Fortranで計算したデータをグラフにして理解を深めよう!
はじめに
Fortranは数値計算に非常に強力な言語ですが、計算結果を数値の羅列だけで理解するのは難しい場合があります 。そこで、計算結果をグラフなどで「見える化」することが重要になります。
このステップでは、Fortranプログラムで生成したデータをファイルに出力し、それをGnuplotのような外部の可視化ツールで読み込んでグラフ化する方法を学びます。これにより、計算結果の分析や理解が格段に進みます。
1. Fortranからファイルへのデータ出力
Gnuplotなどの可視化ツールでデータを読み込むためには、特定の形式でファイルに出力する必要があります。一般的には、以下のようなテキストファイル形式がよく使われます。
- スペース区切り: 各列のデータをスペースで区切る形式。
- タブ区切り: 各列のデータをタブ文字で区切る形式。
- CSV (Comma Separated Values): 各列のデータをカンマで区切る形式。
FortranのWRITE
文を使って、これらの形式でデータを出力できます。例えば、x座標とy座標のデータをスペース区切りで`output.dat`というファイルに出力する簡単な例を見てみましょう。
OPEN
文でファイルを開き、書き込み用ユニット番号(ここでは10
)を割り当てます。status='unknown'
はファイルが存在しない場合に新規作成、存在する場合は上書き(内容は消去)します。WRITE(ユニット番号, *)
のようにアスタリスク(*
)を使うと、リスト指定形式(通常はスペース区切り)で出力されます。特定の書式で出力したい場合はFORMAT
文を使います(Step 5参照)。CLOSE
文でファイルを閉じるのを忘れないようにしましょう。
2. Gnuplotの基本的な使い方
Gnuplotは、コマンドラインベースのグラフ作成ツールです。多くのOS(Windows, macOS, Linux)で利用できます。
インストール後、ターミナル(コマンドプロンプト)でgnuplot
と入力すると起動します。
基本的なプロットコマンドはplot
です。先ほどFortranで作成した`output.dat`ファイルをプロットするには、次のように入力します。
これにより、`output.dat`の1列目をx軸、2列目をy軸として、線と点でグラフが表示されます。with linespoints
(または w lp
) は描画スタイルを指定するオプションです。他にもwith lines
(線のみ), with points
(点のみ) などがあります。
グラフにタイトルや軸ラベルを追加することもできます。
Gnuplotを終了するにはexit
またはquit
と入力します。
参考: Gnuplot official website – http://www.gnuplot.info/
3. FortranとGnuplotの連携方法
FortranプログラムとGnuplotを連携させる主な方法は2つあります。
方法1: Gnuplotスクリプトを使う
一連のGnuplotコマンドをテキストファイル(例: `plot_script.gp`)に記述しておき、Gnuplotでそのスクリプトを実行する方法です。
plot_script.gp の例:
このスクリプトを実行するには、ターミナルで以下のように入力します。
これにより、`graph.png`という名前でグラフの画像ファイルが生成されます。
手順:
- Fortranプログラムを実行してデータファイル (`output.dat`) を生成する。
- Gnuplotスクリプト (`plot_script.gp`) を用意する。
- ターミナルで `gnuplot plot_script.gp` を実行する。
この方法は、手動でグラフ化する場合や、決まった形式のグラフを繰り返し作成する場合に適しています。
方法2: FortranからSYSTEM
サブルーチンでGnuplotを呼び出す
Fortranプログラム内からOSのコマンドを実行できるSYSTEM
サブルーチン(または類似の非標準拡張)を使って、Gnuplotを直接呼び出す方法です。これにより、データ生成からグラフ化までをFortranプログラム内で完結させることができます 。
SYSTEM
サブルーチンはFortranの標準規格ではありません。多くの処理系(gfortran, Intel Fortranなど)で利用可能ですが、移植性に欠ける可能性があります。SYSTEM
