやGitHubからのインストール方法を試してください。

pipを使ったインストール (推奨)

Pythonのパッケージ管理システムであるpipを使うのが、多くの環境で最も簡単で推奨される方法です。ターミナルで以下のコマンドを実行します。

python3 -m pip install sherlock-project

あるいは、より独立した環境で管理したい場合は `pipx` を使うことも推奨されています。

pipx install sherlock-project

GitHubからのインストール

開発中の最新機能などを試したい場合は、GitHubリポジトリから直接クローンしてインストールすることも可能です。

# リポジトリをクローン
git clone https://github.com/sherlock-project/sherlock.git

# ディレクトリを移動
cd sherlock

# 必要なライブラリをインストール
python3 -m pip install -r requirements.txt

この方法でインストールした場合、Sherlockを実行する際は `python3 sherlock.py` のようにスクリプトファイルを直接指定します。

Dockerを使った利用

Dockerがインストールされている環境であれば、Dockerイメージを使って環境を汚さずにSherlockを実行することもできます。

docker run -it --rm sherlock/sherlock <username>

これらの方法から、ご自身の環境や目的に合ったものを選んでインストールしてください。

Sherlockの基本的な使い方は非常にシンプルです。ターミナルで `sherlock` コマンドに続けて、検索したいユーザー名を入力するだけです。

sherlock <調べたいユーザー名>

例えば、「john_doe」というユーザー名を検索したい場合は、以下のように実行します。

sherlock john_doe

コマンドを実行すると、Sherlockは対応している数百のウェブサイトに対して、「john_doe」というユーザー名が存在するかどうかを確認し始めます。

検索結果はリアルタイムでターミナルに表示されます。

  • [+] が付いている行: 指定したユーザー名が見つかったサイトとそのURL
  • [-] が付いている行: 指定したユーザー名が見つからなかったサイト
  • [?] が付いている行: 接続エラーやタイムアウトなどで確認できなかったサイト

例えば、以下のような出力が得られます(一部抜粋)。

[*] Checking username john_doe on:
[+] GitHub: https://github.com/john_doe
[+] Instagram: https://www.instagram.com/john_doe
[-] Twitter: Not Found
[+] Reddit: https://www.reddit.com/user/john_doe
...

このように、見つかったアカウントのURLがリストアップされるため、そのユーザーがどのプラットフォームで活動しているかの概観を素早く掴むことができます。

Sherlockには、検索をより効率的かつ詳細に行うための様々なオプションが用意されています。ここでは、よく使われる主要なオプションをいくつか紹介します。

オプション 省略形 説明
--help -h ヘルプメッセージを表示し、利用可能な全てのオプションを確認できます。
--version Sherlockのバージョンと依存ライブラリの情報を表示します。
--verbose -v, -d, --debug より詳細なデバッグ情報や処理のメトリクスを表示します。問題発生時の原因調査に役立ちます。
--timeout <seconds> 各サイトへのリクエストに対するタイムアウト時間を秒単位で指定します(デフォルトは60秒)。ネットワークが不安定な場合や、応答の遅いサイトがある場合に調整します。
--proxy <proxy_url> -p 指定したプロキシサーバー経由でリクエストを送信します。匿名性を高めたい場合や、アクセス制限を回避したい場合に使用します。(例: socks5://127.0.0.1:1080)
--tor -t Torネットワーク経由でリクエストを送信します。匿名性は向上しますが、検索速度は低下します。Torがインストールされ、システムパスで利用可能である必要があります。
--unique-tor -u リクエストごとに新しいTorサーキットを使用します。匿名性はさらに向上しますが、検索速度はさらに低下します。Torが必要です。
--site <site_name> 検索対象を特定のサイトに限定します。複数のサイトを指定する場合は、このオプションを複数回使用します。(例: --site GitHub --site Twitter)
--output <filename> -o 検索結果(見つかったユーザー名とURL)を指定したファイル名(テキスト形式)で保存します(単一ユーザー名の場合)。
--folderoutput <foldername> -fo 複数のユーザー名を検索した場合、結果をユーザー名ごとのファイルに分けて指定したフォルダに保存します。
--csv 検索結果をCSV形式のファイル(<username>.csv)で保存します。表計算ソフトでの分析に便利です。
--xlsx 検索結果をExcel形式(.xlsx)のファイルで保存します。
--json <filename> -j 検索結果をJSON形式で指定したファイルに保存します。または、既存のJSONファイルからサイトデータを読み込むためにも使用できます。
--print-found ユーザー名が見つかったサイトの結果のみを表示します(ファイル出力時も同様)。
--print-all 見つからなかったサイトも含め、すべてのサイトの検索結果を表示します(デフォルトの動作)。
--browse -b 検索完了後、見つかったすべてのプロファイルURLをデフォルトのウェブブラウザで開きます。
--local -l ローカルに保存されている `data.json` ファイル(サイト情報が記載されている)を強制的に使用します。オフラインでの利用や、カスタマイズしたサイトリストを使いたい場合に便利です。
--nsfw デフォルトリストに含まれるNSFW(Not Safe For Work)サイトも検索対象に含めます。

