EBPMって何?
EBPMとは、「Evidence-Based Policy Making」の略で、日本語では「証拠に基づく政策立案」と訳されます。
簡単に言うと、政策(国や自治体が行う様々な取り組み)を決めるときに、思いつきや一部の人の経験談(エピソード)だけに頼るのではなく、しっかりとしたデータや統計などの客観的な証拠(エビデンス)に基づいて、「本当に効果があるのか?」「どうすればもっと良くなるのか?」を考えて実行していこう、という考え方です。
従来の政策立案では、経験や勘、あるいは特定の成功事例(エピソード)に頼ることがありました。しかし、EBPMでは、政策の目的をはっきりとさせた上で、その目的達成のために合理的根拠(エビデンス)を用いることを重視します。
なぜEBPMが重要視されているの?
EBPMが注目される背景には、以下のような理由があります。
- 政策の効果を高めるため:データに基づいて効果を予測・検証することで、より効果的な政策を実行できるようになります。
- 限られた資源を有効活用するため:税金などの限られた資源を、効果の高い政策に集中して使うことができます。少子高齢化が進む日本では特に重要です。
- 国民への説明責任を果たすため:なぜその政策を行うのか、どのような効果が期待できるのかを、客観的なデータで示すことで、国民の理解と信頼を得やすくなります。
- 行政の透明性を高めるため:政策決定のプロセスがデータに基づいて行われることで、より透明性が高まります。
EBPMはどのように進められるの?(プロセス)
EBPMは、一般的に以下のような流れ(PDCAサイクル)で進められます。
- Plan(計画):
- 解決したい政策課題を明確にする。
- 政策の目的(何を達成したいか)を設定する。
- 目的達成のための仮説(こういう政策をすれば、こういう効果があるはずだ)を立てる。
- どのようなデータ(エビデンス)が必要か、どうやって集めるかを考える。
- Do(実行):
- 計画に基づいて政策を実施する。
- 実施しながら、関連するデータを収集する。
- Check(評価):
- 収集したデータを分析し、政策が目的に対してどれくらい効果があったかを客観的に評価する。
- 期待通りの効果が出なかった場合は、その原因を探る。
- Act(改善):
- 評価結果に基づいて、政策の内容を見直したり、改善したりする。
- 効果があった政策は継続・発展させ、効果がなかった政策は修正または中止を検討する。
このサイクルを繰り返すことで、政策を継続的に改善していくことを目指します。
EBPMの取り組み事例
日本政府(内閣府、各省庁)や地方自治体でも、EBPMの推進が進められています。具体的な事例としては、以下のような分野での活用が考えられます。
- 教育:特定の教育プログラムが生徒の学力向上にどれだけ寄与したかをデータで検証し、改善につなげる。
- 健康・医療:メタボ健診のような特定の健康政策が、実際に人々の健康寿命延伸や重大疾患の減少につながっているかをデータで分析する。
- 経済・産業:中小企業支援策が、企業の生産性向上や雇用創出にどれだけ効果があったかを評価する。
- 地域活性化:観光振興策や移住促進策が、地域の交流人口増加や経済活性化にどの程度貢献したかをデータで測る。
- 公共交通:地方自治体が地域公共交通の最適な確保手段を検討するためにデータを活用する(例:北海道芽室町)。
- 観光:観光客の移動データを分析し、より効果的な観光戦略を立てる(例:長野県駒ヶ根市)。
内閣府や経済産業省、国土交通省などの省庁や、神戸市などの自治体でも、EBPM推進のための専門部署設置や研修実施、データ利活用方針の策定などが行われています。
EBPMの課題
EBPMを推進する上では、いくつかの課題もあります。
課題 | 説明 |
---|---|
データの不足・質の問題 | 政策効果を測るために必要なデータが十分に存在しない、またはデータの質が低い場合があります。 |
分析能力・人材不足 | データを適切に収集・分析するための専門的な知識やスキルを持つ人材が不足していることがあります。 |
時間とコスト | データの収集や分析には時間とコストがかかります。迅速な政策決定が求められる場面では、十分な分析が難しいこともあります。 |
政治的な要因 | 政策決定には、データだけでなく、政治的な判断や価値観も影響します。エビデンスが必ずしも政策決定に直結するとは限りません。 |
因果関係の特定 | ある政策と特定の結果の間に、本当に因果関係があるのかを証明するのは難しい場合があります。(相関関係と因果関係は異なります) |
まとめ
EBPM(証拠に基づく政策立案)は、勘や経験だけに頼らず、データという客観的な証拠を使って、より効果的で効率的な政策を目指す考え方です。
課題もありますが、国民にとってより良い行政サービスを提供し、限られた資源を有効に活用するために、今後ますます重要になっていくアプローチと言えるでしょう。