初心者向け!VAR(ベクトル自己回帰)モデルとは?時系列データ分析の強力なツールを徹底解説

複数のデータを同時に分析する手法を学ぼう

このブログでわかること

  • VARモデルがどのような分析手法なのか
  • ARモデルとの違いは何か
  • VARモデルのメリットとデメリット
  • 実際の使用例とPythonでの簡単な実装方法

VARモデルとは何か?

VARモデル(Vector Autoregressive Model)は、日本語で「ベクトル自己回帰モデル」と訳されます。これは、複数の時間とともに変化するデータ(時系列データ)の関係性を分析し、将来の値を予測するための統計モデルです。

例えば、「広告宣伝費」「ウェブサイトのアクセス数」「売上」という3つのデータがあったとします。これらのデータは、互いに影響を与え合っている可能性があります。

  • 広告宣伝費を増やすと、ウェブサイトのアクセス数が増えるかもしれない。
  • ウェブサイトのアクセス数が増えると、売上が上がるかもしれない。
  • 売上が上がると、さらに広告宣伝費を増やせるかもしれない。

このように、複数の変数が相互に影響し合う複雑な関係を捉えることができるのが、VARモデルの最大の特徴です。

言葉を分解してみましょう。

  • ベクトル (Vector): 複数の変数をひとまとめにしたもの(ベクトル)として扱います。 上記の例では、「広告宣伝費」「アクセス数」「売上」の3つをまとめたベクトルを考えます。
  • 自己回帰 (Autoregressive): ある時点のデータは、過去の自分自身のデータに影響されるという考え方です。 今日の売上は、昨日の売上や一昨日の売上に影響されている、といった具合です。

つまりVARモデルは、「複数の変数が、それぞれ自身の過去の値と、他の変数の過去の値に影響されながら変動していく様子」を数式でモデル化する手法なのです。

ARモデルとの違い

VARモデルとよく似た名前のモデルに「ARモデル(自己回帰モデル)」があります。この2つの最も大きな違いは、扱う変数の数です。

項目ARモデル (自己回帰モデル)VARモデル (ベクトル自己回帰モデル)
扱う変数の数1つ (単変量)2つ以上 (多変量)
分析の目的ある1つの変数の過去のデータから、その変数の将来を予測する。複数の変数が相互に与える影響を分析し、それら全体の将来を予測する。
過去のサンマの漁獲量データだけを使って、将来の漁獲量を予測する。「サンマの漁獲量」と「餌となるプランクトンの量」の過去データを使って、両方の将来を予測する。

ARモデルが単一の時系列データを分析するのに対し、VARモデルはそれを多変量に拡張したものと言えます。

メリットとデメリット

VARモデルは強力なツールですが、万能ではありません。メリットとデメリットを理解して使い分けることが重要です。

メリット

  • 変数間の相互作用を捉えられる: 複数の変数が互いにどう影響し合っているかを分析できます。
  • 理論的な制約が少ない: 経済理論などで変数を厳密に特定する必要がなく、データに基づいて関係性をモデル化できます。
  • 予測精度の向上: 関連する複数の変数の情報を使うことで、単一の変数で予測するよりも精度が向上する場合があります。

デメリット

  • パラメータ数の増加: 変数や考慮する過去の時点(ラグ)が増えると、推定すべきパラメータが急激に増え、モデルが複雑になります。
  • 解釈の難しさ: パラメータが増えることで、どの変数がどの変数にどれだけ影響しているのかを直感的に解釈するのが難しくなります。
  • 長期予測に不向きな場合がある: 過去のデータのみに基づいているため、過去にないような大きな変化(経済ショックなど)が起こった場合の予測精度は低くなる可能性があります。

VARモデルの利用事例

VARモデルは、特に経済学や金融の分野で広く活用されています。

  • マクロ経済分析: GDP、物価、金利、失業率といった複数の経済指標が互いにどう影響するかを分析し、金融政策の効果測定などに使われます。 実際に、経済学者クリストファー・シムズはVARモデルを用いた実証的マクロ経済分析への貢献により、2011年にノーベル経済学賞を受賞しました。
  • 金融市場の予測: 株価や為替レート、商品価格など、相互に関連しあう金融商品の価格変動の分析や予測に利用されます。 例えば、2020年までのデータを用いて、米国の原油生産量とWTI原油価格の関係を分析し、将来価格を予測する事例があります。
  • マーケティング分析: 広告費、売上、ブランド認知度などの関係性を分析し、マーケティング戦略の効果を測定するために使われます。

Pythonによる簡単な実装例

Pythonでは、統計分析ライブラリstatsmodelsを使うことで、VARモデルを比較的簡単に実装できます。

ここでは、仮想的な2つの時系列データ(`data1`, `data2`)を用いてVARモデルを構築し、将来を予測するコードの例を示します。

注意: VARモデルを適用するには、データが「定常性」という性質を持つ必要があります。定常性とは、時間の経過によってデータの平均やばらつきが変化しない性質のことです。 実際の分析では、モデルを構築する前に単位根検定(ADF検定など)を行い、データの定常性を確認するプロセスが不可欠です。 非定常なデータの場合は、差分を取るなどの処理が必要になります。
import pandas as pd
import numpy as np
from statsmodels.tsa.api import VAR
# 1. サンプルデータの作成
# 実際には実際の時系列データを使用します
np.random.seed(0)
data = np.random.randn(100, 2)
dates = pd.date_range('2023-01-01', periods=100)
df = pd.DataFrame(data, columns=['data1', 'data2'], index=dates)
# 2. VARモデルのインスタンスを作成
# データは定常であると仮定します
model = VAR(df)
# 3. 最適なラグ次数を決定 (例: AIC基準で選択)
# results_aic = model.select_order(maxlags=10)
# print(results_aic.summary())
# ここでは仮にラグを2とします
lag_order = 2
# 4. モデルの推定(フィッティング)
results = model.fit(lag_order)
# 5. 結果のサマリーを確認
print(results.summary())
# 6. 将来の値の予測 (5期先まで)
forecast_steps = 5
forecast = results.forecast(df.values[-lag_order:], steps=forecast_steps)
print("\n--- 予測結果 ---")
print(forecast) 

このコードは、データの準備、モデルの構築、ラグの選択、推定、そして予測という一連の流れを示しています。statsmodelsライブラリを使えば、これらのステップを効率的に実行できます。

まとめ

VARモデルは、複数の時系列データ間の複雑な関係性を解き明かすための強力な分析手法です。 一つの事象だけでなく、それを取り巻く様々な要因がどのように影響し合っているのかを明らかにすることで、より深く、精度の高い分析や予測が可能になります。

経済分析からビジネスの現場まで幅広く応用できるVARモデルの基本を理解し、データ分析の引き出しの一つとして加えてみてはいかがでしょうか。

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