構文解析とは?
構文解析(こうぶんかいせき)とは、文章やプログラムの構造を解析し、その構成要素間の文法的な関係性を明らかにする技術のことです。 英語では「Parsing(パーシング)」と呼ばれます。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、私たちが普段何気なく文章を読むとき、無意識に「どれが主語で、どれが述語か」を理解しているのに似ています。コンピュータに同じことをさせるのが構文解析の役割です。
この技術は、大きく分けて「自然言語処理」と「プログラミング言語」の2つの分野で使われており、それぞれで少し意味合いが異なります。
2つの構文解析:自然言語とプログラミング言語
「構文解析」という言葉は、扱う対象によって少しニュアンスが変わります。ここでは、その2つの違いについて見ていきましょう。
分野 | 対象 | 目的 | 特徴 |
---|---|---|---|
自然言語処理 | 日本語や英語など、人間が日常的に使う言葉(自然言語) | 文の構造(主語、述語、修飾関係など)を理解し、意味を正しく解釈すること | 文脈によって解釈が変わる「曖昧さ」を含んでいるため、解析が複雑になりやすい |
プログラミング言語 | Python, Java, C++などのプログラミング言語で書かれたコード | コードが文法的に正しいかを確認し、コンピュータが実行できる形式(構文木など)に変換すること | 文法が厳密に定義されており、曖昧さがないように設計されている |
この記事では、特にAI技術と関わりの深い「自然言語処理における構文解析」を中心に、さらに詳しく解説していきます。
自然言語処理における構文解析の主な手法
自然言語の文構造を解析するアプローチには、主に2つの代表的な手法があります。「句構造解析」と「係り受け解析」です。
1. 句構造解析 (Constituency Parsing)
句構造解析は、文を階層的な「句」のまとまりに分解していく手法です。 「名詞句」「動詞句」といった単位で文を区切り、それらがどのように組み合わさって一つの文を構成しているかを樹形図(ツリー構造)で表現します。
例えば、「太郎がリンゴを食べた」という文は、以下のように分解されます。
- 「太郎が」→ 名詞句
- 「リンゴを食べた」→ 動詞句
- 「リンゴを」→ 名詞句
- 「食べた」→ 動詞
このように、文全体の構造を大きなカタマリから捉えるのが特徴です。
2. 係り受け解析 (Dependency Parsing)
係り受け解析は、文中の単語(文節)と単語の間の「修飾・被修飾」の関係性を明らかにする手法です。 どの単語がどの単語を説明しているか(かかっているか)を矢印で結びつけていきます。
例えば、「私は昨日見た映画が面白かった」という文では、以下のような関係性が見られます。
- 「私は」→「面白かったに」かかる(主語と述語の関係)
- 「昨日」→「見たに」かかる(修飾・被修飾の関係)
- 「見た」→「映画に」かかる(修飾・被修飾の関係)
- 「映画が」→「面白かったに」かかる(主語と述語の関係)
日本語は主語の省略が多く、単語の順番も比較的自由なため、この係り受け解析が特に重要視されています。
構文解析の活用事例
構文解析技術は、私たちの身の回りの様々なサービスで活躍しています。
- 機械翻訳: Google翻訳などの翻訳サービスは、原文の構文を解析して構造を理解することで、より自然で正確な訳文を生成しています。 単語を一つずつ置き換えるのではなく、文全体の骨格を捉えるために構文解析が不可欠です。
- 検索エンジン: 検索エンジンは、ユーザーが入力した検索キーワードの構文を解析し、「何について知りたいのか」という意図を正確に把握しようとします。 これにより、より的確な検索結果を表示できます。
- 対話システム(AIアシスタント・チャットボット): SiriやGoogleアシスタント、企業の問い合わせチャットボットなどは、ユーザーの発言の構造を解析することで、「明日の天気を教えて」といった命令の要点を理解し、適切な応答を返しています。
- 文章要約・校正ツール: 文章の構造を理解することで、文のどの部分が重要かを判断し、要約を生成したり、文法的な誤りを指摘したりするツールに応用されています。
Pythonで構文解析を試してみよう
実際にPythonを使って、簡単な係り受け解析を体験してみましょう。ここでは、日本語の自然言語処理ライブラリである「GiNZA」(spaCyというライブラリがベース)を使用します。
まず、ライブラリをインストールします。
# GiNZAと日本語モデルのインストール
!pip install -U ginza ja_ginza
次に、簡単なコードで係り受け解析を実行してみます。
import spacy
# 日本語モデルをロード
nlp = spacy.load('ja_ginza')
# 解析したい文章
text = "太郎が美しい花を公園で見た"
doc = nlp(text)
# 解析結果を表示
for sent in doc.sents: for token in sent: # トークン(単語)、係り先のトークン、係り受けの種類を表示 print(token.i, token.orth_, token.dep_, token.head.i)
上記のコードを実行すると、各単語がどの単語に係っているのかがインデックス番号で示されます。例えば、「美しい」が「花」に係っていることなどが分かります。このようにライブラリを使うことで、複雑な構文解析を手軽に実行できます。
まとめ
構文解析は、コンピュータが人間の言葉を理解するための、いわば「文の読解術」です。文章の構造を明らかにすることで、機械翻訳やAIアシスタントといった高度なアプリケーションが実現されています。
自然言語処理の一連の流れでは、まず文章を単語に区切る「形態素解析」を行い、次いで本記事で解説した「構文解析」で文の構造を把握します。 そして、その構造情報をもとに、文の具体的な意味を解釈する「意味解析」へと処理が進んでいきます。 構文解析は、言葉の意味を正しく捉えるための重要な橋渡し役を担っているのです。