【初心者向け】IT用語「回帰問題」とは?機械学習とソフトウェアテストの2つの意味を解説

ITの世界で「回帰問題」という言葉を耳にしたことはありますか?実はこの言葉、使われる文脈によって全く異なる2つの意味を持つため、初心者の方を混乱させることがあります。

一つは機械学習の分野で使われる「数値を予測する」という意味。もう一つはソフトウェアテストの分野で使われる「プログラムの変更によって予期せぬ不具合が発生する」という意味です。

このブログでは、IT初心者の方でも理解できるように、それぞれの「回帰問題」について、具体例を交えながら分かりやすく解説していきます。

1. 機械学習における「回帰問題」

機械学習の分野における「回帰問題」とは、一言でいうと「連続的な数値を予測する問題」のことです。 これは、AI(人工知能)がデータの中から法則性を見つけ出し、未知のデータに対して結果を数値で予測する「教師あり学習」という手法の一種です。

例えば、「過去の気温とアイスコーヒーの売上データ」をAIに学習させることで、「明日の気温が30℃のとき、アイスコーヒーは何杯売れるか?」といった予測が可能になります。この「売上杯数」のような連続した数値を予測することが回帰問題の目的です。

回帰問題の身近な例

回帰問題は、私たちの身の回りの様々な場面で活用されています。

  • 不動産価格の予測: 部屋の広さ、駅からの距離、築年数といったデータから、その物件の価格を予測する。
  • 株価の予測: 過去の株価の推移や関連する経済指標から、未来の株価を予測する。
  • 売上予測: 過去の売上データ、広告費、季節といった要因から、将来の売上を予測する。
  • 天気予報: 過去の気象データ(気温、湿度、気圧など)から、未来の気温や降水量を予測する。

「回帰」と「分類」の違い

教師あり学習には、回帰問題とよく似た「分類問題」というものがあります。この二つの違いを理解することが、機械学習を学ぶ上で非常に重要です。

回帰が連続的な数値を予測するのに対し、分類はあらかじめ決められたカテゴリ(クラス)のどれに当てはまるかを予測します。

項目回帰 (Regression)分類 (Classification)
目的連続的な数値を予測する離散的なカテゴリを予測する
出力の例株価 (1,050円), 気温 (25.5℃), 売上 (120万円)犬 or 猫, スパムメール or 通常メール, 晴れ or 雨 or 曇り
具体例身長データから体重を予測する手書きの数字画像が「0」から「9」のどれかを判定する

簡単なコード例(Python)

ここでは、Pythonの機械学習ライブラリである `scikit-learn` を使って、簡単な線形回帰の例を見てみましょう。勉強時間からテストの点数を予測するモデルを作成します。

# 必要なライブラリをインポート
import numpy as np
from sklearn.linear_model import LinearRegression
# 勉強時間 (説明変数X) と テストの点数 (目的変数y) のデータ
# Xは2次元配列にする必要がある
X = np.array([,,,,]) # 勉強時間(時間)
y = np.array() # テストの点数(点)
# 線形回帰モデルを作成して学習させる
model = LinearRegression()
model.fit(X, y)
# 6時間勉強した場合のテストの点数を予測する
predicted_score = model.predict(np.array([]))
# 予測結果の表示
print(f"6時間勉強した場合の予測点数: {predicted_score:.1f}点")
# 出力例: 6時間勉強した場合の予測点数: 81.3点 

2. ソフトウェアテストにおける「回帰問題(リグレッション)」

ソフトウェア開発の現場で「回帰問題」という言葉が使われる場合、それは「リグレッション(Regression)」を指していることがほとんどです。 リグレッションとは「後戻り」「退行」を意味する言葉です。

具体的には、プログラムに新しい機能を追加したり、バグを修正したりした際に、その変更が原因で今まで正常に動いていた別の機能に不具合が生じてしまう現象を指します。 この意図しない不具合や品質の低下は「デグレード(Degrade)」とも呼ばれます。

「リグレッション」が発生する具体例

例えば、あるECサイトの開発で、以下のような状況を考えてみましょう。

シナリオ: 決済機能の改修

  1. 元々、このECサイトでは「クレジットカード決済」と「銀行振込」が利用できた。
  2. 新しい決済方法として「QRコード決済」を追加する開発を行った。
  3. 「QRコード決済」の機能テストは無事に完了し、正しく動作することを確認した。
  4. しかし、リリース後にユーザーから「クレジットカード決済ができなくなった」という報告が多数寄せられた。

この場合、「QRコード決済」機能の追加という変更が、既存の「クレジットカード決済」機能に悪影響を及ぼしてしまったわけです。これがソフトウェア開発における典型的なリグレッション(回帰問題)です。

回帰問題を防ぐための「回帰テスト(リグレッションテスト)」

このようなリグレッションを防ぎ、ソフトウェアの品質を担保するために行われるのが「回帰テスト(リグレッションテスト)」です。

回帰テストは、プログラムに変更を加えた後、影響がないはずの既存機能が、意図せず壊れていないか(デグレードしていないか)を確認するために実施されます。 システムが大規模で複雑になるほど、変更の影響範囲を完全に予測するのは難しくなるため、回帰テストの重要性は非常に高まります。

回帰テストを怠ると、新しい機能をリリースした結果、既存の重要な機能が使えなくなるといった事態を招き、ユーザーの信頼を大きく損なう可能性があります。 そのため、地道な作業ではありますが、ソフトウェア開発において不可欠な工程とされています。

まとめ

今回は、2つの異なる意味を持つ「回帰問題」について解説しました。

分野意味目的・内容
機械学習数値を予測する問題データから法則性を見つけ出し、株価や気温、売上などの連続的な数値を予測する。
ソフトウェアテスト予期せぬ不具合(リグレッション)プログラムの変更が原因で、既存機能が動かなくなること。これを防ぐために「回帰テスト」を行う。

どちらの意味で使われているかは文脈から判断する必要がありますが、この2つの意味を知っておけば、IT関連の会話や文章をより正確に理解できるようになるでしょう。

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