初心者向け解説!クラウドネイティブ時代のセキュリティ対策 CNAPPとは?

近年、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP) といったパブリッククラウドサービスの利用が急速に広がっています。クラウド環境を前提としてアプリケーションを開発・実行する「クラウドネイティブ」なアプローチも一般的になりました。しかし、その利便性の一方で、設定ミスによる情報漏洩や不正アクセスといったセキュリティリスクも増大しています。

こうした新しいクラウド環境特有の課題に対応するために登場したのがCNAPP(Cloud Native Application Protection Platform:シーナップ)という考え方です。この記事では、CNAPPとは何か、なぜ必要なのか、どのような機能があるのかを初心者にもわかりやすく解説します。

CNAPPとは? クラウドネイティブ時代の課題と登場背景

CNAPP(シーナップ)は「Cloud Native Application Protection Platform」の略称で、直訳すると「クラウドネイティブアプリケーション保護プラットフォーム」となります。これは、米国の調査会社ガートナー社が2021年に提唱した、比較的新しいセキュリティの概念です。

従来のオンプレミス環境とは異なり、クラウドネイティブ環境では、マイクロサービス、コンテナ、サーバーレス、Infrastructure as Code (IaC) といった技術が活用されます。これらは開発のスピードや柔軟性を高める一方で、攻撃対象領域を広げ、設定ミスや脆弱性管理、権限管理などを複雑化させるという課題も生み出しました。

CNAPPは、こうしたクラウドネイティブ特有のセキュリティ課題に対応するために、開発から運用までのアプリケーションライフサイクル全体にわたって、必要なセキュリティ機能を統合的に提供するプラットフォームとして登場しました。

従来は、CSPM(クラウド設定管理)、CWPP(ワークロード保護)、CIEM(権限管理)など、特定の目的のためのセキュリティツールが個別に存在していました。しかし、ツールがサイロ化(連携せず孤立)していると、全体像の把握が難しく、運用も煩雑になりがちです。CNAPPはこれらの機能を一つのプラットフォームに統合することで、より包括的で効率的なセキュリティ対策を実現しようとしています。

CNAPPは何をするもの? 主要な機能

CNAPPは特定の製品名ではなく、複数のセキュリティ機能を統合したプラットフォームの「概念」です。そのため、CNAPPソリューションによって提供される具体的な機能は異なりますが、一般的に以下のような主要な機能(構成要素)を含みます。

機能カテゴリ概要
CSPM (Cloud Security Posture Management)
クラウドセキュリティ態勢管理
クラウド環境(AWS, Azure, GCPなど)の設定ミスや、セキュリティポリシー、コンプライアンス基準からの逸脱を継続的に監視・検出し、リスクを可視化します。
CWPP (Cloud Workload Protection Platform)
クラウドワークロード保護プラットフォーム
仮想マシン、コンテナ、サーバーレス関数といったクラウド上のワークロード(実行中のプログラムや処理)を保護します。脆弱性スキャン、マルウェア対策、不正アクセス検知などの機能を提供します。
CIEM (Cloud Infrastructure Entitlement Management)
クラウドインフラ権限管理
クラウド環境におけるユーザーやサービスのアクセス権限を管理・監視します。過剰な権限の付与や未使用アカウントなどを検出し、最小権限の原則の徹底を支援します。
KSPM (Kubernetes Security Posture Management)
Kubernetesセキュリティ態勢管理
コンテナオーケストレーションツールであるKubernetesクラスタの設定ミスや脆弱性を検出し、セキュリティを強化します。(CSPMに含まれる場合もあります)
IaC (Infrastructure as Code) スキャンTerraformやCloudFormationなどのコードでインフラを定義するIaCファイルに対し、コード段階で設定ミスやセキュリティリスクがないかをスキャンします。
開発成果物のスキャン (Artifact Scanning)コンテナイメージやライブラリなど、開発プロセスで生成される成果物に含まれる脆弱性やライセンス問題をスキャンします。ソフトウェア構成分析(SCA)なども含まれます。
APIセキュリティアプリケーション間の連携に使われるAPIの脆弱性を検出し、不正なアクセスから保護します。
データセキュリティ (例: DSPM – Data Security Posture Management)クラウド上の機密データがどこに存在し、誰がアクセスできるかを把握し、データ漏洩のリスクを管理します。
CDR (Cloud Detection and Response)
クラウド検出・対応
クラウド環境での不審なアクティビティや脅威をリアルタイムで検知し、インシデント対応を支援します。

