1. 音声認識を変えた技術:CTC (Connectionist Temporal Classification)
AI、特に音声認識の分野で非常に重要な技術です。
CTCとは?
CTCは「Connectionist Temporal Classification」の略で、日本語では「コネクショニスト時系列分類」と訳されます。これは、主にニューラルネットワーク(AIの脳のようなもの)を使って、音声のような「連続したデータ(時系列データ)」をテキストなどの「バラバラのデータ(ラベル列)」に変換するためのアルゴリズム(計算方法)の一種です。2006年にAlex Graves氏らによって発表されました。
何が画期的だったのか? – アライメント作業の不要化
従来の音声認識技術には、大きな課題がありました。それは「アライメント(紐付け)」という作業です。
例えば、「こんにちは」という音声データは、時間の流れに沿った連続的な波形データです。これを「こ」「ん」「に」「ち」「は」という文字に変換するには、音声波形のどの部分が「こ」で、どの部分が「ん」なのかを、正確に紐付ける必要がありました。この作業は非常に手間がかかり、認識精度の向上を妨げる一因となっていました。
CTCは、この面倒なアライメント作業を不要にした点で画期的でした。CTCは、音声全体をみて、最もそれらしいテキスト列を直接予測することができます。これにより、End-to-End(最初から最後まで一気通貫)での音声認識モデルの構築が容易になりました。
CTCの仕組み(簡単なイメージ)
CTCの仕組みを理解するために、特別な「ブランク(blank)」というラベルの存在が鍵となります。
- 音声のフレーム分割と確率予測
まず、入力された音声データを非常に短い時間(フレーム)ごとに区切ります。そして、ニューラルネットワークが各フレームで「どの文字が発声されたか」の確率を予測します。 - 「ブランク」ラベルの導入
CTCでは、通常の文字(a, b, c…)に加えて、「ブランク(_のような記号で表現されます)」という特別なラベルを予測対象に加えます。このブランクは、文字と文字の間の無音部分や、同じ文字が続く場合(例:「Hello」の「l」)の区切りとして機能します。 - パスの統合と最終的なテキスト出力
ネットワークは、各フレームで最も確率の高い文字(またはブランク)を出力します。例えば、「cat」という音声から、[c, c, _, a, a, t, _]
のような出力が得られたとします。CTCは、ここから以下のルールで最終的なテキストを生成します。- 連続する同じ文字を一つにまとめる (例:
c, c
→c
) - ブランクをすべて取り除く
[c, c, _, a, a, t, _]
は見事に「cat」というテキストに変換されます。 - 連続する同じ文字を一つにまとめる (例:
このように、ブランクをうまく使うことで、発話の速さや間の取り方が違っても、柔軟に正しいテキストを出力できるようになったのです。
メリットとデメリット
項目 | 説明 |
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メリット |
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デメリット |
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2. 日本の大手IT企業:CTC (伊藤忠テクノソリューションズ)
IT業界で「CTC」と言えば、こちらの会社を指すことも非常に多いです。
CTCとは?
もう一つのCTCは、日本の大手システムインテグレーター(SIer)である「伊藤忠テクノソリューションズ株式会社」の略称です。1972年に設立され、IT業界で非常に有名な企業の一つです。
どんな会社?
伊藤忠テクノソリューションズは、国内外の最新のIT製品や技術を組み合わせ、顧客企業の課題を解決するためのコンサルティング、システムの設計・構築、運用・保守までを一貫して提供する総合ITサービス企業です。
私たちが普段利用している様々なサービスや、企業の活動の裏側で、CTCが構築・運用するITシステムが動いています。例えば、企業のサーバーやネットワークインフラ、クラウドサービスの導入支援、セキュリティ対策、データ分析基盤の構築など、その事業内容は多岐にわたります。
まとめ
今回は、二つの「CTC」について解説しました。
- Connectionist Temporal Classification: 音声認識の分野で、面倒な「アライメント」作業を不要にし、AIによる文字起こしの精度と効率を飛躍的に向上させた画期的な技術。
- 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社: 日本を代表する大手システムインテグレーターで、幅広いITサービスを提供し、社会を支えている企業。
このように、同じ「CTC」という言葉でも、話している文脈によって全く意味が異なります。AIの技術の話で出てきたら前者を、日本のIT企業の話で出てきたら後者を思い浮かべると良いでしょう。