データベース操作の信頼性を保証する仕組み 🛡️
はじめに
データベースを操作していると、「複数の処理をまとめて実行したい」「途中でエラーが起きたら、全部元に戻したい」といった状況によく遭遇します。例えば、銀行の振込処理を考えてみましょう。Aさんの口座からBさんの口座へお金を移動する場合、「Aさんの残高を減らす」処理と「Bさんの残高を増やす」処理は、必ずセットで成功するか、あるいはどちらも実行されないようにする必要があります。もし片方だけ実行されてしまうと、データに矛盾が生じて大変なことになりますよね?😱
このような一連の処理を安全かつ確実に実行するための仕組みがトランザクションです。そして、トランザクションが持つべき重要な性質をまとめたものがACID特性です。このステップでは、データベースの信頼性を支えるこれらの重要な概念について学んでいきましょう!
トランザクションとは?
トランザクションとは、分割不可能な一連のデータベース操作(SQL文)の単位のことです。トランザクション内の処理は、「すべて成功」するか「すべて失敗(実行前の状態に戻る)」かのどちらかであることが保証されます。
トランザクションを使うことで、データの一貫性を保ち、予期せぬエラーが発生した場合でもデータの整合性を守ることができます。
基本的なSQLコマンド
トランザクションを制御するために、主に以下のSQLコマンドを使用します。
BEGIN
またはSTART TRANSACTION
: トランザクションを開始します。COMMIT
: トランザクション内のすべての変更を確定し、データベースに永続的に反映させます。ROLLBACK
: トランザクション内のすべての変更を取り消し、トランザクション開始前の状態に戻します。
注意: 使用するデータベースシステム(MySQL, PostgreSQLなど)によって、トランザクションの開始コマンドが異なる場合があります (例: PostgreSQLでは BEGIN
、MySQLでは START TRANSACTION
も使えます)。また、多くのデータベースではデフォルトで自動コミットが有効になっています。これは、各SQL文が自動的に一つのトランザクションとして扱われ、実行後すぐにコミットされるモードです。複数のSQL文を一つのトランザクションとして扱いたい場合は、明示的にBEGIN
などでトランザクションを開始する必要があります。
ACID特性とは?
ACID(アシッド)特性は、信頼性の高いトランザクションシステムが持つべきとされる4つの性質の頭文字をとったものです。これらの特性により、データベースの状態が常に正しく保たれます。
特性 | 英語 | 意味 | 簡単な説明 |
---|---|---|---|
Atomicity | 原子性 | トランザクション内の処理がすべて実行されるか、まったく実行されないかのどちらかであること。 | All or Nothing! 中途半端な状態にならない。 |
Consistency | 一貫性 | トランザクションの前後で、データベースの整合性が保たれていること。 | データが矛盾した状態にならない。(例: NOT NULL制約、外部キー制約などが守られる) |
Isolation | 独立性(隔離性) | 複数のトランザクションを同時に実行した場合でも、互いの処理に干渉せず、あたかも各トランザクションが順番に実行されているかのように見えること。 | 他の処理の影響を受けずに、自分の処理に集中できる。 |
Durability | 永続性(耐久性) | 正常に完了(COMMIT)したトランザクションの結果は、システム障害が発生しても失われないこと。 | 一度コミットしたら、データは消えない!💪 |
Atomicity (原子性)
トランザクションは「原子」のように、それ以上分割できない最小単位として扱われます。中の処理が一部だけ成功する、ということはありません。例えば、銀行振込処理で「Aさんの残高を減らす」は成功したけど、「Bさんの残高を増やす」でエラーが発生した場合、原子性が保証されていれば、「Aさんの残高を減らす」処理も取り消され、元の状態に戻ります。まさに “All or Nothing” です。
Consistency (一貫性)
トランザクションは、データベースをある一貫した状態から別の一貫した状態へ遷移させるものでなければなりません。ここでいう「一貫性」とは、データの矛盾がない状態を指します。データベースにあらかじめ設定されたルール(制約:主キー、外部キー、NOT NULL、CHECKなど)を満たさないようなデータの変更は、トランザクションの完了(COMMIT)時に許可されません。もしルール違反があれば、トランザクションは失敗(ROLLBACK)し、データの一貫性が保たれます。
Isolation (独立性 / 隔離性)
複数のユーザーが同時にデータベースを操作する場合、あるトランザクションの途中経過(まだCOMMITされていない変更)が他のトランザクションから見えたり、影響を与えたりしないように制御されます。これにより、あたかも各トランザクションが一人でデータベースを使っているかのように、独立して動作することができます。データベースシステムは、この独立性を実現するために「ロック」という仕組みや、「トランザクション分離レベル」という概念を用いています。分離レベルにはいくつか段階があり、どのレベルを選ぶかで独立性の度合いやパフォーマンスが変わってきますが、初学者の段階では「同時に実行しても、他の処理の影響を受けにくい仕組みがある」と理解しておけば良いでしょう。
Durability (永続性 / 耐久性)
トランザクションが正常にCOMMITされると、その変更内容はデータベースに恒久的に記録され、失われることはありません。たとえCOMMIT直後にデータベースサーバーの電源が落ちたり、システム障害が発生したとしても、再起動後にはCOMMITされた変更が反映された状態になります。通常、データベースは変更内容をディスク上のログファイルなどに書き出すことで永続性を保証しています。
トランザクションの例を見てみよう
口座テーブル(accounts
)を使って、Aさん(id=1
)からBさん(id=2
