初心者向け!MLOpsとは?DevOpsとの違いからメリットまで徹底解説

AI・機械学習のビジネス活用に不可欠な考え方を学ぼう

MLOpsとは何か?

MLOps(エムエルオプス)とは、「Machine Learning(機械学習)」と「Operations(運用)」を組み合わせた造語です。 機械学習モデルを開発するチームと、そのモデルを本番環境で運用するチームが連携し、モデルの開発からデプロイ、監視、改善までの一連のライフサイクルを効率的かつ継続的に管理するための文化や手法、技術のことを指します。

近年、AIや機械学習の技術は目覚ましく発展し、多くの企業がビジネスに導入しようとしています。しかし、単に精度の高いモデルを開発するだけでは、ビジネス上の価値を生み出し続けることは困難です。「PoC(概念実証)死」という言葉があるように、実証実験で成功したモデルが、実際のビジネスで活用されずに終わってしまうケースは少なくありません。

この課題を解決するために注目されているのがMLOpsです。MLOpsは、機械学習モデルを「作って終わり」ではなく、「動かし続け、育てていく」ための仕組みであり、AIプロジェクトを成功に導くための鍵となります。

MLOpsとDevOpsの違い

MLOpsの概念は、ソフトウェア開発の手法であるDevOpsから派生したものです。 DevOpsは、開発チーム(Development)と運用チーム(Operations)が協力し、ソフトウェアのリリースサイクルを迅速化し、品質を高めることを目的としています。

MLOpsもこの思想を基礎としていますが、機械学習システム特有の課題に対応するために拡張されています。 主な違いは以下の通りです。

比較項目DevOpsMLOps
中心となる要素アプリケーションのコードコードに加え、データモデルも管理対象
チーム構成開発エンジニア、運用エンジニア上記に加え、データサイエンティスト機械学習エンジニアが関わる
テスト対象コードの単体テスト、結合テストなどコードのテストに加え、データの検証モデルの評価モデルの公平性テストなど多岐にわたる
リリースのトリガーコードの変更、機能追加コードの変更に加え、新しいデータの投入や、本番環境でのモデル性能の低下がトリガーとなる
監視対象CPU使用率、メモリ使用量などのシステムメトリクスシステムメトリクスに加え、モデルの予測精度データドリフト(入力データの傾向変化)などを継続的に監視

このように、MLOpsはDevOpsの原則を基にしながらも、「データ」と「モデル」という常に変化しうる要素をいかに管理し、品質を維持していくかという、機械学習特有の複雑な課題に対応するための仕組みなのです。

MLOpsのライフサイクル

MLOpsは、一度きりの開発・デプロイで終わるのではなく、継続的な改善サイクルを回し続けます。 一般的なライフサイクルは、以下のようなステップで構成されます。

  1. データ収集・前処理: モデルの学習に必要なデータを様々なソースから収集し、モデルが学習しやすいように加工(クレンジングや特徴量エンジニアリング)します。
  2. モデル開発・学習: データサイエンティストが様々なアルゴリズムを試し、ビジネス課題に最適なモデルを開発・学習させます。
  3. モデル評価・検証: 学習済みモデルが未知のデータに対してどの程度の精度を発揮できるか、ビジネス要件を満たしているかを厳しく評価します。
  4. モデルのデプロイ: 評価をクリアしたモデルを、実際のサービスで利用できる本番環境へリリースします。
  5. 監視・モニタリング: 本番環境で稼働するモデルの予測精度や、入力データの傾向が変化していないかを常に監視します。
  6. 再学習: 新しいデータが追加されたり、モデルの性能が低下したりした場合に、自動的または定期的にモデルを再学習させ、性能を維持・向上させます。 この継続的トレーニング(CT: Continuous Training)はMLOpsの重要な概念です。

MLOpsでは、これらのプロセスを可能な限り自動化し、迅速かつ信頼性の高いサイクルを実現することを目指します。

MLOpsを導入するメリット

MLOpsを導入することで、企業は多くのメリットを享受できます。

主なメリット

  • 開発・運用プロセスの高速化: 各プロセスを自動化することで、手作業による時間やミスを削減し、モデルのリリースサイクルを大幅に短縮できます。
  • モデルの品質と信頼性の向上: 継続的な監視と再学習により、モデルの精度を常に高いレベルで維持し、ビジネス環境の変化に迅速に対応できます。
  • チーム間のコラボレーション促進: 開発、運用、データサイエンスといった異なる役割のチームが共通の基盤上で連携することで、スムーズなコミュニケーションと共同作業が実現します。
  • スケーラビリティの確保: 一度パイプラインを構築すれば、多数のモデルを効率的に管理・運用することが可能になり、ビジネスの拡大に合わせて柔軟に対応できます。
  • ガバナンスとコンプライアンスの強化: モデルのバージョン管理や変更履歴の追跡が容易になるため、再現性が確保され、規制要件への対応や監査がスムーズになります。

MLOpsの導入事例

MLOpsは概念だけでなく、既に多くの企業で実践され、成果を上げています。

  • 日立製作所: 製造ラインにおける外観検査AIにMLOpsを導入し、モデルの自動更新フローを構築しました。これにより、不良品検出率の改善と品質の安定化を実現しています。
  • 株式会社GA technologies: 不動産価格の推定モデルにMLOpsを活用し、市場データの変化を迅速に反映させるリアルタイム運用を実現しています。これにより、予測精度の維持と属人性の排除に成功しました。
  • NTTデータ: 2020年9月には、多数のAI案件で得た知見を基に、顧客が迅速にAIサービスを立ち上げ、継続的に改善するためのMLOps導入サービスの提供を開始しています。

これらの事例は、MLOpsが単なる技術的な取り組みにとどまらず、ビジネス価値の創出に直接貢献することを示しています。

まとめ

MLOpsは、機械学習プロジェクトを実験段階で終わらせず、継続的にビジネス価値を生み出すための不可欠なアプローチです。 開発と運用、そしてデータサイエンスの壁を取り払い、一貫したライフサイクル管理を自動化することで、企業はAI活用の成果を最大化できます。

AI技術の活用が企業の競争力を左右する現代において、MLOpsの理解と導入は、データ駆動型のビジネスを推進する上でますます重要になるでしょう。

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