シングルサインオン (SSO) とは?仕組みからメリット・デメリットまで初心者向けに解説

インターネット上には便利なサービスがたくさんありますが、使うサービスが増えるたびにIDとパスワードが増えてしまい、管理が大変になった経験はありませんか?「パスワードを忘れてログインできない!」「何度もログインするのが面倒…」そんな悩みを解決してくれるのが「シングルサインオン(SSO)」という技術です。

このページでは、IT初心者の方にも分かりやすく、シングルサインオンとは何か、どのような仕組みで動いているのか、そして導入するメリットと注意点について解説します。

シングルサインオン(SSO)とは?

シングルサインオン(Single Sign-On、略してSSO)とは、一度のユーザー認証(ログイン)で、連携している複数のWebサービスやアプリケーションにログインできるようにする仕組みのことです。

例えば、会社のポータルサイトに一度ログインすれば、そこからメールシステムや勤怠管理システム、経費精算システムなどに、再度IDやパスワードを入力することなくアクセスできるようになります。Googleアカウントにログインすれば、Gmail、Google Drive、Google Calendarなどにそのままアクセスできるのも、SSOの一例です。

これまではサービスごとにIDとパスワードを用意してログインするのが一般的でしたが、利用するサービスが増えるにつれて、ユーザーはたくさんの認証情報を記憶・管理する必要が出てきました。SSOは、こうした手間を省き、利便性を向上させるために広く使われるようになっています。

SSOの仕組み

SSOがどのようにして「一度のログインで複数サービスへのアクセス」を実現しているのか、その基本的な仕組みを見ていきましょう。SSOの実現方式にはいくつか種類がありますが、多くの場合、「認証サーバー(IdP: Identity Provider)」と呼ばれるものが中心的な役割を果たします。

  1. ユーザーはまず、利用したいサービス(SP: Service Provider)にアクセスするか、あるいはSSOのログイン画面(認証サーバー/IdP)にアクセスします。
  2. 認証サーバー(IdP)がユーザーにIDとパスワードなどの認証情報を要求します。
  3. ユーザーが正しい認証情報を入力すると、IdPはユーザーを「認証済み」と判断します。
  4. ユーザーが連携している別のサービス(SP)にアクセスしようとすると、そのサービス(SP)はIdPに「このユーザーは本当に本人か?」と問い合わせます。
  5. IdPは「このユーザーは先ほど認証済みです」という証明(多くの場合、「トークン」や「アサーション」と呼ばれる電子的な証明書のようなもの)をSPに送ります。
  6. 証明を受け取ったSPはユーザーを信頼し、ログインを許可します。

このように、IdPが一度ユーザーの本人確認を行えば、その「認証済み」という情報を連携先のSPと共有することで、ユーザーは何度もパスワードを入力する必要がなくなるのです。

主なSSOの実現方式

SSOを実現するための技術的な方式には、いくつかの種類があります。代表的なものを紹介します。

方式名概要
フェデレーション方式(SAML認証など) 認証情報を提供するIdPと、サービスを提供するSPの間で、信頼関係を結び、認証情報を安全に交換する方式です。SAML (Security Assertion Markup Language) や OpenID Connect といった標準化されたプロトコル(通信のルール)が使われます。クラウドサービス間のSSOなどで広く利用されています。
代理認証方式(フォームベース認証) ユーザーの代わりに、専用のエージェントソフトウェアやサーバーがIDとパスワードをWebフォームに自動入力する方式です。比較的導入しやすいですが、サービス側のログイン画面の仕様変更に影響を受ける可能性があります。
リバースプロキシ方式 ユーザーとWebサービスの間に「リバースプロキシ」と呼ばれる中継サーバーを設置し、そこで認証を行う方式です。ユーザーからのアクセスはすべてリバースプロキシを経由します。
エージェント方式 アクセス対象のWebサーバーに専用のエージェントソフトウェアを導入し、認証サーバーと連携してSSOを実現する方式です。
透過型方式 ネットワーク経路上に設置された専用機器(透過型サーバー)が通信を監視し、必要に応じて認証情報を挿入する方式です。ユーザーやサーバー側に特別な設定が不要な場合があります。

どの方式が最適かは、利用環境や連携したいサービスの種類によって異なります。

関連プロトコル:SAML, OAuth, OpenID Connect

SSO、特にフェデレーション方式では、SAMLOAuth (オース)OpenID Connect (OIDC) といった技術(プロトコル)がよく使われます。
  • SAML: 主に企業向けのSSOで利用される、XMLベースの認証連携プロトコルです。異なるドメイン間での認証情報の交換に使われます。
  • OAuth: 認証ではなく、「認可」のためのプロトコルです。例えば、「あるアプリがあなたの代わりにGoogle Driveのファイルにアクセスすることを許可しますか?」といった、権限の委譲に使われます。
  • OpenID Connect: OAuth 2.0を拡張して作られた「認証」のためのプロトコルです。OAuthの認可の仕組みの上に、本人確認(認証)の機能を追加したもので、Webサイトやモバイルアプリのログインで広く使われています。IDトークンと呼ばれる形式でユーザー情報(クレーム)をやり取りします。
簡単に言うと、SAMLとOpenID Connectは「この人は誰か(認証)」を扱い、OAuthは「この人に何をさせるか(認可)」を扱う、という違いがあります。SSOの文脈では、SAMLやOpenID Connectが認証を担当し、OAuthが関連するAPIへのアクセス許可などで使われることがあります。

