エニアック(ENIAC)とは?
エニアック(ENIAC)は、1946年にアメリカで開発された、世界で初めて実用化された電子式のデジタルコンピュータです。その名前は「Electronic Numerical Integrator and Computer」の頭文字を取ったものです。現代のスマートフォンやパソコンの、いわば「ご先祖様」にあたる存在です。
開発は第二次世界大戦中の1943年から始まり、主な目的はアメリカ陸軍のための大砲の弾道計算を高速化することでした。当時は手作業で数日かかっていた複雑な計算を、劇的に短縮するために作られたのです。ペンシルベニア大学のジョン・モークリーとジョン・プレスパー・エッカートが中心となり、開発が進められました。
エニアックの驚くべき特徴
エニアックは、現代のコンピュータとは大きく異なる、いくつかの際立った特徴を持っていました。
-
巨大なサイズ
エニアックは一部屋を埋め尽くすほどの大きさで、重量は約30トンもありました。今日のノートパソコンとは比べ物にならないスケールです。 -
約18,000本の真空管
計算を行うための主要な部品として、約18,000本もの真空管を使用していました。真空管は現在のトランジスタやIC(集積回路)の役割を担っていましたが、サイズが大きく、多くの電力を消費し、頻繁に故障するという課題もありました。 -
手作業によるプログラミング
現代のコンピュータのようにキーボードでコードを打ち込むのではなく、エニアックのプログラミングはケーブルの配線を物理的につなぎ替えるという、非常に手間のかかる作業でした。複雑なプログラムを設定するには数日から数週間かかることもありました。 -
画期的な計算速度
その巨大さと引き換えに、エニアックは1秒間に約5,000回の加算ができるという、当時としては驚異的な計算速度を実現しました。これにより、これまで人手では困難だった科学技術計算が可能になったのです。 -
10進法での計算
現在のコンピュータが2進法で計算を行うのに対し、エニアックは人間にも馴染み深い10進法で計算を行っていました。
歴史と功績
エニアックが完成したのは1946年で、残念ながら第二次世界大戦の終結には間に合いませんでした。しかし、その用途は当初の軍事目的にとどまらず、気象予測や原子力の研究など、さまざまな科学技術分野の発展に大きく貢献しました。
エニアックの稼働期間は1946年から1955年までと約10年間でしたが、その存在はコンピュータの歴史における大きな転換点となりました。エニアックの経験から、プログラムを外部の配線ではなく、内部のメモリに記憶させる「プログラム内蔵方式」の重要性が認識され、これが後のEDVAC(エドバック)やUNIVAC(ユニバック)といった後継機の開発につながりました。このプログラム内蔵方式は、現代のコンピュータの基本的な設計思想(ノイマン型アーキテクチャ)の基礎となっています。
エニアックと現代PCの比較
エニアックと現代の一般的なパーソナルコンピュータ(PC)を比較すると、技術の進歩が一目瞭然です。
項目 | エニアック (ENIAC) | 現代の一般的なPC |
---|---|---|
登場年 | 1946年 | 2020年代 |
主要な電子部品 | 真空管 (約18,000本) | トランジスタ、集積回路 (IC/LSI) |
サイズ | 部屋全体 (幅約30m、高さ約2.4m) | 机の上に乗るサイズ |
重量 | 約30トン | 数kg程度 |
計算速度 (加算) | 毎秒 約5,000回 | 毎秒 数十億回以上 (GHz単位) |
プログラミング方式 | 配線のつなぎ替え (外部プログラム方式) | ソフトウェアによる (プログラム内蔵方式) |
消費電力 | 約150 kW | 数十W〜数百W |
まとめ
エニアックは、その巨大さや今日のコンピュータとの違いから原始的に見えるかもしれません。しかし、電子回路による高速計算やプログラミングの可能性を世界で初めて示し、現代社会を支えるコンピュータ技術の扉を開いた、歴史的に非常に重要な存在です。エニアックの挑戦があったからこそ、私たちは今、手のひらの上で世界とつながることができるのです。