NGAVって何?
NGAVは「Next Generation Anti-Virus」の略で、日本語では「次世代アンチウイルス」と呼ばれます。 これは、コンピュータウイルスやマルウェア(悪意のあるソフトウェア)から、私たちが使うパソコンやスマートフォン、サーバーなどの「エンドポイント」と呼ばれる機器を守るための、新しいタイプのセキュリティソフトウェアです。
近年、サイバー攻撃の手口はますます巧妙化・高度化しており、毎日新しいウイルスやマルウェアが生み出されています。従来のアンチウイルスソフトだけでは、これらの新しい脅威に対応しきれないケースが増えてきました。 そこで登場したのがNGAVです。NGAVは、AI(人工知能)や機械学習、振る舞い検知といった新しい技術を使って、従来のソフトでは見つけられなかった未知の脅威や、ファイルを使わない「ファイルレス攻撃」なども検知し、防御することを目指しています。
従来のアンチウイルス(AV)との違い
従来のアンチウイルス(AV: Anti-Virus)とNGAVの最も大きな違いは、「ウイルスの検知方法」にあります。
従来のAVは、主に「パターンマッチング」という方法を使っていました。これは、既に見つかっているウイルスの特徴(パターン、シグネチャとも呼ばれます)をまとめたデータベース(定義ファイル)を用意し、コンピュータ内のファイルがこのデータベースの情報と一致するかどうかを照合する方法です。指名手配犯の写真リストと照らし合わせるようなイメージです。
この方法の弱点は、データベースに登録されていない「未知のウイルス」や、ウイルスの特徴を少し変えただけの「亜種」、ファイルを使わずにメモリ上で動作する「ファイルレス攻撃」などには対応しにくい点です。新しい脅威が登場するたびにデータベースを更新する必要がありますが、その更新が間に合わない「ゼロデイ攻撃」(脆弱性が発見されてから対策が提供されるまでの間に行われる攻撃)などには無力でした。
一方、NGAVはパターンマッチングに加えて、以下のような新しい技術を活用します。
- AI(人工知能)・機械学習: 大量の正常なファイルやマルウェアのデータを学習し、ファイルの特徴や構造から「マルウェアらしさ」を判断します。これにより、未知のマルウェアでも高い確率で検知できます。
- 振る舞い検知: プログラムが実際にどのように動作するか(振る舞い)を監視し、怪しい動き(例えば、勝手にファイルを暗号化しようとする、外部と不審な通信をしようとするなど)を検知します。これにより、ファイルレス攻撃なども捉えることができます。
- サンドボックス: 怪しいファイルを、隔離された安全な仮想環境(サンドボックス)で実際に動かしてみて、その挙動を確認します。安全が確認されてから実行を許可します。
- クラウド技術の活用: 最新の脅威情報をクラウド上でリアルタイムに収集・分析し、迅速に検知・防御に活かします。
これらの違いを表にまとめると以下のようになります。
項目 | NGAV (次世代アンチウイルス) | 従来型アンチウイルス (AV) |
---|---|---|
主な検知技術 | AI/機械学習、振る舞い検知、サンドボックス、パターンマッチング(併用する場合もある) | パターンマッチング (シグネチャベース) |
未知の脅威への対応 | 得意 (予測検知が可能) | 苦手 (定義ファイルにないと検知困難) |
ファイルレス攻撃への対応 | 得意 (振る舞いで検知) | 苦手 (ファイルがないため検知困難) |
定義ファイルの更新 | 頻繁な更新は不要な場合が多い (クラウドで最新情報を活用) | 頻繁な更新が必要 |
検知精度 | 高い傾向 | NGAVに比べると低い傾向 |
誤検知 | 発生する可能性はある (チューニングが必要な場合も) | 発生する可能性はある |
PCへの負荷 | 軽量な製品が多い傾向 (クラウド活用など) | 定義ファイルのスキャンなどで負荷がかかる場合がある |
補足: NGAVという言葉は俗称であり、製品によって搭載されている機能やその定義は異なります。また、多くのNGAV製品はパターンマッチングも併用し、既知の脅威にも効率的に対応しています。
NGAVの主な機能と仕組み
NGAVは、従来のAVにはない、あるいは強化された機能によって、より高度な脅威に対応します。主な機能とその仕組みを見ていきましょう。
- 機械学習 (Machine Learning / ML):
膨大な数の正常なファイルと悪意のあるファイル(マルウェア)の特徴をAIに学習させます。これにより、NGAVはファイルが「マルウェアっぽい」かどうかを、定義ファイルに頼らずに判断できるようになります。未知のマルウェアや亜種であっても、その特徴から脅威を予測して検知することが可能です。
- 振る舞い検知 (Behavioral Analysis):