これらの機能が連携することで、開発の初期段階(シフトレフト)から、デプロイ、そして本番環境でのランタイム(実行時)に至るまで、一貫したセキュリティ対策を実現できます。

CNAPPを導入するメリット

CNAPPを導入することで、企業は以下のようなメリットを得られます。

  • セキュリティの統合と可視性の向上: 複数のセキュリティ機能が一つのプラットフォームに統合されるため、クラウド環境全体のリスクを一元的に把握・管理できます。これにより、セキュリティの死角が減り、全体的な状況認識が向上します。
  • 運用効率の向上と複雑性の低減: 複数のツールを個別に導入・運用する必要がなくなり、管理の手間やコストが削減されます。アラートの集約や優先順位付けも行われるため、セキュリティチームの負担が軽減されます。
  • リスクの早期発見と迅速な対応: 開発ライフサイクルの早い段階(シフトレフト)で脆弱性や設定ミスを発見できるため、修正コストを抑え、セキュアなアプリケーション開発を促進します。また、ランタイム保護により、本番環境での脅威にも迅速に対応できます。
  • ヒューマンエラーの削減: 設定ミスの自動検出や、セキュリティタスクの自動化により、人為的なミスによるセキュリティインシデントのリスクを低減します。
  • 部門間の連携促進: 開発、運用、セキュリティの各チームが共通のプラットフォーム上で情報を共有できるため、コミュニケーションが円滑になり、DevSecOps(開発・セキュリティ・運用の連携)文化の醸成に貢献します。
  • コンプライアンスの強化: 業界標準や規制要件に基づいたチェックを自動化し、コンプライアンス遵守を支援します。

CNAPP導入の注意点(デメリット)

多くのメリットがある一方で、CNAPP導入にはいくつかの注意点も存在します。

  • 導入・運用コスト: 包括的な機能を持つため、個別のツールよりも初期費用やランニングコストが高くなる可能性があります。また、プラットフォームを効果的に運用するには、クラウドセキュリティに関する専門知識が必要となる場合があります。
  • 既存ツールとの連携: すでに導入済みのセキュリティツールがある場合、CNAPPとの機能重複や連携の課題が発生する可能性があります。
  • ベンダーロックインの可能性: 特定のベンダーのプラットフォームに依存することで、将来的な選択肢が制限される可能性があります。
  • 人材確保の課題: CNAPPを最大限に活用するには、クラウドネイティブ技術とセキュリティの両方に精通した人材が必要になる場合があります。

CNAPPは強力なソリューションですが、自社の環境、予算、セキュリティ要件、運用体制などを考慮し、最適な製品や導入アプローチを選択することが重要です。

まとめ

CNAPPは、複雑化するクラウドネイティブ環境において、開発から運用までのライフサイクル全体を保護するために設計された、統合的なセキュリティプラットフォームの考え方です。

CSPM、CWPP、CIEMといった複数のセキュリティ機能を組み合わせることで、クラウド環境の可視性を高め、リスクを早期に発見し、効率的なセキュリティ運用を実現します。

クラウド活用が不可欠となった現代において、CNAPPは企業の重要な資産を守るための重要なセキュリティ戦略の一つと言えるでしょう。クラウドセキュリティ対策に課題を感じている場合は、CNAPPソリューションの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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