知らぬ間にサイバー攻撃の加害者にならないために
ボットネットとは?
ボットネット(Botnet)とは、「ロボット(Robot)」と「ネットワーク(Network)」を組み合わせた言葉です。
これは、悪意のあるソフトウェア(マルウェア)に感染し、攻撃者(ボットマスターやボットハーダーと呼ばれる)によって遠隔操作されるようになった多数のコンピュータやインターネット接続機器(スマートフォン、IoTデバイスなど)で構成されるネットワークのことを指します。
感染した個々のデバイスは「ボット」または「ゾンビコンピュータ」と呼ばれます。これらのデバイスの所有者は、自分の機器がボットネットの一部になっていることに気づかないことがほとんどです。
ボットは通常、ユーザーに気づかれないようにバックグラウンドで動作し、ボットマスターからの指令を待ちます。指令を受けると、ボットネット全体で一斉に特定の動作を実行します。
「ボット」という言葉自体は、チャットボットのように悪意のない自動化プログラムを指すこともありますが、「ボットネット」という用語は、ほぼ常に悪意のある目的で利用されるネットワークを指します。
ボットネットはどのように作られる?
ボットネットは、ボットマスターがマルウェアを使ってデバイスを感染させることで構築されます。主な感染経路には以下のようなものがあります。
- メールの添付ファイルやリンク: 不審なメールに添付されたファイルを開いたり、記載されたリンクをクリックしたりすることでマルウェアに感染します。
- 脆弱性の悪用: OSやソフトウェア、ウェブサイト、IoT機器などに存在するセキュリティ上の欠陥(脆弱性)を突いて感染させます。
- 不正なダウンロード: 無料ソフトウェアや音楽、動画ファイルなどに見せかけたファイルにマルウェアを仕込み、ダウンロードさせて感染させます。
- 改ざんされたウェブサイト: 正規のウェブサイトが改ざんされ、訪問するだけでマルウェアに感染するようになっている場合があります(ドライブバイダウンロード)。
感染したデバイスは、ボットマスターが管理する「C&Cサーバー(コマンド&コントロールサーバー)」と通信し、指令を受け取れる状態になります。
ボットネットは何に使われる?
ボットネットは、その規模と分散性を利用して、様々なサイバー犯罪や迷惑行為に悪用されます。主な用途は以下の通りです。
用途 | 説明 |
---|---|
DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃) | 特定のウェブサイトやサーバーに対して、ボットネットを構成する多数のデバイスから一斉に大量のアクセスやデータを送りつけ、サービスを利用不能な状態に陥らせる攻撃です。企業や組織に大きな損害を与える可能性があります。 |
スパムメール・フィッシングメールの大量送信 | ボットネットを使って、大量の迷惑メール(スパム)や、金融機関などを装って個人情報をだまし取ろうとする詐欺メール(フィッシング)を送信します。これにより、さらにマルウェアを拡散させたり、不正な利益を得ようとしたりします。 |
個人情報・機密情報の窃取 | 感染したデバイス内にあるログイン情報(ID、パスワード)、クレジットカード番号、銀行口座情報などの個人情報や、企業の機密情報などを盗み出します。盗まれた情報は、不正利用されたり、ダークウェブなどで売買されたりします。 |
不正広告クリック(クリック詐欺) | ボットネットを使い、広告をクリックすることで広告主から報酬を得る仕組み(クリック課金型広告)を悪用し、自動的に大量のクリックを発生させて不正に広告収入を得ます。 |
仮想通貨(暗号資産)マイニング | 感染したデバイスの計算能力(CPUパワー)を無断で使用し、仮想通貨のマイニング(採掘)を行い、攻撃者が利益を得ます。これにより、デバイスの動作が著しく遅くなることがあります。 |
アカウント乗っ取り(クレデンシャルスタッフィング) | 他の手段で入手したIDとパスワードのリストを使い、ボットネットを通じて様々なウェブサービスへのログインを自動的に試行し、アカウントを乗っ取ろうとします。 |
他のマルウェアの配布 | ボットネットを踏み台にして、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)など、さらに別の種類のマルウェアを配布します。 |
ボットネットのレンタル・販売 | 構築したボットネットへのアクセス権を、他のサイバー犯罪者に有料で貸し出したり、販売したりします (Botnet-as-a-Service)。 |
有名なボットネットの事例
過去には、世界中で大きな被害をもたらしたボットネットがいくつも存在します。
- Mirai (ミライ): 2016年に登場し、特にルーターやIPカメラなどのIoTデバイスを標的としました。大規模なDDoS攻撃を引き起こし、大手SNSやDNSサービスプロバイダー(Dyn社など)に障害を発生させました。
- Conficker: Windows OSの脆弱性を悪用して感染を広げ、一時は数百万台のコンピュータが感染したとされています。
- Zeus (Zbot): 主にオンラインバンキングの認証情報を盗むことを目的としたボットネットで、多くの金融詐欺事件に関与したと言われています。
- Cutwail: 2007年頃に発見され、ピーク時には世界中のスパムメールの約半分を送信していたとされる大規模なスパムボットネットでした。
- Mariposa: 1200万以上のコンピュータが感染したとされ、個人情報窃取やDDoS攻撃に利用されました。2009年に壊滅作戦が行われました。
- EarthLink Spammer: 2000年に登場した初期のボットネットの一つで、フィッシングメールの送信に利用されました。
- 911 S5: 2024年5月にFBIによって解体された、当時世界最大規模とされたボットネット。約200カ国、1900万台以上のデバイスが感染し、パンデミック関連の給付金詐欺など、様々なサイバー犯罪に悪用されていました。
- EMOTET: 元々はバンキング型トロイの木馬でしたが、後にボットネットとしての機能を持ち、他のマルウェアの配布基盤としても広く利用されました。2021年に国際的な協力によりテイクダウンされましたが、その後活動を再開した時期もありました。
ボットネットの被害を防ぐには?
自分がボットネットの被害者(デバイスを感染させられる)にも加害者(意図せず攻撃に加担する)にもならないためには、基本的なセキュリティ対策が重要です。
- OSやソフトウェアを常に最新の状態に保つ: セキュリティパッチを適用し、脆弱性をなくすことが重要です。特にルーターなどのIoT機器のファームウェア更新も忘れずに行いましょう。
- セキュリティソフト(アンチウイルスソフト)を導入し、常に最新の状態に保つ: マルウェアの検出・駆除に役立ちます。
- 強力なパスワードを設定し、使い回さない: 初期設定のパスワードは必ず変更し、推測されにくい複雑なパスワードを使用しましょう。多要素認証(MFA)の利用も有効です。
- 不審なメール、添付ファイル、リンクを開かない: 身に覚えのないメールや、信頼できない送信元からのメールには注意が必要です。
- 怪しいウェブサイトにアクセスしない: 不正なソフトウェアをダウンロードさせられたり、脆弱性を悪用されたりする可能性があります。
- 信頼できないフリーWi-Fiに注意する: 安全性が確認できない公衆Wi-Fiネットワークの利用は慎重に行いましょう。
- ネットワークトラフィックの監視: 異常な通信量や不審な通信先がないか監視することで、感染を早期に発見できる場合があります(企業向け)。
ボットネットは、私たちが気づかないうちにデバイスを乗っ取り、サイバー犯罪に悪用する深刻な脅威です。基本的な対策をしっかり行い、安全なインターネット利用を心がけましょう。