はじめに
コンピュータが画像や動画から人間を見つけ出すだけでなく、その人が「どんなポーズをとっているか」までを理解する技術、それが姿勢推定(Pose Estimation)です。この技術の中心的な役割を担っているのが、今回解説する Part Affinity Fields(パート・アフィニティ・フィールズ、以下PAF)です。
PAFは、特に複数の人が写っている画像から、それぞれの人の骨格を正確に、そしてリアルタイムに推定することを得意としています。この記事では、画像認識の初心者の方でも理解できるように、PAFがどのような技術で、どういった仕組みで動いているのかを分かりやすく解説します。
Part Affinity Fields (PAF) の概要
Part Affinity Fields(日本語では「部分親和性フィールド」や「部位間親和性場」などと訳されます)は、人間の姿勢を推定するために用いられるディープラーニングの手法の一つです。 この技術は、カーネギーメロン大学の研究者らによって2016年に発表された論文「Realtime Multi-Person 2D Pose Estimation using Part Affinity Fields」で提案され、非常に有名な姿勢推定ライブラリであるOpenPoseの基礎となっています。
PAFの最大の特徴は、画像から人体の関節(キーポイント)を検出するだけでなく、「どの関節とどの関節が同じ人物に属し、正しく繋がっているか」という関係性を示す情報を持っている点です。 これを「ベクトル場」という形で表現することで、複数の人が重なり合っているような複雑なシーンでも、Aさんの右腕とBさんの右腕を混同することなく、それぞれの骨格を正しく組み立てることができます。
PAFの仕組み:2段階のアプローチ
PAFを用いた姿勢推定は、大きく分けて2つのステップで実行されます。
Step 1: 部位の信頼度マップ (Part Confidence Maps) の予測
まず、ディープラーニングモデル(具体的にはCNN:畳み込みニューラルネットワーク)を使って、画像内の全ての「体の部位(関節)」の位置を検出します。
これは、「鼻」「首」「右肩」「右肘」といった各部位ごとに、その部位が存在する確率を示した信頼度マップ(ヒートマップ)として出力されます。 この時点では、画像内に存在するであろう全ての関節候補が洗い出されますが、まだ誰のどの関節かは区別されていません。
Step 2: 部位間のつながり (Part Affinity Fields) の予測
次にもう一つのCNNの系統で、PAFを予測します。 PAFは、関連する2つの関節(例えば「肩」と「肘」)を結びつけるための「流れ」や「方向」を示す2Dベクトル場です。
具体的には、「右肩」と「右肘」という腕を構成するペアがあった場合、その2点を結ぶ領域のピクセルは、「右肩から右肘へ」という方向を示すベクトルを持つように学習されます。 このベクトル情報を使うことで、Step 1で検出された多数の関節候補の中から、正しいペアを見つけ出し、線で結ぶことができます。
この処理により、複数の人物がいても、それぞれの人物の骨格を正しく関連付けることが可能になるのです。
ボトムアップ・アプローチ
この「①まず全パーツを見つける → ②次に関連付けを行う」という流れはボトムアップ・アプローチと呼ばれます。 先に人物全体を検出してから各部位を推定する「トップダウン・アプローチ」とは異なり、画像内の人数に関わらず処理速度が落ちにくいという利点があり、リアルタイム性能の実現に貢献しています。
PAFの利点と応用例
PAFがもたらす利点
- 高精度な複数人推定: 人が重なっていたり、隠れていたり(オクルージョン)しても、PAFが関節間の関係性を保持しているため、頑健な推定が可能です。
- リアルタイム性能: ボトムアップ方式の採用と効率的なアルゴリズムにより、高速な処理が可能です。
- 汎用性: 人間の全身だけでなく、手や顔の細かいキーポイント推定にも応用されています。 また、人間以外の動物の姿勢推定や、一般的な物体のキーポイント検出にも応用研究が進んでいます。
主な応用例
PAFとその派生技術は、私たちの身の回りの様々な分野で活用されています。
分野 | 具体的な活用例 |
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スポーツ科学 | アスリートのフォーム解析、パフォーマンス向上支援 |
エンターテインメント | 映画やゲームのCGキャラクターのモーションキャプチャ、VTuberのアバター操作 |
医療・リハビリ | 患者の歩行分析、リハビリテーションの進捗評価、高齢者の見守り(転倒検知など) |
小売・マーケティング | 顧客の店内での動線分析、商品への関心度測定 |
安全・防犯 | 監視カメラ映像からの不審行動検知、工場の作業員の危険動作モニタリング |
ヒューマン・コンピュータ・インタラクション | ジェスチャーによるデバイス操作、バーチャルリアリティ空間でのインタラクション |
まとめ
Part Affinity Fields (PAF)は、画像から「関節の位置」と「関節間のつながり」という2つの重要な情報を同時に学習することで、複雑な状況下でも複数人の姿勢を正確かつ高速に推定することを可能にした画期的な技術です。
OpenPoseの登場以降、この技術は様々な分野に応用され、私たちの生活をより豊かで安全なものにするために貢献し続けています。画像認識やAIの世界に興味を持った方は、ぜひこのPAFというキーワードを覚えておいてください。