「Mini-Max法(ミニマックス法)」という言葉を聞いたことはありますか? チェスやオセロのようなゲームで、コンピュータが人間と互角以上に戦えるのは、このMini-Max法という考え方が基礎にあるからです。
しかし、この用語は使われる分野によって少し意味合いが異なります。この記事では、主にAIのゲーム戦略で使われるアルゴリズムとしてのMini-Max法と、経済学や統計学で使われる意思決定のルールとしてのミニマックス法の2つを、初心者の方にも分かりやすく解説します。
1. ゲームAIの戦略:アルゴリズムとしてのMini-Max法
最もよく知られているのが、ゲームAIの探索アルゴリズムとしてのMini-Max法です。これは、二人零和有限確定完全情報ゲーム(お互いに全ての情報が公開されており、一方が勝てばもう一方が負ける、偶然の要素がないゲーム)で最適な手を見つけるために使われます。
少し難しい言葉が並びましたが、要するにオセロ、将棋、チェス、三目並べといったゲームが当てはまります。
基本的な考え方
Mini-Max法の名前の由来は、その考え方そのものにあります。
- Max(最大化): 自分の番では、選択肢の中から自分の利益(スコア)が最大になる手を選ぶ。
- Mini(最小化): 相手の番では、相手は自分の利益(スコア)が最小になる手を選んでくると予測する。
つまり、「自分は常に最善手を打ち、相手も常に最善手を打ってくる」と仮定して、何手か先まで読み、最終的に自分にとって最も有利な結果につながる最初の一手を選ぶ、という戦略です。
思考のプロセス:ゲーム木と評価関数
コンピュータは、現在の局面から考えられる全ての手を枝分かれさせ、木の構造のようにして考えます。これを「ゲーム木」と呼びます。 そして、ゲーム木の末端(数手先の局面)が、どちらにとってどれくらい有利かを示す点数をつけます。この点数を計算する仕組みが「評価関数」です。
例えば、オセロなら「自分の石の数が多いほど高得点」、将棋なら「強い駒を持っているほど高得点」といった具合です。
コンピュータは、この評価関数を使って数手先の各局面のスコアを計算し、そこから逆算して現在の自分の手番でどの手を選べば最もスコアが高くなるかを判断します。
この方法は、理論上は必勝法を見つけられますが、大きな課題があります。それは、ゲームの選択肢が増えると、ゲーム木の枝分かれが爆発的に増加し(組み合わせ爆発)、計算に膨大な時間がかかってしまう点です。 そのため、実際のゲームAIでは、探索する深さを制限したり、「α-β法(アルファベータ法)」という枝刈りのテクニックを使って計算量を削減するなどの工夫がされています。
2. 意思決定のルールとしてのミニマックス法(ミニマックス基準)
もう一つの意味は、主に決定理論や統計学で使われる意思決定のルールです。こちらは「ミニマックス基準」とも呼ばれます。
これは、不確実な状況で何かを決めなければならないときに、「各選択肢を選んだ場合に起こりうる最悪の結果(最大損失)をまず考え、その中で最もマシなもの(損失が最小になるもの)を選ぶ」という考え方です。
非常に悲観的・保守的なアプローチで、「最悪の事態は避けたい」というリスク回避の姿勢が強く表れています。
具体例:新しい店舗の出店計画
あなたが会社の経営者で、新しい店舗を出すかどうかの判断を迫られているとします。将来の景気が「良い」「悪い」の2パターンで、それぞれの選択による年間の予想利益(損失)が以下のようになるとします。
選択肢 | 景気が良い場合 (利益) | 景気が悪い場合 (利益) | 各選択肢での最悪の結果 (最大損失) |
---|---|---|---|
A案:大規模な店舗を出す | +1億円 | -6000万円 | -6000万円 |
B案:小規模な店舗を出す | +4000万円 | -1000万円 | -1000万円 |
C案:出店しない | 0円 | 0円 | 0円 |
ミニマックス法では、まず各選択肢(A, B, C)の「最悪の結果」に着目します。
- A案の最悪:-6000万円の損失
- B案の最悪:-1000万円の損失
- C案の最悪:0円の損失(現状維持)
次に、これらの「最悪の結果(最大損失)」の中で、最も損失が小さい(=最もマシな)選択肢を選びます。この場合、-6000万円、-1000万円、0円を比較すると、最も損失が小さいのは「C案:出店しない」の0円です。
したがって、ミニマックス法に従うと、「出店しない」という結論になります。景気が良くなった場合の大きな利益を逃す可能性はありますが、最悪の事態を確実に避けることができる、非常に手堅い判断と言えます。
この考え方は、在庫管理における発注方式(ミニマックス法)など、ビジネスの現場でも応用されています。
まとめ
今回は「Mini-Max法」について、2つの側面から解説しました。
分野 | 意味 | 目的 |
---|---|---|
ゲーム理論・AI | 自分の利益を最大化(Max)し、相手の利益を最小化(Mini)する前提で先読みするアルゴリズム。 | 二人零和ゲームで最適な手を見つけること。 |
決定理論・統計学 | 起こりうる最大損失(Max)が最小(Mini)になる選択肢を選ぶ意思決定ルール。 | 不確実な状況下でリスクを最小限に抑えること。 |
同じ名前でも、使われる文脈によって「攻めの戦略」にも「守りの戦略」にもなる、非常に興味深い考え方です。この基本を知ることで、ゲームAIの仕組みや、ビジネスにおける意思決定の考え方について、より深く理解できるようになったのではないでしょうか。