自然言語処理の入り口!形態素解析を世界一わかりやすく解説

第1章: 形態素解析ってなんだろう?

普段私たちが何気なく使っている「言葉」。これをコンピュータが理解できるように、文章を「意味を持つ最小単位」に分解していく作業、それが形態素解析です。 自然言語処理(NLP)と呼ばれる、コンピュータが人間の言葉を扱う技術分野における、非常に重要で基礎的な処理です。

「形態素」という言葉が少し難しく聞こえるかもしれませんが、これは「これ以上分割すると意味がわからなくなってしまう言葉の最小単位」と考えてください。 ほとんど「単語」と同じようなものだとイメージして大丈夫です。

例えば、この文章を分解してみよう!

「東京都で美味しいラーメンを食べた。」

この文章を形態素解析すると、以下のように分解されます。

「東京」「都」「で」「美味しい」「ラーメン」「を」「食べ」「た」「。」

このように単語ごとに区切り、さらに「食べ」が動詞、「美味しい」が形容詞といったように、それぞれの品詞を判別するところまでが形態素解析の役割です。

特に、英語のように単語と単語の間がスペースで区切られている言語と違い、日本語は文章中に区切りがありません。 そのため、コンピュータが日本語を理解するためには、この形態素解析というステップが不可欠なのです。

第2章: なぜ形態素解析が必要なの?

形態素解析は、コンピュータが文章の意味を正しく理解するための第一歩です。この技術は、私たちの身の回りの様々なサービスで活躍しています。

  • 検索エンジン
    検索窓に入力されたキーワードを形態素解析し、不要な助詞(「の」や「で」など)を除いて、本当に意味のある単語だけで検索を行います。 これにより、検索の精度が格段に向上します。
  • かな漢字変換(IME)
    私たちがキーボードで入力した「ひらがな」を文脈に合った漢字に変換してくれるのも、形態素解析のおかげです。文全体の単語のつながりを見て、最も自然な変換候補を提示してくれます。
  • テキストマイニング・SNS分析
    アンケートの自由回答やSNSの投稿など、大量のテキストデータから特定の単語(名詞や形容詞など)を抜き出し、その出現頻度や傾向を分析します。 これにより、顧客の評判や製品への要望などを把握できます。
  • ニュースアプリ
    ニュースアプリ「スマートニュース(SmartNews)」などでも、記事の内容を形態素解析し、ユーザーの興味に合ったカテゴリに分類したり、関連ニュースを推薦したりするために活用されています。
  • 機械翻訳
    文章を単語に分解し、それぞれの品詞や意味を理解してから他言語に翻訳することで、より自然で正確な翻訳が可能になります。

第3章: 形態素解析の仕組み

形態素解析は、主に「辞書」と「文法モデル」を使って行われます。 大きく分けて2つのアプローチがあります。

1. 辞書ベースの手法

単語やその品詞情報が大量に登録された「辞書」を用意しておき、入力された文章を辞書と照らし合わせながら、最も自然な単語の区切り方を見つけ出す方法です。 シンプルで分かりやすいですが、辞書に載っていない新語やスラング(未知語)の解析が苦手という弱点があります。

2. 機械学習ベースの手法

膨大な量のテキストデータをコンピュータに学習させ、単語の区切り方のパターンやルールを自動で獲得させる方法です。 近年主流の手法であり、隠れマルコフモデル(HMM)や条件付き確率場(CRF)といった統計モデル、さらには深層学習(ディープラーニング)を用いた、より高精度な解析が可能になっています。

第4章: 実際に使ってみよう!(Python編)

理論だけではイメージが湧きにくいかもしれません。ここでは、プログラミング言語Pythonを使って、実際に形態素解析を体験してみましょう。

今回は、数ある形態素解析ツールの中でも、Pythonだけで完結し、環境構築が簡単な「Janome(蛇の目)」というライブラリを使ってみます。

ステップ1: Janomeのインストール

ターミナル(Windowsの場合はコマンドプロンプト)で以下のコマンドを実行するだけでインストールは完了です。

pip install janome

ステップ2: Pythonコードの実行

以下のコードをコピーして、テキストエディタに貼り付け、「analysis_test.py」などの名前で保存して実行してみてください。

from janome.tokenizer import Tokenizer
# トークナイザのインスタンスを作成
t = Tokenizer()
# 解析したい文章
text = "明日は図書館で勉強する予定です。"
# 形態素解析を実行し、結果を1つずつ表示
print(f"解析する文章: {text}\n---")
for token in t.tokenize(text): print(token)

実行結果

上記コードを実行すると、ターミナルに以下のような結果が出力されます。単語、品詞、活用形などが詳しく表示されているのがわかります。

解析する文章: 明日は図書館で勉強する予定です。
---
明日	名詞,副詞可能,*,*
は	助詞,係助詞,*,*
図書館	名詞,一般,*,*
で	助詞,格助詞,一般,*
勉強	名詞,サ変接続,*,*
する	動詞,自立,*,*,サ変・スル
予定	名詞,サ変接続,*,*
です	助動詞,*,*,*,特殊・デス
。	記号,句点,*,*

第5章: 主な形態素解析ツールの比較

形態素解析を行うためのツール(エンジンやライブラリ)は数多く開発されています。それぞれに特徴があるため、目的に応じて使い分けることが重要です。

ツール名開発元特徴ライセンス
MeCab工藤拓 氏 (当時:奈良先端科学技術大学院大学)C++で開発された高速・高機能な解析器。古くから広く使われており、情報量も豊富。BSD, GPL, LGPLなど複数のライセンス
Janome鋤柄 宏 氏Pure Pythonで実装されており、依存ライブラリなしで手軽に導入可能。 速度はMeCabに劣るが、簡易的な解析や学習用途に適している。Apache License 2.0
JUMAN++/KNP京都大学 黒橋・河原研究室RNN言語モデルを利用した高精度な解析が特徴。 構文解析(係り受け解析)まで行えるKNPとセットで使われることが多い。学術目的・研究開発での利用に限定
Sudachi / GiNZAワークスアプリケーションズ (Sudachi) / リクルート (GiNZA)Sudachiは複数の分割単位を扱えるのが特徴。GiNZAはspaCyというフレームワークをベースにしており、Sudachiを内部で利用。導入が容易で商用利用も可能。Apache License 2.0

まとめ

形態素解析は、コンピュータが私たちの言葉を理解するための、縁の下の力持ちのような存在です。 この技術があるからこそ、私たちは日々、検索エンジンや翻訳、スマートフォンの文字入力といった便利な機能を当たり前のように使うことができています。

自然言語処理の世界は奥が深く、形態素解析はそのほんの入り口に過ぎません。しかし、この第一歩を理解することで、AIやデータ分析といった分野への理解がより一層深まるはずです。

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