サブルーチンはセキュリティ上のリスクを伴う可能性があるため、信頼できない入力をコマンド文字列に含めないように注意が必要です。- Gnuplotのコマンドを一つの文字列にまとめる際、引用符(
'
や"
)の扱いに注意が必要です。Fortranの文字列内で引用符を使う場合は、二重(''
や""
)にする必要があります。上の例では、OSコマンドラインで全体をダブルクォートで囲むため、 Fortran の文字列リテラルとしては"""
のように3重になっています。 - 長いコマンドは読みにくくなるため、Gnuplotスクリプトファイルを作成し、それを
SYSTEM
で呼び出す方が管理しやすい場合もあります (例:call system("gnuplot plot_script.gp")
)。
4. 実践例: sin関数のグラフ化
もう少し具体的な例として、sin関数 \(y = \sin(x)\) のデータをFortranで計算・出力し、Gnuplotでグラフ化してみましょう。
Fortranプログラム (sin_data.f90
):
このプログラムをコンパイル・実行すると、`sin_data.dat`ファイルが生成されます。
次に、このデータをプロットするためのGnuplotスクリプト (`plot_sin.gp`) を作成します。
Gnuplotスクリプト (plot_sin.gp
):
最後に、Gnuplotでこのスクリプトを実行します。
これで、カレントディレクトリに `sin_graph.png` というファイル名で sin 関数のグラフが生成されているはずです 。
5. その他の可視化ツール
Gnuplotは非常に強力で広く使われているツールですが、他にもFortranと連携できる可視化ツールは存在します。
ツール名 | 特徴 | 連携方法 |
---|---|---|
Python (Matplotlib, Seabornなど) | 高機能で柔軟なグラフ作成が可能。Jupyter Notebookなどでの対話的な分析にも強い。 |
|
Grace (xmgrace) | 科学技術分野で古くから使われている2Dグラフ作成ツール。GUI操作も可能。 | Fortranでデータファイルを出力し、Graceで読み込むか、コマンドラインオプションで操作。 |
ParaView / VisIt | 大規模な3次元データの可視化に特化した高機能ツール。並列計算結果の可視化など。 | VTKなどの標準的なデータフォーマットでFortranから出力し、ParaView/VisItで読み込む。 |
どのツールを選択するかは、作成したいグラフの種類、必要な機能、使い慣れている環境などによって異なります。まずはGnuplotから試してみるのがおすすめです。
まとめ
このステップでは、Fortranプログラムで計算した結果をファイルに出力し、Gnuplotを使ってグラフとして可視化する方法を学びました。
- Fortranの
WRITE
文で、スペース区切りなどのテキストファイルにデータを出力する。 - Gnuplotの基本的な使い方(
plot
コマンド、各種設定)を理解する。 - Gnuplotスクリプトを作成して、定型的なグラフ作成を自動化する。
- (応用) Fortranの
SYSTEM
サブルーチンを使って、プログラム内からGnuplotを呼び出す。
計算結果を視覚的に表現することで、データの傾向や特徴を直感的に把握できるようになります。これは、デバッグ、結果の解釈、そして他者への説明において非常に役立ちます 。
次のステップ(ミニプロジェクト)では、ここで学んだ知識も活用しながら、より実践的なプログラム作成に挑戦してみましょう!
参考情報
- Gnuplot official website: http://www.gnuplot.info/ – 公式サイト。ドキュメントやデモがあります。
- Gnuplot ドキュメント日本語訳: (特定の最新公式訳サイトは変動する可能性がありますが、検索すると有志による翻訳が見つかることがあります) – Gnuplotの使い方を日本語で学ぶ際に役立ちます。
- Fortran 標準の `execute_command_line` サブルーチン: Fortran 2008 で標準化されたサブルーチンで、`SYSTEM` と同様にOSコマンドを実行できます。より標準的で推奨される方法です。使い方を調べてみましょう。 (例: `call execute_command_line(“gnuplot plot_script.gp”)`)