アパートに例えて理解!マルチテナンシー入門

クラウドサービスやSaaS (Software as a Service) を利用していると、「マルチテナンシー」という言葉を聞くことがあるかもしれません。「なんだか難しそう…」と感じるかもしれませんが、実は私たちの身近な生活にも似たような考え方があるんです!

このブログでは、IT初心者の方でもマルチテナンシーを理解できるよう、アパートの例え話を交えながら、その仕組みやメリット・デメリット、具体的な利用例などを分かりやすく解説していきます。

マルチテナンシーって何?アパートで例えると?

マルチテナンシー(Multi-Tenancy)を直訳すると「複数(Multi)の借家人(Tenant)」という意味になります。ITの世界では、一つのシステムやソフトウェア、データベースなどを、複数のユーザー(テナント)で共有して利用する方式のことを指します。

これをアパートに例えてみましょう。

一つの大きなアパート(システム)があり、その中にたくさんの部屋(利用環境)があります。それぞれの部屋には異なる住人(ユーザー/テナント)が住んでいますよね。住人たちは、アパートのエントランスや廊下、水道・電気・ガスといった基本的な設備(インフラ)は共有していますが、自分の部屋の中はプライベートな空間として利用し、他の住人の部屋に入ることはできません。

マルチテナンシーもこれと同じ考え方です。一つのシステム基盤を複数のユーザー(企業や個人)で共有しつつ、それぞれのユーザーのデータや設定は独立して管理され、他のユーザーからは見えないようになっています。これにより、システムを提供する側は効率的にリソースを運用でき、利用する側は比較的安価にサービスを利用できるのです。

マルチテナンシーの仕組み

マルチテナンシーでは、アプリケーション、データベース、サーバーなどのITリソースを複数のテナントで共有します。しかし、各テナントのデータは論理的に分離され、セキュリティとプライバシーが確保されます。

データの分離方法にはいくつかありますが、一般的には以下のような方式があります。

  • 共有データベース・共有スキーマ: 全テナントが同じデータベースとテーブルを共有し、データに行レベルでテナントIDを付与して区別します。最もリソース効率が良いですが、データ分離の設計が複雑になります。
  • 共有データベース・個別スキーマ: テナントごとに専用のスキーマ(テーブルの集合)を持ちます。データベースは共有しますが、スキーマレベルで分離されます。
  • 個別データベース: テナントごとに完全に独立したデータベースを用意します。最も分離レベルが高いですが、コストと管理のオーバーヘッドが大きくなります。

どの方式を採用するかは、サービスの要件やコスト、セキュリティレベルに応じて決定されます。重要なのは、どの方式であっても、あるテナントが他のテナントのデータにアクセスできないように、厳格なアクセス制御が行われていることです。

マルチテナンシーのメリット

マルチテナンシーには、提供者側と利用者側の双方に多くのメリットがあります。

主なメリット

  • コスト削減:
    • 提供者側: インフラやソフトウェアのライセンス費用、運用管理コストを複数のテナントで分担できるため、一人あたりのコストを抑えられます。
    • 利用者側: 自社でシステムを構築・運用する必要がなく、比較的安価な月額料金などでサービスを利用できます。初期投資も抑えられます。
  • 運用効率の向上:
    • 提供者側: システムのアップデートやメンテナンスを一元的に行えるため、効率的です。テナントが増えても、個別に環境を用意する手間が大幅に削減されます。
  • スケーラビリティ:
    • 提供者側: リソースをプール化しているため、必要に応じて柔軟にリソースを拡張・縮小できます。
    • 利用者側: ビジネスの成長に合わせて、利用するリソース量(ユーザー数やデータ量など)を簡単に増減できます。
  • 導入の迅速化:
    • 利用者側: 既に構築された環境を利用するため、すぐにサービスを使い始めることができます。

マルチテナンシーのデメリットと注意点

多くのメリットがある一方で、マルチテナンシーには注意すべき点やデメリットも存在します。

主なデメリット・注意点

  • セキュリティリスク:

