サイバーセキュリティの新常識!CTEM(継続的脅威エクスポージャー管理)を初心者向けに解説

近年、サイバー攻撃はますます巧妙化・複雑化しています。企業や組織は、日々変化する脅威から自身を守るために、新しいセキュリティ対策のアプローチが求められています。そこで注目されているのが「CTEM(シーテム)」という考え方です。

このブログでは、CTEMとは何か、なぜ重要なのか、そしてどのように機能するのかを、IT初心者の方にも分かりやすく解説します。

CTEMとは?

CTEMは「Continuous Threat Exposure Management」の略で、日本語では「継続的脅威エクスポージャー管理」や「継続的脅威露出管理」などと訳されます。これは、2022年に大手IT調査会社のガートナー社によって提唱された、比較的新しいサイバーセキュリティのアプローチです。

簡単に言うと、CTEMとは「組織が持つIT資産(パソコン、サーバー、クラウドサービス、Webサイトなど)が、どのようなサイバー攻撃の危険にさらされているか(脅威エクスポージャー)を、継続的に把握し、評価し、対策していくための一連のプロセス(枠組み)」のことです。

ここで重要なのは、「継続的」という点です。従来のセキュリティ対策は、年に1回、半年に1回といった「点」での評価(脆弱性診断など)が中心でしたが、CTEMは常に変化する脅威に対応するため、「線」で管理し続けることを目指します。また、CTEMは特定のツールや製品を指すのではなく、組織全体で取り組むべき「プログラム」や「プロセス」であるとされています。

脅威エクスポージャーとは?

「エクスポージャー(Exposure)」とは、直訳すると「さらされること」や「露出」を意味します。サイバーセキュリティの文脈では、脆弱性、設定ミス、管理されていないIT資産など、サイバー攻撃者にとって利用可能な「弱点」や「攻撃の糸口」となりうるものが、外部にどれだけ露出しているか、という度合いを指します。CTEMは、このエクスポージャーを継続的に管理することを目指します。

なぜCTEMが注目されているのか?

CTEMが重要視される背景には、以下のような現代のIT環境の変化があります。

  • 攻撃対象領域(アタックサーフェス)の拡大: クラウドサービスの利用、リモートワークの普及、IoT機器の増加などにより、企業が守るべきIT資産は社内外に広範囲に分散し、複雑化しています。これにより、攻撃者が狙える箇所が増加しました。
  • サイバー攻撃の高度化・巧妙化: ランサムウェア攻撃、標的型攻撃、ゼロデイ攻撃(未発見の脆弱性を突く攻撃)など、攻撃手法は日々進化し、従来の対策だけでは防ぎきれないケースが増えています。
  • 従来の対策の限界: 定期的な脆弱性診断や侵入テスト(ペネトレーションテスト)だけでは、変化の速い脅威に追いつけず、対策が後手に回ってしまう可能性があります。

このような状況下で、CTEMは潜在的なリスクを事前に特定し、プロアクティブ(先行的)な対策を継続的に行うことで、セキュリティリスクを最小限に抑えるための有効なアプローチとして期待されています。ガートナー社は、2026年までにCTEMプログラムに基づいてセキュリティ投資を優先する組織では、侵害が3分の2減少すると予測しています。

CTEMの5つのステップ

CTEMは、一般的に以下の5つのステップを継続的に繰り返すサイクルとして運用されます。

ステップ説明
1. スコープ設定 (Scoping) どのIT資産やビジネスプロセスをCTEMの対象とするかを決定します。組織のビジネス目標や重要度、規制要件などを考慮し、保護すべき範囲を明確にします。サーバーやPCだけでなく、クラウドサービス、公開Webサイト、場合によってはSNSアカウントなども対象になり得ます。
2. 発見 (Discovery) 設定したスコープ内のIT資産を洗い出し、それらに潜む脆弱性、設定ミス、意図せず公開されている情報など、脅威エクスポージャー(リスク)を特定します。自動化ツールや脅威インテリジェンス(脅威情報)などを活用して、継続的に監視します。
3. 優先順位付け (Prioritization) 発見されたリスク(脅威エクスポージャー)を評価し、対応の優先順位を決定します。脆弱性の深刻度、攻撃される可能性、ビジネスへの影響度などを考慮し、限られたリソースで最も効果的な対策を行えるようにします。
4. 検証 (Validation) 優先順位付けされたリスクが、実際に攻撃者によって悪用可能かどうかを検証します。ペネトレーションテスト(侵入テスト)や攻撃シミュレーションなどを用いて、攻撃者の視点からリスクの現実性と対策の有効性を評価します。
5. 動員 (Mobilization) 検証結果に基づき、リスクを修正・軽減するための具体的な対策を実施します。関係部署と連携し、修正作業の計画、承認プロセスの整備、担当者の割り当てなどを行い、組織全体で対応を進めます。インシデント発生時の対応計画の見直しや、従業員教育なども含まれる場合があります。

