セマンティックセグメンテーションとは?AIによる画像認識の基本を初心者向けに解説

AIが画像を「理解する」ための重要な技術、セマンティックセグメンテーションの基本から応用までをわかりやすくご紹介します。

1. セマンティックセグメンテーションとは?

セマンティックセグメンテーションは、AIによる画像認識技術の一つです。 コンピュータが画像を単なる色の点の集まりとしてではなく、ピクセル(画素)一つひとつが「何であるか」を意味(セマンティック)ごとに理解し、領域を分割(セグメンテーション)する技術です。

例えば、自動運転車が撮影した道路の風景画像があったとします。セマンティックセグメンテーションを用いると、画像内のどのピクセルが「道路」で、どれが「歩行者」、どれが「自動車」、どれが「空」なのかを、色分けするように分類できます。 これにより、AIは画像の状況をより詳細に理解できるようになります。

2. 他の画像認識タスクとの違い

画像認識にはいくつかの種類があり、それぞれ目的が異なります。 セマンティックセグメンテーションが他の技術とどう違うのかを理解することは、この技術を深く知る上で非常に重要です。ここでは、代表的な画像認識タスクと比較してみましょう。

タスク名 目的 出力例 特徴
物体検出 (Object Detection) 画像内の物体の位置と種類を特定する。 物体を四角い枠(バウンディングボックス)で囲み、「猫」「犬」といったラベルを付ける。 物体の正確な形状まではわからない。
セマンティックセグメンテーション ピクセル単位でどのクラスに属するかを分類する。 「人」の領域、「道路」の領域などをピクセルレベルで塗り分ける。 同じ種類の物体(例:複数の人)を個別に区別しない
インスタンスセグメンテーション ピクセル単位でクラスを分類し、さらに個々の物体を区別する。 「人1」「人2」「車1」のように、個別の物体をそれぞれ塗り分ける。 セマンティックセグメンテーションより詳細な認識が可能。
パノプティックセグメンテーション すべてのピクセルにクラスと個体の情報を割り当てる。 背景(空、道路など)と個々の物体(人、車など)を同時に認識し、塗り分ける。 セマンティックセグメンテーションとインスタンスセグメンテーションを統合した手法。

このように、セマンティックセグメンテーションは「領域」に着目し、インスタンスセグメンテーションは「個々の物体」に着目するという違いがあります。

3. どのような仕組みで実現しているのか

セマンティックセグメンテーションは、主にディープラーニング(深層学習)、特に畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を応用した技術によって実現されています。 代表的なモデルには、FCN (Fully Convolutional Network)U-NetSegNetなどがあります。

これらのモデルの多くは、「エンコーダ・デコーダ構造」と呼ばれるアーキテクチャを採用しています。

  • エンコーダ: 入力画像から畳み込み層などを通じて、画像の大まかな特徴(何が写っているか)を抽出します。この過程で、画像サイズは小さくなっていきます。
  • デコーダ: エンコーダで抽出された特徴情報をもとに、今度は画像のサイズを元の大きさに戻しながら、ピクセルごとの詳細な位置情報を復元していきます。

この仕組みにより、画像全体の文脈を理解しつつ、ピクセル単位での精密な分類が可能になるのです。

4. 活用事例

セマンティックセグメンテーションは、その詳細な画像理解能力から、すでに様々な分野で活用されています。

  • 自動運転: 車載カメラの映像から、道路、歩行者、対向車、信号機、標識などをピクセルレベルで正確に識別し、安全な走行判断に役立てています。 例えば、福岡県の自動車学校では、2020年にこの技術を活用した「AI教習システム」の試乗会が実施されました。
  • 医療画像解析: MRIやCTスキャン画像から、特定の臓器やがん細胞などの病変領域を正確に抽出し、医師の診断を支援します。
  • 衛星画像の解析: 土地が森林、都市部、水域のいずれであるかを分類したり、災害発生時に浸水エリアを特定したりするのに利用されます。
  • 製造業の外観検査: 製品の傷や欠陥をピクセル単位で検出し、品質管理の自動化に貢献しています。
  • バーチャル背景: Web会議システムなどで、人物と背景を正確に分離し、好きな画像を背景として設定する技術にも応用されています。

5. 簡単なコードのイメージ

実際にPythonのライブラリ(PyTorchなど)を使うと、学習済みのモデルを使って比較的簡単にセマンティックセグメンテーションを試すことができます。以下は、その処理のイメージを示す疑似コードです。


# 必要なライブラリをインポート
import torch
import torchvision.transforms as T
from torchvision.models.segmentation import fcn_resnet50
from PIL import Image

# 1. 学習済みモデルをロード
model = fcn_resnet50(pretrained=True)
model.eval() # 推論モードに設定

# 2. 画像を読み込み、前処理を行う
input_image = Image.open("your_image.jpg")
preprocess = T.Compose([
    T.ToTensor(),
    T.Normalize(mean=[0.485, 0.456, 0.406], std=[0.229, 0.224, 0.225]),
])
input_tensor = preprocess(input_image)
input_batch = input_tensor.unsqueeze(0) # バッチ次元を追加

# 3. モデルで推論を実行
with torch.no_grad():
    output = model(input_batch)['out']
output_predictions = output.argmax(0)

# 4. 結果を可視化する (例: 人物を赤色で塗りつぶす)
# output_predictions には、各ピクセルのクラスIDが入っている
# これを元に、特定のクラス(例:人物=15)のピクセルを特定の色で描画する
# ... (可視化のためのコード) ...
        

このコードは、学習済みのFCNモデルを使い、入力された画像に対してセグメンテーションを行い、各ピクセルがどのカテゴリに属するかを予測する流れを示しています。

まとめ

セマンティックセグメンテーションは、AIが画像をピクセルレベルで「意味」を理解するための強力な技術です。 自動運転や医療など、精密な認識が求められる分野でその価値を発揮しており、今後も私たちの生活をより豊かで安全なものにするために、さらに多くの場面で活用されていくことでしょう。

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