ウォード法とは?初心者にもわかるクラスター分析の世界

はじめに

データ分析の世界には、たくさんの専門用語があります。その中でも「ウォード法」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?ウォード法は、たくさんのデータの中から似たもの同士を見つけてグループ分け(クラスタリング)するための、非常にポピュラーで強力な手法の一つです。

この記事では、データ分析の初心者の方でも理解できるように、ウォード法がどのようなもので、何ができるのかを分かりやすく解説していきます。

ウォード法を理解する前の準備:クラスター分析とは?

クラスター分析とは、たくさんのデータの中から、性質が似ているものを集めてグループ(クラスター)に分ける分析手法のことです。

例えば、顧客データを分析して「お得な情報に敏感なグループ」や「高品質な商品を求めるグループ」のように分けることで、それぞれのグループに合ったマーケティング戦略を立てることができます。このように、混沌としたデータの中から意味のある集団を見つけ出すのがクラスター分析の目的です。

クラスター分析にはいくつかの種類がありますが、ウォード法は「階層的クラスター分析」というカテゴリに属します。

  • 階層的クラスター分析: 一番似ているデータから順番に少しずつまとめていき、最終的に大きな一つのグループになるまでの過程を階層的に(樹形図のように)作り上げる手法です。どの階層で分けるかによって、クラスターの数を後から調整できるのが特徴です。
  • 非階層的クラスター分析: 最初に「いくつのグループに分けるか」を決めてから、データを分割する手法です。大量のデータの分析に向いています。

ウォード法は、この階層的クラスター分析の中でも特に有名な手法の一つです。

ウォード法(Ward’s Method)の正体

ウォード法は、1963年にJoe H. Ward, Jr.によって提案された階層的クラスター分析の手法です。

その最大の特徴は、「クラスターを併合したときに、グループ内のばらつき(分散)が最も小さくなるように」データやクラスターをまとめていく点にあります。 専門用語では「群内平方和(誤差平方和)の増加量を最小にする」と言います。

簡単に言うと、「仲間外れ」がなるべく出ないように、最も均質でコンパクトなグループを作ろうとする方法です。このアプローチにより、出来上がるクラスターのサイズが比較的均等になりやすく、解釈しやすい結果が得られることが多いとされています。

具体的な手順は以下のようになります。

  1. 最初は、すべてのデータがそれぞれ独立したクラスターであるとみなします。
  2. あらゆる組み合わせの中から、併合したときに群内平方和の増加量が最も小さいペアを見つけます。
  3. そのペアを一つの新しいクラスターとしてまとめます。
  4. すべてのデータが一つにまとまるまで、2と3のプロセスを繰り返します。

この一連の過程は、「デンドログラム」と呼ばれる樹形図で可視化することができます。

ウォード法のメリットとデメリット

ウォード法は非常に優れた手法ですが、万能ではありません。メリットとデメリットを理解して、適切な場面で使うことが重要です。

項目内容
メリット
  • 分類の感度が高い: グループ内のばらつきを最小化するため、データのわずかな違いを検出しやすく、精度の高い分類が期待できます。
  • バランスの取れたクラスター: 作成されるクラスターのサイズが比較的均等になりやすく、球状のコンパクトなグループ分けが得意です。
  • 解釈しやすい: 結果がデンドログラムで可視化できるため、どのようにグループが形成されたかを直感的に理解しやすいです。
デメリット
  • 計算量が多い: 全ての組み合わせについて平方和の増加量を計算するため、データ量が大きくなると計算に非常に時間がかかります。 このため、ビッグデータのような大規模なデータセットには不向きです。
  • 外れ値に弱い: 他のデータから大きく外れた値(外れ値)があると、その値が分散を大きくしてしまうため、クラスタリングの結果に悪影響を与える可能性があります。
  • 非球形のクラスターは苦手: 細長い形状や、密度の異なるクラスターの検出はあまり得意ではありません。

Pythonによる簡単な実装例

実際にウォード法がどのように使われるか、Pythonのライブラリscikit-learnscipyを使った簡単なコード例を見てみましょう。ここでは、いくつかのデータをウォード法でクラスタリングし、デンドログラムで可視化します。

import numpy as np
from sklearn.datasets import make_blobs
import matplotlib.pyplot as plt
from scipy.cluster.hierarchy import dendrogram, linkage
# サンプルデータを生成
# 4つの中心点を持つ、合計100個のデータを生成
X, y = make_blobs(n_samples=100, centers=4, n_features=2, cluster_std=1.0, random_state=42)
# ウォード法を用いて階層的クラスタリングを実行
# linkage関数がクラスタリングの計算を行います
# method='ward'でウォード法を指定
linked = linkage(X, method='ward')
# デンドログラムを描画
plt.figure(figsize=(12, 6))
dendrogram(linked, orientation='top', labels=None, # データ点が多いためラベルは非表示 distance_sort='descending', show_leaf_counts=True)
plt.title('Dendrogram (Ward Method)')
plt.xlabel('Data Points')
plt.ylabel('Distance')
plt.show() 

このコードを実行すると、データ点がどのようにグループ化されていくかを示すデンドログラムが表示されます。デンドログラムの縦軸はクラスター間の距離を表しており、どこでカットするかによってクラスターの数を決めることができます。

まとめ

ウォード法は、「グループ内のばらつきが最小になるように」データをまとめていく、階層的クラスター分析の代表的な手法です。 バランスの取れたクラスターを作りやすく、マーケティングの顧客分析や生物学の分類など、幅広い分野で活用されています。 一方で、計算量が多く外れ値に弱いという側面もあるため、データの特性を理解した上で使用することが大切です。

この記事が、ウォード法という強力な分析手法を理解するための一助となれば幸いです。

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