これらのオプションを組み合わせることで、より目的に合った柔軟な検索が可能になります。例えば、特定のユーザー「testuser」についてGitHubとTwitterのみを検索し、結果を `testuser_results.txt` というファイルに保存したい場合は、以下のように実行します。

sherlock --site GitHub --site Twitter --output testuser_results.txt testuser

Sherlockは基本的なユーザー名検索以外にも、いくつかの応用的な使い方が可能です。

複数ユーザー名の同時検索

複数のユーザー名を一度に検索したい場合は、ユーザー名をスペースで区切って指定します。

sherlock user1 user2 user3

この場合、結果はユーザーごとにファイルに出力するのが便利です。`–folderoutput` オプションを使用します。

sherlock --folderoutput ./results user1 user2 user3

上記のコマンドは、`results` フォルダ内に `user1.txt`, `user2.txt`, `user3.txt` というファイルを作成して結果を保存します。

ファイルからユーザー名リストを読み込む

検索したいユーザー名が多数ある場合、テキストファイルにリストとして保存し、それを読み込ませることができます。ユーザー名を1行に1つずつ記述したファイル(例: `users.txt`)を作成し、以下のように実行します。

sherlock @users.txt

ファイル名の前に `@` を付けるのがポイントです。

類似ユーザー名の検索

ユーザー名の一部が不確かな場合や、バリエーションを含めて検索したい場合、`{?}` を使用できます。`{?}` はアンダースコア(`_`)、ハイフン(`-`)、ピリオド(`.`)に置き換えられて検索されます。

sherlock john{?}doe

このコマンドは、`john_doe`, `john-doe`, `john.doe` といったユーザー名を検索対象とします。

OSINT (Open Source Intelligence) での活用事例

SherlockはOSINT調査において非常に強力なツールとなり得ます。

  • ターゲットのオンラインプレゼンス調査: 特定の個人や組織に関連するユーザー名が、どのようなプラットフォームで活動しているかを把握する初期調査に使用できます。これにより、さらなる情報収集の足がかりを得ることができます。
  • アカウントの関連付け: 異なるプラットフォームで同じユーザー名が使われている場合、それらが同一人物によって使用されている可能性が高いと考えられます。これにより、断片的な情報を繋ぎ合わせ、ターゲットの全体像を把握するのに役立ちます。
  • デジタルフットプリントの分析: ターゲットがどのようなコミュニティに参加し、どのような情報を発信しているかの傾向を分析する手がかりになります。

セキュリティ調査での活用

  • フィッシングサイトや不正アカウントの調査: 不審なユーザー名が他のプラットフォームでも悪用されていないかを確認するために使用できます。
  • 情報漏洩インシデント調査: 漏洩した可能性のあるユーザー名が、他のサービスで使い回されていないかを確認する一助となる場合があります(ただし、パスワードの漏洩等を確認するツールではありません)。