SSOのメリット

SSOを導入することには、多くのメリットがあります。

1. ユーザーの利便性向上

最大のメリットは、ユーザーが複数のサービスを利用する際に、何度もIDとパスワードを入力する手間が省けることです。これにより、ログインにかかる時間が短縮され、ストレスなくサービスを利用できるようになります。パスワードをたくさん覚える必要もなくなるため、パスワード忘れによる問い合わせなども減らすことができます。

2. セキュリティの向上

意外に思われるかもしれませんが、SSOはセキュリティ向上にも繋がります。複数のパスワードを管理する必要がなくなると、ユーザーは「覚えやすい簡単なパスワード」や「パスワードの使い回し」といった危険な行動を取りにくくなります。また、パスワードをメモ書きしたり、付箋に書いて貼っておくといった物理的な漏洩リスクも低減できます。

さらに、管理者はSSOの認証部分(IdP)のセキュリティ対策を強化することに集中できます。例えば、多要素認証(MFA)などを導入すれば、SSOで連携しているすべてのサービスへのアクセスセキュリティをまとめて高めることが可能です。

3. 管理コストの削減

情報システム部門などの管理者にとってもメリットがあります。ユーザーアカウントの管理を一元化できるため、入社・退職・異動に伴うアカウントの発行や停止、権限変更などの作業効率が向上します。また、ユーザーからのパスワード忘れに関する問い合わせ対応の工数も削減できます。

SSOのデメリットと注意点

便利なSSOですが、導入にあたっては注意すべき点もあります。

1. 不正アクセス時のリスクが大きい(単一障害点)

SSOは、一つの認証情報で複数のサービスにアクセスできるため、もしその認証情報(IDとパスワードなど)が漏洩したり、不正に利用されたりすると、連携しているすべてのサービスに不正アクセスされてしまう危険性があります。これはSSOの最大のデメリットであり、「単一障害点(Single Point of Failure)」とも呼ばれます。

このリスクを軽減するためには、SSOの認証をパスワードだけでなく、多要素認証(MFA)などで強化することが非常に重要です。

2. 認証システムが停止するとログインできなくなる

SSOの認証を行う認証サーバー(IdP)やSSOサービス自体に障害が発生して停止してしまうと、SSOで連携しているすべてのサービスにログインできなくなってしまう可能性があります。これにより、業務が広範囲にわたって停止してしまうリスクがあります。SSOサービスを選定する際には、提供元の信頼性や可用性、障害発生時の対応体制などを十分に確認する必要があります。

3. すべてのサービスがSSOに対応しているとは限らない

世の中のすべてのWebサービスやアプリケーションがSSOに対応しているわけではありません。特に古いシステムや、特定のSSO方式(プロトコル)に対応していないサービスもあります。導入前に、連携させたいサービスが利用予定のSSO方式に対応しているかを確認する必要があります。

4. 導入・運用には専門知識が必要な場合がある

SSOシステムの導入や設定、運用には、認証やネットワークに関するある程度の専門知識が必要となる場合があります。特に、既存システムとの連携やセキュリティ設定を適切に行うためには、専門家の支援が必要になることもあります。

SSOの活用事例

SSOは様々な場面で活用されています。

  • 企業内システム: 社員が利用する複数の業務システム(メール、グループウェア、勤怠管理、経費精算など)へのログインをSSOで統合し、利便性とセキュリティを向上させる。
  • クラウドサービス連携: Microsoft 365、Google Workspace、Salesforceなど、複数のクラウドサービスを導入している企業が、それらへのログインを統合管理する。
  • 顧客向けサービス: 一つの企業が提供する複数のWebサービス(ECサイト、会員サイト、サポートサイトなど)で、共通のアカウントを使えるようにする。
  • 教育機関: 学生や教職員が、学内のポータルサイト、学習管理システム(LMS)、メールシステムなどに一度のログインでアクセスできるようにする。(例: 東北大学のSSO導入事例)
  • ソーシャルログイン: Webサイトやアプリに、Google、Facebook、Appleなどの既存のアカウント情報を使ってログインする機能。これも広義のSSOの一種と言えます。

まとめ

シングルサインオン(SSO)は、一度の認証で複数のサービスにアクセスできる便利な仕組みです。ユーザーの利便性を向上させ、パスワード管理の手間を省き、適切に導入・運用すればセキュリティ強化にも繋がります。

一方で、不正アクセス時のリスク拡大や、認証システム停止時の影響といったデメリットも存在するため、導入にあたっては多要素認証の併用などのセキュリティ対策を十分に行うことが重要です。

クラウドサービスの利用が広がる現代において、SSOは企業にとってもユーザーにとっても重要な技術となっています。

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