これらのステップは一度完了したら終わりではなく、継続的にサイクルを回し、変化する状況に合わせて見直し、改善していくことが重要です。

CTEMとASMの違い

CTEMと似た概念に「ASM(Attack Surface Management:攻撃対象領域管理)」があります。どちらもIT資産の保護を目的としていますが、対象範囲に違いがあります。

  • ASM: 主にインターネットからアクセス可能な外部公開資産(Webサイト、サーバー、ネットワーク機器など)の発見とリスク管理に焦点を当てます。攻撃者の視点から、外部から見える弱点を探すアプローチです。
  • CTEM: 外部公開資産だけでなく、組織内部の資産やクラウド環境、サプライチェーンなど、より広範なIT環境全体を対象とし、脅威エクスポージャーを継続的に管理する包括的なプロセスです。

イメージとしては、ASMはCTEMの「発見」フェーズなどで活用される重要な要素技術・アプローチの一つであり、CTEMはASMを含むより広い概念と捉えることができます。

CTEM導入のメリット

CTEMプログラムを導入することで、組織は以下のようなメリットを期待できます。

  • プロアクティブなセキュリティ対策: 脅威が実際に悪用される前に、潜在的なリスクを発見し、事前に対策を講じることができます。
  • リスクの低減と侵害の減少: 継続的な監視と対策により、攻撃対象領域を縮小し、サイバー攻撃による侵害のリスクを大幅に低減できます。
  • 効率的なリソース配分: リスクの優先順位付けにより、最も重要な脅威にリソースを集中させることができ、無駄な対策を減らせます。
  • インシデント対応の迅速化: 脅威を早期に発見し、対応プロセスが整備されているため、インシデント発生時の対応時間を短縮できます。
  • セキュリティ体制の継続的な強化: 変化する脅威環境に合わせて、セキュリティ対策を常に最新の状態に保ち、組織全体の防御力を向上させます。
  • 経営層への説明責任: セキュリティリスクと対策状況を客観的に評価し、経営層に対して分かりやすく説明するための根拠を提供できます。

CTEM導入の注意点

CTEMは多くのメリットをもたらしますが、導入と運用には以下のような注意点や課題も存在します。

  • 複雑さとコスト: CTEMは包括的なプログラムであり、導入には様々なツールやプロセスの統合、専門知識が必要となる場合があります。また、継続的な運用にはコストがかかります。
  • ツール依存ではない: CTEMは特定のツールを導入すれば完成するものではなく、組織の文化やプロセス、体制の変革も伴う取り組みです。
  • 人材不足: CTEMを効果的に運用するには、サイバーセキュリティに関する高度な専門知識を持つ人材が必要となる場合があります。
  • 組織全体の協力: セキュリティ部門だけでなく、IT部門、開発部門、各事業部門、経営層など、組織全体の理解と協力が不可欠です。

導入にあたっては、自社の状況に合わせて段階的に進めたり、外部の専門サービスを活用したりすることも有効な選択肢となります。

まとめ

CTEM(継続的脅威エクスポージャー管理)は、現代の複雑化するサイバー脅威に対抗するための重要なセキュリティアプローチです。これは、組織のIT資産が直面するリスクを継続的に特定、評価、検証し、優先順位をつけて対策を実行する一連のプロセスです。

従来の断片的な対策とは異なり、CTEMはプロアクティブかつ継続的な管理を行うことで、攻撃者に悪用される前に弱点を塞ぎ、セキュリティ侵害のリスクを大幅に低減することを目指します。導入には課題もありますが、適切に実装すれば、組織のセキュリティ体制を強化し、ビジネスの継続性を確保するための強力な武器となります。

サイバーセキュリティの重要性がますます高まる中で、CTEMの考え方を理解し、自社のセキュリティ戦略に取り入れていくことが、これからの企業にとって不可欠となるでしょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です