    複数のテナントがリソースを共有するため、設計や実装に不備があると、他のテナントのデータにアクセスできてしまったり、情報漏洩が発生したりするリスクがゼロではありません。提供者側には高度なセキュリティ対策が求められます。

  • カスタマイズ性の制限:

    システム基盤を共有しているため、個々のテナントが自由に大幅なカスタマイズを行うことは難しい場合があります。提供される機能や設定の範囲内で利用することになります。

  • vecino ruidoso (ノイジーネイバー) 問題:

    「うるさい隣人」という意味です。特定のテナントが大量のリソース(CPU、メモリ、ネットワーク帯域など)を消費してしまうと、同じ基盤を利用している他のテナントのパフォーマンスに悪影響が及ぶ可能性があります。アパートの一室でパーティーが始まって、隣の部屋までうるさくなるイメージです。 提供者側でリソース使用量を適切に制御・監視する仕組みが必要です。

  • メンテナンスの影響:

    提供者側が行うシステムメンテナンスやアップデートは、基本的に全テナントに影響します。メンテナンス中はサービスが一時的に利用できなくなる可能性があります。

マルチテナンシー vs シングルテナンシー

マルチテナンシーの対義語として「シングルテナンシー」があります。これは、一つのシステムを一社の顧客(テナント)だけが専有して利用する方式です。一戸建ての家に例えられます。

両者の違いを表で見てみましょう。

比較項目 マルチテナンシー (アパート型 ) シングルテナンシー (一戸建て型 )
リソース共有 複数のテナントで共有 単一のテナントが専有
コスト 比較的安価 比較的高価
カスタマイズ性 制限あり 高い自由度
運用管理 提供者側が一元管理 (効率的) テナント側 (または提供者) が個別管理 (手間がかかる)
セキュリティ 他のテナントからの分離が必要 他のテナントからの影響は受けない
パフォーマンス ノイジーネイバー問題の可能性あり 他のテナントからの影響は受けない
導入速度 速い 時間がかかる場合がある
主な利用例 SaaS, パブリッククラウド プライベートクラウド, 特定の要件を持つシステム

どちらが良いかは一概には言えず、コスト、セキュリティ要件、カスタマイズの必要性などに応じて選択されます。

マルチテナンシーはどこで使われているの?

マルチテナンシーは、現代のITサービス、特にクラウドサービスにおいて非常に広く採用されているアーキテクチャです。

  • SaaS (Software as a Service):

    最も一般的な例です。インターネット経由で提供されるソフトウェアサービスの多くは、マルチテナンシーを採用することで、多数のユーザーに低価格でサービスを提供しています。

    • 例: Salesforce (CRM), Google Workspace (グループウェア), Microsoft 365 (グループウェア), Slack (ビジネスチャット), Zoom (Web会議) など
  • PaaS (Platform as a Service):

    アプリケーション開発・実行環境を提供するサービスでも、基盤となるインフラやミドルウェアはマルチテナントで共有されていることが一般的です。

    • 例: Heroku, Google App Engine など
  • IaaS (Infrastructure as a Service):

    サーバーやストレージなどのインフラを提供するサービスでも、物理的なハードウェアや管理基盤は多くのユーザー(テナント)で共有されています。ただし、仮想マシンなどのリソースはテナントごとに隔離されています。

    • 例: Amazon Web Services (AWS), Microsoft Azure, Google Cloud Platform (GCP) など

これらのサービスが、比較的安価で、すぐに利用開始でき、スケーラブルであるのは、マルチテナンシーアーキテクチャの恩恵が大きいと言えます。

まとめ

マルチテナンシーは、一つのシステムリソースを複数のユーザー(テナント)で共有する仕組みであり、アパートに例えると分かりやすい考え方です。

コスト削減、運用効率、スケーラビリティといった大きなメリットがあり、今日のSaaSやクラウドサービスの多くを支える重要な技術となっています。一方で、セキュリティやカスタマイズ性、ノイジーネイバー問題といった考慮すべき点もあります。

普段何気なく利用しているクラウドサービスが、どのような仕組みで動いているのかを知ることで、よりサービス選択や活用のヒントが得られるかもしれませんね!

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