)へ1000円送金する例を見てみましょう。
テーブル定義例:
CREATE TABLE accounts (
id SERIAL PRIMARY KEY,
name VARCHAR(100) NOT NULL,
balance INTEGER NOT NULL CHECK (balance >= 0) -- 残高は0以上という制約
);
INSERT INTO accounts (name, balance) VALUES
('Aさん', 5000),
('Bさん', 2000);
成功するケース ✅
-- まずは現在の残高を確認
SELECT id, name, balance FROM accounts WHERE id IN (1, 2);
-- 結果:
-- id | name | balance
------+-------+---------
-- 1 | Aさん | 5000
-- 2 | Bさん | 2000
-- トランザクション開始
BEGIN;
-- Aさんの残高を1000減らす
UPDATE accounts
SET balance = balance - 1000
WHERE id = 1;
-- (この時点ではまだ変更は確定していない)
-- Bさんの残高を1000増やす
UPDATE accounts
SET balance = balance + 1000
WHERE id = 2;
-- (この時点でもまだ変更は確定していない)
-- ここで Aさんの残高がマイナスになっていないかなどをチェックする処理が入ることもある (今回は省略)
-- 問題なければ変更を確定
COMMIT;
-- 変更後の残高を確認
SELECT id, name, balance FROM accounts WHERE id IN (1, 2);
-- 結果:
-- id | name | balance
------+-------+---------
-- 1 | Aさん | 4000
-- 2 | Bさん | 3000
COMMIT
が成功すると、Aさんの残高が1000減り、Bさんの残高が1000増えた状態がデータベースに永続的に記録されます。
途中でエラーが発生するケース(ROLLBACK) ❌
例えば、Aさんの残高が500円しかない状態で1000円送金しようとした場合を考えます。テーブル定義でCHECK (balance >= 0)
という制約を入れているため、Aさんの残高を減らすUPDATE
文はエラーになります。
-- Aさんの残高を500円に変更しておく
UPDATE accounts SET balance = 500 WHERE id = 1;
-- まずは現在の残高を確認
SELECT id, name, balance FROM accounts WHERE id IN (1, 2);
-- 結果:
-- id | name | balance
------+-------+---------
-- 1 | Aさん | 500
-- 2 | Bさん | 3000 (前の例から変更されている想定)
-- トランザクション開始
BEGIN;
-- Aさんの残高を1000減らす → ここでエラーが発生するはず!
UPDATE accounts
SET balance = balance - 1000
WHERE id = 1;
-- ERROR: new row for relation "accounts" violates check constraint "accounts_balance_check"
-- DETAIL: Failing row contains (1, Aさん, -500).
-- エラーが発生したので、トランザクションは自動的に失敗するか、
-- 明示的に変更を取り消す (エラーを検知して ROLLBACK するのが一般的)
ROLLBACK;
-- 変更が取り消されたか確認
SELECT id, name, balance FROM accounts WHERE id IN (1, 2);
-- 結果: (トランザクション開始前の状態に戻っている)
-- id | name | balance
------+-------+---------
-- 1 | Aさん | 500
-- 2 | Bさん | 3000
エラーが発生した場合、UPDATE
文は失敗し、ROLLBACK
が実行される(または暗黙的にロールバックされる)ことで、トランザクション開始前の状態に戻ります。もしトランザクションを使わずに個別にUPDATE
文を実行していたら、片方の処理だけ失敗してデータの整合性が取れなくなる可能性がありました。トランザクションと制約のおかげで、データが不正な状態になるのを防ぐことができます。
まとめ
今回は、データベースの信頼性を確保するための重要な概念であるトランザクションとACID特性について学びました。
- トランザクションは、分割できない一連の処理単位であり、
BEGIN
,COMMIT
,ROLLBACK
を使って制御します。これにより、複数の操作を安全に実行できます。 - ACID特性は、トランザクションが持つべき4つの重要な性質です:
- Atomicity (原子性): All or Nothing. 処理は全部成功するか、全部失敗するかのどちらか。
- Consistency (一貫性): データの矛盾を防ぎ、常に正しい状態を保つ。
- Isolation (独立性): 同時実行される他のトランザクションから影響を受けない(ように見える)。
- Durability (永続性): COMMITされた変更は、障害が発生しても失われない。
これらの仕組みがあるおかげで、私たちはデータの整合性を心配することなく、安心してデータベースを利用できます。特に、複数のテーブルにまたがる更新処理や、重要なデータを扱う際には、トランザクションとACID特性を意識することが非常に重要になります。💪
次のステップでは、複雑なSELECT文を単純化したり、再利用可能にするための「ビュー(VIEW)」について学んでいきましょう! ✨
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