はじめに
近年、AI技術の発展は目覚ましく、私たちの生活の様々な場面で活用されています。その中でも特に注目を集めている技術の一つが「姿勢推定」です。画像や動画から人物の動きや姿勢を読み取るこの技術は、スポーツ分析からエンターテイメントまで、幅広い分野で可能性を広げています。
今回は、その姿勢推定技術を代表するオープンソースライブラリであるOpenPoseについて、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。「人の骨格がなぜ見えるの?」「どんなことに使えるの?」といった疑問を解消し、その魅力に迫ります。
OpenPoseとは?2つの意味
「OpenPose」という言葉には、主に二つの意味合いで使われることがあります。一つはAI技術の名称、もう一つはヨガなどの身体表現におけるポーズの名称です。
1. AI技術としての「OpenPose」
AIの分野におけるOpenPoseとは、アメリカのカーネギーメロン大学(CMU)が2017年に発表した、画像や動画からリアルタイムで人間の骨格情報を検出する技術、およびそのためのオープンソースライブラリを指します。
特別なセンサーやマーカー付きのスーツなどを使わずに、一般的なカメラで撮影した映像だけで、複数人の身体、顔、手の関節(キーポイント)を同時に、かつ高精度に検出できるのが大きな特徴です。 この技術の登場により、姿勢推定の研究や応用が飛躍的に進みました。
2. ヨガなどにおける「オープンポーズ」
一方、ヨガやフィットネスの世界では、「オープンポーズ」または「チェストオープン」「ヒップオープン」といった言葉が使われます。 これは、胸や股関節などを開く動きやポーズを指す言葉です。
これらのポーズは、呼吸を深めたり、心身をリラックスさせたり、姿勢を改善したりする効果が期待されます。 AI技術のOpenPoseとは直接的な関係はありませんが、同じ「ポーズを開く」という表現が使われる点で興味深いと言えるでしょう。
本記事では、主にAI技術としてのOpenPoseについて詳しく解説していきます。
OpenPoseの仕組み(どうやって骨格を検出するの?)
OpenPoseは、なぜ画像から人の骨格を「見る」ことができるのでしょうか。その裏側では、ディープラーニング(深層学習)というAI技術が活躍しています。
非常に簡単に説明すると、以下のようなステップで処理が行われます。
- キーポイントの検出:AIが学習した大量のデータをもとに、画像の中から人間の関節にあたる部分(肩、肘、手首、膝など)を「キーポイント」として検出します。
- キーポイントの関連付け:次に、「Part Affinity Fields (PAFs)」という独自の手法を使い、検出したキーポイントが「誰の」「どの部位」に属するのかを判断し、線で結びつけます。 これにより、複数の人が写っていても、それぞれの骨格を正しく認識できます。
- 骨格(スケルトン)の生成:キーポイントとそれらを結ぶ線によって、人間のような骨格(スケルトン)が生成され、人の姿勢が可視化されます。
この一連の処理を非常に高速に行うことで、動画に対してもリアルタイムで姿勢を推定することが可能になっています。
OpenPoseで検出できること
OpenPoseは、全身の骨格だけでなく、非常に細かい部分まで検出できるのが強みです。検出できる主なキーポイントは以下の通りです。
部位 | 検出できる主なキーポイント |
---|---|
全身 | 鼻、首、両肩、両肘、両手首、両股関節、両膝、両足首、両目、両耳など |
顔 | 顔の輪郭、眉、目、鼻、口の周りの70近いランドマーク |
手 | 片手につき21点の関節(指の付け根から指先まで) |
物で隠れて見えない部分もある程度推測して検出することが可能です。
OpenPoseの活用事例
高精度な姿勢推定をリアルタイムで行えるOpenPoseは、すでに様々な分野で活用が始まっています。
- スポーツ科学:野球選手のピッチングフォームやサッカー選手のランニングフォームを分析し、パフォーマンスの向上や怪我の予防に役立てます。
- ヘルスケア・医療:リハビリテーションにおける患者の動作を記録・分析したり、高齢者の転倒検知システムに応用したりします。
- エンターテイメント:映画やゲーム制作におけるモーションキャプチャの補助として利用し、よりリアルなキャラクターの動きを生成します。
- 小売・マーケティング:店舗内の顧客の動線を分析し、商品配置の最適化やマーケティング戦略に活かします。