個人でのアカウント棚卸し

自分が過去に作成したアカウントを忘れてしまっている場合、自分の使いそうなユーザー名を検索することで、不要になったアカウントを特定し、削除するなどの管理に役立てることができます。

注意点と倫理的な配慮 重要

Sherlockは非常に強力で便利なツールですが、その利用にはいくつかの重要な注意点と倫理的な配慮が必要です。安易な使用はプライバシーの侵害や法的な問題に繋がる可能性があるため、以下の点を十分に理解し、責任ある利用を心がけてください。

プライバシーへの影響

他人のユーザー名を本人の許可なく検索する行為は、プライバシーの侵害にあたる可能性があります。特に、調査目的であっても、得られた情報を不適切に利用したり、公開したりすることは絶対に避けるべきです。ストーカー行為や嫌がらせ目的での使用は論外です。

利用規約の確認

Sherlockが検索対象とする各ウェブサイトには、利用規約が存在します。短時間に大量のリクエストを送信する行為や、自動化されたスクリプトによるアクセスを禁止している場合があります。Sherlockの使用がこれらの規約に違反しないか、事前に確認することが推奨されます。規約違反はアカウントの停止や法的措置につながる可能性があります。

ウェブサイトへの負荷

Sherlockは多数のサイトに同時にリクエストを送信するため、特にオプションを指定せずに広範囲な検索を行うと、対象サイトのサーバーに負荷をかける可能性があります。頻繁な使用や、一度に大量のユーザー名を検索する際は、--timeout オプションで間隔を調整したり、--site オプションで対象を絞るなどの配慮が必要です。過度なアクセスは、自身のIPアドレスがブロックされる原因にもなり得ます。

法的・倫理的問題

Sherlockで得られた情報を悪用し、不正アクセス、なりすまし、脅迫、名誉毀損などの犯罪行為に利用することは、当然ながら違法です。ツールの使用目的が倫理的に許容される範囲内にあるか、常に自問自答する必要があります。OSINT調査を行う場合でも、法的な枠組みと倫理規定を遵守することが不可欠です。

結果の正確性

Sherlockの検索結果は、ウェブサイト側の仕様変更や応答ステータスコードの解釈によって、常に100%正確であるとは限りません。「見つかった」と表示されても実際には存在しない(偽陽性)、あるいは「見つからなかった」と表示されても実際には存在する(偽陰性)可能性があります。結果はあくまで参考情報として捉え、鵜呑みにせず、必要に応じて手動での確認を行うことが重要です。

結論として、Sherlockは技術的には強力ですが、その力は善用されるべきです。利用者は常に法律と倫理を念頭に置き、他者の権利を尊重する姿勢を持つ必要があります。

Sherlockは、指定したユーザー名がインターネット上の様々なプラットフォームに存在するかどうかを効率的に調査できる、非常に便利なOSINTツールです。基本的な使い方から応用的なテクニック、そして各種オプションを駆使することで、情報収集やアカウント管理など、多岐にわたる目的で活用できます。

しかし、その強力さゆえに、利用には細心の注意と高い倫理観が求められます。プライバシーの尊重、利用規約の遵守、法的な問題を常に意識し、責任ある使い方を徹底することが不可欠です。

この記事を通じて、Sherlockの機能と可能性、そして潜むリスクについて理解を深めていただけたなら幸いです。ツールはあくまで手段であり、その使い方次第で良くも悪くもなります。ぜひ、Sherlockを正しく理解し、建設的な目的に役立ててください。

参考情報

より詳細な情報や最新のアップデートについては、以下の公式リソースをご参照ください。

  • Sherlock GitHubリポジトリ: https://github.com/sherlock-project/sherlock
    ツールのソースコード、最新のREADME、Issue(問題報告・議論)、プルリクエストなどが確認できます。
  • Kali Linux Tools – Sherlock: https://www.kali.org/tools/sherlock/
    Kali LinuxにおけるSherlockの概要、インストール方法、依存関係などが記載されています。

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