初心者向け!多層パーセプトロン(MLP)とは?仕組みと使われ方を分かりやすく解説

多層パーセプトロン(Multilayer Perceptron: MLP)とは、人間の脳にある神経細胞(ニューロン)のネットワークを模倣した数理モデルの一種です。 これは、AI(人工知能)や機械学習、特に「ニューラルネットワーク」と呼ばれる技術の最も基本的な形の一つとされています。

簡単に言うと、データを受け取る「入力層」、受け取った情報を処理する「中間層(隠れ層)」、そして最終的な結果を出す「出力層」という、最低でも3つの層で構成された計算モデルです。 この「層が複数ある」という特徴から「多層」パーセプトロンと呼ばれています。 近年話題のディープラーニング(深層学習)も、この多層パーセプトロンの中間層をさらに深く(多く)したものであり、MLPはその基礎となる重要な概念です。

ポイント

多層パーセプトロンは、AI技術の根幹をなすニューラルネットワークの基本的なモデルです。 入力・中間・出力の3層構造で、複雑な問題を解くことができます。

多層パーセプトロンを理解するためには、その前身である「単純パーセプトロン」との違いを知ることが重要です。単純パーセプトロンは、入力層と出力層の2層のみで構成されています。

この構造のため、単純パーセプトロンが解けるのは「線形分離可能」な問題、つまり、一本の直線で2つのグループをきれいに分けられるような単純な問題に限られていました。

一方で、多層パーセプトロンは入力層と出力層の間に「隠れ層(中間層)」を1つ以上持ちます。 この隠れ層が存在することで、ニューラルネットワークはより複雑なデータのパターンを学習できるようになり、一本の直線では分けられない「非線形」な問題も解くことができるようになりました。 例えば、犬と猫の画像を見分けるような複雑なタスクは、この隠れ層の働きによって可能になります。

項目単純パーセプトロン多層パーセプトロン(MLP)
層の構造入力層・出力層の2層構造入力層・隠れ層・出力層の3層以上の構造
解ける問題線形分離可能な問題のみ(直線で分類できる単純な問題)非線形問題も解ける(曲線で分類するような複雑な問題)
表現力低い高い(隠れ層の数やニューロンの数を増やすことで、より複雑な問題に対応可能)

情報の流れ(順伝播)

多層パーセプトロンでは、情報は入力層から出力層へ一方向に流れます。 各層には複数の「ニューロン(ノード)」があり、層と層の間は重み付けされた線で結ばれています。

  1. 入力層:外部からデータを受け取ります。
  2. 隠れ層:入力層からの情報に「重み」を掛け合わせ、その合計を「活性化関数」という特殊な関数に通して次の層に渡します。 重みは、その情報がどれだけ重要かを示す係数です。
  3. 出力層:隠れ層から渡された情報をもとに、最終的な予測結果(分類や数値予測など)を出力します。

この「活性化関数」が、単なる足し算・掛け算の結果を非線形な形に変換することで、ネットワーク全体が複雑なパターンを表現できるようになるのです。

学習の仕組み(バックプロパゲーション)

では、どのようにして適切な「重み」を見つけるのでしょうか。ここで使われるのが「バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)」という学習アルゴリズムです。

バックプロパゲーションは、以下の手順で学習を進めます。

  1. まず、ランダムな重みでネットワークの出力を計算します(順伝播)。
  2. 計算された出力と、実際の正解データを比較し、「誤差」がどれくらいあるかを計算します。
  3. その誤差を、今度は出力層から入力層に向かって逆方向に伝え、各ニューロン間の重みを少しずつ調整していきます。 誤差が大きかった部分の重みは、より大きく修正されます。
  4. この「順伝播 → 誤差の計算 → 逆伝播による重みの更新」というサイクルを何度も繰り返すことで、ネットワークは徐々に誤差を小さくしていき、賢くなっていきます。

注意点:勾配消失問題

層を深くしすぎると、バックプロパゲーションで誤差を逆方向に伝えていく際に、入力層に近づくほど誤差の情報が非常に小さくなってしまい、うまく学習が進まなくなることがあります。 これは「勾配消失問題」として知られています。

多層パーセプトロンは、その汎用性の高さから、さまざまな分野で応用されています。 これらは現代のAI技術の多くを支えています。

  • 画像認識・分類:手書き文字の認識や、写真に写っている物体(犬、猫、車など)の識別などに利用されます。
  • 音声認識:スマートフォンの音声アシスタントや、音声検索などで話された言葉をテキストに変換する技術の根幹をなしています。
  • 自然言語処理:迷惑メールのフィルタリング、ニュース記事のカテゴリ分類、機械翻訳などに活用されています。
  • 予測分析:過去の販売データから将来の売上を予測したり、株価の変動を予測したりといった時系列データの分析にも使われます。

Pythonの機械学習ライブラリである「scikit-learn」を使えば、多層パーセプトロンを比較的簡単に実装できます。ここでは、分類問題を行うMLPClassifierを使った簡単なコード例を紹介します。

from sklearn.neural_network import MLPClassifier
from sklearn.model_selection import train_test_split
from sklearn.datasets import make_classification
# ダミーデータの生成
X, y = make_classification(n_samples=100, random_state=1)
# 訓練データとテストデータに分割
X_train, X_test, y_train, y_test = train_test_split(X, y, stratify=y, random_state=1)
# 多層パーセプトロンのモデルを作成
# hidden_layer_sizes=(100,) は、100個のニューロンを持つ隠れ層が1つあることを意味します
# max_iterは学習の繰り返し回数です
clf = MLPClassifier(hidden_layer_sizes=(100,), max_iter=1000, random_state=1)
# モデルの学習
clf.fit(X_train, y_train)
# テストデータで予測
predictions = clf.predict(X_test)
print("予測結果:", predictions)
# モデルの精度を評価
accuracy = clf.score(X_test, y_test)
print(f"モデルの正解率: {accuracy:.2f}") 
このコードは、ダミーデータを生成し、それを訓練用とテスト用に分け、多層パーセプトロンモデルを訓練させてから、未知のデータ(テストデータ)に対する予測精度を評価する、という一連の流れを示しています。

多層パーセプトロンは、入力層、隠れ層、出力層からなるニューラルネットワークの基本形です。単純パーセプトロンでは解けなかった非線形の問題を、隠れ層を持つことで解決できるようにした画期的なモデルです。「バックプロパゲーション」によって学習し、画像認識や自然言語処理など、現代のAI技術の多くの基礎となっています。 この基本的な仕組みを理解することは、より高度なAI技術を学ぶ上での第一歩となるでしょう。

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