- 画像生成AIとの連携:近年では、「ControlNet」という技術と組み合わせ、棒人間のポーズ(スケルトン)から非常に精巧な画像を生成するのにも使われています。 これにより、複雑なポーズのイラストなどを簡単に作成できるようになりました。
OpenPoseを使ってみる(コード例)
OpenPoseはPythonやC++から利用できます。 環境構築は依存関係が複雑で初心者には少しハードルが高いですが、ここではPythonで画像からポーズを検出する処理の簡単なイメージを紹介します。
(注意:このコードは概念を示すものであり、実際に動作させるにはOpenPoseのインストールと設定、およびモデルファイルのダウンロードが別途必要です。)
import cv2
import numpy as np
# OpenPoseのモデルを読み込む
# 事前にモデルファイル(.prototxt, .caffemodel)のダウンロードが必要
protoFile = "pose/coco/pose_deploy_linevec.prototxt"
weightsFile = "pose/coco/pose_iter_440000.caffemodel"
net = cv2.dnn.readNetFromCaffe(protoFile, weightsFile)
# 解析したい画像を読み込む
frame = cv2.imread("example.jpg")
frameWidth = frame.shape
frameHeight = frame.shape
# ネットワークに入力するために画像を変換
inpBlob = cv2.dnn.blobFromImage(frame, 1.0 / 255, (368, 368), (0, 0, 0), swapRB=False, crop=False)
# ネットワークに入力
net.setInput(inpBlob)
# 推論を実行
output = net.forward()
# 結果を解析してキーポイントを描画
points = []
for i in range(18): # COCOモデルは18点のキーポイントを検出 probMap = output[0, i, :, :] minVal, prob, minLoc, point = cv2.minMaxLoc(probMap) # 座標を元画像のスケールに変換 x = (frameWidth * point) / output.shape y = (frameHeight * point) / output.shape # 閾値より信頼度が高いキーポイントを保存 if prob > 0.1: cv2.circle(frame, (int(x), int(y)), 8, (0, 255, 255), thickness=-1, lineType=cv2.FILLED) points.append((int(x), int(y))) else: points.append(None)
# キーポイントを線で結ぶなどの処理...
# 結果を表示
cv2.imshow('Output-Keypoints', frame)
cv2.waitKey(0)
cv2.destroyAllWindows()
利用上の注意点
OpenPoseを利用する際には、いくつか知っておくべき点があります。
ライセンスについて
カーネギーメロン大学が開発したオリジナルのOpenPose(CMU版)は、基本的に非営利目的での研究利用を前提としています。 商用利用する場合は、大学から別途ライセンスを購入する必要があり、高額になる場合があります。 ただし、ControlNetで利用されるものなど、商用利用可能なライセンス形態を採用している派生版も存在します。 利用する際には、どのバージョンのOpenPoseなのか、ライセンス規約をよく確認することが重要です。
ハードウェア要件
OpenPoseは高精度な分、計算量が多く、リアルタイムで快適に動作させるには高性能なGPU(グラフィックボード)が必要不可欠です。 GPUがない環境では、処理に非常に長い時間がかかってしまいます。
まとめ
OpenPoseは、特別な機材なしに人物の複雑な動きをデータ化できる画期的な技術です。 その登場は、研究分野だけでなく、私たちの身近なサービスやエンターテイメントにも大きな影響を与えました。
ライセンスや要求スペックといった注意点はありますが、その応用範囲は広く、今後も様々な分野で私たちの生活をより豊かに、そして便利にしてくれる可能性を秘めています。 この記事をきっかけに、AIによる姿勢推定技術の世界に興味を持っていただければ幸いです。