プログラムが実行された際の動作(ファイルを作成・変更・削除する、ネットワーク通信を行う、他のプロセスに干渉するなど)を監視します。マルウェア特有の怪しい動き、例えば「短時間に大量のファイルを暗号化する(ランサムウェアの疑い)」、「OSの重要な設定を変更しようとする」といった振る舞いを検知し、ブロックします。これにより、ファイルの実体を持たないファイルレス攻撃の検知にも有効です。
- サンドボックス (Sandbox):
実行ファイルやドキュメントファイルなど、少しでも疑わしいファイルがあった場合に、それをPC本体とは隔離された安全な仮想環境(砂場=サンドボックス)で実行させます。そこで悪意のある動作をしないかを確認し、安全だと判断されたものだけを実際の環境で実行許可します。これにより、未知の脅威がシステムに影響を与えるリスクを低減します。
- エクスプロイト対策 (Exploit Mitigation):
OSやアプリケーションの脆弱性(セキュリティ上の弱点)を突く攻撃(エクスプロイト)を防ぐ機能です。脆弱性を悪用しようとする特有の挙動を検知し、攻撃が成功する前にブロックします。
- 脅威インテリジェンスの活用 (Threat Intelligence):
世界中のセキュリティ専門家やシステムから集められた最新のサイバー攻撃情報(脅威インテリジェンス)をクラウド経由で活用します。これにより、新たに出現した攻撃手法やマルウェアにも迅速に対応できます。
NGAVのメリットとデメリット
NGAV導入には多くのメリットがありますが、一方で考慮すべき点(デメリット)も存在します。
メリット
- 未知の脅威への対応力向上: AIや振る舞い検知により、定義ファイルにない新しいマルウェアやゼロデイ攻撃、ファイルレス攻撃など、従来AVでは防げなかった脅威を検知・防御できます。
- 検知精度の向上: 多角的な分析により、脅威の検知率が高まります。
- 運用負荷の軽減: 頻繁な定義ファイルの更新作業が不要になる場合が多く、管理者の負担を軽減できます。クラウドベースの管理コンソールで一元管理できる製品も多いです。
- 軽量動作: クラウド技術の活用や効率的なスキャンにより、PCへの負荷が少ない製品が多い傾向にあります。
デメリット
- 誤検知の可能性: AIや振る舞い検知は非常に強力ですが、時には正常なソフトウェアや業務で利用するツールを誤って脅威と判断してしまう「誤検知(False Positive)」が発生することがあります。導入初期には、自社の環境に合わせて検知ルールの調整(チューニング)が必要になる場合があります。
- コスト: 一般的に、従来のAV製品よりも高機能なため、導入・運用コストが高くなる傾向があります。
- 100%の防御ではない: NGAVは非常に強力ですが、サイバー攻撃も進化し続けているため、残念ながら100%すべての攻撃を防げるわけではありません。過信は禁物です。
NGAVとEDRの違い
NGAVとともによく聞かれるセキュリティ用語に「EDR (Endpoint Detection and Response)」があります。どちらもエンドポイントを守るためのソリューションですが、目的と役割が異なります。
- NGAV: 主にマルウェアなどの脅威がエンドポイントに侵入する前に検知し、防御すること(事前防御)を目的としています。EPP (Endpoint Protection Platform) の一部、あるいはEPPと同義で使われることもあります。
- EDR: 万が一、脅威が防御をすり抜けてエンドポイントに侵入してしまった後に、その脅威を検知し、迅速な対応(調査、隔離、復旧など)を支援すること(事後対応)を目的としています。「侵入は起こりうる」という前提に立った対策です。
例えるなら、NGAVがお城の門や壁を強化して敵の侵入を防ぐ役割だとすると、EDRは城内に侵入した敵を見つけ出し、捕まえたり、被害を最小限に抑えたりする見張り番や警備隊のような役割です。
現在の高度なサイバー攻撃に対抗するためには、侵入を防ぐNGAVと、侵入後の対応を行うEDRを組み合わせて利用することが、より強固なセキュリティ体制を築く上で効果的とされています。
まとめ
NGAV(次世代アンチウイルス)は、AIや機械学習、振る舞い検知などの先進技術を活用し、従来のアンチウイルスでは対応が難しかった未知のマルウェアやファイルレス攻撃など、巧妙化するサイバー脅威からエンドポイントを守るための強力なセキュリティソリューションです。
従来のパターンマッチング方式の限界を超える高い検知能力を持つ一方で、誤検知の可能性やコスト面などの考慮点もあります。また、NGAVだけで100%安全とは言えず、侵入後の対応を担うEDRと組み合わせることで、より包括的なエンドポイントセキュリティを実現できます。
日々進化するサイバー攻撃から大切な情報資産を守るために、NGAVのような新しい技術を取り入れ、自社の環境に合ったセキュリティ対策を見直していくことが重要です。