【IT初心者向け】オッカムの剃刀とは?思考をシンプルにする哲学を解説

オッカムの剃刀とは?

オッカムの剃刀(オッカムのかみそり)とは、「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くの仮定を立てるべきではない」という考え方や指針のことです。 簡単に言えば、「たくさんの選択肢があるなら、一番シンプルなものを選ぼう」という思考のツールです。 この考え方は「思考節約の法則」や「ケチの原理」とも呼ばれています。

オッカムの剃刀の2つの意味

オッカムの剃刀は、元々の哲学的な意味と、そこから派生してITやビジネスの分野で使われる意味合いがあります。

1. 哲学的思考としての「思考節約の法則」

この考え方は、14世紀のイギリスの哲学者であるオッカム村のウィリアムが多用したことで有名になりました。 彼は、物事を説明する際に不要な仮説(前提)を剃刀でそぎ落とすように、シンプルに考えることを提唱しました。

例えば、「部屋の窓が開いていて、クッキーがなくなっていた」という状況を考えます。

  • 仮説A: 家族の誰かが窓を開けて、クッキーを食べた。
  • 仮説B: 空飛ぶサルが窓から侵入し、クッキーを盗んでいった。

この場合、オッカムの剃刀に従えば、より少ない仮定で成り立つ「仮説A」の方が、より妥当な説明だと考えられます。「空飛ぶサルの存在」という余計な仮定は必要ない、ということです。ただし、これは仮説Bが絶対に間違っていると証明するものではなく、あくまで「よりシンプルな説明を選ぶ」という指針です。

2. IT・プログラミングにおける「シンプルな設計」

ITの世界、特にシステム設計やプログラミングにおいて、オッカムの剃刀は「同様の機能を実現できるなら、より単純な設計やコードを選ぶべき」という原則として応用されています。 これは「KISSの原則(Keep It Simple, Stupid. / シンプルにしておけ)」としても知られています。

シンプルな設計やコードには、以下のようなメリットがあります。

  • 可読性が高い: 他の人が見ても理解しやすい。
  • 保守しやすい: バグの発見や修正、機能の追加が簡単になる。
  • バグが少ない: 複雑な構造は、予期せぬ不具合を生みやすい。

現代では、AIや機械学習の分野でもこの考え方は重要です。 同程度の精度を持つモデルが複数ある場合、よりパラメータが少なく単純なモデルが好まれます。

ITにおける具体例

プログラミングにおいて、オッカムの剃刀がどのように適用されるかを見てみましょう。

例:数値が偶数か奇数かを判定する

複雑なコード(悪い例)

複数のif文を使って冗長な判定を行っています。

def is_even(number): # 0かチェック if number == 0: return True # 2で割り切れるかチェック if number % 2 == 0: # さらに本当に偶数か確認(不要な処理) if (number / 2).is_integer(): return True else: return False else: return False

シンプルなコード(良い例)

剰余演算子(%)を使うだけでシンプルに判定できます。

def is_even(number): return number % 2 == 0

どちらのコードも同じ結果を返しますが、良い例の方がはるかにシンプルで、誰が見ても一目で何をしたいのかが分かります。これがオッカムの剃刀を適用した結果です。

場面複雑なアプローチ(剃刀で削ぎ落としたい考え)シンプルなアプローチ(オッカムの剃刀)
新しいWebサイト機能「最新のフレームワークや多数のライブラリを導入し、マイクロサービスアーキテクチャで構築しよう。」「まずは既存のシステムに最小限のコードを追加して機能を実装できないか検討する。シンプルな構成から始める。」
データ処理「大量のデータを処理するために、最初から分散処理システム(Hadoopなど)を構築する必要がある。」「データ量は本当に分散処理が必要な規模か?まずは単一のマシンでシンプルなスクリプトを実行し、性能問題を計測してから判断する。」

適用する際の注意点

オッカムの剃刀は万能ではありません。シンプルさを追求するあまり、必要なものまで削ぎ落としてしまう危険性があります。 例えば、将来の拡張性や、満たすべき要件を無視して過度に単純化してしまうと、後で大きな手戻りが発生する可能性があります。

大切なのは、「必要以上に複雑にしない」ことであり、「必要な複雑さ」までをも否定するものではありません。 あくまで問題の本質を見極め、最も合理的で単純な解決策を選ぶための思考法として活用することが重要です。

まとめ

オッカムの剃刀は、哲学的概念から始まり、現代のITやビジネスの世界でも広く応用されている強力な思考ツールです。

  • 基本原則: 「必要ない仮定はするな」「説明はシンプルな方が良い」
  • ITでの応用: 複雑なコードや設計より、シンプルで保守性の高いものを選ぶ。
  • 注意点: シンプルさを追求しすぎて、必要な要素まで削らないようにする。

この「シンプルな解決策を好む」という考え方を意識することで、エンジニアはより質の高いコードを書けるようになり、私たちは日常生活やビジネスにおける問題解決をより効率的に進めることができるでしょう。

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