Solidityの学習ステップ3へようこそ!ここでは、スマートコントラクトの骨格となる「コンストラクタ」と、それを使った「初期化」について学びます。これらはコントラクトが正しく機能するための基礎となる重要な概念です。
コンストラクタとは?
コンストラクタ (Constructor) は、Solidityのスマートコントラクトにおいて特別な役割を持つ関数です。オブジェクト指向プログラミングに慣れている方にはお馴染みかもしれませんが、Solidityのコンストラクタには独自の特徴があります。
最大の特徴は、コントラクトがブロックチェーンにデプロイされる時に一度だけ実行されるということです。通常の関数のように後から呼び出すことはできません。
コンストラクタは constructor
キーワードを使って定義します。関数名はありません。
// SPDX-License-Identifier: MIT
pragma solidity ^0.8.20;
contract MyContract {
string public message;
address public owner;
// これがコンストラクタです
constructor(string memory _initialMessage) {
message = _initialMessage;
owner = msg.sender; // msg.sender はコントラクトをデプロイした人のアドレス
}
// ... 他の関数 ...
}
上記の例では、コントラクトがデプロイされる際に初期メッセージ (_initialMessage
) を受け取り、それを状態変数 message
に設定します。同時に、デプロイを実行した人のアドレスを owner
に設定しています。
コンストラクタは省略可能です。もしコンストラクタを定義しない場合、引数なしのデフォルトコンストラクタ (constructor() {}
と同等) があるものとして扱われます。
コンストラクタの役割:コントラクトの初期化
コンストラクタの主な役割は、コントラクトの状態変数を初期化することです。コントラクトが動作を開始する前に、必要な初期値を設定するために使われます。
主な初期化の例:
- オーナーの設定: コントラクトの管理者アドレスを設定する。
- 初期供給量の設定: トークンコントラクトなどで、初期のトークン総量を設定する。
- 依存コントラクトアドレスの設定: 他のコントラクトと連携する場合、そのアドレスを設定する。
- パラメータの設定: コントラクトの動作に必要な閾値などを設定する。
// SPDX-License-Identifier: MIT
pragma solidity ^0.8.20;
contract Token {
mapping(address => uint256) public balances;
uint256 public totalSupply;
address public owner;
// コンストラクタで初期値を設定
constructor(uint256 _initialSupply) {
owner = msg.sender; // デプロイ者をオーナーに
totalSupply = _initialSupply; // 初期供給量を設定
balances[owner] = _initialSupply; // 全供給量をオーナーに割り当て
}
// ... トークン転送などの関数 ...
}
immutable変数との連携
immutable
キーワードで宣言された変数は、定数 (constant
) に似ていますが、コンパイル時ではなくコンストラクタ内でのみ一度だけ値を代入できるという特徴があります。
一度設定された後は変更できなくなるため、コントラクトのオーナーアドレスや、連携する別のコントラクトのアドレスなど、デプロイ時に決定し後から変更しない値の格納に適しています。これはガス効率の面でもメリットがあります。
// SPDX-License-Identifier: MIT
pragma solidity ^0.8.20;
contract Example {
address public immutable owner; // immutable変数
uint256 public immutable creationTime; // immutable変数
constructor() {
owner = msg.sender; // コンストラクタで一度だけ代入可能
creationTime = block.timestamp; // デプロイ時のタイムスタンプを設定
}
// コンストラクタ実行後は owner や creationTime を変更する関数は書けません
}
immutable
変数は、デプロイ後の変更を防ぎつつ、デプロイ時に動的な値(デプロイ者のアドレスやデプロイ時のタイムスタンプなど)を設定したい場合に非常に便利です。
コンストラクタの注意点
コンストラクタを使用する際には、いくつかのルールと注意点があります。
- 1コントラクトに1つだけ: 1つのコントラクトには、コンストラクタを1つしか定義できません。オーバーロード(引数の異なる同名関数を複数定義すること)はできません。
- 実行は1回のみ: デプロイ時に自動的に実行され、その後は呼び出せません。
- 状態変更可能: コンストラクタ内では状態変数の変更が可能です。
view
やpure
は指定できません。 - アクセス修飾子:
public
またはinternal
を指定できます。省略した場合はpublic
になります。internal
を指定すると、そのコントラクトは抽象コントラクトとなり、直接デプロイできなくなります(継承して使うことが前提となります)。 payable
修飾子: コンストラクタにpayable
を付けると、コントラクトのデプロイ時にEtherを受け取ることができます。この場合、アクセス修飾子はpublic
である必要があります。- 戻り値なし: コンストラクタは値を返すことができません。
returns
キーワードは使用できません。 - 継承時の注意: 親コントラクトが引数付きのコンストラクタを持つ場合、子コントラクトは継承定義時または子コントラクトのコンストラクタ内で親のコンストラクタ引数を指定する必要があります。
実践コード例
簡単なカウンターコントラクトを例に、コンストラクタを使った初期化を見てみましょう。
// SPDX-License-Identifier: MIT
pragma solidity ^0.8.20;
import "hardhat/console.sol"; // Remixなどでのデバッグ用
contract Counter {
uint256 public count; // カウンター変数
address public immutable owner; // コントラクト所有者 (変更不可)
string public description; // コントラクトの説明
// コンストラクタ: 初期値と説明を受け取る
constructor(uint256 _initialCount, string memory _description) {
owner = msg.sender; // デプロイ者をオーナーに設定
count = _initialCount; // 引数で受け取った初期値を設定
description = _description; // 引数で受け取った説明を設定
console.log("Counter contract deployed!");
console.log("Initial count:", _initialCount);
console.log("Owner:", owner);
console.log("Description:", _description);
}
// カウントを増やす関数 (オーナーのみ実行可能)
function increment() public {
require(msg.sender == owner, "Only owner can increment");
count++;
console.log("Count incremented to:", count);
}
// カウントを減らす関数 (オーナーのみ実行可能)
function decrement() public {
require(msg.sender == owner, "Only owner can decrement");
require(count > 0, "Count cannot be negative");
count--;
console.log("Count decremented to:", count);
}
}
このコントラクトでは、デプロイ時に初期カウント値 (_initialCount
) とコントラクトの説明 (_description
) をコンストラクタの引数として渡します。これにより、count
と description
が初期化され、同時にデプロイ者のアドレスが owner
として設定されます。
まとめ
今回は、スマートコントラクトの特別な関数であるコンストラクタとその主な役割である初期化について学びました。
- コンストラクタはコントラクトデプロイ時に一度だけ実行される。
- 主な役割は、状態変数の初期化(オーナー設定、初期値設定など)。
constructor
キーワードで定義し、関数名は持たない。immutable
変数はコンストラクタでのみ値の設定が可能。- アクセス修飾子は
public
またはinternal
を指定できる。
コンストラクタを正しく理解し活用することで、コントラクトの初期状態を安全かつ確実に設定できます。これは、コントラクト全体の動作とセキュリティの基礎となります。
次のステップでは、コントラクトの状態変化を外部に通知する仕組みである「イベントとログの利用」について学んでいきましょう!