現代のサイバーセキュリティに不可欠なEPPをわかりやすく解説
1. EPPとは? なぜ必要なの?
EPPは「Endpoint Protection Platform(エンドポイント プロテクション プラットフォーム)」の略称です。日本語では「エンドポイント保護プラットフォーム」と呼ばれます。
現代のビジネス環境では、パソコン(PC)、スマートフォン、タブレット、サーバーなど、ネットワークに接続される様々な「エンドポイント」が利用されています。これらのエンドポイントは、サイバー攻撃者にとって重要な侵入経路となり得ます。
エンドポイントって何?
エンドポイントとは、ネットワークの末端に接続されるデバイス全般を指します。具体的には以下のようなものが含まれます。
- デスクトップPC、ノートPC
- スマートフォン、タブレット
- サーバー
- (場合によっては)POS端末、IoTデバイスなど
これらのデバイスは、社内・社外のネットワークに接続され、重要なデータを扱ったり、業務システムにアクセスしたりするため、セキュリティ対策が非常に重要です。
EPPが必要な理由
従来のアンチウイルスソフトだけでは、巧妙化・多様化するサイバー攻撃(ランサムウェア、標的型攻撃、ファイルレス攻撃など)に十分に対応できなくなってきました。そこで登場したのがEPPです。
EPPは、単一のプラットフォーム上で、アンチウイルス機能だけでなく、ファイアウォール、侵入防止、デバイス制御など、複数のセキュリティ機能を提供します。これにより、エンドポイントに対する多層的な防御を実現し、管理を一元化することができます。
2. EPPの主な機能
EPPは、エンドポイントを守るために様々な機能を統合しています。製品によって提供される機能は異なりますが、一般的に以下のような機能が含まれます。
機能 | 説明 |
---|---|
次世代アンチウイルス (NGAV) | 従来のシグネチャ(パターンファイル)に基づく検知だけでなく、AI(人工知能)、機械学習、挙動分析(振る舞い検知)、サンドボックスなどの技術を用いて、未知のマルウェアやファイルレス攻撃、ランサムウェアなどを検知・防御します。 |
パーソナルファイアウォール | 各エンドポイントでの不正なネットワーク通信を監視し、送受信を制御・ブロックします。内部ネットワークでのマルウェア拡散防止にも役立ちます。 |
侵入防止システム (IPS/HIPS) | OSやアプリケーションの脆弱性を悪用しようとする攻撃パターンを検知し、ブロックします。ネットワーク型(NIPS)とホスト型(HIPS)があり、EPPでは主にHIPS機能が提供されます。 |
デバイス制御 | USBメモリ、外付けハードディスク、スマートフォンなどの外部デバイスの接続や使用を制限・管理します。これにより、不正なデバイスからのマルウェア感染や、デバイス経由での機密情報持ち出しを防ぎます。 |
アプリケーション制御 | 組織が許可したアプリケーションのみ実行を許可し、未許可のソフトウェアや潜在的に危険なソフトウェアの実行をブロックします。 |
Webフィルタリング / URLフィルタリング | フィッシングサイト、マルウェア配布サイト、不適切なサイトなど、危険なウェブサイトへのアクセスをブロックします。業務効率の向上にも繋がります。 |
データ損失防止 (DLP) | エンドポイントから機密情報(個人情報、企業秘密など)が不正にコピーされたり、外部に送信されたりするのを監視・防止します。(EPPの標準機能として含まれる場合と、オプション機能や別製品の場合があります) |
脆弱性管理 | エンドポイントのOSやソフトウェアに存在する脆弱性をスキャンし、可視化します。パッチ適用を促すことで、攻撃のリスクを低減します。(EPPの機能として一部提供される場合があります) |
これらの機能が一つの管理コンソール(管理画面)から統合的に管理できる点が、EPPの大きな特徴です。
3. EPP導入のメリット
EPPを導入することには、以下のようなメリットがあります。
- 統合的な保護: ファイアウォール、アンチウイルス、侵入防止など、複数のセキュリティ機能を一つの製品で実現でき、多層防御を簡単に構築できます。
- 管理の効率化: すべてのエンドポイントのセキュリティ設定や状態監視、インシデント対応などを単一の管理コンソールから行えるため、管理者の運用負荷が大幅に軽減されます。
- 高度な脅威への対応力向上: NGAV機能により、従来のアンチウイルスでは検知が難しかった未知のマルウェア、ファイルレス攻撃、高度なランサムウェアなどにも対応できます。
- インシデント対応の迅速化: 脅威が検知された際に、影響範囲の特定や隔離などの対応を管理コンソールから迅速に行うことが可能です。(EDR機能との連携でさらに強化されます)
- コンプライアンスと内部統制の強化: デバイス制御やアプリケーション制御、DLP機能(含まれる場合)などにより、企業のセキュリティポリシー遵守や情報漏洩対策を強化し、各種法規制への対応にも貢献します。
4. EPPと関連技術(アンチウイルス、EDR、XDR)
EPPを理解する上で、関連する他のセキュリティ技術との違いを知っておくと役立ちます。
EPP vs 従来のアンチウイルス (AV)
従来のアンチウイルスソフトは、主に既知のマルウェアのパターンを記録した「シグネチャ(パターンファイル)」を用いてマルウェアを検知・駆除する「予防」に重点を置いていました。一方、EPPはNGAV機能を搭載し、未知の脅威への対応力が高く、ファイアウォールやデバイス制御など、より広範な保護機能を提供します。
EPP vs EDR (Endpoint Detection and Response)
EPPが主に脅威がエンドポイントに侵入するのを「防ぐ(Prevention)」ことを目的としているのに対し、EDRは万が一侵入を許してしまった場合に、その脅威を「検知(Detection)」し、原因調査や封じ込めなどの「対応(Response)」を行うことに重点を置いています。EPPは防御の壁、EDRは侵入後の監視カメラや警備員のような役割です。最近では、多くのEPP製品がEDRの機能を取り込んだり、連携したりするようになっています。
EPP vs XDR (Extended Detection and Response)
XDRは、EDRの概念をさらに拡張したものです。エンドポイントだけでなく、ネットワーク機器、サーバー、クラウドサービス、メールなど、組織内の様々なソースからログやアラート情報を収集・相関分析し、より広範囲な脅威を検知・対応するプラットフォームです。EPPやEDRは、XDRを実現するための重要なデータソースの一つとなります。
2017年に世界的に大流行したランサムウェア「WannaCry」は、Windows OSの脆弱性(SMBv1)を悪用して感染を広げました。この事例は、エンドポイントの脆弱性対策(OSやソフトウェアのアップデート、パッチ適用)がいかに重要かを示すと同時に、侵入を防ぐためのEPPや、万が一侵入された場合に迅速に検知・対応するためのEDRの必要性を浮き彫りにしました。
EPPによる多層防御と、迅速なパッチ適用が、エンドポイントセキュリティの基本となります。
5. まとめ
EPP(エンドポイント保護プラットフォーム)は、現代の複雑化するサイバー脅威に対抗するために不可欠なセキュリティソリューションです。
従来のアンチウイルスソフトの枠を超え、NGAVによる高度な脅威検知、ファイアウォール、デバイス制御など多様な保護機能を統合し、一元管理を可能にすることで、企業や組織のエンドポイントセキュリティを強化します。EDRやXDRといった技術と連携することで、より堅牢なセキュリティ体制を築くことができます。
テレワークの普及などによりエンドポイントの重要性が増す中、EPPの役割を正しく理解し、自社の環境に適した対策を導入・運用していくことが、安全な事業継続のためにますます重要になっています。